2011年09月30日(金) |
「ない以上、仕方ない」 |
日経(H23.9.30)社会面で、1972年の沖縄返還の際の「密約文書」の開示を求めた訴訟で、東京高裁は、開示を命じた一審判決を取り消し、請求を全面的に退けたと報じていた。
理由は、「国が文書を保有していると認めるに足る証拠はない」というもので、文書がないのだから開示開示命令も出せないということである。
文書開示請求ではよく問題になる争点であり、文書所持者とされている側はしばしば「文書はない」と主張する。
そうすると、裁判所は容易に「文書がない以上、仕方ないですね」と言うのであるが、何とも釈然としないものがある。
日経(H23.9.29)社会面で、銀座の宝石店で2億円相当のティアラなどが盗まれた事件で、東京地裁はモンテネグロ国籍の被告に懲役10年を言い渡したという記事が載っていた。
被告は「銀座に行ったことはない」などと無罪を主張したようである。
しかし、被告は、事件の2時間後に被害品のティアラなどを持っていたから、その主張は通らないだろう。
犯行直後に盗品を所持していた場合には、経験則上、その者が犯人である可能性が高いからである。
犯行直後に盗品を所持していたというだけで犯人と決めつけることはないにしても、犯人かどうかの有力な判断方法であり、『近接所持の理論』(『近接所持の法理』だったかな)と言われている。
2011年09月28日(水) |
防犯カメラの有用性は否定できない |
日経(H239.28)社会面で、東京都豊島区のビルオーナーが殺害された強盗殺人事件で、警視庁は、男性2人を逮捕したという記事が載っていた。
防犯カメラには逮捕した2人が映っており、有力な手かがりになったようである。
防犯カメラについては反対論も強いが、このような事件をみると、有用性は否定できない。
問題は、映像の管理をいかに適正に行うかであろう。
2011年09月27日(火) |
政治資金規正法違反で小沢議員元秘書らに有罪 |
日経(H23.9.27)1面で、小沢一郎・民主党元代表の資金管理団体「陸山会」を巡り、政治資金規正法違反に問われていた衆院議員・石川被告ら元秘書3人について、東京地裁は有罪を言い渡したと報じていた。
この裁判では、被告人の自白調書の証拠能力を否定している。
理屈の上では、証拠能力の有無と、証拠の信用性の有無は別問題である。
そのため、この裁判のように、自白調書が証拠から排除されても、別の証拠で有罪を認定することは可能である。
逆に、証拠能力は認めても、その証拠の信用性は否定して無罪とすることもあり得る。
しかし、多くの場合には重要な証拠の証拠能力を否定した場合には、そのまま無罪につながっている。
逆に、証拠能力を認めた場合には、その証拠の信用性まで認め、有罪されることが多い。
それゆえ、被告人の自白調書という最も重要な証拠の証拠能力を否定しながら、有罪を認定するのはめずらしい。
しかも、自白調書を証拠として排除したことから、推測ばかりで事実を繋ぎ合わせて事実認定した感じがある。
そのように危うい事実認定の仕方であるのに、公訴事実に直接関係しない背景事情まで事実認定している。
控訴しても有罪は動かないと思うが、事実認定としては行き過ぎではないかという印象を受けた。
2011年09月26日(月) |
約款の有効性については、難しい問題を含んでいる |
日経(H23.9.26)16面で、民法改正案作業において、現行民法にはない約款に関する規定を新設することの当否について議論がなされているという記事が載っていた。
約款とは、不特定多数の取引の場合に、取引条件をあらかじめ定めたもので、鉄道やバスなどで定められている。
電車が遅延した場合でも普通乗車券は払い戻しされないが、それは約款にそのような定めがあるからである。
しかし、同意もしていないのに、なぜそのような決まりに拘束されるのだろうか。
よく考えると説明しがたく、なかなか難しい問題である。
その意味では、法律で約款の有効性を定めておいた方がよいと思う。
2011年09月22日(木) |
デフレの正体」の藻谷氏に損害賠償命令 |
日経でなく朝日ネットニュース(H23.9.22)で、「デフレの正体」の著者藻谷浩介氏が書いた、ブログへのコメントで名誉を傷つけられたとして、ブログを運営する札幌市の男性が慰謝料を求めた訴訟で、札幌地裁は、藻谷氏に10万円の支払いを命じたと報じていた。
藻谷氏は「早く死んで子供に財産を残せ」とコメントしたそうである。
前後の流れが分からないので何ともいえないが、認められた額は10万円だから、あまりひどい表現とは評価されなかったのだろう。
しかし、訴訟は札幌で起こされているから、訴えられた方はわざわざ札幌まで行かないといけない。
その負担を考えると、興奮して感情のままにネットに書き込まない方がいい。
ちなみに、匿名であっても、自分のパソコンから書き込みをした場合には、たいてい名前は分かってしまう。
日経(H23.9.21)社会面で、暴力団組長らが弁護士に多重債務者をあっせんし報酬を得ていた事件で、警視庁は、あっせんを受けた近藤利信弁護士を弁護士法違反(非弁提携)容疑で書類送検したという記事が載っていた。
共犯者は逮捕されているが、弁護士だけ書類送検になったのは、病気なのだろうか。
それにしても、犯行の動機は「事務所が赤字で違法とはわかっていたが引き受けた」とのことである。
情けない。
2011年09月20日(火) |
問題の多い東電への賠償請求のための書類 |
日経(H23.9.20)5面で、平野復興相が、被害者が東電に賠償請求するための書類について、文書の量が多く難解な言葉も目立つため、東電に簡略化を要という記事が載っていた。
損害賠償を請求するための書類は約60ページ、説明書類は約160ページに及んでおり、評判は極めて悪い。
それ以外にも、放射性物質の汚染による価値の減少が請求の対象になっていないなど問題が多いようである。
苦労して東電に請求するぐらいなら、より簡便な申し立てが可能な原子力損害賠償紛争解決センターに申し立てた方がよいのではないか。
2011年09月16日(金) |
検察官の不適切行為に対する苦情窓口 |
日経(H23.9.16)社会面で、最高検が検察改革の一環として新設した監察指導部の調査で、不適切な取り調べが1件あったと発表したという記事が載っていた。
検察内外から寄せられた苦情や報告のうち、18件の事例について取り調べで調査した結果である。
それにしても、検察官の取り調べなどへの苦情を申し立てる窓口ができているとは知らなかった。
何だかこっそり運営しているように思ってしまうのだが、弁護士会に案内はきたのだろうか。見落としただけなのだろうか。
2011年09月15日(木) |
添乗員への「みなし労働制」の適用を否定 |
日経(H23.9.15)ネットニュースで、添乗員が残業代の支払いを求めた訴訟の控訴審で、東京高裁は「事業場外みなし労働制」は適用されないとして、旅行会社に残業代の支払いを命じたと報じていた。
「事業場外みなし労働制」とは、会社の指揮・監督が及ばず、労働時間の算定が困難な場合に一定時間働いたとみなす制度である。
このみなし労働制が添乗員に適用されるかについて、裁判所の判断は分かれているが、いずれは、適用なしという判断で統一されると思う。
というのは、旅行には行程表があることから、添乗員について「労働時間の算定が困難」という事情は考えられないからである。
ただ、そうなると旅行会社への影響は大きいであろう。
2011年09月14日(水) |
西武鉄道の株主の損害賠償請求で最高裁が初判断 |
日経(H239.14)社会面で、西武鉄道による有価証券報告書の虚偽記載で株価が下落し損失を被ったとして、株主が損害賠償を求めた事件で、最高裁は「損害額」について初判断、という記事が載っていた。
最高裁は、投資家にとっては取得自体が損害に当たるとして、取得価格から売却価格を引いた上で、そこから虚偽記載とは無関係な経済情勢などによる下落分を差し引いた金額を損害額とするとした。
この事件の損害額の算定方法については、下級審では4通りにも分かれていたが、最高裁はそれらとは異なる5通り目の算定方法を示したことになる。
ただ、最高裁の方法でも、「虚偽記載とは無関係な経済情勢などによる下落分」の算定については不確定要素があるから、一義的に損害額が決まるわけではない。
このように算定方法が分かれるのは、損害賠償できる金額は「実損害」に限られるという思考方法にとらわれているからである。
アメリカのように懲罰的損害賠償を認めれれば、このように算定方法で苦労するということはなくなるだろう。(実損害額を考慮しないというわけではない)
その分、基準がよくわからないということにはなるのだが。
2011年09月12日(月) |
検察官の証言を反対尋問で崩すことは不可能である |
日経(H23.9.12)夕刊で、捜査資料改ざん事件の初公判が開かれたという記事が載っていた。
記事では次のように報じていた。
「大きなヤマ場は、林敬・前検事正、前田恒彦元検事、佐賀元副部長に、元検事の改ざん行為を“告発”したとされる3人の現役検事の証人尋問。」
「小林前検事正を除く4人は検察側証人であり、弁護側は証人を立てていない。」
「弁護側にとって、反対尋問で証言の信用性を崩せるかがポイント。」
しかし、証人は検事たちである。
それを反対尋問で崩すことは不可能に近い。というか、絶対に不可能である。
元特捜部長、副部長の2人の被告人も、有罪は覚悟しているかもしれない。
2011年09月09日(金) |
虚偽の債権届けをして、詐欺破産の容疑で逮捕 |
日経(H23.9.9)社会面で、破産した病院が多額の債務を負っているように装ったとして、東京地検が、不動産会社の社長を破産法違反(詐欺破産)の容疑で逮捕したという記事が載っていた。
逮捕容疑は、医療法人の破産管財人に対して、30億円超の債権があるとするウソの破産債権届出書を提出するなどした疑いである。
医療法人内部の人間と組んで虚偽の債権届けをした場合、破産管財人はなかなか気がつかないのではないか。
これが30億円という大きな額であったから発覚したのかもしれないが、もう少し金額が少なければ分からなかったも知れない。
2011年09月08日(木) |
相変わらず検察の描いた構図に沿って供述がとられている |
日経(H23.9.8)社会面で、大阪地検特捜部の捜査資料改ざん・隠蔽事件で、犯人隠避罪に問われた元特捜部長と元副部長の初公判が12日、大阪地裁で開かれるという記事が載っていた。
争点は、2人が、前田検事が故意に証拠を書き換えたことを知っていたかどうかである。
仮に故意の書き換えを知っていて、部下をかばって隠ぺいしたのであれば、否認しないのではないかと思う。
それが元特捜の部長、副部長としての矜持であろうし、争っても勝ち目がないことは知っているはずだからである。
逆に言えば、故意に書き換えたことは知らなかったのではないかと思う。
しかし、検察庁は、検察庁の主張に沿って他の特捜検事から供述を取っているようであり、それをひっくり返すのは至難の業であろう。
それゆえ、結局は有罪になるのではないかと思う。
ただ、相変わらず、検察の描いた構図に沿って関係者の供述が取られるという捜査手法ではある。
2011年09月07日(水) |
安愚楽牧場の民事再生手続きが開始 |
日経(H23.9.7)社会面で、和牛オーナー制度が行き詰まった「安愚楽牧場」について、東京地裁は、民事再生手続き開始の決定をしたと報じていた。
しかし、安愚楽牧場は存続が不可能であり、民事再生手続きの中で清算していくとのことである。
となると、「再生」とはいえない。
それなのに、なぜ破産手続きにならなかったか。
もちろん、民事再生手続き開始の要件を充たしているから、裁判所は開始決定をしたのであろう。
しかし、、この民事再生手続きは、本来の「再生」の趣旨が外れ、経営陣の自己保身だけが透けて見える気がする。
日経(H23.9.6)夕刊で、所有する本を電子化する「自炊」の代行業者約100社に対し、作家や大手出版社が、作家の許諾なしで複製を代行するのは著作権法違反の懸念があるとして、連名で質問書を送ったと報じていた。
自炊代行業者とは、個人が所有する書籍を、代行業者が高速スキャンして電子ファイル化してくれるサービスである。
このサービスが著作権侵害になるか否かが議論されている。
自分でスキャンして電子ファイル化することは、私的使用の範囲内であるから適法である。
そうすると、自分でやれば適法なのだから、第三者に依頼しても、それは自分の行為の一部ゆえ適法というのが素直な考えかもしれない。
しかし、著作権法は、私的使用目的の場合には、「その使用する者が複製することができる」としている。
自炊業者は「使用する者」ではないから、自炊代行業は違法ということになる。
実質的にも、便利なサービスではあるが、高速スキャナーを買えば自分でもできる程度のことであるから、特段保護すべき対象とは思えないのであるが。
2011年09月05日(月) |
東電OL殺人事件 再審が開始されるか |
日経(H23.8.5)社会面で、東電OL殺人罪の再審請求審で、検察側が、被害者の胸から検出されていた、マイナリ受刑者とは異なる血液型の唾液などのDNA鑑定を検討しているという記事が載っていた。
受刑者と血液型が異なるのであるから、DNAも異なることは間違いない。
すでにマイナリ受刑者とは異なる第三者の体液が被害者の体内から検出されている。
したがって、被害者体内の体液と唾液のDNAが一致すると、事件現場での第三者がいた可能性はますます強くなるのではないか。
マスコミの論調も、再審無罪に備えてか少しずつ変わってきているように思う。
今後、再審が開始される可能性は高いのではないだろうか。
2011年09月02日(金) |
元本保証の投資話には乗らない方がいい |
経(H23.9.2)社会面に、「高配当をうたい、16億円を集金」という記事が載っていた。
新規株式公開への投資話で、元本保証と高配当を謳い、医師や自営業者など135人から約16億円を集めたそうである。
株式投資で元本保証などあるはずがないと思うのだが、このたぐいの被害は後を絶たない。
一人の被害平均は100万円少し。小金がある人なら、「この程度であればいいかと思う」のかもしれない。
しかし、金額の多少にかかわらず、元本保証の投資話には絶対乗らない方がいい。
2011年09月01日(木) |
司法修習生 「給費制」から「貸与制」に移行 |
日経(H23.9.1)社会面で、「法曹の養成に関するフォーラム」が、司法修習生に国が給与を支払う「給費制」から、「貸与制」に移行すべきとの検討結果をまとめたという記事が載っていた。
「貸与制になると低所得者が法曹になれなくなる」という意見もあり、日弁連は貸与制への移行に反対している。
ただ、基本貸与額月23万円、修習終了後5年間は返還不要。6年目から10年かけて無利息で返還という内容であり、これであれば返済は可能であろう。
財政難や世間の理解などを考えると、貸与制への移行はやむを得ないのではないだろうか。
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