今日の日経を題材に法律問題をコメント

2012年04月27日(金) 警察官が被害者の連絡先を伝える

 日経(H24.4.27)社会面で、京都府亀岡市で集団登校中の列に軽乗用車が突っ込み、10人が死傷した事故で、事故で亡くなった女性の携帯電話番号を、児童が通っていた小学校の教頭が、容疑者の少年の親族に伝えていたことが分かったという記事が載っていた。


 この事件では、亀岡署の警察官も容疑者の父親に被害者10人の名前と住所、電話番号を教えていたことが判明しており、問題になっている。


 これは今の実務からして考えられないことである。


 少し前は違ったが、現在では、担当警察官に、弁護士が「被害者に謝罪したいので連絡先を知りたい」と言っても、「検察官を通してほしい」と言われて断られる。


 そこで、弁護人は検察官に連絡するのであるが、検察官は「被害者の了解を得たうえで、連絡する」と答える。


 その結果、弁護人が被害者の連絡先を知るために数日かかることが多い。


 弁護人としては、一日でも早く被害者と示談をして、被疑者を釈放させてやりたいと思っているのだが、その間、待っているしかない。


 検察官から連絡先を聞いても、いきなり電話するのではなく、まずは手紙を書き、しかも、連絡先は被疑者には教えていないことを伝える。


 そのだけ気を使っても、示談をお願いした場合に被害者の方から怒られることもある(とくに痴漢事件の場合。被害者の気持ちを考えると仕方ないが)。


 それだけに、亀岡署の警察官の対応はあり得ないことである。



2012年04月26日(木) 民主党小沢一郎元代表に無罪

 日経(H24.4.26)夕刊トップで、政治資金規正法違反(虚偽記入)罪で強制起訴された民主党小沢一郎元代表に対し、東京地裁が無罪を言い渡したと報じていた。


 もともと検察庁が不起訴とした事件であり、しかも公判で元秘書の供述調書の証拠請求まで却下されていたから、有罪とすべき証拠がなくなっていた。


 それゆえ無罪は当然であろう。


 むしろ問題は強制起訴制度の問題点が浮き彫りになった点である。


 検察庁は、もともと起訴するつもり捜査をする。


 それでも起訴できなかった場合に、それを強制起訴しても無罪になる可能性の方が高い。


 実際、小沢元代表の事件を含めて強制起訴された事件で判決があったのは2件とのことであるが、いずれも無罪となっている。


 とくに、もう一つの無罪となった事件は一般の人である。


 政治家であれば強制起訴によって拍手喝さいということかも知れないが、一般の人が起訴された場合の負担は計り知れない。


 たとえ無罪になったとしても、受けた損害は回復しないだろう。


 強制起訴の制度は見直すべきではないかと思う。



2012年04月25日(水) 自動車運転過失致死傷罪の刑の上限引上げの検討を

 日経(H24.4.25)社会面で、京都府で集団登校中の児童らの列に軽乗用車が突っ込み10人が死傷した事故の続報が載っていた。


 事故を起こした18歳の少年は自動車運転過失致死傷容疑で逮捕されているが、自動車運転過失致死傷罪の刑の上限が懲役7年なので、刑が軽すぎると非難が集まっている。


 もっとも、この少年の場合には、無免許運転罪との併合罪となるから、刑の上限は8年となる。
(訂正 2012.5.14)
(併合罪の場合は最も重い罪の刑の1.5倍となるが、自動車運転致死傷罪7年と無免許運転罪1年の合計を超えることはできないので、刑の上限は、10年6月ではなく、8年である。)

 そうはいっても、重大な自動車事故が後を絶たないことを考えると、自動車運転過失致死傷罪の刑の上限が懲役7年では軽すぎるという批判は理解できる。


 上限を懲役10年に引き上げるを検討した方がいいと思う。



2012年04月23日(月) 著作権の教育現場での啓蒙活動

 日経(H24.4.23)法務面で、JASRACの理事長が「違法ダウンロードを防ぐには教育現場での啓蒙活動が大切だ」と話していた。

 
 その通りだと思う。


 すでに、新学習指導要領では「著作権や発信した情報に対する責任を知り、情報モラルについて考えること」されている。


 著作権は権利の束と言われているくらいで、様々な権利が集まっていることから理解するには難しい面もあるが、基本的な知識を周知することは重要であろう。



2012年04月20日(金) 首長に対する損賠請求権放棄について最高裁が判断

 日経ネットニュース(H24.4.20)で、違法な公金支出であるとして地方自治体の首長に損害賠償を求めた住民訴訟について、地方議会が賠償請求権を放棄したことの有効性が争われた事件で、最高裁は、「請求権の放棄が不合理で裁量権の逸脱や乱用に当たる場合は違法」と一定の制約を設ける判断を示したと報じていた。


 記事では、「最高裁は厳格な判断基準を示しており、安易な議会の判断に警鐘を鳴らした形だ」、としていた。


 しかし、最高裁は次のように判示している。

 「手続的要件を満たしている限り,その適否の実体的判断については,住民による直接の選挙を通じて選出された議員により構成される普通地方公共団体の議決機関である議会の裁量権に基本的に委ねられている」


 このような考え方からすれば、請求権を放棄したことが無効となることはほとんどないと思われる。



2012年04月19日(木) 国主導で土地境界を確定

 日経(H24.4.19)1面トップで、国土交通省は東海地方など大規模な地震や津波が予想される都市部で、土地の境界を画定する地籍の調査に乗り出すという記事が載っていた。


 地籍調査は本来は地方自治体の業務である。


 しかし、今回の計画では、官民境界を明らかにする作業は国が直轄事業として進め、民民境界を画定する調査は引き続き自治体の事業とするが、費用の9割を国が実質負担する制度の活用を通じて、早期の調査を促していくとのことである。


 境界が確定していないと売買などの処分に支障をきたすなどマイナス面が多い。


 その経済的損失はばかに出来ないものがある。


 ところが、地籍調査の進捗率は全国平均で49%、東京では20%、神奈川、千葉では13%に過ぎない。


 それだけに地籍調査は急務であると思う。



2012年04月18日(水) 耳目を引く表現を繰り出すのは弁護士の職業柄か

 日経(H24.4.18)1面下「春秋」欄で、大飯原発再稼働問題を取り上げて、政治家たちについて次のように書いていた。


「橋下大阪市長は、政府への批判を強め、言葉はどんどんエスカレートする。もっと落ち着いた議論を望む声も多かろう。」

「再稼働に躍起の仙谷民主党政調会長代行は原発停止を『集団自殺』にたとえてみせた。」

「枝野経産相は『一瞬ゼロ』発言の釈明に追われている。」

「みなさんいずれも、もともとは弁護士だ。相手を言い負かす。耳目を引く表現を繰り出す。こういうのも職業柄かどうかは知らないが、あんまり粗い言葉の応酬はエネルギーの将来像をかえって描きにくする。」としていた。


 論旨は別にして、「相手を言い負かしたり、耳目を引く表現を繰り出す」のは弁護士の職業柄ではない。


 むしろ、政治家の得意とするところだろう。


 弁護士はどちらかというと一方的な主張をしない人が多い。紛争のいずれの代理人にもなり得る立場であるし、双方の言い分もある程度理解できるからであろう。


 よく言えばバランス感覚がいいということになるが、逆に言えば、主張が穏当すぎて面白みに欠ける。(ここで言っているのは、政治的意見などについてであり、人間的魅力の話ではない。念のため。)


 もちろん、弁護士にもいろんなタイプがいる。


 弁護士から政治家に転身する人は、先に述べたバランス感覚がいいが面白みに欠けるという弁護士とは違うタイプの人が多い気がする。


 冒頭の政治家たちも、そういう人のように思われる。



2012年04月17日(火) 東京メトロの乗車履歴を不正取得

 日経(H24.4.17)夕刊で、東京メトロの駅員だった男性が、女性のパスモの乗車履歴を無断で調べ、インターネット上で公開していたという記事が載っていた。


 この男性は、氏名と生年月日、性別を入力すれば乗車履歴を検索できるシステムを悪用して情報を取得し、女性にストーカー行為もしていた。


 女性は東京メトロに対し、損害賠償請求の訴訟をしているそうである。


 当然、東京メトロは使用者責任を問われることになるだろう。


 そもそも、東京メトロは乗車履歴を残しておく必要があったのだろうか。


 サービスの一環ということなのだろうが、むしろ、原則として自動的に削除するか、少なくとも履歴を残すかどうかは顧客が選択できるようにすべきではないだろうか。



2012年04月16日(月) 訴訟の最初から主張を整理し、証拠を提出すべき

 日経(H24.4.16)法務面で、切り餅特許訴訟に関し、知財高裁は「ビジネス関連訴訟は迅速な紛争解決が求められる」と述べるなど、裁判のスピード化が進んでおり、「当事者も最初の段階で主張や証拠の準備を万全にしておく必要がありそうだ。」と書いていた。

 
 そのとおりであるが、別にビジネス関連訴訟に限らなず、訴訟の最初の段階で主張を整理し、証拠を提出すべきである。


 訴訟の冒頭から裁判官の心証を掴むことが重要だからである。


 ただ、かつては、主張も証拠も相手の出方待ちという感じで、証拠などは少しずつ提出していたし、先輩弁護士からそのように言われたこともあった。


 そのころを思うと隔世の感がある。



2012年04月13日(金) 100日間裁判

 日経(H24.4.13)夕刊で、首都圏の連続不審死事件で、男性3人を殺害した罪などに問われた木嶋被告に対し、さいたま地裁は死刑を言い渡したと報じていた。


 この事件は、裁判員裁判としては異例の100日間という長期裁判となった。


 弁護人は他の仕事がほとんどできなかったのではないか。


 それ以上に、裁判員の方にはご苦労様でしたというしかない。



2012年04月12日(木) 期限の途過は怖い

 日経でなく朝日(H24.4.12)社会面で、横浜の弁護士が、遺産相続をめぐる民事訴訟で、期限内に控訴手続きをせず、一審判決が確定していたという記事が載っていた。


 控訴は、一審判決から2週間以内に手続きをしなければならない。


 人間だからうっかり手続きを忘れることはあり得るが、まったく言い訳ができない。


 たとえ控訴しても勝ち目がなかった裁判であってとしても、控訴しなかった責任はある。


 それだけに期限については非常に気を使う。


 そのため、控訴するかどうかよく検討する必要がある場合でも、2週間ぎりぎりではなく、少し早めに結論を出して控訴するようにしている。


 もっとも、控訴期間は2週間と短いので、うっかり忘れることは少ないが、消滅時効期間についてありがちなミスで一番怖い。

 
 消滅時効期間が過ぎると請求できなくなるだから大問題である。


 夜中にふっと、「あの事件の時効がひょっとして過ぎたのではないか」と思って寝れなくなることがあるくらいである。(そんな日は朝早く事務所に行って記録を確認し、ほっとするのであるが。)



2012年04月11日(水) 旧武富士が法人税の還付請求訴訟を起こす

 日経(H24.4.10)4面で、消費者金融大手の旧武富士(現・TFK)が、国に対し、過去に納めた法人税2374億円の還付を求める訴訟を東京地裁に起こしたという記事が載っていた。


 消費者金融会社は、利息制限法の上限金利(15〜20%)を超える利息を徴収して多額の収益を上げ、その利益に応じて納税していた。ところが、この超過利息が法的に無効となったことから、税金を納め過ぎたとして返還を求めるものである。


 確かに、利息制限法の上限金利を超える利息が無効なら、そこで得た利益も無効となり、その利益に課された法人税も無効になるとも言えそうである。


 しかし、超過利息を得ていた時点では現実に利益を得ていたのであるから、税金を課すことが誤りだったとはいえないであろう。


 また、後に過払い金を返還することによってその分利益は減ったが、それに応じて税金も課されなくなっているから、不公平とは言えないのではないか。


 ましてや、武富士は、過払いとなる全額を返還しているわけではない。


 このように考えると、課税は有効と言えそうである。


 なかなか難しい問題であるが、金額が大きいし、他の消費者金融会社にも関係するだけに、判決がなされた場合の影響は大きいだろう。



2012年04月09日(月) 犯罪は合理的考えに基づいて行うのではない

日経(H24.4.9)夕刊で、ストーカー殺人の被害者遺族が、ストーカー規制法に被害当事者の声を反映させて改正することなどの要望書を、警察庁などに提出したと報じていた。


 この間のストーカー殺人で警察の対応が十分でなかったことから、このような要望になったものである。


 合理的に考える人であれば、ストーカーでなぜ殺人まで犯すのか分からない。


 警察もそのような考えたのであろうが、その対応が非難されているわけである。


 そもそも、犯罪というのは合理的な考えに基づいて行うわけではない。(これは司法修習生時代に、刑事裁判官から言われたことである)


 とくにストーカー犯罪は急激に危険な行為に走る傾向があるように思う。


 その点を警察の現場の人たちは理解すべきなのであろう。



2012年04月06日(金) 配偶者に対する傷害は罪になるが、窃盗は刑を免除される

 日経(H24.4.7)社会面で、妻を殴ってけがをさせたとして、傷害の疑いで朝日新聞社記者が逮捕されたという記事が載っていた。


 「顔を平手で殴った」とのことであるから、ケガはそれほどひどくはないと思われる。


 ただ、傷害であることに変わりなく、妻が診断書を持参して警察に被害届を出せば、たとえ夫であろうと逮捕されることがある。


特に最近はDVが問題になっているので、警察は積極的に動く傾向があ るから、身に覚えのある人は注意した方がよい。


 このように傷害の場合には逮捕されることもあるが、窃盗や横領については夫婦間や一定の親族間では犯罪にならないとされている。(厳密には「刑が免除される」となっている。)


 「法は家庭に入らず」という理由からである。


 しかし、認知症になった親の年金を、子どもが勝手に自分の生活費に充てる例はよくあるが、これは横領罪に該当する。


 それだけに、傷害については「法は家庭に入る」のに、窃盗・横領などでは「法は家庭に入らない」として、違った扱いになっているのは問題かもしれない。



2012年04月05日(木) 裁判員裁判による無罪判決を控訴審が破棄

 日経(H24.4.5)社会面で、アフリカから成田空港に覚醒剤約2.5キロを密輸したとして、覚せい剤取締法違反罪に問われたが、一審の裁判員裁判で無罪となった事件の控訴審判決で、東京高裁は、一審判決を破棄して、懲役10年、罰金500万円を言い渡したと報じていた。

 
 先日、最高裁は、「裁判員裁判の判断はできるだけ尊重すべき」との考え方を示しているが、東京高裁の判断はそれに果敢に挑戦するものといえる。


 この東京高裁の判断を、再度最高裁が「裁判員裁判の判断を尊重すべき」として破棄したなら、高裁の裁判官は、今後は裁判員裁判の判断の中味にあまり立ち入らなくなるであろう(訴訟法的に言えば、事後審としての性格を徹底させることになる。)。


 それだけに、最高裁がこの事件でどのように判断するか興味があるところである。



2012年04月04日(水) 食をどこまで規制するかは難しい問題である

 日経(H24.4.4)社説で、 厚生労働省が法律で牛の生レバーの販売を禁止する意見をまとめたことについて、「短絡的」と厳しく批判していた。


 社説では、「食べ物から完全にリスクを取り除くのは難しく、魚の刺し身も生卵も、食べる、食べないは、突きつめれば個人の判断である」としている。


 一つの見識であると思う。


 ただ、生レバーを食べて、仮に死亡した場合、遺族は「自己責任である」として諦めることはできないだろう。


 肉の生食の危険性がこれだけ言われているのであるから、「国はなぜ法律で規制しなかったのか」という批判が起きるのは間違いない。


 行政が食をどこまで規制するかは、なかなか難しい問題である。



2012年04月03日(火) なんでも「個人情報の保護」ではよくない

 日経(H24.4.3)夕刊で、地域社会から孤立した高齢者が増え、孤独死などが問題になっているため、いざという時に助けが必要となる高齢者らの個人情報を柔軟に提供しようと動き出す自治体が出てきたという記事が載っていた。


 これまで自治体は、個人情報保護を理由に、民生委員らに対して十分な情報を提供してこなかった。


 そのため、昨年の東日本大震災では、福祉関係者たちは、個人的に知り得た情報を頼りに高齢者の安否確認をしたところが多かったようである。


 昨今は何でも個人情報の保護であり、そのため有用な情報が得られないなど支障がでてきている。


 しかし、個人情報の保護も絶対的に保護されるべき利益ではないはずであり、個人情報を提供することによって得られる利益と比較考慮して決めるべきである。


 高齢者についていえば、高齢者の生活状況などの情報が漏れると悪質な販売業者に悪用される心配はある。


 したがって、情報管理をきちんと行うべきであることは当然である。


 それを前提に、自治体が高齢者の状況を提供することによって高齢者の孤立の防止につながるという意義は大きいのであるから、その利益を優先させるべきであろう。


 それゆえ、自治体は高齢者の生活状況などの情報を社会福祉協議会や民生委員に提供すべきであろうし、また、現場で得られた情報を自治体にフィードバックするなどして、高齢者の保護を図るべきと思う。



2012年04月02日(月) 債権譲渡禁止特約の存廃

 日経(H24.4.2)法務面で、民法改正作業で、債権者に債権譲渡を認めない「債権譲渡禁止特約」の存廃が焦点になっているという記事が載っていた。


 債権譲渡を禁止する特約があると、中小企業が売掛金を譲渡することによって資金調達することが難しくなることから、「禁止特約はなくすべきだ」という意見がある。


 他方、大企業などには「禁止特約をなくせば、債務者にとって著しい不利益になる」との意見もあるようで調整は難航しているようである。


 契約書をチェックすると、かなりの割合で債権譲渡禁止特約が付いている。


 しかし、契約内容からして、債権譲渡禁止特約を付ける必要性は乏しいと思うケースは多い。


 その意味では、何となく債権譲渡禁止特約を付けている感じである。


 そもそも、金銭債権の場合、債権譲渡されても債務者はお金を払えばいいだけであるから、債権者が誰であっても経済的不利益はないはずである。


 したがって、預金債権など合理的事由がある場合を除き、譲渡禁止特約は無効としてもよいと思うが、反対も根強く、なかなか難しそうである。


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