今日の日経を題材に法律問題をコメント

2011年07月29日(金) 貴乃花親方への損害賠償額 50万円を減額

 日経(H23.7.29)社会面で、大相撲の貴乃花親方夫妻が「週刊新潮」の記事で名誉を傷つけられたとして、新潮社などに賠償等を求めた訴訟で、東京高裁は、計375万円の支払いを命じた一審判決を変更し、賠償額を325万円に減額したという記事が載っていた。


 一部の記事は「真実と信じるに足る相当な理由があった」と判断して賠償額を一審が認めた額から50万円を減らしたようである。


 減額した金額が50万円である根拠は何かと聞いても裁判官も答えられないであろうが、賠償額の算定とはそんなものである。



2011年07月28日(木) 有効票1票を無効と判断

 日経でなく朝日(H23.7.28)社会面で、東京都選挙管理委員会が、渋谷区議選で最下位当選した小柳政也氏の当選を無効とする決定をしたという記事が載っていた。


 1票差で落選した候補者の申し立てを受けて全投票を再点検した結果、小柳氏の有効票1票を無効と認定しためである。


 無効とされた票は、平仮名で「こやなぎしずお」と書かれており、投票所の記載台にはられた候補者一覧に小柳氏の隣に林志寿雄(しずお)氏の名前があり、両者を混同したようである。


 都選管は、「こやなぎしずお」という候補者は存在せず、「こやなぎまさや」という候補者と「こばやし しずお」の候補者がいるのであるから、どちらの候補者に投票したか分からないという理由で無効と判断したものと思われる。


 しかし、投票者の意思を探究すると別の考え方もできる。


 投票者は意識的に存在しない候補者を書いたのではなく、いずれかの候補者に投票する意思であったことは間違いないであろう。


 その場合、名前を間違うことはあっても、苗字を間違うことはあまり考えられない。


 例えば、投票者は、投票所に貼られた候補者一覧を見て「こやなぎ」という候補者に投票しようと思った。
 そこで、「こやなぎ」という苗字を書き、次に名前を書くためにもう一度候補者一覧をみたところ、間違って隣の候補者の名前を書いてしまったということはあり得る。


 この場合は、投票者の意思は「こやなぎ」候補者に投票するつもりだったと考えるべきであろう。


 いずれの考えも成り立ち得る。


 ただ、訴訟になった場合には、裁判官は、投票者の意思を探究し、「こやなぎ」候補者に投票したものとして、投票は有効と判断する気がする。



2011年07月26日(火) ここでも医師不足

 日経(H23.7.26)夕刊で、政府は、現在約11%にとどまっている遺体の解剖率を、5年後に20%まで引き上げることを目指すという記事が載っていた。


 これまで司法解剖や行政解剖の対象から漏れ、死因が犯罪によるものかどうか不明の遺体も解剖する新たな制度をつくる方針とのことである。


 問題は、全国に約170人しかいない解剖医をどのように増やすかである。


 ずいぶん以前に、大学での司法解剖に立ち会ったことがある。


 解剖医の方たちはプライドを持ってやっていたと思うが、医師の冗談半分の言動から、何となく日陰の身のような印象を受けたことを覚えている。


 実際、法医学の医師は、他の医師に比べて給与は低く、大学での地位もよくないという話がある。


 やはり、解剖医の待遇を改善をしないと解剖医が増えず、解剖率を上げることも困難であろう。



2011年07月25日(月) 更新料などを含めて実質的な賃料を表示する動き

 日経(H23.7.25)夕刊で、賃貸住宅で家賃以外に発生する敷金、礼金、共益費などのコストを分かりやすくする試みが、不動産仲介会社などで広がってきたという記事が載っていた。


 例えば、4年間居住した場合に掛かる費用として、賃料に敷金などの償却分、礼金、更新料、共益費などを加え、「賃料5万円」の表示だけでなく、「目安賃料5万6000円」と併記するのである。


 更新料の規定について、最高裁は原則として有効としたが、この最高裁判例は、消費者系弁護士に評判悪いことおびただしい。


 日経新聞さえも、社説で「最高裁判決には、釈然としないものを感じる」「賃料の補充であれば賃料を値上げするのが筋であろう」「誰もが納得できる明確で合理的な体系であるべきだ」と、最高裁に手厳しい批判をしている。


 ただ、「目安賃料5万6000円」などとして実質的な賃料を明記するようになれば、競争原理が働いて、次第に更新料や礼金がなくなり、すっきりした賃料体系になるかもしれない。



2011年07月22日(金) 東電OL殺人事件で新たな有力証拠

 日経(H23.7.22)社会面で、東電OL殺害事件で、第三者が犯行現場で被害者と性交渉をした可能性を示すDNA型鑑定結果が出たという記事が載っていた。


 この事件で、一審は、被告人のネパール人男性を無罪とし、その中で、「犯行現場には第三者の陰毛があり、第三者の犯行の可能性を否定できない」とした。


 これに対し、東京高裁は、「101号室には、犯行の前年に数名のネバール人が居住していたから、陰毛の存在は、第三者が101号室に入り込んで本件犯行に及んだ可能性があることにはならない。」と判断している。


 しかし、残された第三者の陰毛と、被害者の体内にある精液のDNAが一致したとなると、101号室には事件の直前に第三者がいて、被害者と性交したことは間違いないであろう。


 この事件にもともと被告人と犯行を結び付ける直接的な証拠がなく、状況証拠の積み重ねで有罪を認定している。


 そうすると、このような有力な証拠によって状況証拠の積み重ねが突き崩され、再審無罪となる可能性が高まったのではないかと思う。



2011年07月21日(木) 石川遼選手を無免許運転の疑いで書類送検

 日経でなく朝日ネットニュース(H23.7.21)面で、ゴルフの石川遼選手が国内では無効の国際免許で乗用車を運転していた問題で、埼玉県警は、道交法違反(無免許運転)の疑いでさいたま地検に書類送検したと報じていた。


 ところが、記事の後段では「海外で免許を取得しても、現地での滞在期間が3カ月未満だと、日本国内では無効となり、無免許運転になるが、石川選手はこの制度を知らず」「県警は石川選手側に故意はなかったと判断した」としていた。


 本当に県警が「故意がない」と判断したのであれば、無免許運転罪は成立しないから、「道交法違反の疑いで書類送検」というのは矛盾である。


 その点はともかく、現地滞在期間が3カ月未満だと、日本国内では海外免許は無効となることを知らなかった場合、無免許運転の故意がないことになるのか(故意の阻却)、それとも違法性の錯誤に過ぎず故意はあることになるのかという法律上の興味深い問題がある。


 もっとも、本件は悪質とはいえない事案であるから、検察官はそのような錯誤の問題には触れずに、起訴猶予処分にすると思うが。



2011年07月20日(水) 児童虐待 相談件数が過去最高

 日経(H23.7.20)夕刊で、2010年度に全国の児童相談所が対応した児童虐待に関する相談が、前年度比28.1%増の5万500件で過去最多と報じていた。


 厚労省は「社会の関心が今までになく深まった結果」と分析している。


 ただ、都道府県別でみると、大阪が7646件。次いで神奈川が7466件、東京4450件、埼玉3493件、千葉2958件であり、人口比から考えて神奈川の件数が多く、東京が少ないのが気になる。


 神奈川は福祉政策が進んでいる地域であり、それが相談件数の差にも反映しているのではないだろうか。


 逆にいえば、東京を初めとして、相談をすくい上げる体制がいまだ不十分と思われる。



2011年07月19日(火) FXの証拠金倍率上限が50倍から25倍に

 日経(H23.7.19)5面で、FXの証拠金倍率の上限が8月に50倍から25倍になり、規制が強化されるという記事が載っていた。


 しかし、規制を強化すると抜け道が考えられるのは世の常であり、法人口座を使ったり、海外FX業者を使って、100倍から500倍という高い証拠金倍率の取引を行う手口が紹介されている。


 もちろん、リスクを承知であればそれも仕方ないが、消費者被害が起こらないか心配である。



2011年07月15日(金) 最高裁が更新料は有効との判断

 日経(H23.7.15)ネットニュースで、更新料条項が無効かどうかが争われた事件で、最高裁は、「高額すぎるなどの特段の事情がない限り、更新料条項は有効」との初判断を示したと報じていた。


 この事案では、1年ごとの更新で更新料は2か月分と、更新料の金額がかなり高い事案であったが、それでも有効としている。


 それゆえ、「高額すぎるなどの特段の事情」が認められるケースは極めてまれということになるだろう。


 最高裁は、更新料の性格を論じた上で、経済的合理性があると断言しており、更新料に関する争いはこれで決着がついたと言える。


 興味深いのは、最高裁が、従前の賃借人保護一辺倒から、賃貸人の経済的利益を配慮するようになったことであり、この点は、大きな流れの変化といえる。



2011年07月14日(木) 弁護士所得400万円未満が12.2%

 日経(H23.7.14)社会面で、弁護士の平均年収は5年目で2千万円を超えるという記事が載っていた。


 しかし、これは収入であり、必要経費を除くと実際にはそれほどでもない。


 むしろ、6〜15年目で、所得が400万円未満が12.2%もあるのに驚いた。


 所得が少ないのは本人のせいともいえる。


 ただ、それが1割を超えるようでは、魅力ある職業とは言えず、優秀な人が集まらなくなるのではないかと心配する。



2011年07月13日(水) 賃貸人と賃借人が対等な関係になっている

 日経(H23.7.13)社会面で、関西地方などである敷金(保証金)から一定額を引き去る「敷引特約」が、消費者契約法に照らし無効か否かが争われた事件で、最高裁は、敷引特約は有効との判断を示した。


 一審、二審では「特約は無効」と判断していたが、これを覆したものである。


 有効とする理由は、賃借人が敷引特約があることを明確に認識した上で賃貸借契約の締結に至ったのであれば,それを無効とする必要はないというものである。


 ただ、その様に解する背景には、次のような地代認識があると思われる。


 現在では全住宅の15パーセント近くが空き家であって、建物の賃貸人は入居者の確保に努力を必要とする状況にある。

 そのため、賃貸人としては、毎月の賃料を低くして、代わりに権利金、礼金、敷引き特約などにより相当の収入を得ようとしたり、あるいは権利金などをなくし、代わりに賃料は高くするなど様々な工夫をしており、それには経済合理性がある。


 他方、賃借人も,賃貸借契約の締結に際し、様々な物件、賃貸条件の中から総合的に検討し選択することができる状態にある。


 このように、賃貸人と賃借人が対等な関係になってきているという時代認識がある。(田原補足意見ではこの点を明示している)


 そのような対等な関係であれば、敷引特約という契約内容を明示している以上、それを無効にする必要はないということになる。


 問題は少し異なるが、現在、更新料が有効かどうかが争われており、近々最高裁の判断が示されるようである。


 この点、前記のような賃貸人と賃借人が対等な関係になってきているという認識を前提とするならば、更新料もまた有効ということになりそうである。



2011年07月12日(火) 取り調べの可視化の流れは決まった

 日経(H23.7.12)の社説は「捜査・公判を根本から問え」という内容であった。


 その中で、「新時代の捜査や立証には、取り調べを録音・録画する可視化が不可欠だ。」としていた。


 検察や警察は、本音は取調べの可視化に反対であるが、もはや流れは決まったと言える。


 その大きな原因は、強引な取り調べが明らかになったということにある。


 ただ、それ以外に、可視化によってどのような弊害があるのかが立証できなかったということもあると思う。


 可視化反対論者は、可視化すると捜査に支障が出るというのであるが、どのような支障が出るのかを実証できていないと思う。


 今後は、取り調べの可視化を前提に、どこまで可視化するのかが争点になってきているといえる。



2011年07月11日(月) 法律家に必要な視点

 日経(H23.7.11)夕刊で、川崎市宮前区の無職女性(88)が次男を名乗る男らに現金1千万円をだまし取られたという記事が載っていた。


 この女性が銀行窓口で750万円を払い戻した際、金額が大きいため不審に思った行員が使い道を尋ねたが、電話の男に指示された通り「家で使うお金だから大丈夫」などと答えたとのことである。


 認知症だったのかもしれない。


 このような独居高齢者を保護するためには、法律家であれば、まず後見人の選任を考える。


 しかし、後見人が一緒に生活するわけではないので、振り込め詐欺のような被害を防ぐことは難しい。


 もちろん、後見人が選任されれば、財産は後見人が管理するので被害は防げるが、すべてが後見相当となるとは限らない(2011.7.21追記)


 このような被害を防ぐには、地域の人たちが見守るという地域福祉の視点が大切となる。


 つまり後見人の選任は一つの方法であるが、それだけでは解決しないのであり、法律家にも地域福祉の視点が必要であろうと思う。



2011年07月08日(金) 前資源エネルギー庁次長によるインサイダー取引疑惑

 日経(H23.7.8)社会面で、前資源エネルギー庁次長によるインサイダー取引疑惑の記事が載っていた。


 報道によれば、前次長はエルピーダの支援策決定に関与していながら、妻名義の口座を使ってエルピーダの株を売買していたとのことである。


 もっとも、前次長の代理人弁護士は、株売買の時点でエルピーダに関する情報は公知の事実となっており、インサイダー取引に当たらないと主張している。


 それが正しいかどうかは現時点でははっきりしないが、「李下に冠を正さず」であり、官僚としての責任は免れない。



2011年07月07日(木) 浜岡原発の訴訟

 日経(H23.7.6)社会面で、中部電力浜岡原発の運転差止請求訴訟が、東京高裁で約1年ぶりに開かれ、住民側が速やかな廃炉を求めたのに対し、中部電は安全性を主張したという記事が載っていた。
 
 この訴訟は、もともと一年前に結審となるはずであった。


 ところが、2009年8月の駿河湾地震により5号機が他の号機に比べて突出した揺れを観測したため、中部電力が、今後地下構造の追加調査を行った上で意見書を提出したいとしたため、裁判が延びていた。


 そうこうしているうちに東日本大地震が起きてしまった。


 現在、浜岡原発では応急的な津波対策を取っているので、それを待って裁判所は安全性を判断すると思われる。


 ただ、どのような対策があっても万全でないことが身にしみて分かった現在において、裁判所は「安全である」と判断を下すことができるのであろうか。



2011年07月05日(火) 土下座は効果があるのか

 日経(H23.7.5)社会面で、英国人英会話講師のリンゼイさんが遺体で見つかった事件の初公判で、殺人罪や強姦致死罪などに罪に問われている市橋被告がリンゼイさんの両親に、突然、土下座をしたという記事が載っていた。


 それを裁判員がどう思ったかは分からないが、裁判官はあまり快く思わないかったと思う。


 「パフォーマンスで刑が軽くなるのはかえって問題」「本当に反省しているのなら、それは自然とにじみ出る」と言えるし、そもそもそういったパフォーマンス自体にずるさを感じるからであろう。


 私の経験でも、被告人が最終弁論で、事前の打ち合わせなく突然土下座したことがあったが、裁判官は露骨に不快に顔をし、まったく効果はなかった。



2011年07月04日(月) 陸山会事件の裁判で、東京地裁が証拠請求を却下

 日経(H23.7.4)1面「春秋」欄で、陸山会事件の裁判で東京地裁が、検察側の主張を支える重要な供述調書の証拠採用をまとめて却下したことについて、検察官を皮肉たっぷりに批判していた。


 裁判官の基本的発想は、とりあえず証拠採用し、その上で真実かどうかを考えようというものである。


 そのため、証拠請求を却下するということはめったにしない。


 それが、特捜部の供述証拠を却下したのであるから、証拠請求についての裁判所の姿勢は変わったと言えるかもしれない。


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