2013年09月30日(月) |
ネット版ダフ屋に、処罰の必要性はあるのか |
日経(H25.9.30)夕刊で、会場付近でのダフ屋はほとんど見なくなり、代わってインターネット上でチケットを転売する“ネット版ダフ屋”が増えているという記事が載っていた。
ネット版ダフ屋も、「転売目的で大量にチケットを購入すれば都条例が禁じるダフ屋行為に当たる」「転売目的のチケット買い占めは適正な価格での取引を阻害し、興行主やファンに迷惑をかけている。」(警視庁幹部)としている。
しかし、ネット版の場合は一般人の人が多く、暴力団の資金源を断つという大義名分は立てづらい。
また、転売目的のチケット買占めを防止しようと思えば、主催者が対策を取ることは可能である。
すなわち、ネット版ダフ屋に刑事罰まで課す必要が果たしてあるのだろうかという気がするのだが。
2013年09月27日(金) |
受刑者に選挙権を認めないのは違憲 |
日経でなく、朝日ネットニュース(H25.9.27)で、受刑中の選挙権を認めない公職選挙法の規定について、大阪高裁は、違憲と判断としたと報じていた。
選挙権というのは権利であると同時に、公務としての側面もある。
この公務としての側面を重視すると、受刑者に選挙権を与えるかどうかは立法裁量の問題であり、選挙権を与えなくても違憲ではないという結論になりやすい。
しかし、最近の裁判所は、選挙権の権利としての側面を重視する傾向にある。
また、国際的にも受刑者の選挙権を認める方向にある。
今回の大阪高裁の違憲判断はその流れに沿うものである。
今後、最高裁に舞台は移ることになるが、違憲の判断は維持されるのではないだろうか。
2013年09月26日(木) |
ソフトによる契約書のチェック |
日経(H25.9.26)31面で、アメリカで弁護士の需要が減っており、卒業してもかなりの数が弁護士になれない状況のため、米国のロースクールが岐路に立っているという記事が載っていた。
その記事中で、「(米国)企業は経費節減のために契約書のチェックを専用ソフトで済ませるようになった。」とあり、興味を引いた。
日本でも同種のソフトが売られているが、何百万円もするようであり、その価格では日本では売れないと思う。
アメリカならいざ知らず、日本では弁護士の方が安くつくからである。
また、定型的な契約書はソフトによるチェックで足りるかもしれないが、契約で重要な部分は定型的な部分ではない。
したがって、仮にソフトの価格が数十万円に下がったとしても、顧問弁護士の方がメリットがあると思うのだが。
2013年09月25日(水) |
尼崎連続変死事件 被告人らが心神喪失を主張 |
日経(H25.9.25)夕刊で、兵庫県尼崎市の連続変死事件の一つのドラム缶遺体事件で、被告人3人は、事実関係については「おおむね間違いない」と認めたが、自殺した角田美代子元被告の影響下で「心神喪失状態で責任能力はなかった」などと無罪を主張したという記事が載っていた。
精神機能の障害によって犯行当時心神喪失であったと主張することはよくある。
しかし、「他人の影響下にあったことにより心神喪失であった」というのはあまり聞かない。
弁護人も、そのような主張が認められるとは思っていないのではないだろうか。
ただそれにより、角田元被告の強い影響下にあったことを印象付け、刑を軽くさせる作戦であろうと思われる。
しかし、この裁判は裁判員裁判である。
それゆえ、心身喪失という主張がかえって裁判員に悪い印象になってしまうのではないだろうか。
2013年09月24日(火) |
八王子スーパー強盗殺人事件 |
日経(H25.9.24)夕刊で、東京都八王子市のスーパーで1995年、女性3人が射殺された強盗殺人事件で、カナダの裁判所は、実行犯を知っている可能性がある中国人男性の日本への身柄引き渡しを認めた下級審の決定を支持、男の控訴を棄却したと報じといた。
最高裁への上訴は可能だろうが、身柄引き渡しの結論は変わらないであろう。
ただ、日本での取り調べでは、旅券法違反の容疑に限られる。
もちろん、その調べの中で日本での生活状況を詳しく聴取することはできる。
しかし、旅券法違反容疑の取り調べという制限された中で、強盗殺人事件の実行犯との接点まで行き着くことは難しいであろう。
八王子スーパー女性3人射殺事件は解決して欲しいが、身柄引き渡しがあっても多くは期待できないと思う。
2013年09月20日(金) |
裁判官によって判断が分かれ易い訴訟類型か |
日経(H25.9.20)社会面で、山梨県議が公費で参加した視察が「私的な旅行と変わらない」として、住民らが県議ら11人に計約850万円の返還請求をするよう県に求めた訴訟の控訴審で、東京高裁は、住民側敗訴の一審判決を取り消し、訴えを全面的に認める逆転判決を言い渡したと報じていた。
この種の裁判は以前からいくつも裁判を起こされている。
裁判が起こされるのは、公費での視察旅行と言っても、観光が多く、実態は私的旅行と変わらないケースが多いからであろう。
そうはいっても、旅行日程に必ず視察個所を含めている。
そのため、旅行日程に視察が組み込まれていることと、観光が多いという実態のいずれを重視するかによって結論が変わることになる。
実際、裁判では住民側の訴えが認められたり、認められなかったりしているようである。
それは、もちろん当該旅行の内容によって異なるのであるが、裁判官の価値感の違いによって判断が分かれ易い訴訟類型ではないかと思う。
地裁判決と東京高裁判決の判断が分かれたのも、そのためではないだろうか。
2013年09月19日(木) |
犯罪歴が検索結果に表示 |
日経(H25.9.19)夕刊で、ヤフーで自分の氏名を検索すると、逮捕歴が明らかになり名誉を傷つけられるとして、京都市の男性が、ヤフーに対し、検索結果の表示をしないことや慰謝料を求め、京都地裁に提訴したという記事が載っていた。
ヤフーとしては、自動的に検索結果を表示しているだけであるから、名誉棄損が認められることはないと思われる。
しかし、この男性の気持ちは分かる。
いつまでも犯罪歴が消えないとなると、人生1度の躓きで、一生更生できないおそれがあるからである。
それゆえ、裁判の結果はともかくとして、犯罪歴の表示については今後議論されるべきであると思う。
2013年09月18日(水) |
知る権利の明記だけでは問題は解決しない |
日経(H25.9.18)政治面で、機密を漏らした公務員らへの罰則を強化する「特定秘密保護法案」について、政府は「知る権利」を明記することを検討すると報じていた。
知る権利を明記することは画期的なことであると思う。
ただ、問題として指摘されている点は、公務員が漏洩した場合に最高刑が懲役10年の罰則を受ける「特定秘密」の範囲が、(1)防衛(2)外交(3)スパイ活動防止(4)テロ活動防止の4分野であり、この4分野のどのような情報を秘密に指定するかは「行政機関の長」が決めることになっていて、詳細が定められていないことである。
現在、国家公務員の守秘義務違反の罪の上限は懲役1年に過ぎないから、罰則を強化することはやむを得ないと思う。
しかし、いかなる秘密が強化された罰則の対象となるのかが明らかでないことは問題である。
その点を解決せず、知る権利を明記したとしても、問題は解決しないと思う。
2013年09月17日(火) |
巨大津波に襲われることは予想できた |
日経(H25.9.17)夕刊で、東日本大震災の津波で送迎バスが流され死亡した幼稚園園児4人の遺族が、「安全配慮を怠った」として幼稚園側に約2億6700万円の損害賠償を求めた訴訟で、仙台地裁は、園側に約1億7700万円の賠償を命じる判決を言い渡したと報じていた。
園側が大津波の襲来を予見できたかどうかが大きな争点だったが、裁判所は、「巨大な津波に襲われるかもしれないと容易に予想できた」と指摘した。
「容易に予想できた」というのは、防災無線で大津波警報が放送されていたからであろう。
また、バスについているラジオでも大津波警報は聞けたはずであった。
実際、もう一台の送迎バスは防災無線の大津波警報を聞いて、すぐに園に引き返している。
また、流されたバスは、小学校に避難しており、そこから徒歩でも5分程度で園に戻ることができたのに、バスで戻ろうとして渋滞に巻き込まれ、津波に流されている。
さらに、地震発生時のマニュアルとして、「園児は保護者の迎えを待って引き渡す」とされていたのに、それにも反していた。
これらの事情を考えて、幼稚園側に過失責任があるとされたのであろう。
問題は支払い能力であり、園側に1億7700万円を支払う能力はないであろう。園側が保険に入っていればいいのだが。
2013年09月13日(金) |
暴排条例で芸能人に勧告 |
日経(H25.9.13)社会面で、暴力団稲川会系組長が主催したパーティーで歌ったとして、東京都公安委員会は、都暴力団排除条例に基づき、60代の男性芸能人に対し、暴力団への利益供与を中止するよう勧告したと報じていた。
暴排条例は、規定の仕方があいまい面があり、市民生活の権利を侵害するおそれがあるとして、制定に反対の声もあった。
ただ、今回のケースに限れば、この勧告は暴力団との交際を断ついいきっかけになるだろう。
そうであれば、暴排条例は意義があるということになる。
市民生活の権利を侵害するか否かは、結局は運用次第であるが、現状はかなり適切に運用されているように思われる。
2013年09月12日(木) |
「母親の名前と続柄」を表すことで決着 |
日経(H25.9.12)社会面で、検察側が被害者の女児を起訴状で匿名扱いにしていた強制わいせつ事件で、東京地裁は、女児を「母親の名前と続柄」で表すことで起訴状を有効と認めたと報じていた。
検察側は、親の意向で女児の実名を起訴状に記載せず「被告が公園のトイレに連れ込んだ児童」と表した。これに対し、東京地裁は、起訴内容の特定性に欠けるとして問題になっていた。
親が、子どもの名前を被告人に知られたくないという心情は理解できる。
しかも、被告人が、「その子どもと会ったことがない」と主張していれば別であるが、そのような特段の事情のない限り、子どもの名前を知らなくても、被告人の防御にあまり影響はしないだろう。
そうはいっても、起訴内容の特定は被告人の防御の大前提であり、できるだけ具体的である必要がある。
その意味で、今後同様な記載方法が常態化することは望ましくないと思う。
2013年09月11日(水) |
宗教法人を入会強要容儀で家宅捜査 |
日経(H25.9.11)夕刊で、宗教法人「顕正会」の会員が入会を強引に迫ったとして、警視庁公安部は、本部などを強要と暴力行為法違反の疑いで家宅捜索したという記事が載っていた。
宗教法人の入会勧誘を強要容疑で捜査することは、信教の自由に対する不当な制限となる恐れがある。
それゆえ、入会強要容疑で宗教法人を家宅捜査するということはあまり聞かないことである。
しかも、警視庁公安部という新左翼などの政治組織や外国政府による工作活動を扱う部門が担当している。
その意味で、相当に異例の事件であると思う。
2013年09月10日(火) |
福島第一原発事故 東電幹部や政府関係者らを全員不起訴 |
日経(H25.9.9)社会面で、東京電力福島第一原発の事故をめぐり、検察庁は、業務上過失致死傷などの疑いで告訴・告発された東電幹部や政府関係者ら42人全員と東電を不起訴処分としたと報じていた。
当時、多くの専門家には10メートル級の大津波は想定外であったから、その点を重視すれば過失はないことになる。
他方、一部の専門家からは大津波の可能性の指摘がなされていたし、東京電力も、高さ15メートルを超える大津波の可能性があると試算していたようである。
その点を考えると納得できない点はあるし、もう少し捜査を継続できなかったのかという気はする。
2013年09月06日(金) |
被害者による被告人質問の意義 |
日経(H25.9.6)社会面で、昨年12月に自殺した大阪市立桜宮高校バスケットボール部主将の男子生徒に暴行を加えたとして、傷害と暴行の罪に問われた部顧問の初公判が、大阪地裁であったと報じていた。
公判では、男子生徒の両親と兄が被害者参加制度を利用して出廷し、「腹いせや八つ当たりで殴ったのではないか」などと直接質問したそうである。
これは、被害者参加制度による、被害者による被告人質問であろう。
被害者による被告人質問は、自分の意見を述べるだけになったり、被告人への質問ではなく、単なる追及に終始する懸念がある。
それゆえ、被告人側としては、できれば避けたい制度である。
ただ、被告人側も逃げ回っていても仕方ないのであって、被害者による被告人質問を、被告人が真摯に反省しいることを示す良い機会と積極的にとらえた方がよいのではないだろうか。
2013年09月05日(木) |
婚外子差別の最高裁決定 違憲無効以外にも重要な判断がある |
日経(H25.9.5)1面で、昨日の婚外子相続差別について、最高裁が違憲判断したことについて報じていた。
記事は、ほとんどが婚外子の相続差別に関するものであるが、それだけでなく、最高裁決定は重要なことを述べている。
一つは、「最高裁の判断は他の審判、遺産分割協議等には影響しない」としつつ、遺産分割協議等を経ずに分割された預貯金については影響する可能性を認めている点である。
それゆえ、預貯金については、婚外子が、婚内子に対し、不当利得返還請求できる余地が残されていることになる。
第二の重要な点は、可分債権の相続について、「相続分割合による分割がされたものとして法律関係が確定的なものとみるのは相当でない」としていることである。
これまで「預貯金等の可分債権は、相続開始により法律上当然に法定相続分に応じて分割される」とされていた。(この見解自体は、今回の最高裁決定でも変更されていない。)
そのため、遺産分割調停や審判でも、相手方が同意しない限り、預貯金は遺産分割の対象から外されるという運用がなされてきた。
しかし、「遺産分割協議等を経ない限り法律関係が確定しない」というのであれば、相手方が同意しなくても、預貯金を遺産分割協議の対象とする利益はあるということになるのではないだろうか。
これらの点は今後議論されることになるだろうと思われる。
2013年09月04日(水) |
最高裁大法廷が、婚外子に対する相続格差を違憲と判断 しかし他の遺産分割影には響せず |
日経(H25.9.4)ネットニュースで、最高裁大法廷は、婚外子に対する相続格差を定めた民法の規定を違憲と判断したと報じていた。
その結論自体はすでに予想されていたことである。
ただ同時に、「すでに確定した他の遺産分割について、今回の違憲判断は影響を及ぼさない」としている点が注目される。
この事件の相続は2001年であり、最高裁は、その時点で、婚外子の相続格差の規定は違憲であると判断したことになる。
そうすると、同じ時期に相続しながら、早期に相続格差を前提に遺産分割をした婚外子にとって不公平ではないかという疑問が生じる。
しかし、最高裁は、法廷安定性を重視し、「他の遺産分割に影響を及ぼさない」と明言したのである。
この点はやむを得ないことであり、むしろ、最高裁がそのように明言することによって、今後の混乱を防止することになり、よかったのではないだろうか。
2013年09月03日(火) |
検察事務官の情報漏えい 求刑は懲役1年 |
日経(H25.9.3)社会面で、暴力団幹部に捜査情報を漏洩したとして国家公務員法(守秘義務)違反に問われた静岡地検の元検察事務官の公判で、検察側が懲役1年を求刑して即日結審したという記事が載っていた。
検察事務官が捜査情報を暴力団幹部に漏えいして、懲役1年の求刑というのは軽いと思う。
しかし、守秘義務違反の法定刑の上限が懲役1年なので仕方ない。
現在、秘密保全法の制定が問題になっており、この法律案では、「防衛」「外交」等のうち特段の秘匿の必要性がある機密を「特定秘密」に指定し、この特定秘密を漏らした国家公務員には最高で懲役10年を科すというものである。
したがって、捜査情報は含まれないと思われる。
そもそも、秘密保全法でカバーされない国家秘密でも、その情報が漏えいすると国家法益に深刻なダメージを与えることはあり得る。
もちろん、知る権利の問題があり、それとの兼ね合いが難しいが、秘密保全法の制定の問題とは別に、国家公務員法の守秘義務違反の刑罰の上限をもう少し引き上げることを検討してもよいのではないだろうか。
2013年09月02日(月) |
交番に生卵を投げつけた少年らを逮捕 |
日経でなくネットニュース(H25.9.2)で、大阪・泉南市の高校生らが、交番や追いかけてくるパトカーに生卵を投げつけたとして公務執行妨害の疑いで逮捕されたと報じていた。
公務執行妨害罪は、公務員が職務を執行することに対し、暴行または脅迫を加えた場合に成立する。
したがって、追いかけてくるパトカーや、交番の中で警察官が執務しているときに、それに対し生卵をぶつける行為は公務執行妨害にあたるから、逮捕はやむを得ない。
では、だれもいない交番に生卵をぶつけていればどうだったであろうか。
おそらく、「職務を執行するにあたり」という要件を欠き、公務執行妨害罪は成立しないだろう。
では、器物損壊罪は成立するであろうか。
すき焼き鍋に放尿した行為について、器物損壊罪の成立を認めた判例がある。
放尿された鍋は、感情上、二度と使えないからである。
しかし、生卵が交番の中の机にぶつけられても、拭きとれば使用は可能であろうから、キズでもついていない限り、器物損壊罪の成立は難しいように思う。
もっとも、軽犯罪法は、「他人の物件に害を及ぼす虞のある場所に物を投げる行為」や、「他人の家屋その他の工作物を汚す行為」を禁じているから、少なくとも軽犯罪法違反は成立すると思われる。
そして、事案の悪質性からして、厳重注意だけでは済まず、逮捕されることになるだろう。
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