今日の日経を題材に法律問題をコメント

2011年10月31日(月) 民事訴訟では判決原本に基づいて判決を言渡す

 日経(H23.10.31)夕刊で、福岡地裁小倉支部で、法廷で言い渡した判決内容と異なる賠償金額を記載した判決文を被告側に送付していたという記事が載っていた。


 判決文の作成を担当する書記官が、裁判官が法廷で言い渡した判決原本ではなく、草稿段階の判決内容を基に判決文を作成してしまったようである。


 民事訴訟法では、判決原本に基づいて判決を言い渡すと規定されている。


 『判決原本』でなければならないから、裁判官の署名捺印までされている必要があり、それに基づいて判決をしているはずである。


 それゆえ、「書記官が、草稿段階の判決内容を基に判決文を作成した」ということは考えにくいのだが。


 ところで、刑事訴訟法では、民事訴訟法のような規定がないため、草稿に基づいて判決を言い渡してもよい。


 なぜ民事訴訟と刑事訴訟とで違うのかはよく知らないが、大陸法と英米法の違いに由来しているのかもしれない。



2011年10月28日(金) 無断で子どもを米国から連れ帰った女性を逮捕

 日経(H23.10.28)夕刊で、米国在住のニカラグア人男性と離婚した日本人女性が、無断で米国から長女を連れ帰ったとして、親権妨害容疑などで米国で逮捕されていたと報じていた。

 
 「自分の子どもを連れ帰ってどこが悪い」と思っていたのだろうか。


 もしそうであれば、考え方が甘かったと言わざるを得ない。


 日本人同士の離婚問題でも、勝手に子どもを自分の実家に連れ帰り、トラブルになることがある。


 しかし、日本人同士の場合でも、強引に子どもを実家に連れ帰るのは好ましいことではない。


 外国で、日本人と外国人が離婚した場合もそれは同じことであろうと思う。


 「ハーグ条約」は、無断で子供を国外へ連れ出された側が求めれば、相手国が子供の居場所を調べて、元の住んでいた国に戻すことを義務付けている。


 それは常識的な決め事であると思うのだが。



2011年10月27日(木) 人事院勧告の実施見送りは憲法違反か

 日経(H23.10.27)2面で、人事院の江利川総裁が、衆院内閣委員会で、国家公務員の給与を平均0.23%下げるよう求めた人事院勧告の実施を政府が見送る方針について、憲法違反の可能性にも触れて反論したという記事が載っていた。


 確かに、人事院勧告は、労働基本権の制約に対する代償措置であるから最大限尊重されるべきであろう。


 しかし、代償措置としてはそれに限られず、その他に、法令による勤務条件の保障、法令による身分保障等がある。


 したがって、人事院勧告の実施を見送ったとしても、直ちに、代償措置の機能が喪失したとはいえない。


 ましてや、今回の人事院勧告は給与を下げるものであるから、その実施を見送ったとしても、労働基本権が侵害されるわけではない。


 それゆえ、今回の人事院勧告の実施見送りが「憲法違反の可能性がある」というのは言いすぎであろう。



2011年10月26日(水) 最高裁判決 個別意見が付くことが増えている

 日経(H23.10.26)社会面で、がん患者の男性が、保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」で保険適用が認められないのは不当として、訴えた事件で、最高裁は、混合診療の原則禁止は適法との判断をしたという記事が載っていた。


 判決には4人の裁判官の詳細な個別意見が付されている。


 それゆえ、どのような考えで判決がなされたのかがよく分かり、非常に参考になる。


 最近は、重要な判決には個別意見が付くことが当然のようになっている。


 それゆえ、在任中、個別意見を2件しか書かず、問題視された最高裁判事がいるほどである。


 これからは、個別意見をきちんと書けない最高裁判事は、その適格性が問題になってくるだろうと思う。



2011年10月25日(火) 複数犯で時効まで逃げ切るというのは難しい

 日経(H23.10.25)夕刊で、立川市の6億円強奪事件の逮捕者は18人に上り、「グループは20人を超える」とみられると報じていた。


 この事件も当初は捜査が難航したようであるが、これだけの数の犯罪グループだと、必ず誰かヘマをして逮捕されてしまう。


 取調べで虚偽の供述をしても、必ず捜査で裏を取るからウソがばれる。


 また複数逮捕されると、虚偽の供述をしている限り、それぞれの供述が合わないから、だんだん追いつめられてしまう。


 全員が黙秘権を行使すれば取調べは難しくなるが、そうはいかないのが実情である。


 そのため、たいていの共犯事件では、数日すれば自白している。


 複数犯で、時効まで逃げ切るというのは難しいと思う。


 複数犯であることが明らかな有名な事件で時効になったのは、グリコ森永事件ぐらいではないだろうか(三億円事件は単独犯か共犯かさえ分かっていない)。



2011年10月24日(月) 社外取締役に過大な期待はできない

 日経(H2310.24)19面で、大王製紙の井川前会長がグループ会社から総額84億円を借り入れたことについて、コーポレートガバナンス(企業統治)の問題について書いていた。


 論調としては、次のようなものであった。

 コーポレートガバナンスのためには社外取締役が重要である

 ただ、井川元会長は、グループ会社から借り入れており、グループ会社に社外取締役を置くことは費用や人材などの理由から難しく、チェックは働きにくい。

 ただ、前会長が3月末時点で連結子会社から約24億円を借り入れていたことは有価証券報告書に記載されていたから、大王製紙の取締役は前会長への多額貸し付けの事実を知り得たはず

 そこで、親会社である大王製紙のコーポレートガバナンスが重要になる。


 記事の論調はこのようなものであった。


 しかし、社外取締役が有価証券報告書までチェックすることが期待できるであろうか。


 他社の経営者が社外取締役になっている場合は、経営のご意見番という役割が多いと思う。


 弁護士が社外取締役になっていることも多いが、たいていはその場で配布された資料を元に意見を言う程度であろう。


 要するに、コーポレートガバナンスのために社外取締役が重要になることは間違いない。

 ただ、過大な期待もできないということである。



2011年10月21日(金) 修習生の就職難 しかし現地語ができれば就職できる

 日経(H23.10.21)13面で、国内大手の森・浜田松本法律事務所が、シンガポールに現地事務所を開設するという記事が載っていた。


 同事務所は、中国の北京と上海にも現地事務所を置いている。


 他の大手法律事務所では、西村あさひは北京とベトナムのハノイ、ホーチミンに、アンダーソン・毛利・友常は北京に、長島・大野・常松はニューヨークに現地拠点があるようだ。


 主なクライアントは日本企業だから、一挙に海外進出というわけにはいかないだろうが、今後も少しずつ増えて行くだろう。


 最近は、修習生の就職難が問題になっている。


 しかし、英語以外に中国語、ベトナム語などを使うことができれば、学歴や年齢に難があっても大手法律事務所に就職できると思う。



2011年10月20日(木) 高齢者向け施設での安全配慮義務

 日経(H23.10.20)社会面で、高齢者向けグループホーム前の路上において、ホームの女性入所者が血を流して倒れていたという記事が載っていた。


 男性と口論していたそうであり、施設外でのことだから、施設側の責任はなさそうである。


 ただ、これが施設内でのことであれば、施設側の安全配慮義務違反が問わたかもしれない。


 高齢者向けの施設は急激に増えており、施設内でのトラブル、事故も増加している。


 それゆえ、入居者に対する安全配慮がますます重視されはずであり、施設側としては、マニュアルの整備など、その対策を講じておくべきであろう。



2011年10月19日(水) 「公平に扱え」と言える立場ではない

 日経(H23.10.19)社会面で、大王製紙の井川前会長が巨額の資金をグループ会社から個人的に借り入れていた問題で、井川前会長の弁護士が、同社が設置した特別調査委員会の聞き取り調査を前会長が拒否している理由を公表したという記事が載っていた。


 それによれば、聞き取り調査を拒否する理由は、「委員会は会社と一体で調査しており、公平性が損なわれる」からとのことである。


 しかし、「公平性」とは何だろうか。


 井川前会長は特別背任の疑いがあるのであり、特別調査委員会もそのための委員会であろう。


 それゆえ、特別調査委員会が、会社と井川前会長とを公平に扱うべき理由はない。


 「公平に扱え」と言えるような立場ではないのである。


 もちろん、弁護士も内心ではそう思っていると思うが。



2011年10月18日(火) オリンパスの前社長の解任事由の不可解さ

 日経(H23.10.18)9面で、オリンパスのウッドフォード前社長が解任された事件で、オリンパス社は、前社長への法的措置も含む対応を検討しているという記事が載っていた。


 前社長の解任理由は、オリンパス社によれば、「当社の企業風土や日本の文化を経営に生かすことも必要なことが理解できなかった」という、何ともわけが分からないものであり、それだけに背景に何かあるのではないかと思ってしまう。


 この会社は、以前、内部通報した社員について、コンプライアンス窓口の担当者が、通報者の氏名を上司に連絡してしまい、その上、閑職に配転させている。


 そのような事例があるだけに、会社全体に「コンプライアンス」が欠如しているのではないかという先入観で、代表取締役の解任事件を見てしまうのだが。



2011年10月17日(月) 放射性物質の過剰投与問題 医師法違反で家宅捜査

 日経(H23.10.17)社会面で、甲府病院で放射性物質の入った検査薬を子供に過剰投与していた問題で、山梨県警は、医師法違反の疑いで同病院と、担当した放射線技師の自宅を家宅捜索し、放射線技師から任意で事情を聴いたという記事が載っていた。


 放射線技師は、医師の資格がないのに、独断で検査薬の投与量を決めるなどの医療行為をした疑いが持たれている。


 しかし、この事件では、医師は投与量の指示をしていなかったとされている。


 そうであれば、医師も医師法違反に問われなければならない。


 もし、その点を不問にし、放射線技師だけの責任にするのであれば、それは問題であろう。



2011年10月14日(金) 前水戸地検検事正を起訴猶予

 日経(H23.10.14)社会面で、飲食店で同席者を暴行し、店の営業を妨害したとして告発されていた前水戸地検検事正について、東京地検は、暴行容疑は起訴猶予、威力業務妨害容疑は嫌疑不十分でそれぞれ不起訴処分としたという記事が載っていた。


 この検事正は、水戸市内のスナックで、同席者4人に、マイクで頭をたたいたり腰付近を蹴ったりしたということであるが、被害者は処罰を望んでいないとのことである。


 暴行としては軽微であり、被害者も処罰を望んでいないのであるから、基本的には事件にはならない事案である。


 しかも、事件は2月にあったのに告発したのは7月なので、不思議だなあと思って調べたら、告発者は三井環氏(元大阪高検公安部長)であった。


 検事正というのは地方検察庁のトップなのあるから、酒の席とはいえ、「マイクで頭をたたいたり腰付近を蹴ったり」したことは反省すべきであろう。


 ただ、その場にいた人は誰も処罰を望んでいないのに告発されたことについては、同情すべき余地があると思うが。



2011年10月13日(木) 裁判員制度の合憲性 最高裁大法廷で弁論

 日経(H23.8.12)社会面で、最高裁大法廷が、裁判員制度が憲法違反かどうかが争点になった覚醒剤密輸事件の上告審で、弁護側、検察側双方の意見を聞く弁論を開いたという記事が載っていた。


 大法廷は15人の裁判官全員で構成され、新たな憲法判断や過去の最高裁判例の変更など、重要な判断をする場合に開かれる。


 上告する場合、上告理由として原則として憲法違反か判例違背に限られているから、上告しようとすると何らかの憲法違反を主張せざるを得ない。


 よくあるのは、平等権違反(憲法14条)、適正手続き違反(憲法31条)であるが、裁判員制度は裁判官の独立(憲法76条3項)を侵害するとして憲法違反を主張することは可能である。


 もっとも、裁判員制度は最高裁が中心となって採用した制度であるから、それを違憲と判断することはあり得ない。


 ただ、補足意見で裁判員制度に対する考え方が示されるはずであり、その点は興味深い。



2011年10月11日(火) 成年後見制度に信託の利用は必要か

 今日は休刊日であり、昨日の日経(H2310.11)16面で、最高裁が、成年後見人が被後見人の財産を横領する事件が多発している現状を踏まえ、被後見人の財産を信託銀行に預ける制度の導入を検討しているという記事が載っていた。


 新しい制度では、親族を後見人に選任する場合も、いったん弁護士、司法書士などを「専門職後見人」に選任し、信託契約が締結されれば辞任する。


 親族後見人は日常生活に必要な小口資金を管理し、まとまった資金については、裁判所の承認を得て信託財産から引き出すことになる。


 しかし、この新しい制度は、社会福祉に熱心な弁護士からは評判が悪い。


 専門職後見人や後見監督人を活用すれば財産管理という目的は達成は可能であり、なぜ信託銀行を絡めた複雑な制度にするのか。

 そもそも、制度設計が財産管理のことのみであり、本人の意思の尊重という視点が欠けているのではないかというのである。


 そのため、最高裁は4月からの導入をいったん見送っている。


 しかし、上記の批判にどのように答えるのかは明らかでない。



2011年10月07日(金) 小沢元民主党代表の初公判

 日経(H23.10.7)1面で、政治資金規正法で強制起訴された小沢元民主党代表の初公判の様子を報じていた。


 判決がどうなるかは分からないが、検察官が起訴できなかった事件で、被告人として裁判を強要されるわけであり、小沢元代表の精神的、肉体的、財政的負担が極めて大きいことは分かる。


 小沢元代表が政治家なので、その点についての同情はあまりないが、これが一般人であればどうだろう。


 やはり強制起訴の制度は問題が多いのではないだろうか。


 もっとも、小沢元代表が有罪になれば、「やはり市民感覚が重要である」として、強制起訴の制度は何ごともなかったように定着するだろう。


 逆に、無罪になった場合には、強制起訴制度の見直しの議論が出てくるのではないだろうか。



2011年10月06日(木) 武富士更生管財人が創業者一族に151億円の請求

 日経(H23.10.6)社会面で、武富士の更生管財人が、「本来支払われるはずのなかった配当が創業家株主に支払われた」などとして、創業者一族などに総額約151億円の配当金返還や損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたという記事が載っていた。


 勝訴すれば過払い金債権者などへの弁済原資に回される。


 しかし、勝訴の見込みはあるのだろうか。


 武富士の管財人は、武富士の申立代理人がそのまま管財人に就任するという異例の事態となっている。


 そのため、個々の弁護士だけでなく、いくつかの弁護士会からは、会長声明という形で裁判所や管財人に対して批判がなされている。


 その手前、いいかげんな決着はできないということで、創業者一族に訴訟したのであろうか。


 いずれにせよ、印紙代だけでも7530万円になり、それはもともと配当原資になるものなのだから、それなりの成果を見せて欲しい。



2011年10月05日(水) 利用者に十分告知しないままアプリを組み込み

 日経でなく朝日(H23.10.5)社会面で スマートフォンの利用者がどのようなアプリをいつ、何回使ったかを記録して好みを分析し、興味を引きそうな広告を配信するサービスが批判を集めているという記事が載っていた。


 プログラムが電話帳など無関係に見えるアプリに組み込まれており、アプリ利用者への説明が十分でないためである。


 似た問題で、先日は、彼氏のスマートフォンにアプリをインストールしておき、行動や通話履歴を確認するというサービスが問題になっていた。


 また、韓国では、グーグルの子会社がスマートフォンのアプリを通じて利用者の同意なしに位置情報を収集していた疑いで、捜査当局が捜索したと報じられている。


 いずれのアプリも、サービスの発想は悪くないと思う。


 問題は、利用者にきちんと告知していなかったことであろう。


 利用者にはサービスの内容を告知した上で、利用を望まない人には利用を拒絶できるようにしておくべきであり、そうすれば問題は生じないのであるが。



2011年10月04日(火) 民事再生手続きで、偽造した印鑑で書類を提出

 日経(H23.10.4)夕刊で、服飾卸売会社「U.F.O.」の民事再生手続き中に、社長らが、再生手続きの監督委員に提出する書類を偽造した印鑑を使うなどして作成していたという記事が載っていた。


 この会社の民事再生手続きでは申立代理人がついており、監督委員への書類も、申立代理人を通じて提出しているはずである。


 もちろん、申立代理人は提出書類の偽造には気が付かなかったのだろう。(気が付いていれば共犯者になってしまう)


 しかし、かっこ悪いことは間違いない。



2011年10月03日(月) 南三陸町に法テラスを開設

 日経(H23.10.3)社会面で、法テラスが、東日本大震災被災者の相談に迅速に応じるため、宮城県南三陸町に出張所を開設したという記事が載っていた。


 被災者はこれまでは生活再建が最優先であったが、これから法律問題が増えてくることは間違いない。
 

 したがって、法テラス設置の必要性は高く、出張所の開設は素晴らしいことだと思う。


 ただ、そこに派遣されるスタッフ弁護士は大変であろう。


 南三陸町は被災により人口が減っているから、通常事件の依頼は少ないだろうし、裁判所の所在地でないので(南三陸町の管轄は仙台地裁気仙沼支部)、国選弁護人や破産管財事件など、裁判所からの依頼による事件はほとんどないと思われる。


 そうすると実務経験を得る機会も少なくなり、若手弁護士の場合、派遣されるのは躊躇するだろう。


 そう考えると、若手弁護士ではなく、自分の事務所を閉鎖してもいいと思っているベテラン弁護士から募集するのも一つの考えではないだろうか。


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