細かい雨が降り注ぐ中、
ぱしゃぱしゃ跳ね飛ばして帰り道を急いだ。
みんな傘をさしていて、
私の両手は自由だった。
歴史的な会談、
廻る地球、
霧雨に湿った服を着替えたら、
少しあたたかくなった。
ほんのりとあたたかいもの。
今、たいせつなもの。
手放せないもの。
ゆるがないもの。
近いもの。
雨で濡れた前髪のむこうで、
くっきりそこにみえる。
手を。
肩を。
こころを。
ずっと、
ぎゅっと。
次は、
なにを話して笑わせようか考えてる。
とくになんにも言ってくれないけど、
考えすぎかもしれないけれど、
ここ数日、
元気がないみたいだから、
私にいったいなにができるのか、
次に何を繰り出そうか、
本気で捜している。
ナイショにしてたけど、
なにしてるの、
と笑われるのが実はすきで、
ああでもそれじゃあ、
私はうれしいけどちっとも役に立ってないか。
もどかしい。
それでもきっと思いつく。
そしてきっと実行する。
次、
そしてまた次。
大人になると、
勉強はかくも楽しいものか。
週末のたびに、
あちこちの車のディーラーへ通い、
新車に試乗し、
パネルやシートにあれやこれやと文句をつけ、
フロントまわりやリヤをみて一喜一憂する。
カタログを比較し、
自分好みの車をピックアップして、
装備をチェックし、
お買い得なグレードを探す。
気に入った車種をしぼり、見積もりをとる。
雑誌を何誌も読んで値引き率を知る。
インターネットや新聞を調べて、
自分に有利な情報をあつめる。
大きな買い物なので、
私はとても真剣だ。
決算期、というのも、
駆け引きをよりスリリングにする。
もちろん相手はもっと真剣だ。
集中することはとてもたのしい。
九月。
どこまでも突き抜けるような、
空。
想いの、
駆け巡る秋。
私のニガテな季節。
自分をごまかしきれなくなる、
自分の中に降りていくような、
ひんやりとした地下への螺旋階段を思わせる季節。
何かに集中しきってしまう時間はたのしい。
とてつもなく健康的な毎日だ。
早寝、早起き。
合計1時間以上のウォーキング。
背筋を伸ばして大きく手を振る。
まだまだ太陽が暑くて、
簡単にシャツに汗がにじむ。
反射する日差しがまぶしくて目を細める。
ノースリーブからむき出しの腕が、
どこに遊びに行った訳でもないのに、
気持ちよく日焼けした。
毎日、
時間が足りない。
周りを見る余裕ができた分だけ、余計に足りない。
どうしてもつたわらない。
とてももどかしい。
直接言葉にできない。
もどかしい。
夕方の坂道をゆるゆると登って家に帰った。
もう、夕陽は落ちていて、
空に明るさだけがあたたかく残っていた。
窓を全部開け放って風を通し
適当に夕食を作ってひとりで食べ、
デザートのりんごはうさうさと分け合い、
洗濯機をごうんごうん回す。
TVがいつのまにかニュースからバラエティーにかわっている。
眠気がそっと打ち寄せてくる。
気付けは外は夜だ。
昼間とはうってかわって涼やかな風が揺れている。
静かな夜。
私には、
さみしいものだけがそっと寄り添ってくる。
私にちかいもの。
私と手をつなぐもの。
私の手に入れた自由。
そのすべて。
夜を、
とても短く、とてつもなく長く感じる。
長く静かな秋になりそうです。
秋なんて、すきじゃない。
去年も今年も、
自分をうしなってばっかりだ。
仕事に行って、眠る。
その繰り返し。
風が、
風だけが訪れる。