今日の日経を題材に法律問題をコメント

2012年06月29日(金) 不法原因給付

 日経(H24.6.29)社会面で、私立大学医学部への裏口入学を仲介すると偽り、3000万円をだまし取ったとして、警視庁は、男性3人を詐欺容疑で逮捕したという記事が載っていた。


 裏口入学の仲介はしばしば話題になし、身近にも裏口で入学したという話を聞く。


 しかし、本当に仲介することによって入学したのか疑わしい。お金を積まなくても入学できた可能性も否定できない。


 それだけでなく、裏口入学できなかった場合に返金請求できない。


 不法原因給付といって、民法で、不法な目的でお金を渡した場合には、その返還を求めることができないと規定されているからである。


 たとえ、契約書を作成し「入学できなかった場合には返金します」と書いていても同じである。


 やはり裏口入学を依頼するのは止めた方がいい。



2012年06月28日(木) 最高裁のホームページにサイバー攻撃

 日経(H24.6.28)3面で、最高裁、民主党などのホームページがサイバー攻撃にさらされたという記事が載っていた。


 仕掛けたのは国際的なハッカー集団「アノニマス」で、6月20日に成立した改正著作権法が自由なインターネット利用を侵害するとして、大規模な示威行動に打って出たとみられるとのことである。


 サイバー攻撃への対策としては、セキュリティの強度を高めることも重要であるが、費用対効果の点で問題が多い。


 それよりも、ホームページに重要な情報を置かず、攻撃された場合にはすばやくサイトを閉鎖して、亀のように閉じこもることの方が効果的ではないかと思う。


 それにしても、最高裁はこのようなサイバー攻撃に対応できるだけの人材がいるのだろうか。それとも業者に丸投げなのだろうか。


 かつて裁判員裁判フォーラムで業者に丸投げしていたことがあったに心配になる。



2012年06月27日(水) 東京電力、関西電力などで株主総会が開催

 日経(H246.27)夕刊で、東京電力で株主総会が開かれ、多くの株主が出席し、株主総会では、東京都や個人株主から合計10件の株主提案が出されたと報じていた。


 質疑応答も活発に行われたようである。


 関西電力でも同様に質疑応答がなされ、株主提案が出された。


 古い話だが、水俣病が問題になったころ、一株運動が行われ、被害者らが株主となってチッソの株主総会に出席しようとしたことがあった。


 ところが、会社側が入場を制限し、入場できた株主の質問はヤジでかき消され、大混乱の中、5分程度で閉会したことがあった。


 そのころに比べると様変わりである。


 総会の内容についてはいろいろな意見があるだろうが、質疑応答もきちんとなされ、大きな混乱もなかったようで、総会運営としてはよかったのではないかと思う。



2012年06月26日(火) 弁護士選任手続きを忘れ、被疑者を釈放

 日経(H24.6.26)夕刊で、長野県警諏訪署の留置担当官が窃盗未遂容疑などで逮捕、勾留されていた男性の弁護人選任手続きを忘れ、伊那区検は、被疑者の防御権を侵害する恐れがあるとして釈放したという記事が載っていた。


 釈放は当然であろう。


 ただ、留置担当者だけが問題になっているようであるが、司法警察員(捜査担当警察官)、検察官、裁判官は、それぞれ被疑者に国選弁護人の選任を請求することができることを教示しなければならないとされている。


 まさかとは思うが、その手続きが適正になされたのか気になる。



2012年06月25日(月) インプラントのトラブル

 日経(H24.6.25)社会面で、あごの骨に人工歯根を埋めて人工歯を付けるインプラントを実施している歯科医の4人に1人は、治療した患者に神経まひなどの重い症状が起きた経験のあるという記事が載っていた。

 
 インプラントによるトラブルの相談はときどき受ける。


 ただ、よく聞くとインプラント自体の問題ではなく、施術が未熟であることが原因と思われた。


 自分自身がインプラントをしているせいもあるが、インプラントという技術自体はまったく問題ないと思っている。


 問題は、大学などでインプラントの教育が不十分なことであり、その点を改善しないとトラブルは減らないのではないだろうか。



2012年06月22日(金) 口頭でも契約は成立するけれど

 日経(H24.6.22)社会面で、NHKが、辻村深月さんの小説「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」のドラマ化契約を不当に破棄されたとして、著作権を管理する講談社に約5900万円の損害賠償を求める訴訟を提起したという記事が載っていた。


 NHKの言い分は、講談社から口頭でドラマ化の許諾を受け、脚本執筆などを進めていたが、今年2月の撮影直前に契約を白紙撤回されたということである。


 契約は口頭でも成立するというのは間違いではない。


 ただ、契約の内容が特定していないと、それは「契約」とは言えない。


 そして、口頭では、いかなる内容の契約であったかを立証するのが難しいのである。


 そのため、口頭での契約の成立を主張する場合には、多大な労力が必要であり、それでも契約成立が認められないことが多い。


 やはり契約書は交わした方がいいのだが。



2012年06月21日(木) ネットへの書き込みはどこまで許されるか

 日経(H24.6.21)夕刊で、「ネットの書き込み どこからアウト?」 という記事が載っていた(但し、全文は電子版で掲載)。


 ネットの書き込みがどこまで許されるかは、新しい問題ではなく、ネットが普及した当初から問題になっていた。


 ただ、ツィッターなどの利用者が増え、またスマホの普及により気軽に書き込める環境が整ったことから、より多くの問題が生じてきているといえる。


 会社としては、ネットの安易な書き込みは止めて欲しいところであろう。


 それゆえ、一般的な禁止事項(「会社の信用を損ねる書き込み」など)を規定した上で、書き込みで許されない内容を具体的に例示しておくことが必要である。


 過度の規制は労働者の権利を制限するという批判もあるが、従業員の軽率な書き込みにより、会社が大きな損害を受けている事例が増えている現状を考えると、一定程度の制限はやむを得ないだろうと思う。


 他方、従業員へのアドバイスとしては、匿名だと思って安心しないことである。2ちゃんねるへの書き込みであっても、発信元が特定されることはかなり多いからである。



2012年06月20日(水) 何でも名誉棄損で訴えることが妥当なのだろうか

 日経(H24.6.20)夕刊で、21日発売の週刊文春で、「巨人の原監督が元暴力団員に1億円を支払った」と報じることが分かり、巨人は、名誉を毀損するとして、損害賠償を求める訴訟を起こす方針を明らかにしたと報じていた。


 巨人の主張によれば、記事には「2人のうち1人が以前に暴力団と関係していた」とあるが、警察は反社会的勢力の認定をしていないから、この点が名誉棄損になるということらしい。
 

 しかし、原監督が男性2人から1億円を要求され、支払ったことは原監督自身も認めている。


 そうすると記事の大筋では真実ということになるように思われる。


 読売グループは何でも訴訟にする体質であるが、それは妥当なのだろうか。



2012年06月19日(火) AIJ社長 逮捕へ

 日経(H24.6.19)1面で、AIJ投資顧問による年金消失問題で、警視庁は、浅川社長ら計4人を詐欺などの疑いで逮捕する方針を固めたと報じていた。


 発覚してから4か月くらいが経過しているので、逮捕が遅いと思われがちであるが、これだけの大型詐欺事件で事案が複雑であることを考えると、早い方だと思う。


 浅川社長は衆参両院の証人喚問などで、虚偽の運用実績で勧誘してきたことを認めつつ、「だますつもりはなかった」として詐欺の犯意を否定していた。


 しかし、運用実績が巨額のマイナスでありながら、虚偽の運用実績を示して勧誘している以上、詐欺を否認することは無理であろう。



2012年06月18日(月) いずれ司法取引が導入されるかもしれない

 日経(H24.6.18)法務面で、独占禁止法で禁じられている「価格カルテル」の摘発についての解説記事が載っていた。


 その中で、アメリカの「アムネスティ・プラス」という規定が摘発に効果を上げていると書いていた。


 「アムネスティ・プラス」とは、ある事件で申告順位が2位以降の企業には罰金が科されるが、別の製品のカルテルを司法省に申し出ると、最初の事件で罰金の減額を認めるという制度である。


 何だか密告を競わせているようで、日本の企業文化にはなじまない気もする。


 しかし、現在の制度でも、公取委の立入り検査後は、新しい情報を提供しないと課徴金の減免はされないから、密告を競わせているという意味では、すでに似たような制度があるといえる。


 このような密告を競わせるという発想は、司法取引につながるものであり、いずれ日本でも司法取引制度が導入されるかも知れない。



2012年06月15日(金) ベアリングの価格カルテル事件で起訴

 日経(H24.6.15)社会面で、ベアリングの販売を巡る価格カルテル事件で、東京地検は、独占禁止法違反で日本精工、NTN、不二越の3社を起訴、当時の担当幹部7人を在宅起訴したという記事が載っていた。


 事前に不正を申告したジェイテクトは告発が見送られた。


 最初に申告しなければ結局は大きな不利益を受けることは企業側も分かってきている。


 それゆえ、顧問弁護士は事実を認めて最初に申告すべきという立場であろう。


 ところが、実際に公取委の調査が入った場合、社員を守ろうという意識が働くのか、自ら不正を申告するかどうか迷うようである。


 しかし、不正を申告しなければ結局は社員も起訴されて、守ることができなくなるわけで、企業の対応も次第に変わってくるのだろう。



2012年06月13日(水) 仙石氏に「セクハラと受け取られかねない言動があった」との判決

 日経(H24.6.13)社会面で、セクハラ行為をしたとの報道で名誉を傷つけられたとして、民主党の仙谷政調会長代行が文芸春秋と新潮社に損害賠償などを求めた訴訟で、東京地裁は、仙谷氏側の請求を棄却したという記事が載っていた


 裁判所は、「セクハラと受け取られかねない言動があった」とし、記事の重要部分は真実と判断したとのことである。


 そもそも、政治家がすぐに出版社を名誉棄損で訴えるのは疑問である。表現の自由が委縮してしまうからである。


 ましてや仙石氏は弁護士である。


 おまけに、記事は全くのでっちあげではなく、「セクハラと受け取られかねない言動があった」と認定されたのであるから、仙石氏側はとんだ恥を掻いたことになる。



2012年06月12日(火) 脱法ハーブと危険運転致死傷罪

 日経(H24.6.12)社会面に、京都市で軽乗用車に追突し3人に軽傷を負わせたとして、自動車運転過失傷害の疑いで逮捕された男が「運転前に(脱法)ハーブを吸った」と供述しているという記事が載っていた。


 警察では、危険運転致傷罪の適用も視野に捜査するとのことである。


 ただ、危険運転致傷罪は、アルコールまたは薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させたことが必要である。


 ところが脱法ハーブの場合、その種類が多様なだけに、どのような作用があり、その影響(とくに運転に対する影響)がどのようなものかが十分に解明されていないように思われる。


 それゆえ危険運転致傷罪の適用には相当の困難が伴うだろう。


 ただ、脱法ハーブの弊害が問題になっているだけに、危険運転致傷罪の適用の方向で捜査を進めて欲しいと思う。(罪刑法定主義に反しないことはもちろんであるが)



2012年06月11日(月) 「法的チェック」とは何か

 今日は休刊日なので昨日の日経(H24.6.11)であるが、7面で、スカイマークが搭乗客に、「苦情は受けつけません」「収納の手伝いはしません」「機内での苦情は公共機関に訴えてください」と記した文書を配った問題について、スカイマーク社長のインタビュー記事が載っていた。


 配布した文書の趣旨は『ヘビークレーマー』対策であったとのことであるが、インタビューの中で「法的なチェックはすませ、周到に準備した。」と言い訳していた。


 しかし、この社長は、「法的チェック」とは何かを十分理解していないように思われる。


 私は、「法的チェック」とは、それが違法かどうかをチェックするだけではないと考えている。


 もちろん、違法かどうかの確認は当然であるが、それだけでなく、その表現をした場合の影響などもイメージし、アドバイスしている。


 ところが、この社長が悪いのか法務担当が悪いのか分からないが、この会社は、配布文書の違法性だけをチェックしたようである。


 その結果、あちこちから叩かれてイメージダウンしてしまったのである。



2012年06月07日(木) 東電女性社員殺害事件で、東京高裁は再審開始決定

 日経(H24.6.7)夕刊で、東電女性社員殺害事件で無期懲役が確定したマイナリ受刑者について、東京高裁は再審開始を決定したと報じていた。


 再審開始決定となった大きな理由は、新たに行われたDNA鑑定で、被害者の体内に残留した体液や現場に落ちていた体毛がマイナリ受刑者以外の第三者のものであると認定されたからである。

 つまり第三者の犯行の可能性が出てきたわけである。


 問題は、DNA鑑定の対象となった証拠は、それまで検察側が存在さえも明らかにしていなかった現場の遺留物だったことである。


 検察側があくまでも証拠を秘匿していれば、再審開始決定はなかったわけである。

 
 現在、公判前整理手続きの規定ができたことにより、検察庁は証拠開示にあまり抵抗を示さなくなってきている。


 それでも、基本的には証拠開示についての検察庁の姿勢は消極的であり真実発見の見地からは、この点のより一層の改善が望まれる。



2012年06月06日(水) 遺言書作成すれば万全というわけではない

 日経(H24.6.6)21面に、「全員遺言時代 間近に 」「財産少なくても『争族』の恐れ 年代問わず準備を」という見出しで、遺言書作成を勧める記事が載っていた。


 この種の記事はときどき掲載されるが、遺言書を作成すればすべて安心みたいな書き方をしている点が気になる。


 もちろん、遺言書を作成した方がよいことは間違いない。


 とくに、子どもがいない夫婦の場合には遺言書の作成を勧める。


 例えば夫が亡くなった場合、夫名義の遺産のうち妻が相続できるのは4分の3だけで、4分の1は夫の兄弟が相続する。(夫の両親が亡くなっている場合)


 夫の兄弟が素直に相続放棄してくれればいいが、意外と権利を主張することが多い。


 そこで、遺言書で「すべて妻に相続させる」と遺言しておけば、兄弟に遺留分がないので、その遺言どおりになる。


 しかし、子どもがいる場合には、遺言書を作成したからといって紛争がすべて予防できるわけではない。


 子どもには遺留分があるからである。


 また別のケースでは、長女に不動産、次女に現金を相続させる遺言をし、不動産の価値からして、長女の相続分がやや多くなるようにしていた。


 ところが、不動産の価値が下落してしまい、亡くなったころには、長女の相続分がかなり目減りしていたケースがあった。


 そのケースでは、長女は不満たらたらであった。


 要するに、遺言書を作成することは望ましいが、作成しておけば万全というわけではないということである。



2012年06月05日(火) 弁護士法違反で司法書士らを逮捕

 日経(H24.6.5)夕刊で、弁護士資格がないのに消費者金融への過払い金返還請求を繰り返したとして、司法書士ら8人を弁護士法違反容疑などで逮捕したと報じていた。


 記事では、「司法書士法では、140万円以下の過払い返還請求を代行することが認めているが、140万円を超える返還請求は弁護士資格が必要である。」と書いていた。


 しかし、返還請求額が140万円を超えていても、実際の和解額が140万円以下であれば、司法書士法、弁護士法違反にならないという解釈もあり得る。


 この辺はグレーゾーンであり、職域確保の思惑が絡んで、複雑な問題である。



2012年06月04日(月) オウム真理教の菊地容疑者と同居の男性を逮捕

 日経(H24.6.4)夕刊で、オウム真理教元幹部の菊地直子容疑者を匿った容疑で、菊地容疑者と同居していた男性を犯人蔵匿容疑で逮捕したと報じていた。


 2人は結婚していなかったようであり、報道では、男性がプロポーズしたが、菊池容疑者が、自分の身分を明かして断ったそうである。


 刑法には、犯人蔵匿罪について、犯人が親族であり、その犯人の利益のために匿った場合には刑を免除することができるという規定がある。


 結婚していても刑が免除されることはないにしても、量刑において十分考慮されることにはなっただろう。



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