今日の日経を題材に法律問題をコメント

2013年06月28日(金) 判決で受信契約締結を命じる

 日経(H25.6.28)夕刊で、NHKが相模原市に住む男性に受信契約の締結と受信料の支払いを求めた訴訟で、横浜地裁相模原支部は、契約の締結と受信料計約10万9000円の支払いを男性に命じる判決を言い渡したという記事が載っていた。


 受信契約を締結していなければ受信料を支払う義務はない。


 ただ、放送法64条は、NHKと受信契約を締結する義務を課している。


 そして、判決は、上記の契約締結義務の規定に基づき、意思表示の擬制(民事執行法174条1項)により、契約締結を認めたものと思われる。


 しかし、その場合の契約締結時は、判決が確定したときであるから、受診料支払い義務もそこから発生することになり、それ以前の受信料は請求できないはずある。


 おそらく、記事の「受信料10万9000円」というのは誤りであり、契約を締結しなかったことによる受信料相当の損害金のことのように思われる。



2013年06月27日(木) 「言葉」を裁判官に決めてもらおうとする誤り

 日経(H25.6.27)社会面で、NHKの放送番組で外国語が濫用され、内容を理解できずに精神的苦痛を受けたとして、「日本語を大切にする会」の世話人の男性が、NHKに141万円の慰謝料を求める訴えを名古屋地裁に起こしたという記事が載っていた。

 
 国民には裁判を受ける権利があるから、外国語の濫用を戒める裁判をしたこと自体を批判することは出来ないかもしれない。


 しかし、このような訴訟を大きく報道するマスコミの姿勢には疑問がある。


 言葉は、文化と相互作用の関係にあり、言語や文化は人間の社会集団の中で形成されていくものである。


 しかるに、外国語が濫用されているとして損害賠償を求める裁判をするということは、ある言葉が適切かどうかの判断を裁判官に委ねるということを意味する。


 それは、裁判の役割を誤って理解しているだけでなく、「言葉」を裁判官に決めてもらおうという考え方において決定的な誤りがある。


 このような訴訟を大きく報道するマスコミは、言語や文化についていかなる見識を持っているのだろうかと疑問に思う。



2013年06月26日(水) 正論だが・・

 日経(H25.6.26)社会面で、パソコン遠隔操作事件で、報道機関などに宛てた犯行声明メールの送信元のサーバーに不正に接続したとして、警視庁は、共同通信社の記者と朝日新聞社の記者を不正アクセス禁止法違反容疑で書類送検したと報じていた。


 これについて、共同通信社は、「形の上では法律に抵触する可能性があるが、事件の真相に迫るための取材行為だった」としている。


 ところが、朝日新聞社は「送信者がパスワードを使ってアカウントにアクセスすることを誰に対しても広く承諾していた」と反論しているそうである。


 この朝日新聞社の反論は相当無理があり、こじつけと言われても仕方ないであろう。


 警視庁は「捜査上の支障はなく、悪質性が高いとも言えないが、形式的には不正アクセスに該当する。覚知した以上は書類送検の必要がある」としている。


 まさに正論である。


 ただ、報道の自由の重要性を鑑みたときに、果たして正論を押し通してよいかが問題なのだろうと思う。



2013年06月24日(月) いつまでも続く「一票の格差」訴訟

 日経(H25.6.24)夕刊で、衆院の小選挙区を「0増5減」し、1票の格差を是正する公職選挙法改正案が成立すると報じていた。


 しかし、今年3月1日現在の推計人口ではすでに5つの選挙区で格差が2倍を超えている。


 しかも、47都道府県に1議席ずつ配分する「1人別枠方式」は維持しているため、根本的解決にはほど遠い。


 そのため、また選挙無効の訴訟が起こされることは間違いない。


 法律で、定数を決める権限のある第三者委員会を作らない限り、このような「一票の格差」訴訟はいつまでも続くことになる



2013年06月21日(金) 迷惑メールを「つきまとい行為」に加える法改正

 日経(H25.6.21)夕刊で、迷惑メールを繰り返し送ることを「つきまとい行為」の対象に加えるストーカー規制法改正案が参院本会議で全会一致により可決したという記事が載っていた。


 神奈川県逗子市で、メールを連続で送るなどして付きまとった挙句、殺人を起こす事件があったのは昨年11月。


 それから約半年で、メールの送信をつきまとい行為を加える法改正がなされた。


 これまでの法改正に比べると早いのかもしれない。


 しかし、再び似たような事件があってからでは遅いし、メールをつきまとい行為に加えることについて反対はなかった。


 そうであれば、3か月程度で法改正ができなかったのかと思う。



2013年06月20日(木) 一審裁判員裁判の死刑判決を破棄

 日経(H256.20)夕刊で、妻子を殺した罪で服役を終えた半年後、男性を殺害したとして強盗殺人などの罪に問われた事件で、東京高裁は、一審・裁判員裁判による死刑判決を破棄し、無期懲役を言い渡したと報じていた。


 東京高裁は「先例の量刑傾向をみると、前科と顕著な類似性が認められる場合に死刑が選択されている」としたうえで、被告の前科である無理心中を図って妻子を殺害した事件と今回の強盗殺人事件は「類似性は認められない」として、死刑判決を破棄した。


 しかし、被告人は、家族2人を殺害し、出所して半年後に強盗殺人を犯しており、人を殺すことへの規範意識が完全に欠如している点では類似性はある。


 また、死刑判決だけなぜ先例を重視するのかという疑問もある。


 そうはいっても、死刑は執行すると取り返しがつかないのであるから、死刑判決には特に慎重であるべきである。


 その意味で、いずれが正しいというわけでなく、本当に難しい事件だったと思う。



2013年06月19日(水) 強制起訴でまた無罪判決

 日経(H25.6.19)社会面で、上場見込みの薄い未公開株の購入を持ち掛けて現金をだまし取ったとして、詐欺罪で強制起訴された投資会社社長の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部は、無罪とした一審・那覇地裁判決を支持し、控訴を棄却したと報じていた。


 おそらく検察官役の指定弁護士は控訴せず、無罪は確定すると思われる。


 これまで強制起訴ではほとんどが無罪か、免訴、公訴棄却となっている。


 有罪になったのは、徳島県の町長が、ホステスの右頬に左手を押しつける暴行を加えたとして科料9000円を言い渡された事件だけである。


 これさえも、起訴する価値があったかどうか疑問である。


 たとえ犯罪事実に該当する場合でも、検察官は、犯罪の軽重等により起訴しないことができるとされているが(起訴便宜主義といわれる)、この事件での強制起訴したということは、その起訴便宜主義を否定するものであり、強制起訴したことに問題があったのではないだろうか。


 結局、強制起訴は廃止するか、せめて強制起訴する要件をもっと厳しくすべきであろうと思う。



2013年06月18日(火) 死刑囚の尋問をを公開法廷で行う

 日経(H25.6.18)社会面で、逮捕監禁罪などで起訴された元オウム真理教の平田信被告の刑事裁判で、東京地裁は、元教団幹部の死刑囚3人の証人尋問を公開の法廷で行うことを決めたと報じていた。


 確定死刑囚の法廷での証人尋問は極めて異例だが、「裁判所は憲法が定める『裁判公開の原則』を重視したとみられる」とのことである。


 ただ、警備上の理由から、証人は別室にいて、法廷をテレビ画像で結ぶビデオリンク方式を採用する可能性が高いと思う。


 しかし、ビデオリンク方式は、反対尋問をする側にとっては隔靴掻痒の感がある。


 それゆえ、反対尋問をする側からすれば、ビデオリンク方式を採用するくらいであれば、拘置所内での非公開の尋問の方がましだろうと思う。



2013年06月17日(月) ヘイトスピーチに対する規制

 日経(H25.6.17)社会面で、東京・新宿で、在日韓国人らを非難するデモの参加グループとこれに対立するグループの間で乱闘騒ぎがあり、双方のグループ計8人が暴行容疑で現行犯逮捕されたという記事が載っていた。


 いずれのグループであっても、暴行をしたのであればそれは処罰されなければならない。


 その点はともかく、このデモのグループは民族差別発言を繰り返しており、ヘイトスピーチと言われることがある。


 ヘイトスピーチは個人の尊厳を著しく傷つけるものであり、許されるものではない。


 この点、外国では、ヘイトスピーチに対する法規制はかなり広汎に行われているようである。


 しかし、日本ではそのような規制はなく、それゆえ、このようなヘイトスピーチを法律で規制すべきという意見もある。


 しかし、法規制することには慎重であるべきと思う。


 ヘイトスピーチに対する規制は、表現行為の内容に対して法が踏み込むことであり、表現の自由に対する委縮効果が大きすぎるからである。



2013年06月14日(金) 川崎重工業の代表取締役を解任

 日経(H25.6.14)1面トップで、川崎重工業は、臨時取締役会を開いて長谷川聡社長を解任し、三井造船との経営統合交渉の打ち切りを決めたと報じていた。


 解任事由は、社長が三井造船との経営統合を進めようとしたことに反対したためである。


 統合に反対した理由は、報道によれば次のとおりである。

「合理的に考えて統合しない方がいいと判断した」

 資産査定が完了していないのに統合の効果が出ないと判断した理由については、「我々はプロであり(外部の)専門家よりも評価できる」

「経営統合の報道を受け、(株価が下落した)市場の反応からして、経営統合効果にはつながらないとの印象を持った」


 なんだか、「専門家」といいつつ、市場の反応だけで反対を決めたようで、あまり説得力はない。


 ただ、統合反対の理由があいまいでも、解任は、取締役会の過半数の賛成決議さえあれば、できる。


 したがって、決議の有効性が問題になることはないであろう。



2013年06月13日(木) 仕様変更の場合は、信義則上の説明義務がある

 日経(H25.6.13)スポーツ面で、日本野球機構(NPB)が、プロ野球で使用している統一球を今季から飛びやすい仕様に変更しながら公表しなかった問題で、加藤コミッショナーは「責任はあるが、不祥事を起こしたとは思っていない」と述べたという記事が載っていた。


 しかし、「不祥事ではない」のだろうか。


 NPBと選手とは直接の契約関係はないようである。


 しかし、NPBが定める統一球を選手は使用しなければならない関係にある。


 そして、統一球の仕様は、選手の成績=収入に直接影響する問題である。


 そうであれば、NPBがその仕様を変更した場合には、信義則上、それを球団、選手等に説明する法的義務があると考えられる。


 その説明義務を怠ったのであるから、民事上の不法行為に該当することになる。


 それは「不祥事」ということになるのではないだろうか。


 もっとも、選手がNPBの説明義務違反を理由に損害賠償請求をすることは難しいだろう。


 球が飛びやすくなったのだから、打者には損害ないといえる。


 また、投手は成績が落ちたとしても、年俸交渉の際に、仕様の変更を考慮に入れて査定すれば、損害はないことになってしまう。


 ということで、NPBに説明義務違反はあるが、それを理由に選手が損害賠償請求訴訟をしても、それは認められないということになりそうである。



2013年06月12日(水) 「あたご」と漁船の衝突事件で、被告に無罪判決

 日経(H25.6.12)社会面で、千葉県沖で海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船が衝突して漁船の親子が死亡し、当時の当直士官が業務上過失致死罪に問われた事件で、東京高裁は、「あたご側に回避義務は認められない」として、被告を無罪とした一審を支持、検察側控訴を棄却したと報じていた。


 一審裁判所は、衝突直前の漁船の動きを、検察側、弁護側いずれの主張とも異なる独自の航跡を認定して、「あたご」に回避義務はないとした。


 これに対し、東京高裁は、一審が認定した航跡を否定し、他方、検察側の主張する航跡の信用性も否定した。


 その結果、漁船の航跡を一定の幅を持った航跡でしか特定できず、その「幅」の中で被告に最も有利になる航跡を選択し、その航跡によれば「あたご」の回避義務は否定されるとしたものである。


 一審判決が独自の航跡を認定したことは、無理があったと思う。


 というのは、裁判所に独自の調査能力があるわけではなく、裁判所に提出された証拠から判断するしかないのであるが、そのような証拠収集上の限界があるのに、独自の認定ができるはずがないからである。


 これに対し、高裁判決は、同じく無罪を導いているが、事実に「幅」がある場合に被告に有利な解釈をするという考え方を採用しており、解釈に安定感がある。


 それゆえ、検察側も上告は断念せざるを得ないだろう。



2013年06月11日(火) 詐欺グループの拠点で32万人分の名簿を押収

 日経(H25.6.11)社会面で、警視庁が摘発した詐欺グループの東京都内の拠点で、約32万人分の名簿が押収されていたという記事が載っていた。


 名簿は過去の詐欺事件の被害者のデータであり、その人たちに被害回復を持ちかけて金をだまし取っていたようである。


 一度詐欺被害に遭うと、そのデータが残ってしまい、また勧誘が来て二重の被害にあうことがしばしばある。


 弁護士を入れてその勧誘を断っても、データは一人歩きしているから、また別の業者から勧誘の連絡が来ることも少なくない。


 被害を防ぐには、周りの人が気を付けるのが一番であるが、一人暮らしの人はそれも難しいのが実情である。



2013年06月10日(月) 警察官が虚偽調書を作成

 日経(H25.6.10)夕刊で、大阪府警堺署の留置場で起きた公務執行妨害事件で、実際には現場にいなかった警察官が手続きに関わったとする虚偽の調書が作成され、公判でも警察官が虚偽内容に沿った証言をしていたことが判明したという記事が載っていた。


 公判でも虚偽は見抜けなかったようであるが、警察官が口裏合わせをする、うそを見抜くことはほとんど不可能であろう。


 それでも虚偽が発覚したのは、府警の内部調査によるものである。


 内部調査で発覚したのだから、虚偽調書作成はレアケースであり、むしろ警察の自浄能力を評価すべきという考えもあり得るだろう。


 ただ、警察官が虚偽調書を作成したということは、そのように考える体質が警察自体にあったからかも知れない。



2013年06月07日(金) 夫婦でも脅せば犯罪にはなるけれど・・

 日経(H25.6.7)社会面で、元サッカー日本代表の奥大介容疑者が、妻を電話で脅したとして脅迫の疑いで逮捕されたという記事が載っていた。


 たとえ被害者が妻でも、罪を犯せば逮捕されることはある。


 ただ、脅迫の相手は妻であり、しかも面前ではなく、電話で脅したというのである。


 それなのに逮捕までするのか思った。


 もちろん、他に逮捕すべき事情があったのかもしれない。


 ただ、このような場合、かつては警察官が双方呼んで、夫を叱りつけ、「夫婦でよく話してみなさい」と言って説教することが多かったのではないだろうか。


 ところが最近は、「犯罪を犯している以上、逮捕されても仕方ない」という考え方に変わってきたという印象を受ける。


 要するに、あいまいな部分がなくなったてきたということかもしれない。



2013年06月05日(水) 一部執行猶予制度の法案が成立

 日経(H25.6.5)夕刊で、懲役や禁錮刑の一部を執行した後に、残りの刑期を猶予する「一部執行猶予制度」を新設する法案が参院本会議で全会一致により可決したという記事が載っていた。


 一部執行猶予制度は、これまでの執行猶予と実刑との中間的制度と言われている。


 しかし、運用次第では、「中間的」とはいえなくなる危険もある。


 これまでは、実刑判決でもおかしくないが、ぎりぎり執行猶予を言い渡していた事案で、安易に一部執行猶予を言い渡す危険性がある。


 また、実刑懲役1年6月を言い渡されたが、仮釈放で1年2月で釈放された場合、残り4か月を経過すれば、制約は無くなる。

 ところが、懲役1年6月のうち6月を3年間執行猶予とした場合、1年6月経過以降も、執行猶予中という制約がついてくることになる。


 そうすると、実刑1年6月より軽いとはいえないかもしれない。


 それゆえ、一部執行猶予制度においては慎重な運用が望まれる。



2013年06月04日(火) 死亡による預金口座の凍結にどう備えるか

 日経(H25.6.4)夕刊で、人が亡くなると銀行の預金口座が「凍結」され、葬儀費用などが準備できないケースがあるが、それに備えてどうしたらいいかについて書いていた。


 記事では、生命保険の一時払い型終身保険を勧めていた。ただ、すぐに現金化できるのかという問題はある。


 一番いいのは、銀行に知らせずにキャッシュカードで預金を引き出すことである。


 相続人であれば、法定相続分の範囲で当然に預金債権を相続しているから、とくに問題にはならないであろう。


 ただ、後に他の相続人からあれこれ言われないように、記録に付けておくことは大切である。



2013年06月03日(月) 通信の秘密について

 日経(H25.6.3)法務面で、土屋大洋・慶応義塾大学大学院教授が、「憲法が定める通信の秘密は、通信内容全てが対象となっているわけでなく、一定の範囲内であれば、通信事業者が合憲的に電子メールなどの情報解析も可能」と述べたという記事が載っていた。


 参考にすべき意見だと思う。


 通信の秘密は、表現の自由と並んで憲法の明文で保障されており、それだけに、通信の秘密の制限となる行為にはためらいがあり、使い勝手が悪くなっている気がする。


 冒頭の意見がどこまで賛同を得られるかは分からないが、通信の秘密に関する憲法上の議論はもっとなされるべきであろうと思う。


 < 過去  INDEX  未来 >


ご意見等はこちらに
土居総合法律事務所のホームページ


My追加
-->