今日の日経を題材に法律問題をコメント

2013年07月31日(水) 「原案」とは

 日経でなく、ネットニュース(H25.7.31)で、土屋アンナさんが舞台稽古に参加しなかったことを理由に、舞台公演が中止になった騒動が報じられている。


 この問題は、土屋アンナさんが、舞台化について原作者の了解を得ていないことを知り、その了解を取るよう要請して稽古を休んだところ、主催者側が、土屋アンナさんが稽古を休んだために公演が中止になったとして、損害賠償請求を求めているものである。


 その請求の当否は、事実関係が分からないので判断できない。


 ただ、公演予定だった舞台は、車いすシンガー濱田朝美さんの原作「日本一ヘタな歌手」が元となっているところ、それを「原作」でなく「原案」として表記しているようであり、この点について考えてみる。


 「原案」というのは、非常に曖昧な概念で法的意味ははっきりしない。


 ただ、一般的には、原作を元の形がなくなるほど大幅に改作した場合に、「原案」と表記しているようである。


 そして、通常は、「『原案』とした場合には、原作者の許可は本来は不要であるが、儀礼上、許可を求め、かつ一定の支払いをしている」という認識のように思われる。


 しかし、「原案」と表記すれば、「原作者の許可は本来不要」というわけではない。


 翻案権(原作を脚本化するなどの権利で、著作権の支分権)について判例は、「既存の著作物に依拠して創作された著作物が、アイデアや事件など、表現といえないものや、表現上の創作性がない部分が、既存の著作物と同一性であるにすぎない場合には、翻案には当たらず、翻案権の侵害にならない」としている。


 したがって、脚本が、原作のアイデアを借用しただけであれば、翻案権の侵害にならないが、表現上の創作性のある部分と同一であれば、たとえ「原案」と表記していても、その脚本は翻案権の侵害になる。


 その線引きは、当事者にすればなかなか微妙である。


 それゆえ、和解的な解決として、「原案」と表記しながらも、原作者の許可を求め、一定の支払いをしているということになるのだろう。



2013年07月30日(火) 犯罪の故意として、積極的意思までは不要である

 日経(H25.7.30)社会面で、AIJによる年金詐欺事件の最終弁論で、浅川和彦被告が、「金をだまし取る意思はなかった」と無罪を主張に転じたと報じていた。


 被告人に「金をだまし取る意思まではなかった」ことは事実なのであろう。


 しかし、犯罪の故意としては、そのような積極的な意思がなくても認められる。


 むしろ、この時点で無罪主張することは、「反省していない」と評価されて、刑が重くなる可能性さえある。


 そして、そのことは弁護人も十分説明しているはずである。


 それでも被告人は納得できなかったのであろうし、それは被告人自身の判断であるからやむを得ないことである。



2013年07月29日(月) 行動の基準が明確なガイドラインが望ましい

 日経(H25.7.29)法務面で、従業員による「ツイッター」などの利用について、ガイドラインを設ける企業が増えているという記事が載っていた。


 従業員の発信がきっかけで、企業が謝罪に追い込まれる事件が相次いだことが背景にある。


 ただ、「業務利用であれば会社の統制権が及ぶが、個人利用の範囲では会社がルールを強制できる根拠はない」として、ガイドラインにはソフトな表現が目立つそうである。


 もちろん「ソフト」な対応自体は悪いことではない。


 しかし、行っていいことと悪いこととの基準が曖昧であれば、ガイドラインを策定した意味がない。


 したがって、ガイドラインを作成する以上は、表現はソフトでも、行動の基準が明確になるように努めるべきであろう。



2013年07月26日(金) スイカデータの販売問題

 日経(H25.7.26)11面で、JR東日本が「スイカ」データを外部販売していた問題で、同社は、 利用者の不安に配慮して、外部への情報提供を望まない利用者のデータは除外すると述べたと報じていた。


 これは、JR東が、日立に対し、スイカでの乗降駅、利用日時、鉄道利用額、生年月などのデータを販売していたことが、問題になったものである。


 このデータには、名前や連絡先など個人を特定できる情報は含まれていなかったため、JR東は利用者に説明していなかったが、この点が問題視された。


 これについて、記事では「個人情報を第三者に提供する際のルールについては専門家でも解釈が分かれている」として、「外部に提供するときに個人が特定できないよう加工しているかどうかは関係ない」という見解を紹介していた。


 しかし、個人が特定されない情報の集合は、もはや個人情報保護法が定義する「個人データ」ではない。


 したがって、それを情報提供するに際し、元の情報提供者から同意を得なくても個人情報保護法に違反することにはならない。


 この点について「専門家で解釈が分かれている」ということはないと思う。


 ただ、個人情報保護法は、現状にそぐわない面が多々あることは事実であり、いま時代に対応できるように早急に法改正することが重要であると思う。



2013年07月25日(木) みずほ証券の誤発注事件の控訴審判決

 日経(H25.7.25)社会面で、みずほ証券のジェイコム株誤発注訴訟で、東京高裁は、東京証券取引所に対し、一審と同じく約107億万円の支払いを命じたという記事が載っていた。


 この事件では、みずほ証券はすぐに誤発注に気付き、取り消そうとしたのであるが、システムの不備により取り消すことができなかった。


 このようなシステム不備が東証の重過失といえるかが争点の一つであった。


 そして、控訴審では、みずほ証券が、コンピューターシステムのソースコードを解析した上で、「不具合は容易に回避できた」として、東証に重過失があるたと主張したようである。(上記の記事にはなく、ネット情報であるが)


 しかし、控訴審判決では、「不具合を容易に発見できたとは認められない」として、東証の責任が否定された。


 コンピューターの不具合のつき、ソースコードの解析までして争われることは珍しく、先例的意義のある判例だろうと思う。



2013年07月23日(火) 岩波の六法が終了

 日経(H25.7.23)社会面で、岩波書店が六法全書の刊行を終了したという記事が載っていた。


 六法は毎年買い替えるが、今年から、三省堂「模範六法」から岩波「基本六法」に代えたばかりなので、がっかりである。


 ネットで最新の法律が分かる時代なったから、書籍としての六法の重要性は低くなったのだろう。


 ただ、一覧性という点では、ネットは書籍に絶対敵わないと思う。


 いずれにせよ、岩波の六法がなくなるので、来年はどの六法にするかまた検討しないといけない。



2013年07月22日(月) ネット選挙運動はさらに自由化すべきだが、投票はアナログでよい

 日経(H25.7.22)夕刊で、参院選でネットを使った選挙運動が解禁されたが、それに関し、有権者にネットの選挙運動の評価を聞いていた。


 記事では「便利だ」と評価する声が多かったようである。


 ただ、複数の回答者が「ネットで投票できるようになればいい。」と答えており、記事もそれに好意的な書き方であった。


 しかし、ネットによる投票は止めた方がいいだろう。


 なりすまし投票を防止することが難しいだけでなく、投票全体が乗っ取られる可能性もあるからである。


 その場合、投票全体が無効になるであろうし、万が一乗っ取りが発覚しなかった場合には、特定の個人により代表者が選ばれるという恐ろしい事態も可能性としてはゼロでない。


 ネットによる選挙運動はさらに自由化すべきであるが、投票自体はアナログのままでよいと思う。



2013年07月19日(金) 供述内容が漏れすぎではないか

 日経(H25.7.19)社会面で、広島県呉市の山中で女子生徒とみられる遺体が見つかった事件で、「逮捕された7人が、山に行くことを事前の話し合いで決めてから女子生徒を車で連れ出していたことが、捜査関係者への取材で分かった。」と報じていた。


 この事件では、最初に女子生徒が逮捕されてから、女子生徒の変転する供述や、後に逮捕された仲間の供述などが詳細に報道されている。


 そのような供述の情報源は捜査官しかあり得ないし、実際、記事でも「捜査関係者への取材で分かった」としている。


 しかし、捜査官には公務員法上の守秘義務があるはずである。


 しかるに、供述内容があまりにダダ漏れであり、その程度が今回は特にひどいように思う。


 捜査官は、守秘義務をもっと自覚すべきである。



2013年07月18日(木) 個人情報保護法は見直す時期に来ている

 日経(H25.7.18)22面「経済教室」で、ビッグデータ活用の問題について論じていた。


 ビッグデータとは、インターネット等の情報技術の発達に伴って爆発的に増えた莫大な量のデータであり、それを分析することでビジネスに活用しようという動きが盛んにある。


 ビッグデータの活用は、事業者の収益向上に資するだけでなく、利用者にとっても必要な情報を効率的に得られるというメリットがある。


 反面、利用に伴う責任や個人の権利・利益保護の意識が希薄になっていることを、論者は指摘していた。


 たまたま、今日の読売ネットニュースでは、JR東日本が、スイカの乗降履歴を、市場調査用データとして年500万円で販売を始めたと報じていた。


 したがって、上記の問題は現実化しているといえる。


 このような問題を考えるとき、まず思い浮かべるのが個人情報保護法である。


 しかし、個人情報保護法は平成15年に制定されたものである、ビッグデータの問題はもともと想定していない。


 このようなビッグテータの問題だけでなく、個人情報を取り巻く環境は法律制定時から相当変わってきている。


 それゆえ、個人情報保護法はそろそろ見直す時期に来ているのだろうと思う。



2013年07月17日(水) 菅元首相が安倍首相を訴える

 日経(H25.717)社会面で、菅直人元首相が、安倍晋三首相を名誉棄損で、東京地裁に訴えたと報じていた。

 
 元首相であっても、また、訴える相手が首相であっても、裁判を提起する権利は憲法で保障されている。


 しかし、菅元首相の言い分は、安部首相がメルマガで、「菅総理の(原発への)海水注入指示はでっち上げ」「注入を止めたのは菅総理その人」と書いているが、それは虚偽であり、名誉を著しく傷つけられたというものである。


 そうすると、裁判では、菅元首相が海水注入を指示したのか、それとも注入を止めたのかなどが争点になるであろう。


 しかし、それは原発事故の再発防止や、今後の事故対応の教訓にする目的で、事故調査の中で明らかにすべきであり、裁判でやる内容ではないであろう。


 その意味で、菅元首相の訴訟提起は非常に疑問である。



2013年07月16日(火) 合格者3000人の目標撤回だけでは検証不足

 日経(H25.7.16)夕刊で、政府は、司法試験の合格者数を「年3千人程度」とした目標を撤回したと報じていた。


 撤回自体は、合格レベルに達しているのがせいぜい2000人程度という実態を考えると当然の措置ということになる。


 ただ、年3000人の合格者の目標を定めたとき、「日本は欧米に比べて法曹人口が少なすぎるので、3000人程度の合格者は必要である」としたはずである。


 これに対し、「司法書士の数なども合わせると、日本の法曹人口が少なすぎることはない」という反対論もあったが、「既得権を守りたい弁護士側の意見に過ぎない」としてほとんど考慮されることはなかった。


 しかし、いざ合格者を増やしてみると、2000人でも多すぎることが分かり、結局「3000人」にたいした根拠はなく、腰だめの数字に過ぎなかったことが明らかになったわけである。


 それなのに、当時の議論を十分検証せず、ただ目標撤回というだけでは、適正な法曹人口は本当はどの程度なのかを議論することはできないのではないだろうか。



2013年07月12日(金) 相続での申告漏れ

 日経(H25.7.16)夕刊で、遺産の一部の申告をうっかり忘れてしまう不利益について書いていた。


 申告漏れは、相続税で問題になるだけでなく、その財産をきちんと相続できない不利益が生じることになる。


 原因はいろいろあるが、被相続人が銀行口座をいくつも持っており、相続人が口座をすべて把握していなかったケースがある。


 残高が数千円程度であればあまり問題は生じないが、数百万円の残高があることもある。

 
 被相続人が認知症になっていた場合に、そのようなことがあり得る。


 対策としては、家族が銀行からの通知書類に注意しておくとか、認知症が進んだ場合は後見人を選任を検討することになるだろう。

 
 ただ、その財産は本人のものゆえ、家族があれこれ言える立場ではないため、なかなか難しい問題がある。



2013年07月11日(木) 最高裁の弁論

 日経(H25.7.11)社会面で、結婚していない男女間に生まれた婚外子(非嫡出子)の相続分を、法律婚の子(嫡出子)の半分とする民法の規定の合憲性が争われた事件で、最高裁は弁論を行いたと報じていた。


 最高裁で弁論が開かれる場合には、判例変更などにより原判決が見直されると言われている。


 確かに、原判決を変更する場合には、被上告人にも反論の機会を与える必要があるから、弁論を開く理由はあるといえる。


 しかし、実際には、弁論を開く時点で、裁判官は評議を重ね結論を決めている。


 それゆえ、最高裁の弁論は形式的なものである。


 もちろん、いきなり郵送で書面が届き、結論が分かるよりも、なるべく弁論を開いた方がいいわけであるが、何となく単なる儀式だなあと思ってしまう。



2013年07月10日(水) 選挙の供託金は高すぎるのではないか

 日経(H25.7.10)政治面で、選挙費用の囲み記事があり、その中で、参院選の立候補には選挙区で300万円、比例で600万円の供託金が必要で、一定の得票がないと没収されるという記事が載っていた。


 選挙における供託金制度は、当選する意思がなく売名のためだけに立候補することを防止するためと言われている。


 しかし、外国に比べて供託金はあまりに高く、立候補の自由を阻害しているように思われる。


 また、憲法44条は、両議院議員の資格を財産等で差別してはならないとしているが、その趣旨にもそぐわない。


 そのため、供託金制度は違憲であるという考えもあるくらいである。


 せめて、もう少し供託金を引き下げるべきではないだろうか。



2013年07月09日(火) 日本も著作権の保護期間が70年に

 日経(H25.7.9)1面トップで、TPP交渉において、日本は著作権の保護期間を権利者の死後50年から70年に延長する方針を決めたと報じていた。


 米国は、著作権収入を増やすため、保護期間の延長をTPP交渉で各国に働きかけている。また、世界の主流も、保護期間は死後70年である。


 日本もそれ流れに従っただけということかもしれない。


 しかし、創作的表現(著作権)といっても、ゼロからの創作であるはずがなく、それまでの創作物を基礎にしている。


 それなのに保護期間を70年もの長期にすると、新たな創作活動を阻害すること著しい。


 それゆえ、著作権の保護期間を70年に延長することには反対であるが、そのような声はもはやどこにも届かない情勢である。



2013年07月08日(月) 社外取締役が万能薬ではない

 日経(H25.7.8)法務面で、川崎重工業の代表取締役解任劇についてのインタビュー記事があったが、その中で、アメリカ人弁護士は、社外取締役の活用を説いていた。


 一つの意見ではあるが、川崎重工業の場合には、社外取締役がいたとしても、あまり変わりはなかったと思う。


 というのは、解任が問題になった時点では合併効果についての査定もなされていなかったのであるから、社外取締役も合併の適否について判断のしようがなかったはずだからである。


 仮に判断しようとしても、「合併報道により株価が下がった」とか、その程度の判断材料で決めてしまうしかなかったはずである。

 
 その意味で、社外取締役が万能薬であるとは思わないのであるが。



2013年07月05日(金) 反論しないのは、事実を認めたのと同じか?

 日経(H25.7.5)社会面で、暴力団と関わりがあるなどと報じた「週刊現代」の記事で名誉を傷つけられたとして、島田紳助氏と吉本興業が、講談社側に賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は、吉本興業に110万円の賠償を命じた一審判決を取り消し、講談社側全面勝訴を言い渡したと報じていた。


 他の新聞によると、一審では「吉本興業が所属タレントと暴力団の関係に寛容な会社」との印象を与える記載があったとして、講談社側に110万円の賠償を命じたが、高裁では、同様の報道が以前から続いていたのに吉本側が反論していなかった点を指摘し、「『暴力団との関係に寛容』という印象を自ら強めていた」と判断したとあった。


 詳しい事実関係は不明だが、これでは反論しなければ事実を認めたとみなされることになる。


 しかし、名誉棄損をされたとしても、それに反論するかどうかは本人が決めることであり、相手にしないという判断もありうるはずである。


 それを、あたかも反論が義務であるかのように解することには疑問を感じる。



2013年07月04日(木) オリンパス元社長に執行猶予判決

 日経(H25.7.4)社会面で、オリンパスの粉飾決算事件で、金融商品取引法違反に問われたオリンパス同社元社長らに対する判決があり、東京地裁は、元社長に懲役3年、執行猶予5年を言い渡したと報じていた。


 裁判所は執行猶予を付したが、検察官の求刑は懲役5年であった。


 例えば、現住放火罪で懲役5年を求刑された場合には、現住放火罪の法定刑の下限は懲役5年であるから、検察官の意見は、「執行猶予を付けても構いませんよ」ということである。

 これに対し、金融商品取引法の虚偽記載は、懲役10年以下若しくは1000万円以下の罰金、又はこれの併科である。


 したがって、懲役5年の求刑は、検察官としては「絶対に実刑にして欲しい」という意見表明である。


 それにもかかわらず裁判所が執行猶予を付けたのは、罪に問わることのなかった歴代社長との均衡を考えたからなのであろう。



2013年07月03日(水) 適法な上告理由があったのだろうか

 日経(H25.7.3)社会面で、上場見込みの薄い未公開株の購入を持ち掛けて現金をだまし取ったとして、詐欺罪で強制起訴された事件について、福岡高裁那覇支部は、被告人を無罪としたが、検察官役の指定弁護士は、判決を不服として上告したという記事が載っていた。


 被告人は、1、2審で無罪となっているのであり、なお被告人の立場に置くことはあまりに酷ではないかと思う。


 そもそも、上告理由は、判決に憲法違反がある場合など非常に制限されている。


 それゆえ、単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張は上告理由にならないのである。


 指定弁護士は、検察官役として公益的立場にあるはずであり、この上告理由の制限を尊重すべきである。


 その意味で、果たしてこの事件で適法な上告理由があったのか疑問である。



2013年07月02日(火) 猪瀬知事が、裁判官から削除を促される

 日経(H25.7.2)夕刊で、猪瀬東京都知事にツイッターで「盗作」などと書き込まれ名誉を傷つけられたとして、脚本家が、猪瀬知事に損害賠償などを求めた訴訟において、裁判長が、猪瀬知事に、「盗作との表現は望ましくない」として削除を促したという記事が載っていた。


 この事件では、猪瀬知事が、自身が原作の劇画「ラストニュース」を、「アホ脚本家が日テレで換骨奪胎し安っぽい報道ドラマにした」などとツイートしたことが名誉棄損に当たるかが争われている。


 ただ、裁判官が、「盗作との表現は望ましくない」と述べた以上、裁判官は名誉棄損に当たると考えていることは間違いないだろう。


 それにしても、これまで猪瀬知事がツイートを削除しなかった理由について、「以前から削除の意思を持っていたが訴訟の都合などからそのままにしていた」と述べているそうである。


 しかし、「訴訟の都合」の意味が分からない。どんな「都合」があるというのだろうか。


 名誉棄損に当たるとして訴訟になっていながら、そのまま放置した場合、それが名誉棄損に当たると認定されたときには、違法性はより強くなり、損害額が高くなるというリスクがある。


 それゆえ、100%訴訟で勝てるという確信がない限り、とりあえず削除するのが普通てある。


 猪瀬知事の政治手腕についてはコメントする立場にないが、法的センスがないことは間違いなさそうである。



2013年07月01日(月) 1年目に独立する弁護士の問題点

 日経(H25.7.1)社会面の若手弁護士の現状を報じた記事で、性犯罪事件の被告人側の若手弁護士が、被害者側代理人に対し、被害者側代理人が送った書面の余白に「貴職の考えには賛同できません」と殴り書きの文字でFAXしたということを書いていた。


 被告人側が被害者の親に直接示談を申し入れたため、被害者側の代理人が「配慮が足りない。弁護士を通すのが筋だ」と抗議したことへの返答が、殴り書きのFAXだったのである。


 FAXを送り付けた弁護士は1年目に独立開業した「即独」。送りつけられたベテラン弁護士は「常識を教わる機会がなかったのだろう」と嘆いた、書いていた。


 しかし、この問題は、「常識」の有無がポイントではないだろう。


 この若手弁護士は、被害者側に二次被害を起こしている可能性があり、また被告人の利益にも反していることこそが問題である。


 被害者との示談交渉には非常に気を使う。とくに性犯罪の場合、示談交渉自体が被害者を傷つけることになりかねない。


 被害者側に代理人が就いた場合には、その理由として被害者が直接交渉したくないという気持ちのことが多い。


 そうであるのに、代理人を飛び越して直接被害者側と連絡をすることは被害者側の気持ちを著しく傷つけることになる。


 また、その場合示談も成立しないから、被告人の利益にも反する。


 1年目に独立した場合、このようなことを学ぶ機会を失っており、そのことが問題なのであろうと思う。


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