今日の日経を題材に法律問題をコメント

2012年12月27日(木) 科学は絶対ではない

 日経(H24.12.27)社会面で、最高裁司法研修所が、DNA鑑定などの科学的証拠を刑事裁判でどう扱うかについての研究報告をまとめたという記事が載っていた。


 報告では、「過度の期待は事実認定をゆがめる恐れがある」と指摘し、科学的証拠の過信に警鐘を鳴らし、その一例として、現場の遺留物から被告と同じ型のDNA型が検出されただけでは被告が犯人だと認定するには不十分で、遺留物を残したのが犯人だと他の証拠から証明されなければならない、としている。


 しかし、「遺留物から被告と同じ型のDNA型が検出されただけでは犯人と認定するには不十分」というのは当たり前のことである。


 それにもかかわらず、いったん鑑定結果が出てしまうと、裁判官はそれを否定することがほとんどないことが問題なのである。


 科学を少しでもかじった者なら、科学に絶対はあり得ないことは常識であり、そういう疑いの目で科学的証拠は見るべきであると思うのだが。



2012年12月26日(水) 国選弁護人で過大請求

 日経(H24.12.26)社会面で、刑事事件の被告や捜査段階の容疑者に国費で付く国選弁護人について、157人の弁護士が被告らとの接見や立ち会った公判の回数を水増しして報酬を請求していたという記事が載っていた。


 過大請求額は449万円だから、一人当たりは約2900円であり、多額とはいえない。


 しかし、数年前には、過大請求が約35万円で、詐欺事件として立件され、弁護士資格を失ったケースがあるくらいであり、そもそも税金なのだから、もう少し規律を正すべきであろう。



2012年12月21日(金) ゴルフ場のプレーで詐欺成立か

 日経(H24.12.21)夕刊で、大阪地検は、暴力団員であることを隠してゴルフ場でプレーしたとして詐欺容疑で逮捕された山口組幹部、元ボクシング世界チャンピオンら3人を処分保留で釈放したと報じていた。


 釈放したのは、ゴルフ場が暴力団関係者の利用を禁止していることの周知が不十分だったためと思われる。


 ただ、捜査機関は、依然として暴力団であることを隠してゴルフ場でプレーした場合には詐欺罪で逮捕する方針であるし、裁判所も基本的には詐欺罪の成立を認めている。


 これまでの詐欺罪についての解釈からして、個別事案はともかく、一般論としては詐欺罪が成立することは否定できないだろう。



2012年12月20日(木) 留置場で喫煙を全面禁止

 日経(H24.12.20)夕刊で、警察庁は、留置施設を来年4月1日から全面禁煙とすると報じていた。


 すでに取調べ室ではタバコは吸えないが、運動時間中に2本程度まで吸うことができる。


 今回の措置により、これも禁止されることになる(警視庁などではすでに全面禁止となっているが)。


 喫煙の禁止は、憲法で保障する人格権の侵害であるという意見もあり、実際、裁判でそのような主張がされたことがある。


 しかし、受動喫煙による弊害、火を管理する必要性、喫煙を禁止することによる弊害の少なさを考えると、タバコの禁止が人格権を侵害するとは到底いえない。


 むしろ、全面禁止措置は遅すぎたぐらいであると思う。



2012年12月19日(水) 企業トラブルの中で、労働問題が2番目に多い

 日経(H24.12.19)18面で、企業が抱える法的トラブルのアンケート記事が載っていた。


それによれば、トラブルで一番多いのは「契約関係」であったが、2番目に多かったのが「労働問題」となっていた。


 実際、労働問題のトラブルは増えていると思う。


 法律や裁判所の解釈は、労働者に相当有利である(それが不当かどうかは別にして)。


 そのため、労働者が泣き寝入りせず、労基署に訴えたり、労働審判や裁判をしたりすれば、労働者側はかなりの成果が得られるだろう。


 とりわけ、残業代の請求はかなりの割合で認められており、会社を辞める前から自分の残業時間をメモでもしておけば、全面勝訴の可能性は高い。


 法律事務所の中には、残業代請求を熱心に行っているところもあるくらいである。


 企業側の対策として考えられることは、残業代はきちんと支払うということであろう。



2012年12月18日(火) 消費行動を監視カメラで分析

 日経(H24.12.18)18面で、監視カメラで撮影した映像から人だけを検出し、その動きをリアルタイムに推定する解析技術を開発したという記事が載っていた。


 この技術を利用すると、消費者がどの商品の前で立ち止まり手を伸ばしたかなど、購入に至る過程が詳細に分かり、マーケティングに活用できるとのことである。


 技術の進歩には目を見張るが、これは防犯カメラのような公益性はない。


 それゆえ、人が特定されように処理したり、店内に撮影している旨を表示するなどの工夫をしないと、プライバシーの侵害になると思われる。



2012年12月17日(月) 最高裁裁判官の国民審査制度は廃止すべき

 日経(H24.12.17)夕刊で、衆院選と同時に実施した最高裁判所裁判官の国民審査において「罷免を可とする投票」は7〜8%で、全員が信任されたという記事が載っていた。


 裁判官は選挙によって選任されていないから、三権の中で国民から最も遠い存在である。


 それゆえ、国民審査によって最高裁裁判官に民主的コントロールを及ぼし、バランスを取ろうというのが国民審査制度の趣旨である。


 理念としては素晴らしい。


 しかし、この制度で罷免されたことはなく、実際には機能していないのが現実である。


 憲法で定めている制度であるから簡単には廃止できないにしても、いずれは廃止されるべきであろうと思う。



2012年12月14日(金) 証拠の紛失は大阪府警だけではないと思われる

 日経(H24.12.14)社会面で、証拠品を巡る不祥事が相次いだことを受け、大阪府警が証拠品の管理状況を点検した結果、117事件の301点を紛失していたという記事が載っていた。


 事件の多くは未解決で、殺人や強盗殺人など重大犯罪の証拠品も含まれているようである。


 事件の証拠は雑多であり、それを管理するのは大変なことと思う。


 ただ、管理の仕方は旧態依然としており、きちんとシステム化されていないのではないかと思われる。


 これは他の県警でも同じであり、証拠の紛失は大阪府警だけの問題ではないだろうと思う。



2012年12月13日(木) 社員教育の前に、役員の教育を

 日経(H24.12.13)1面で、主要企業の35%が技術情報など営業秘密の漏洩もしくはその疑いがあるという記事が載っていた。


 漏洩対策としては、「社員教育」が69%と最も多かったようである。


 社員教育は大切なことであるが、より重要なことは「営業秘密」と認定できるだけの措置しておくことである。


 営業秘密といえるためには、「秘密として管理されている」ことが必要だからである(不正競争防止法2条6項)。


 ところが、相談を受けても、営業秘密の要件を充たしていないことがかなり多いのである。


 社員教育の前に、役員の教育をすべきであろうと思う。



2012年12月12日(水) 舞鶴市女子高生殺人事件で大阪高裁が逆転無罪

 日経(H24.12.12)夕刊で、京都府舞鶴市で女子高生を殺害したとして、殺人罪などに問われた事件で、大阪高裁は、被告人を無期懲役とした一審判決を破棄し、逆転無罪を言い渡したと報じていた。

 
 判決理由で裁判所は、事件直前に被告が被害者と一緒にいたとの目撃証言について、「警察官に写真を見せられたことで証言が変遷した可能性が否定できない」と指摘した。


 また、被告人供述も、「長時間の取り調べの中で変遷しており、捜査機関による誘導が供述に影響した可能性を完全に排除できない」としている。


 仮に供述状況の全過程を録画していれば、そのような指摘は受けなかったであろう。


 やはり供述状況の全過程の録画は必要ではないかと思う。



2012年12月11日(火) 林原元社長らを書類送検 逮捕はなし

 日経(H24.12.11)社会面で、岡山県警が、根抵当権の設定契約書を偽造し、取引先銀行からの融資枠を増額させたとして、バイオ企業「林原」の元社長ら旧経営陣4人を詐欺と有印私文書偽造・同行使の疑いで書類送検したと報じていた。


 容疑事実は、林原美術館の建物を担保にしようとして、所有者の財団法人林原美術館の理事会の承認を得ず、担保の設定契約書に理事長の名前を記入、押印して提出し、融資枠を35億円から50億円へ不正に増額させた疑いである。


 金額からして逮捕されて当然の事案であると思うが、逮捕はないようである。


 これまでの林原の地元への貢献や、債権者への弁済率が9割と極めて高く、債権者の処罰感情が高くないことが考慮されたのだろうか。



2012年12月07日(金) 5億2000万円支払って和解しても実刑

 日経(H24.12.6)社会面で、神世界グループの教祖が組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)罪に問われた霊感商法事件で、東京高裁は、教祖を懲役5年とした一審判決を破棄し、懲役4年6月を言い渡したと報じていた。


 日経の記事では書いていなかったが、減刑された理由は、被告側が1審判決後、被害者130人に計約5億2000万円を支払い、和解したためである。


 5億2000万円もの大金を支払って和解したのであるから、被告としては、執行猶予が付くと期待したのではないか。


 それだけに、半年しか減刑にならなかったことにがっかりしているかもしれない。


 しかし、被害対策弁護団によると、被害者は推計4000人以上、被害総額は約180億円に上るというのだから、実刑は当然であろう。



2012年12月06日(木) 案ずるより産むが易し

 日経(H24.12.5)夕刊で、全国の警察が裁判員裁判対象事件の一部で試行している取り調べの録音・録画(可視化)について、担当した取調官の34%が「事件によっては全面可視化した方が良い場合がある」と考えているという記事が載っていた。


 現場の取調官は取調べの可視化に反対だったはずだから、「全面可視化がよい場合もある」が34%にもなったことは驚きである。


 取調べの可視化に反対する立場からは、可視化の弊害がいろいろと指摘されたが、本当にそのような弊害があるのかは検証されていない。


 実際に試行してみると、弊害がなかったことが、可視化の容認が増加した理由なのだろう。


 案ずるより産むが易しである。



2012年12月05日(水) 期限を過ぎての書類の提出

 日経(H24.12.5)4面で、衆院選立候補届け出に際し、日本未来の党の比例代表名簿の届け出が締め切り間際の駆け込み提出となったという記事が載っていた。


 ところが必要書類の一部が不足しており、締め切り時間を30分すぎてから森裕子副代表らが現場に駆けつけ、午後6時ごろに行方不明だった名簿が「発見」された。


 そのため、「森氏が締め切り後に書類を持ち込んだのではないか」との疑惑が持たれたが、選管側は「テーブルの書類の束の中から出てきた」として疑惑を否定したそうである。


 このやり取りで思い出したのが、私の恩師の弁護士の、その恩師の弁護士による裁判所への書類提出の話である。(だから、50年以上前のことである)


 裁判所の書類提出は大抵期限が決まっており、とくに控訴期限などは期限を過ぎると弁護士過誤になるから、期限の途過は絶対に許されない。


 そのときも、深夜0時まで書類提出しないと期限が途過してしまうのだが、書類作成が遅れ、裁判所の窓口に来たのが午前1時くらいになったそうである。


 すると、その恩師の恩師の弁護士は、自分の腕時計を午後11時50分くらいにして裁判所に駆け込み、腕時計を見ながら「あー、間に合った。よかったよかった。」と大芝居した。


 裁判所の職員から見れば、大芝居でなく猿芝居であるが、「仕方ないなあ」という感じで書類を0時前の日付で受理したそうである。


 古き良き時代の話ということになるのかもしれないが、褒められたことではないと思う。



2012年12月03日(月) 中小企業での株主代表訴訟

 日経(H24.12.3)法務面で、親会社の株主が子会社役員の責任を直接追及できる多重代表訴訟制度の新設を盛り込んだ会社法の改正案について書いていた。

 改正の狙いは、持ち株会社が多く存在するようになり、株主の監視を子会社まで働かせるためである。


 ただ、提訴条件などが厳しく、大企業よりも中小企業で訴訟が相次ぐのではないかと懸念されている。


 中小企業での株主代表訴訟は、相続などがきっかけに内紛となり、その結果訴訟が提起されることが多い。


 本来であれば、違法なことさえしていなければ株主代表訴訟は怖くないはずである。


 ところが、中小企業では株主総会を開いていないのは常態であり、そのような手続的瑕疵を突かれると弱いところがある。


 それゆえ、たとえ小さな会社であっても、取締役会や株主総会は、実際に開催しておくことをお勧めする。


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