今日の日経を題材に法律問題をコメント

2014年09月30日(火) 少年の実名報道の必要性

 日経(H26.9.30)社会面で、山口県光市母子殺害事件で当時18歳だった死刑囚が、実名や顔写真を載せた本の著者や出版元に、出版差し止めと損害賠償を求めた事件で、最高裁は死刑囚側の上告を退ける決定をしたと報じていた。


 一審広島地裁は、実名の記載は死刑囚の了承があったが、顔写真や著者に宛てた手紙の公表は承諾がなく、肖像権やプライバシー権の侵害に当たるとして66万円の賠償を命令していた。


 これに対し二審広島高裁は、顔写真の掲載に関して「明確な承諾はないが、死刑囚への社会的関心が高いことなどを考慮すれば報道の自由として許される」と判断し、一審の賠償命令を取り消していた


 最高裁は上告を退けただけであり、少年の顔写真の掲載について判断しているわけではないが、違法ではないとした広島高裁の判断は確定することになる。


 少年の実名や顔写真の掲載については議論があるが、重大な事件については、それを容認する立場の方が多数のように思う。


 しかし、本当に実名報道の必要性があるのだろうか、単なる私的制裁ではないかという疑問が払拭できない。



2014年09月29日(月) 約束は守らなければならない

 日経(H26.9.29)法務面で、スカイマークが欧州エアバスに発注していた超大型機「A380」の代金支払いが滞ったことに関し、正式な導入契約締結後に発注をキャンセルできるかどうか、について書いていた。


 記事では、航空機の購入契約には、正式な導入契約と、実際に購入するかどうかの決定を一定期間猶予できるオプション契約の2種類があるが、正規契約の場合には、契約後のキャンセルはできないという暗黙の了解があるとみられる、としていた。


 しかし、暗黙の了解が無くても契約後のキャンセルはできない。


 解除には、約定解除(手付の場合や、前記のオプション契約など)、合意解除(当事者が解除を合意するもの)、法定解除(債務不履行による解除など)がある。


 そして、約定で解除できる場合を決めていない場合には、合意解除か債務不履行などによる解除しかなく、当事者の片方の都合で、一方的に解除することはできない。


 スカイマークが解除したかったのであれば、最初から、オプション契約(解除権留保契約ということであろう)にすべきであったのである。



2014年09月25日(木) 取り調べの可視化について検察の立場が変化?

 日経(H26.9.23)夕刊で、取り調べの可視化の問題に関し、検事総長が、「公判で供述の任意性が争われる事案などでは積極的に録音・録画を行い、記録媒体を(証拠として)活用することが重要だ」と述べたという記事が載っていた。


 最近になって、取り調べの可視化についての検察側の立場が少し変わり、積極的に進める方向になったようである。


 原因は、裁判所が検察官作成の供述調書であっても安易に信用しなくなったことと、可視化によるデメリットよりもメリットがあることが認識されるようになったからであろう。


 いずれにせよ、取り調べの可視化を積極的に進めること自体はいいことだと思う。



2014年09月24日(水) 秘密の暴露

 日経(H26.9.23)夕刊で、神戸市長田区の茂みで複数の袋から切断遺体が見つかった事件で、兵庫県警は、遺体を11日から行方不明になっていた女子児童と確認し、事件に関与した疑いで、遺体発見現場の近くに住む男を死体遺棄容疑で逮捕したと報じていた。


 県警の記者会見では、遺体の状況などの詳細な発表を控えていた。


 事実を公表しないことによって、逮捕した男から、「秘密の暴露」を得るためであろう。


 それ自体は何ら問題ない。


 ただ、「秘密の暴露」と言っても、捜査機関さえ知らなかった「秘密」と、公表はされていないが捜査機関は知っている「秘密」とでは、同じ「秘密の暴露」でも、その信用性は異なる点には注意すべきである。



2014年09月22日(月) 警視庁管内特殊暴力防止対策連合会(特防連)

 日経(H26.9.22)社会面で、企業から、警視庁の関連団体「警視庁管内特殊暴力防止対策連合会」(特防連)などへの照会が急増しているという記事が載っていた。


 暴力団との取引が発覚すれば、企業トップの責任問題にまで発展しかねないため、企業側は契約の相手先が暴力団関係者かどうかのチェックに力を入れているためである。


 特防連は警視庁内に事務局があり約2500社が加盟。暴力団組員や密接交際者、関連企業など約8万件のリストを保有しており、「この人物と取引して大丈夫か」という会員企業の問い合わせに回答しているそうである。


 もっとも、そのリストの情報が100%の正しいとはいえないだろう。


 それゆえ、「暴力団とは無関係なのに取引を打ち切られた」として訴訟を起こされた場合、企業としては、「特防連のリストにあったから」というだけでは免罪符にはならないと思われる。


 そうはいっても、そのような照会なしに取引をして、後に暴力団関係者であることが分かった場合の方がより問題である。


 そのため、企業としては、特防連などの情報が100%正しいわけではないというリスクを承知しつつ、その情報に頼るしかないであろう。



2014年09月19日(金) 捜査に無理があった

 日経(H26.9.19)夕刊で、東京地裁立川支部で旅券法違反罪の有罪判決を受けた中国籍の何亮被告がカナダに送還されたという記事が載っていた。


 何被告は、1995年に東京都八王子市のスーパーで女子高生ら3人が殺された強盗殺人事件の実行犯を知っている可能性があるとされ、警視庁が事情を聴いていた。


 しかし、何被告は「何も知らない」と話し、八王子の事件に直結する情報は得られなかったようである。


 3人も殺されているのであるから、警察が必死になって捜査をすることは理解できる。


 ただ、旅券法違反というのは、被告人をわざわざカナダから移送して逮捕するほどの犯罪ではない。逮捕の目的が、強盗殺人事件の取り調べであったことは明らかであろう。


 その意味で、この捜査は最初から無理があったと思う。



2014年09月18日(木) 警察も変わった?

 日経(H26.9.18)社会面で、浜松中央署留置管理課の男性警部補が、傷害致死容疑で勾留されていた被告に対し、後ろから両肩を持って膝で背中などを複数回蹴った疑いがあるという記事が載っていた。


 警部補は「悪意でやったわけではない」としつつも、暴行の事実を認めているそうで、静岡県警は特別公務員暴行陵虐容疑の可能性もあるとみて捜査を進めているとのことである。


 過去には、このような事実があっても警察官同士が庇っていたので、表面化することはほとんどなかった。


 それが、特別公務員暴行陵虐容疑で事件になる可能性があるというのだから、警察も変わったのかも知れない。



2014年09月17日(水) 判断に迷ったら、懲戒処分のランクを落とした方がよい

 日経(H26.9.17)広告面で、懲戒処分に関する法律書の広告があり、その中で「判断に迷う懲戒事案で誤らないために」というキャッチコピーがあった。


 本の内容とは関係ないことであるが、会社が社員を懲戒処分する際に判断に迷った場合には、処分の内容を一段階、場合によっては二段階落した方がよいと思う。


 というのは、経営者の価値基準と裁判所の価値基準は大きく違っているからである。


 とくに懲戒解雇はよほど慎重に行うべきである。解雇無効となることも少なくないし、その後のトラブルの手間暇を考えると、割に合わないからである。


 ただ、裁判所の価値基準について、経営者の方にはなかなか理解してもらえないのが実情である。
(経営者の考え方がおかしいという意味ではなく、最終的な判断権者が裁判官である以上、その価値基準に合わせるしかないということである。)



2014年09月12日(金) 離婚件数は徐々に減少

 日経(H26.9.12)経済欄で、昨年の出生数が過去最少を更新したという記事か載っていたが、同じ記事の中で、離婚件数は4023組減って23万1383組であったと書いていた。


 過去の統計を見ても、離婚件数は平成15年をピークに徐々に減少しているようである。


 生産年齢人口(16歳から65歳未満)が急激に減っているから、離婚件数も減るのが当然なのかもしれない。


 また、過去5年間の離婚調停、離婚裁判の件数はほぼ横ばいのようである。


 ただ、弁護士の実感としては離婚事件は増えている気がする。


 弁護士を就けなければならないほど争いが深刻なケースが増えたということなのだろうか。



2014年09月11日(木) 病院などでは氏名を呼ばない傾向に

 日経(H26.9.11)夕刊で、病院や薬局などで、周囲に氏名や病名を知られたくないという患者に配慮した取り組みが広がっているという記事が載っていた。


 精神科、心療内科などではプライバー保護の要請はとくに強いであろう。


 最近では、家庭裁判所の中には、待合室にいる人を名前で呼ばず事件番号で呼ぶところもある。


 個人的にはあまり神経質になるのもどうかと思っているが、ここはプライバシーに敏感な人に合わせるべきであり、できる限りの注意はすべきであろうと思う。



2014年09月10日(水) 法科大学院の定員と司法試験合格者を削減すべきであろう

 日経(H26.9.10)社説で、「法科大学院の立て直しを急げ」という見出しで、法科大学院離れの事態を危惧していた。


 社説では、「今年の司法試験の合格者のうち法科大学院の修了生は1647人と前年より282人減り、また、合格率はいまの制度になって最も低い21.2%に落ち込んでおり、このままでは法曹界に人材が集まらなくなってしまう。」と論じていた。


 しかし、法曹界に優秀な人材が集まらなくなっている原因は、合格しても弁護士では飯が食えなくなっているからである。


 法曹を目指そうとしている人から相談されることがあるが、飯が食えないのだから、積極的に勧めることはしていない。ときには、「止めた方がよい」ということもある。


 優秀な人材を集めたいのであれば、まずは法科大学院の定員を減らすとともに(有力法科大学院の定員は多いと思う)、司法試験合格者も1500人程度にすべきではないかと思う。



2014年09月09日(火) 固定資産税の過納付還付請求の時効

 日経(H26.9.9)社会面で、市町村が固定資産税を徴収しすぎるミスが全国で後を絶たず、20年間で約4850万円も多く課税されたという事例もあるという記事が載っていた。


 固定資産税は市町村から納付書がきたら、そこに書いている金額を納めるだけで、内容が間違っているかどうかは普通は確認しないし、確認する能力もない。


 それゆえ、徴収し過ぎがあれば大問題であり、納税者側からすれば全額返還して欲しいところである。


 ところが、還付金の消滅時効は法律で5年と定めている。(但し、自治体によっては条例で「過誤納返還金取扱要綱」等を定め、最長20年まで返還しているケースもある。)


 これに対し、最高裁は、違法な課税処分により損害を被った納税者は、当該課税処分の取消訴訟等の手続を経ることなく国家賠償請求を行うことを認めたので(H22.6.3判決)、これにより、20年前まで遡って請求できる途が開けた。


 ただ、訴訟する手間は残っており、容易に還付請求されるわけではない。


 もともと、過納付した納税者には何の落ち度もないのであるから、法改正により、還付金の時効期間を20年にして、訴訟することなく返還を認めるべきではないだろうか。



2014年09月08日(月) 悪徳業者の標的は一貫して高齢者

 日経(H26.9.8)法務面で、ベンチャー企業などの資金調達に使われているプロ向けファンドの規制強化策に対し、ベンチャーキャピタル側から、個人投資家からの資金集めに支障が出るとして反発がでているという記事が載っていた。


 規制強化の理由は、一部の業者が、高齢者などをターゲットに強引に販売するなどトラブルが多発しているためであり、金融庁は、プロ向けファンドを使った資金調達に出資できる個人投資家を金融資産1億円以上の富裕層に限ることにしていた。


 これに対しベンチャーキャピタル関係者は、規制強化は、ベンチャー投資の促進やリスクマネーの供給増大という政策に逆行すると主張している。


 悪質な業者は一部なのであろう。


 ただ、様々な金融商品が消費者保護のために次々と規制強化されている中で、プロ向けファンドは規制が緩く、悪質な業者にとっては格好の商品となっている。


 悪質な業者は、その都度いろんな商品に手を出しており、それぞれにあまり脈絡はないが、高齢者を狙うという点においては一貫している。


 そして、高齢者を中心に実際にトラブルが生じている。


 そうであれば、本来の趣旨がプロ向けファンドであっても、やはり高齢者等の消費者保護の視点は必要であろうと思う。



2014年09月04日(木) 強盗致死と強姦致死の法定刑の不均衡

 日経(H26.9.3)6面で、安倍改造内閣の新閣僚の記者会見の要旨が載っており、その中で、松島法務大臣が「強姦致死の最低刑は懲役5年だが、強盗致死の場合には無期または死刑となっており、おかしい。法務省の中で議論してもらう仕組みを作りたい。」と述べていた。


 松島法務大臣が述べているように、刑法の規定では、強姦致死の場合は、無期または懲役5年以上としており、死刑はない。これに対し、強盗致死の場合は、無期または死刑と重い。


 つまり、財産的侵害から生じた死傷の場合よりも、被害者の人格にかかわる性的自己決定権の侵害から生じた死傷の場合の方が刑罰が相当低いのである。


 これは明らかに不合理であり、松島法務大臣の言っていることはもっともである。


 ただ、その不均衡を是正するとしても、強盗致傷罪の法定刑に合わせるのか、強姦致傷罪の法定刑に合わせるのかは慎重に議論すべきであろう。



2014年09月03日(水) ビジネス裁判所を新設

 日経(H26.9.3)1面で、最高裁は2021年をメドに、知的財産や破産などビジネスに関連した訴訟を専門に扱う裁判所庁舎を中目黒の関東信越厚生局の庁舎跡地に新設すると報じていた。


 場所は、中目黒駅と目黒駅の間ぐらいである。


 一般の方にはあまり関係のない話かもしれないが、東京やその周辺の弁護士にとっては交通が不便になるので影響
は大きい。

 霞が関やその周辺に適切な土地はなかったのであろうか。



2014年09月01日(月) 開票作業所にカメラを設置

 日経(H26.9.1)社会面で、昨夏の参院選で不正開票事件が発覚した高松市選挙管理委員会は、31日に行われた香川県知事選で、不正抑止を目的にビデオカメラを設置して開票作業に当たったという記事が載っていた。


 記事によれば、カメラを2台取り付け、職員4人が交代で撮影したとのことである。


 しかし、この事件では、投票総数が、交付した投票用紙より300票余り足りないと思い込み、不正な操作をしたものであり、それがカメラを設置したことにより防止できるのか疑問である。


 もちろん、カメラの設置自体が悪いわけではないが、それにより人手が取られるのであれば、それよりも投票作業に人手を注入すべきでないだろうか。


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