今日の日経を題材に法律問題をコメント

2012年05月31日(木) アメリカの大手法律事務所が破たん

 日経(H24.5.31)夕刊で、アメリカの大手法律事務所が金融危機の影響で破綻したことについて書いていた。


 M&Aでは膨大な作業が必要であり、それに対応するためにアメリカの法律事務所は大型化が進み、破たんした法律事務所でも2500人の弁護士がいたそうである。


 それが金融危機により収入が落ち込み、他方人件費を削減できなかったことが破綻の原因だったようである。


 日本の法律事務所でも、合併などで大規模化したが、経済は冷え込んでおり経営は大変という話を聞く。


 ただ、日本では法律事務所が破たんするということはないかもしれない。


 破たんする前にいくつかのクループに分かれて独立し、バラバラになると思われるからである。



2012年05月30日(水) 労働問題が増加している

 日経(H24.5.30)社会面で、裁判に持ち込まず解決する「個別労働紛争解決制度」に基づく2011年度の労働相談が、過去最多の約25万6千件に上ったという記事が載っていた。


 労働紛争は確実に増えていると思う。


 弁護士会では様々な問題の研修会が行われているが、労働問題の研修会は最近は満席になることが多い。


 それだけ弁護士も相談を受けることが多くなっているということだろう。


 記事では解雇、いじめの相談数が1位、2位となっていたが、弁護士に相談するケースでは解雇、残業代未払いの相談が多い気がする。


 小さな会社では労働者に訴えられてからあたふたするケースが多い。


 しかし、最近は労働者はネットで理論武装しているから、それでは絶対に対応できない。


 普段から適法な労務関係を築いておくことこそが重要である。



2012年05月29日(火) 明治学院大が法科大学院を閉校

 日経(H24.5.29)社会面で、明治学院大が、来年度から法科大学院の新入生募集を停止し、2016年度末をめどに閉校すると報じていた。


 明治学院大法科大学院は、開校当初1300人以上の志願者がいたが、今春の入学者は定員40人に対して5人しかいなかったそうである。


 弁護士が増えすぎて、法曹に対する魅力が薄れたことも原因なのだろう。


 いまの若い弁護士と話すと、いかに仕事を見つけるかの話題ばかりになる。


 それだけ仕事を確保することが大変なのだろうが、何となく寂しい思いがする。



2012年05月28日(月) 職務発明の対価

 日経(H24.5.28)夕刊で、政府は、職務発明の対価として企業が支払う額について、指針をつくる方針であるという記事が載っていた。


 企業にとって支払額が想定しやすくなり、訴訟で予想外に高額な支払いを迫られる事態を減らすためとのことである。


 ただ、「訴訟で予想外に高額な支払いを迫られる」ということは減っているように思う。


 職務発明の対価は、発明の内容によって本来は異なるはずであるが、訴訟において何となく基準というのができてきている気がする。


 判例を精査したわけではないが、発明の寄与率についていえば、5%を超えることはほとんどないのではないだろうか。



2012年05月25日(金) なぜ個人の問題に会社が前面に出てくるのだろうか?

 日経でなく朝日(H24.5.25)社会面で、お笑いコンビ「次長課長」の河本準一氏の母親が生活保護を受給していた問題を取り上げていた。


 この問題の河本氏の責任はともかく、不思議に思うのは「よしもとクリエイティブ・エージェンシー」の立場である。


 生活保護不正受給の問題であるから、よしもととは関係ないはずである。


 もちろん、会社が従業員を守ることは不思議でないが、その場合には、相談に乗ったり、顧問弁護士を代理人につけて、その費用は会社で負担する形で支援をすることが多いだろう。


 完全に個人の問題であるのに、よしもとが全面的に出てきていることに、何となく違和感がある。



2012年05月24日(木) 「死刑囚は損失を受ける恐れがない」?

 日経(H24.5.24)社会面で、光市母子殺害事件での死刑囚を実名で表記した本に対し、死刑囚らが著者や出版社に出版差し止めと損害賠償を求めた訴訟で、広島地裁は、差し止め請求を退けたという記事が載っていた。


 差し止め請求を退けた理由として、「死刑が確定しており、原告が重大な損失を受ける恐れはない」としていた。


 「死刑が確定したから損失を受ける恐れがない」というのは、死刑囚にはもはや人権がないみたいで、あまりにひどい言い方である。


 しかし、本当に判決文はそうなっているのだろうか。


 適当に要約した結果、そのようにニュアンスの異なる記事になったのではないかという気がする。



2012年05月22日(火) 中国人船長の強制起訴について公訴棄却が確定

 日経(H24.5.22)夕刊で、尖閣諸島付近で中国漁船を衝突させ公務執行妨害などの罪で中国人船長が強制起訴された事件で、起訴状が送達できず公訴棄却となったが、それに対して検察官役の指定弁護士が即時抗告せず、公訴棄却が確定したという記事が載っていた。


 起訴状が送達できないことは十分予想できた。


 ただ、刑事訴訟法には「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる」とはあるが、「起訴状が送達できないことが明らかな場合に起訴しないことができる」とは規定されていない。


 つまり、起訴状が送達できないことが予想できたとしても、それを理由にして起訴猶予とすることは難しかったという事情はある。


 そうは言っても、小沢元民主党代表の裁判など強制起訴された2件の事件がいずれも無罪となり、今回の強制起訴が公訴棄却となると、強制起訴の意義が疑問視されかねないと思う。



2012年05月21日(月) 大口顧客との電力料金の値上げは独禁法違反?

 日経(H24.5.21)15面で、東京電力が企業など大口顧客の電気料金を4月から引き上げ始めたことについて、独占禁止法上の問題を指摘する声が出ているとの記事が載っていた。


 大口顧客について電力契約が自由化されたといっても、事実上は東京電力が独占している状態であり、東京電力に優位的地位があることは間違いない。


 しかし、原子力発電が停止したこと、それでも原子力発電所の維持費はかかること、原子力発電の代替として火力発電の燃料費が増えていること、原発事故の損害賠償の負担があることなどを考えると、東電が大口顧客に対して提示している新電気料金が不当とまではいえないと思う。


 ただ、それは法律を厳密に適用した場合の話である。


 東電が事実上独占していることに対する問題提起として、独占禁止法上の問題点を指摘すること自体は非常に意義あることだと思う。



2012年05月18日(金) 2ちゃんねるはきちんと管理されているようである

 日経(H24.5.19)社会面、2ちゃんねるで覚醒剤の購入を持ちかける書き込みが放置された事件で、警視庁は、掲示板の運営権が移されたとされるシンガポールの捜査当局に捜査共助を要請したという記事が載っていた。


 海外での掲示板管理の実態解明を進め、管理者側の刑事責任を問えるかどうか検討するとのことである。


 2ちゃんねるの管理実態はよく分からないが、管理を放棄しているわけではなさそうである。


 2ちゃんねるに書き込まれて名誉が棄損された場合、書き込んだ相手を訴えるためには、まず、2ちゃんねるに対し、書き込んだ相手のIPアドレス開示の仮処分申し立てをするのが一般的である。


 裁判所が開示を命ずれば、2ちゃんねるからとくに返事はないのであるが、2ちゃんねるの掲示板にIPアドレスが開示される。


 このような事実から考えると、2ちゃんねるはきちんと管理されているようである。


(その後の流れは次のようになる。
 IPアドレスからプロバイダーが分かるので、プロバイダー責任制限法に基づき、プロバイダーに対し、当該アドレスの氏名、住所の開示を求める。そのため、自宅から人の名誉を侵害する内容を書き込んだ場合、手間はかかるが氏名、住所は分かってしまう。)



2012年05月17日(木) 金髪を理由に解雇は難しい

 日経(H24.5.17)社会面で、大阪市が、職員倫理規則に入れ墨禁止の規定を新たに設けると報じていた。


 顧問会社から入れ墨に相談を受けたことはないが、「金髪(茶髪ではない)の従業員を辞めさせたい」と相談を受けたことはある。


 金髪が許されるかどうかは職種によって違うので、一般化はできないが、基本的には金髪を理由に解雇まではできないだろう。


 どうしても金髪が認められない場合には、職務規定で髪の色まで詳細に定めておき、それに違反しても最初は軽い処分にして、それを積み重ねていくというのが穏当であろう。


 それでも、茶髪程度だと、今のご時世では処分はほとんど無理だろう。


 ファッションに対する社会通念は変わっていくので、会社にとって従業員の髪の色や服装は悩ましい問題である。



2012年05月16日(水) 「刑事裁判ではこうすべき」とあっても、鵜呑みにしないことにしている

 日経(H24.5.16)社会面で、ロッキード事件で一審裁判長を務めた半谷元東京高裁部総括判事が殺害された事件で、東京地検は、殺人容疑で逮捕された妻を、心神喪失状態で刑事責任を問えないとして釈放したという記事が載っていた。


 この裁判官は、私が初めて東京高裁の控訴審で弁護人になったときの裁判長であった。


 私は、初めての控訴審ということで、弁護士会が出した刑事弁護マニュアルを熟読して裁判に臨んだ。


 そのマニュアルには、「控訴趣意書はすべて朗読すべし」「被告人質問は必ずすべし」とあった。


 それで、控訴審の法廷で「控訴趣意書を朗読したい」と述べたところ、半谷裁判長は、それをあっさり認めた(その後、控訴趣意書を朗読したことはないから、かなり珍しいことだったと思う。)。


 次に、被告人質問したいと請求したら、法廷の時間が決まっているためだったと思うが、「控訴趣意書の朗読を認めたのに、被告人質問までするのですか」と言われて断られてしまった。


 今から思えば、時間の制限がある以上、控訴趣意書の朗読は要求せず、被告人質問だけ請求すればよかったのであるが。


 このこと以来、弁護士会が出している本に「刑事裁判ではこうすべき」と書いてあっても、それを鵜呑みにしないようにしている。


 冒頭の記事を読んで、そんなことを思い出した。
 

 半谷裁判官のご冥福をお祈りします。



2012年05月15日(火) 前田元検事が静岡刑務所を満期で出所

 日経(H24.5.15)夕刊で、証拠を改ざんしたとして証拠隠滅罪に問われ、懲役1年6月の実刑判決を受けた大阪地検特捜部前田元検事が、静岡刑務所を満期で出所したと報じていた。


 最近は刑の執行率が上がっている(仮釈放期間が短くなっている)とはいえ、初犯で、受け入れ家族もありながら満期出所というのは珍しいのではないか。


 本人が仮釈放を望まなかったのだろうか。



2012年05月14日(月) 亀岡の死傷事故 危険運転致死傷罪の適用を断念

 日経でなく朝日ネットニュース(H24.5.14)で、亀岡市で小学生ら10人が軽乗用車にはねられ死傷した事故で、京都地検は、加害者の無職の少年に対し、危険運転致死傷罪の適用を断念し、自動車運転過失致死傷と道路交通法違反(無免許運転)の非行内容で京都家裁へ送致することとしたと報じていた。

 
 地検は、被害者家族での説明会でその理由を伝えたが、遺族らは反発し、説明会は一時中断したとのことである。


 しかし、危険運転致死傷罪は、飲酒や薬物の影響で正常な運転が困難、制御が困難な高速度、運転技能を持たない走行、信号無視などの要件が必要であり、この事件ではいずれも当てはまらない。


 いかに処罰の必要性が強くても、罪刑法定主義の見地からして、地検の判断はやむを得ない。


 ただ、この少年は、家裁送致後、逆送され、成人と同様の刑事裁判を受けることになると思われる。


 その場合、自動車運転過失致死傷と道路交通法違反(無免許運転)の併合罪だが、それぞれの罪で定めている刑の長期の合計を超えることはできないので、刑期は懲役または禁固8年以下の範囲で決められることになる。


 結果の重大性や無免許運転を繰り返していたことを考慮するなら、短い刑期にはならないだろう。



2012年05月11日(金) 自動車事故の刑事罰は重くなっている

 日経(H24.5.11)社会面で、三重県四日市市の踏切で、てんかんの発作で意識を失い踏切待ちをしていた3人が電車にはねられるなどして死傷させ、自動車運転過失致死傷罪に問われた事件で、名古屋高裁は禁錮2年10月とした一審津地裁判決を支持し、被告側の控訴を棄却したという記事が載っていた。


 自動車運転している際のミスは誰でもあり得ることである。また、任意保険に加入していれば、損害はほぼ全額賠償されることから、従来、刑期は比較的軽かった。


 記事の事件でも、従来の基準からすれば、禁固2年10月は重い。


 しかし、自動車運転過失致死傷罪が創設され、自動車事故での刑罰の上限が5年から7年に引き上げられた。


 これを契機に自動車事故による刑罰は確実に重くなっているようである。



2012年05月10日(木) 小沢元代表の裁判で指定弁護士が控訴

 日経(H24.5.10)1面で、小沢民主党元代表が政治資金規正法違反(虚偽記入)罪で強制起訴された事件で、検察官役の指定弁護士は、元代表を無罪とした東京地裁判決を不服として東京高裁に控訴したと報じていた。


 国民の目線で強制起訴となったのであるから、一審が無罪になったとしても、指定弁護士としては安易に控訴を断念することはできないであろう。


 その意味で控訴は当然である。


 ただ、一審判決は、グレーの印象を受ける判決であったが、推論ばかりであったから、控訴審ではより後退した判決(検察側から見て)となる可能性がある。


 いずれにしても、引き続き控訴審を担当する指定弁護士にとっては大変な負担であり、制度を変える必要があると思う。



2012年05月09日(水) コンプガチャの規制

 日経(H24.5.9)1面「春秋」欄で、コンプガチャについて、「ソーシャルゲーム関連の会社の株価は大きく下落した。消費者庁が違法と断ずれば死活問題なのだろう。せっかくの成長産業なのに、という反発も聞こえるが、ここらで理非をよく考えてみてもいい 」と書いていた。


 日経でも「理非をよく考えては」と書くぐらいで、世間ではコンプガチャは問題であるという意見が多いようである。


 ところが、この問題について消費者庁の対応は煮え切っていない。


 もともと、消費者庁はコンプガチャを違法とはみていなかったはずである。


 それが、高額課金に対する苦情が増えたため、最近になって違法との見解に改めるようなのである。


 ただ、「今後も消費者庁としては業者の自主的な是正を求め、その動きがなければ次のステップに進む」とのことであり、まったく煮え切らない。


 これだけ問題が大きくなっているのだから、違法と判断したのであれば、措置命令を発すべきではないか。


 消費者庁は、コンプガチャを違法とみるのは相当無理な解釈であると考えているのかもしれない。


 もしそうであれば、解釈ではなく、法律(政令)を改正して対応するのが筋であろう。



2012年05月07日(月) 関越道の高速バス死傷事故

 日経(H24.5.7)夕刊で、関越道の高速バス死傷事故について、バス運行会社に違反が36項目あったという記事が載っていた。


 この事件では、バス運行会社の社長が記者会見をして「過労運転はなかった」と述べるなど、運行会社側の情報が頻繁に報じられている。


 バス会社の社長としては、過労運転下命責任がないことを強調したいのだろう。


 もちろん、自らの言い分をマスコミを通じて明らかにすること自体は非難できない。


 ただ、バス会社の社長はいずれ警察で取り調べを受けるだろう。


 それを考えると、あまり先走って公で主張するのは得策ではないと思うのだが。



2012年05月02日(水) 大阪市で入れ墨の有無の調査

 日経(H24.5.2)夕刊で、 大阪市が全職員を対象に、身体に入れ墨をしているか尋ねる記名式の調査を始めたという記事が載っていた。


 いろんな意見があると思うが、「2月に大阪市の児童福祉施設の職員が子供に入れ墨を見せて脅した問題が発覚した」という事実を前提とすると、適切な職員の配置をするためという目的であれば、入れ墨の有無の調査自体は違法ではないだろう。


 しかし、その調査結果を「適切な職員の配置」という目的以外に使用した場合には、問題になり得る。


 ましてや、入れ墨していること自体を理由に何らかの処分することはできないだろう。



2012年05月01日(火) 赤十字マークを使用するとは違法である

 日経(H24.5.1)24面に、「5月は赤十字運動月間」ということで、赤十字の全面広告が載っていた。


 その欄には、当然、赤い十字マークもあった。


 このマークはジュネーブ条約及び赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律によって特別に保護されている。


 そのため、赤十字マーク及びそれに類似するマークを使用することは、たとえ病院(赤十字病院を除く)でも禁じられている。


 ときどき、医療のハウツウ的な書籍に赤十字マーク(または類似マーク)が使われているのを見るが、それらはすべて違法である。


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