今日の日経を題材に法律問題をコメント

2012年07月31日(火) 「社会内で被告の受け皿が用意されていない」のは被告のせいなのか

 日経(H24.7.31)社会面で、大阪市で、約30年間引きこもり状態だった被告が、被告を自立させようとした姉を逆恨みして刺殺した事件の裁判員裁判の判決で、大阪地裁は、求刑の懲役16年を上回る、懲役20年を言い渡したという記事が載っていた。


 その判決理由の中で、「アスペルガー症候群が動機の形成に影響した」「社会内で被告の受け皿が何ら用意されていない。許される限り長期間刑務所に収容することが、社会秩序の維持にも資する」と述べて、有期懲役刑の上限を選択したとのことである。

 
 これは本当だろうか。記者が適当に要約した結果、趣旨が違った表現になったのかもしれない。


 ただ、その要約が正しいとすると、ひどい判決である。


 「社会内で被告の受け皿が用意されていない」のは被告のせいなのだろうか。


 まるで、障害者は刑務所に入れておけと言わんばかりであり、極めて問題である判決である。



2012年07月30日(月) パチンコホール会社が香港に上場

 日経(H24.7.30)15面で、パチンコホール運営大手のダイナムジャパンホールディングスが、香港証券取引所に上場するという記事が載っていた。


 その記事の中で、香港上場にあたり、パチンコの景品換金の仕組みの適法性について、日本の弁護士が「違法性はない」とする意見書を提出し、法務関係者に驚きが広がっているとしていた。


 「驚きが広がっている」のは、「『違法性がない』とよく言い切ったなあ」と思うからであろう。


 パチンコの適法性については、賭博罪や風営法の関係など難しい問題を含んでいる。

 
 しかし、社会に完全に根付き、受け入れられているのも事実である。


 そうであれば、特別法を作って適法であることを明らかにしたほうがよいと思うのだが。



2012年07月26日(木) 強姦罪が親告罪でなくなる

 日経(H24.7.26)社会面で、内閣府の男女共同参画会議専門調査会は、強姦罪を被害者の告訴がなくても起訴できる「非親告罪」にするよう提案したという記事が載っていた。

 
 今後、法務省の法制審議会で、法改正に向けた検討を始めることになるそうである。


 現在は、強姦罪は被害者が告訴しなければ起訴できない。その理由として、被害者の名誉やプライバシーを保護するためと言われている。


 しかし、実際問題としては、捜査機関は、被害者が被害届を出さない限り、被害者の意思を尊重して捜査をしないだろう。


 そうすると、親告罪としている合理的理由はあまりないように思う。


 むしろ、親告罪であるため、告訴状がないということが刑事訴訟でときどき問題になる。


 例えば、強姦致傷で起訴されたが、強姦だけを認定する場合には、本来であれば告訴状が必要となるが、強姦致傷罪が非親告罪なので、告訴状を取っていないときがある。


 そのような無用な混乱を回避するためにも、親告罪でない方がよいのではないか。



2012年07月25日(水) 相続では税金のことだけでなく、トータルに考えるべき

 日経(H24.7.25)19面で、夫婦の一方が亡くなる「1次相続」が注目されがちだが、税額軽減やトラブル回避の正念場は、残された配偶者が亡くなり、遺産が子供に移る「2次相続」であるという記事が載っていた。
  
 
 記事でも同じことを書いていたが、1次相続の際に、配偶者の減税特例を使うのが常識のようになっているが、それが絶対なのかは常々疑問に思っていた。


 1次相続の際に、ある程度子どもにも相続させた方が、1次相続と2次相続の税金の合計額が安くなる場合もある。


 この点は、税金のシミュレーションをすれば分かることであるのに、1次相続の税額をできるだけ少なくさせるために、その配慮を怠っているケースもあるように思う。


 それだけでなく、2次相続において生じる可能性のある紛争を事前に回避するために、1次相続である程度子どもに相続させた方がよい場合もある。


 要するに、相続では、税金の問題だけに関心が行きがちであるが、紛争の事前回避の視点など、もう少しトータルに考えるべきであろう。



2012年07月24日(火) 刑の公平性は、死刑でも懲役刑でも同じではないか

 日経(H24.7.24)社会面で、最高裁司法研修所が、裁判員裁判での量刑判断の在り方についての研究報告書をまとめたという記事が載っていた。


 それによれば、死刑判断にあたっては、公平性などの観点から「先例を尊重すべき」、他方、懲役刑については刑の幅が従来より大きくなることを容認すべきと提言しているようである。


 確かに、通常であれば無期懲役になるところ、死刑になったのではたまらないから、死刑判断に公平性が求められるのは当然であろう。


 しかし、それは懲役刑でもいえるのではないか。


 もちろん、刑期の幅というのはある。


 しかし、裁判員裁判だからといってその幅が広くなり、刑期が重くなるのは、被告人の立場からすると納得できないのではないだろうか。



2012年07月23日(月) 同種前科の証拠採用について最高裁が弁論を開く

 昨日の日経(H24.7.22)社会面で、裁判員裁判で初めて差し戻し判決が出された窃盗、放火事件の上告審弁論が最高裁であったという記事が載っていた。


 この事件では窃盗現場に灯油をまいて火が付けられていたのであるが、被告人には同種の前科があった。


 そこで、このような同種の前科を証拠として採用できるかが問題となった。


 一審・東京地裁は、前科に関する検察側の証拠請求を「裁判員に不当な偏見を与える」として却下して、放火を否定し、懲役1年6月(求刑懲役7年)とした。


 しかし、東京高裁は、一審判決について「放火罪の前科に関する証拠を取り調べていない訴訟手続きの違法がある」とした。


 ところが、最高裁が弁論を開いたことから、二審の判断を見直す可能性がある。


 裁判官のこれまでの多数派は、東京高裁の裁判官の方であろう。


 裁判官は、予断を生じさせる証拠を排除することよりも、できるだけ証拠を見て判断しようとする傾向が強い。


 それだけ真実発見の意欲が強いのだろうし、また事実認定の自信もあるのだろう。


 それだけに、今回の事件で、最高裁が東京高裁の判断を見直しすることは、裁判官の価値判断や思考方法の変更を迫ることになるから、この事件だけでなく、今後の影響も大きいと思う。



2012年07月20日(金) 携帯電話の割引プランの解約金 京都地裁は一部無効と判断

 日経(H24.7.20)社会面で、携帯電話の2年単位契約の割引プランを途中でやめた場合に解約金を課すことについて、京都地裁は、一部条項を無効としたと報じていた。


 裁判所は、2年間のうち最後の2カ月間に解約した利用者の解約金は「解約に伴ってKDDIに生じる損害を上回る額で、消費者の利益を一方的に害し無効である」と判断した。


 逆にいえば、最後の2カ月以外の途中解約金は有効としたわけであるから、痛み分けという感じである。


 NTTドコモも同種訴訟を起こされているが、こちらは、京都地裁の別の裁判長は消費者側の請求を棄却している。


 解約できるのは2年間のうち1か月間だけであるから、消費者にとっては使い勝手が悪いと思う。
 

 しかしその反面、割引によるメリットを受けている。


 また、解約できる期間を制限し利用者を囲い込もうとすること自体が違法とは言えないだろう。


 なかなか難しい問題だが、高裁では途中解約金を取ることは有効とされるのではないだろうか。



2012年07月19日(木) 再犯者を20%減らす目標

 日経(H24.7.19)夕刊で、政府が、刑務所から出所して2年以内に再び入所する再犯者の割合を今後10年間で20%以上減らす目標を立てたという記事が載っていた。 

 
 住居や仕事がない場合に再犯率が高い。そこで、定住先がない出所者らを一時的に受け入れる更生保護施設の強化や、住居を借りる際の手続きを支援し、また、出所者の就労先の確保策を検討するそうである。


 このような政策は犯罪者を優遇するように見えて、あまり理解されない。


 しかし、検挙者の約4割が再犯者であり再犯率は高いから、この数を減らすことは犯罪の減少に直接的につながる。


 そもそも犯罪というのは、それ自体、個人や社会に大変な被害を与えるものであるし、それだけでなく、捜査、裁判、刑務所の各段階ほ経て大変な費用がかかっている。


 そのため、再犯防止のために多少の経費をかけたとしても、犯罪の発生が減れば十分元が取れる計算になる。


 したがって、政府はある程度の予算を付けて再犯率を下げる努力をして欲しい。



2012年07月18日(水) 黒塗りしても読み取れる

日経でなく、朝日(H24.7.18)で、大津市の中学2年の男子生徒自殺した問題を報じたテレビ番組で裁判資料を放映した際、黒塗りにした加害者の名前などが読めたことが問題になったことの記事が載っていた。


 記事によれば、新聞記事のコピーの一部をペンで黒塗りしてデジタルカメラで撮影、パソコンに取り込んだ後、画像編集ソフトで明るさやコントラストを調整すると、元の文字が浮かび上がったそうである。


 われわれも、ときどき裁判で一部を黒塗りした書面を提出することがある。


 ところが、黒塗りしても文字が判明するのであれば問題である。


 これまでも黒塗りして一度コピーしたものを提出するようにしていたが、それでも十分でないようである。


 今後は、付箋紙を貼ってコピーするなどの工夫をしないと、弁護過誤になりかねない。



2012年07月17日(火) DVDコピー制限を解除ソフトを販売した出版社役員を逮捕

 日経(H24.7.17)夕刊で、DVDのコピー制限を解除するソフトを販売したとして、警視庁は、出版社「三才ブックス」役員ら4人を不正競争防止法違反容疑で逮捕したという記事が載っていた。


 これは不正競争防止法が昨年改正され、コピーガードを解除するソフトを販売した場合、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、又はこれの併科が科されることになったためである。


 さらに、法人も最高3億円の罰金を科される可能性があるから、かなり重い刑罰である。

 
 前記記事の出版社にとっては大きな痛手となるであろう。


 逆にいえば、改正不正競争防止法は、デジタルコンテンツ提供業者らにとっては大きな武器となると思われる。



2012年07月13日(金) 「脱法ハーブ」には包括規制が必要ではないか

 日経(H24.7.13)夕刊で、NHK福岡放送局と宮崎放送局の職員2人が、「脱法ハーブ」を吸い、意識がもうろうとして病院に搬送されていたという記事が載っていた。


 NHKは「法に触れる行為ではないが、事実関係を確認したうえで適切に対処したい」としているそうである。

 
 しかし、脱法ハーブから麻薬成分が検出されることもあるから、安易に「法に触れる行為ではない」とは言えないだろう。


 しかも、脱法ハーブ4種が「麻薬」指定され、8月3日から施行されるから、それ以降は所持も違法になる。


 それゆえ、公益性のあるNHKが安易に「法に触れる行為ではない」とは言わない方がよいだろう。


 いずれにせよ、脱法ハーブについては包括的な規制が必要ではないかと思う。



2012年07月12日(木) アドレスの紹介が「公然陳列」?

 日経(H24.7.12)社会面で、児童ポルノが掲載されたインターネット掲示板のアドレスをホームページで紹介することが児童買春・ポルノ禁止法違反(公然陳列)罪に当たるが争われた事件で、最高裁は、有罪とした一、二審判決を支持し、被告側の上告を棄却する決定をしたと報じていた。


 しかし、裁判官5人中2人は「公然陳列と解することは罪刑法定主義をあまりにも踏み外している。」との反対意見を付けた。


 この法律は、児童ポルノを不特定多数の者に公然と陳列した者を処罰の対象としている。


 しかし、児童ポルノ掲載のアドレスを書いたことを「公然と陳列した」というのは、日本語の意味からあまりに外れているのではないか。


 少数意見の方が常識的な判断ではないかと思うのだが。



2012年07月11日(水) 「身長を伸ばす」?

 日経(H24.7.11)社会面で、合理的な根拠もなく「身長を伸ばす」などと広告したとして、消費者庁は、景品表示法に基づき、整体業「コジマ身長伸ばしセンター」に措置命令を出したと報じていた。


 ネット上で「効果的な身長伸ばしを実現」などと表示していたが、その根拠がなかったためである。


 措置命令に違反した場合には2年以下の懲役又は300万円以下の罰金(法人は3億円以下の罰金)となるが、直ちに処罰されるわけではない。


 ところが、「コジマ身長伸ばしセンター」は数年前にも景表法に基づき排除命令が出されている(当時は公取委の管轄であり、「措置命令」でなく、「排除命令」と呼ばれていた。)。


 そのような過去があるのに、措置命令程度でいいのだろうか。



2012年07月10日(火) 被害届に受理義務はあるのか

 日経(H24.7.10)社会面で、大津市の公立中2年の男子生徒が自殺した問題を報じていた。


 この事件では、大津警察署が、自殺した少年の父親の被害届を3度も受理しなかったことが問題になった。


 その対応は批判されるべきとしても、被害届について、警察に法的な受理義務があるのだろうか。


 犯罪捜査規範には「警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、これを受理しなければならない。」と明確に定めているから、受理義務があるように読める。


 しかし、犯罪捜査規範は、警察官が犯罪の捜査を行うに当って守るべき心構え、捜査の方法、手続等を定めるもので、いわば会社の服務規律のようなものである。


 それゆえ、被害届の受理を義務付けてはいても、その定めに法的拘束力はないと考えられる。



2012年07月09日(月) 外国人登録制度を廃止

 日経(H24.7.9)夕刊で、外国人登録制度が廃止され、正規滞在者だけを住民登録する新たな在留管理制度が始まったという記事が載っていた。


 法改正により、外国人住民にも住民票が作成されることになり、また、適法な滞在者については、再入国が1年以内なら許可は不要となるなど利便性はよくなる。


 他方、これまでは不法滞在者にも外国人登録証が交付されていたが、それがなくなるから、不法滞在者には厳しい改正となるが、それは仕方ないだろう。



2012年07月06日(金) 飲酒運転の同乗者に懲役1年10月、執行猶予4年の判決

 日経(H24.7.6)社会面で、長野市で少女2人が飲酒運転の車にひき逃げされた事件で、同乗者の男性に対し、長野地裁は、懲役1年10月、執行猶予4年の判決を言い渡したという記事が載っていた。


 男性は、「言葉では運転を依頼していない」と主張したようであるが、裁判所は「暗黙の依頼」があったと認定した。


 当然の事実認定であろう。


 結局、飲酒している運転手の車に同乗すると、事故いかんによっては同乗者も非常に重い責任を負うことになるということである。



2012年07月05日(木) 不正指令電磁的記録作成罪の摘発続く

 日経(H24.7.5)社会面で、パソコンを強制終了させるウイルスを作成したとして、京都府警は、中学2年の男子生徒を不正指令電磁的記録作成の非行事実で補導したと報じていた。


 最近、不正指令電磁的記録作成罪の摘発が続いている。


 この犯罪は昨年新設されたもので、ウイルス作成罪と呼ばれることがある。


 しかし、その構成要件は、不正な目的で、ユーザの意図に反する動作をさせるプログラムを作成したこと等となっているので、一般にいう「ウイルス」よりもかなり広い概念である。


 それだけに、今後も不正指令電磁的記録作成罪の摘発は続くと思われる。



2012年07月04日(水) 音楽各社が音楽配信のコピー制限を撤廃

日経(H24.7.4)1面トップで、音楽各社が、音楽配信した楽曲のコピー制限を撤廃すると報じていた。


 これまではダウンロードした楽曲を他社の音楽機器に転送して聞くことができないなどの制限があったので、ユーザーにとってはありがたい措置だろう。


 制限を撤廃したきっかけは、著作権法改正により違法ダウンロードに刑事罰を科すことができるようになったため、とのことである。


 違法ダウンロードに刑事罰を科すことには批判も強い。


 しかし、こういったコピー制限撤廃の動きをみると、この法改正は著作権者の保護と利用者の便益を調整するものと評価できるのではないだろうか。



2012年07月03日(火) 離党届を回収していない以上、離党意思が認定される

 日経(H24.7.3)4面で、民主党の階猛、辻恵両衆院議員がいったんは小沢一郎元代表に離党届を預けながらも離党しなかった事情について書いていた。


 階議員らは、執行部に提出する際には「事前に協議をしてほしい」と伝えていたのに、勝手に離党届を提出されたと不満を述べているそうである。


 しかし、当時マスコミで離党報道が散々なされていた。


 それなのに離党届を回収していないのだから、裁判の事実認定であれば、離党する意思であったとされてしまうだろう。


 政治のことだから、あまり法律的な話をしても仕方ないが、階猛議員も辻恵議員も弁護士出身だけに、言っていることがなさけない感じがする。



2012年07月02日(月) 株主提案権の行使が増加

 日経(H24.5.2)夕刊で、上場企業の株主が株主提案権を行使する事例が増えているという記事が載っていた。


 ただ、記事では「海外と異なり、日本では提案の数も内容も特段の制約はない。」「企業統治を向上させるために提案権のあり方を改めて考えることも必要。」とするなど、株主提案権にやや消極的なトーンであった。


 しかし、株主提案権を行使する事例が増えているといっても、上場企業のうち30件程度に過ぎない。


 上場企業は3700社くらいあるから、微々たるものである。


 つまり、まだ株主提案権が成熟しているとはいえず、それを見直すのは早計ではないだろうか。


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