今日の日経を題材に法律問題をコメント

2011年06月30日(木) だまし得?

 日経(H23.6.30)社会面で、青山学院幼稚園に裏口入園できると偽り、現金3500万円をだまし取ったとして、自称経営コンサルタントの男性を詐欺容疑が逮捕されたという記事が載っていた。


 この場合、騙された側は、騙した男性に3500万円の返還請求を求めても、それは原則として認められない。


 不法の原因のために給付した者は、その給付した物の返還を請求できない(不法原因給付)とされているからである。


 実質的な理由としては、返還請求を認めてしまうと、裏口入学を依頼する側は、うまく合格できれば目的が達成できるし、合格できなければ返せということができ、リスクがないことになる。

 そうすると、裏口入学の依頼が後を絶たないことになるからである。


 したがって、騙した側が得をするということになる。



2011年06月29日(水) 中国漁船衝突事件で、那覇地検が再び不起訴

 日経(H23.6.30)社会面で、尖閣諸島付近の中国漁船衝突事件で、検察審査会が起訴相当とした船長について、那覇地検は再び不起訴としたという記事が載っていた。


 船長は中国に帰っているので、不起訴はやむを得ないであろう。


 今後、検察審査会が再審査して、審査員11人のうち8人以上が起訴すべきだと判断すれば強制起訴となる。


 しかし、公判を開くことはできないから、事件はそのまま眠ってしまうということになるのだろう。



2011年06月28日(火) 携帯電話の特定が容易に

 日経(H23.6.28)4面で、総務省は、携帯電話一台一台に割り振られる「個体識別番号」を通信事業者に対して開示請求できるようにする方針という記事が載っていた。


 これまでは、携帯電話の発信者情報は、パソコンからの書き込みと異なり、IPアドレスと時刻だけであったため、書き込んだ人を1人に特定できず、被害を受けた人が泣き寝入りせざるを得ないことがあった。


 そこで、携帯電話からインターネット上の掲示板に個人のプライバシーや著作権を侵害するような不適切な書き込みがあった場合に、加害者を容易に特定できるようにするためである。

 
 望ましい措置とは思わないが、プライバシーや著作権を侵害する書き込みが横行している現状ではやむを得ないといえる。



2011年06月27日(月) 日本企業は「契約書を端から端まで読んでいない」のか

 日経(H23.6.27)24面「グローバル法務リスクに立ち向かう」というシンポジウムの記事で、榊原英資氏が、インドと比較して「日本ではよほどのことがない限り、契約書の端から端まで読むことがない」と述べていた。


 しかし、「よほどのことがない限り」というのは言い過ぎではないか。


 確かに、契約書をまったく読まないまま契約する会社は少なくない、というか中小企業では多数かもしれない。


 そして、後でトラブルになって、「え、そんなことを書いているのですか。」と言うのだが、そうなっても遅いことは言うまでもない。


 しかし、中には自ら契約書をチェックし、なおかつ顧問弁護士にもチェックしてもらっている会社や、自ら契約書を用意している会社もある。


 そして、そのような会社は業績もいいようである。



2011年06月24日(金) 病院側は真剣に調査するつもりがなかったのではないか

 日経(H23.6.24)社会面で、臓器提供者を探す見返りに、現金1千万円を仲介役の暴力団組員に支払ったとして、依頼した医師や暴力団組員を臓器移植法違反(臓器売買の禁止)などの疑いで逮捕したと報じていた。


 この医師は、最初のドナーとトラブルになり、その後、別のドナーと養子縁組をして移植を実現させている。


 病院では倫理委員会に開催して調査した上で手術を実施しているが、「臓器売買のための養子縁組とは分からなかった」と言っているようである。


 しかし、患者が受診した後に養子縁組をしており、誰が見ても怪しい。


 それゆえ、養親と養子をそれぞれ呼んで、別々に養子縁組までの事情を聞いたら、話は食い違うはずで、臓器移植のための養子縁組であることはすぐばれたであろう。


 結局、病院側は、真剣に調査する気がなかったということなのだろう。



2011年06月23日(木) 居眠りで裁判員を解任?

 日経(H23.6.23)夕刊面で、松戸市の女子大生殺害事件の裁判員裁判で、千葉地裁は男性裁判員の申し立てにより、この裁判員を解任したという記事が載っていた。


 千葉地裁は理由を明らかにしていないが、傍聴人は「毎回居眠りをしていた」と指摘している。


 被告人や被害者の家族はきちんと審理して欲しいという思いが強いはずであり、居眠りというのは許せないと思う。


 ただ、裁判官も居眠りしていることはある。


 だから裁判員も許されるというわけではないが、眠くならないように昼ごはんを少しにするとかの努力はして欲しいと思う。



2011年06月22日(水) 茶髪を黒く戻せという業務命令に従わなくてよいのか

 日経でなく朝日(H23.6.22)生活面で、法テラスのサイトで新社会人にクイズをしており、その中に「染めた髪を会社から戻すように言われた。戻さなきゃダメ?」というクイズがあり、正解は「従わなくてもよい」であるが、85%が間違っていた、という記事が載っていた。


 本当に「従わなくてよい」のだろうか。


 法テラスのサイトで解説を読んでみると、「職場の規律を守るという目的を達成するのに必要な範囲を超えた規制は許されない。具体的には,従事する仕事の内容,勤務先の職種などから,問題になっている服務規律の妥当性が判断される。」としている。


 とすると、仕事内容や職種によっては、茶髪を黒く戻せと言われたときに、従う必要がある場合もあるということになる。


 確かに、黒く戻せとの業務命令に従わなかった労働者を解雇したケースで、解雇を無効とした判例はある。


 しかし、それは解雇という最も厳しい処分であったし、取引先からの苦情もなかった事案である。


 一律に「従わなくてもよい」とは言えないだろう。こんなことを書いて大丈夫か、法テラス。



2011年06月21日(火) 意外と高い国が敗訴した割合

 日経(H23.6.21)社会面で、課税処分を不服として納税者が起こした訴訟で、2010年度に国が27件で敗訴し、計約1388億円の課税が取り消されたと報じていた。


 金額については、武富士創業者の長男に対する課税約1330億円が取り消しになったので大幅に増えている。


 件数については、国が敗訴した件数の割合は7.6%であり、最近10年間では2番目に低かったそうであるが、それでも結構高い割合である。


 課税に納得できず、それに一応の合理性がある場合には、訴訟覚悟で争うことも検討してもよいであろう。



2011年06月20日(月) 政治の制度設計を固定的に考える必要はない

 日経(H23.6.20)首都圏版で、地方自治法の改正が暗礁に乗り上げているという記事が載っていた。


 改正の一つは住民投票の法制化であり、投票結果に拘束力をもたす投票制度を新設する案である。


 これに対して、知事会が「議会制民主主義を基本とする自治制度と整合しない」と反発しており、専門家の間でも慎重な意見があるそうだ。


 確かに、憲法では、首長と議員を住民の直接選挙で選ぶとしているので、直接選挙で選ばれた首長と、議会制とのバランスによる地方自治の運営を考えている。


 それゆえ、住民投票は憲法の制度設計には含まれていないように思われる。


 しかし、憲法制定当時の制度設計を固定的にとらえる必要はないであろう。


 直接民主主義と、議会制民主主義のバランスのとり方には様々なパターンがあり、時代により考え方は変わるのであり、住民投票の結果に拘束力をもたらす制度が、憲法で定める地方自治の本旨に反するとは思われない。


 「住民が意思表示する機会をもっと増やすべきだ」という考えは普通であり、その考え方は尊重されるべきだと思う。



2011年06月17日(金) 東電に会社更生法の適用?

 日経(H23.6.1)17面コラム「大機 小機」で、 東京電力に会社更生法を適用すべきと論じていた。


 会社更生法が適用されれば、株主、債権者が損失を負担するとともに、経営者は退陣し、責任を明確に問うことができる。

 会社更生法を適用すると賠償金が不足するが、それは国に負担させ、首都圏の電力は、その重荷から解放された「新東電」が担う仕組みとすべきであり、このような簡明かつ合理的な法的処理が望ましいというのである。


 確かに、そのような考えもあり得る。


 しかし、現時点では会社更生法の適用は無理であろう。


 賠償額がいくらになるかが不確定であるため、会社更生の手続き開始要件を充たすかどうかが明らかでないからである。


 会社更生法の適用の議論はときどきなされているが、将来はともかく、いまの時点ではその可能性は少ないのではないか。



2011年06月16日(木) 三浦元社長の逮捕時の写真をネット掲載したヤフー・産経に賠償命令

 日経(H23.6.16)社会面で、米ロサンゼルス銃撃事件の三浦和義元社長の遺族が、過去の逮捕・連行時の写真を掲載され、精神的苦痛を受けたとして、ヤフーと配信元の産経新聞社に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は、両社に66万円の支払いを命じたと報じていた。


 三浦元社長が2008年に死亡した際、ヤフーは、産経新聞から配信を受けたニュース記事で、1985年に逮捕された三浦元社長の手錠姿の写真を掲載し、それが問題になった。


 判決は、「記事内容に照らしても85年当時の手錠姿を掲載するまでの必要性は認められない」と指摘し、遺族の感情を侵害すると認定した。

 
 ヤフーは「配信記事が第三者の権利を侵害しない旨、産経側が保証していた」と主張した。


 つまり、ヤフーは、「産経新聞を信用していたから責任はない」と反論したのであるが、通るはずがないし、裁判でもその主張は認められていない。


 今後は、配信を受けているネット会社は、報道をしているという自覚を持ち、自らも記事の内容をチェックする必要がある。


 もっとも、ヤフーとしては、産経新聞に損害賠償できるので、痛みを感じていないかもしれない。

 



2011年06月15日(水) 起立と斉唱を区別する視点は正しいが

 日経(H23.6.15)社会面で、式典で国旗へ向かっての起立と国歌斉唱を求めた校長の職務命令は、思想・良心の自由を保障する憲法に反するとして、東京都内の教員らが都に損害賠償などを求めた訴訟で、最高裁は、命令は合憲と判断し、原告側敗訴が確定したという記事が載っていた。


 ただ、田原裁判長が反対意見で「斉唱は声に出して歌うもので、起立よりも思想や信条の核心部分を侵害し得る」「起立と斉唱を区別した厳密な審理がされていない」として、差し戻して審理し直すべきだと述べている。


 起立と斉唱を区別する視点は正しいと思う。


 しかし、最高裁の大勢はもはや変わらない。


 起立と国歌斉唱を求めた校長の職務命令の合憲性について、裁判としては決着がついたといえるだろう。



2011年06月14日(火) 更新料について最高裁が判断

 日経でなくNHKネットニュース(H23.6.14)で、賃貸契約を更新する際に支払う「更新料」が違法かどうかが争われている裁判の弁論が最高裁判所で開かれると報じていた。


 弁論を開くということは、最高裁としての判断を示すということである。


 更新料が必要な賃貸住宅は全国で100万戸を超えるとみられ、最高裁の判断は大きな影響を与えるであろう。


 弁護士の中には、過払い金返還請求の後は、更新料返還請求だと言う人がいる。


 しかし、最高裁の最近の類似判例を見ると、「契約で明記している以上、更新料は有効」と判断するのではないだろうか。


 判決は6月15日のようであり、その判断に注目したい。



2011年06月10日(金) 被害者による被告人質問

 日経(H23.6.10)社会面で、JR福知山線脱線事故で業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本前社長の公判において、被害者による被告人質問が行われたという記事が載っていた。


 これは被害者参加制度に基づくもので、裁判所が相当と判断した場合には認められることになっている。


 被害者保護が強く叫ばれる中でできた制度であるが、しかし被告人質問まで認めるのは行き過ぎではないかと思っている。


 被害者が被告人質問すると、事実を明らかにするということが疎かになり、どうしても責任追及だけが前面にでてしまう。


 もちろん、被害者の保護は重要である。ただ、被害感情を、被告人質問をもって慰藉するかのような制度はいかがなものかと思っている。



2011年06月09日(木) 書面主義は悪いのだろうか

 日経(H23.6.9)夕刊で、最高裁長官が、裁判員について「書面主義に近い運用が広がりつつある」と懸念を示したという記事が載っていた。


 確かに、刑事訴訟法の理念は、直接主義、口頭主義だから、書面主義は否定されるべきということになる。


 弁護士会も、書面主義は問題であるという価値観である。


 しかし、書面主義は悪いのだろうか。


 直接主義、口頭主義を徹底すると、どうしても審理できる証拠の量が限定されてしまう。


 そのため適正な判断ができなくなる恐れがあると思うのである。


 それゆえ、「書面主義に近い運用が広がりつつある」としても、それを一概に否定はできないのではないだろうか。


 このような考えは検察庁の価値観ではあるのだが。



2011年06月07日(火) 東電が支払う損害賠償金などを差押禁止財産に

 日経(H23.6.7)1面で、政府・民主党は、東日本大震災の被災者について、財産差し押さえの対象から、東京電力が支払う損害賠償金、各自治体が遺族に支払う災害弔慰金、義援金、生活再建支援金、損害賠償金などを差し押さえから除外する方針を固めたと報じていた。


 また、遺族が借金など「負の遺産」の相続を決める期間を延長する特例措置も設けるそうである。


 あまり法適用の平等などには配慮せず、このような措置はさっさと決めて実施すべきであろう。


 ただ、この措置で注意しないといけないのは、差押禁止財産であっても、いったん銀行口座に振り込まれてしまえば、金銭に色が付いていないので単なる預金となり、差押禁止財産とならず、差し押さえられてしまうおそれがあるということである。


 そのため、被災者の方々に、そのことを十分周知しておく必要があるだろう。



2011年06月06日(月) ゼロワン地区の解消

 日経でなく朝日(H23.6.6)社会面トップで、弁護士がゼロまたは一人のゼロワン地区が今年中になくなる見込みという記事が載っていた。


 法律家の専門家が身近にいるということは心強いことであり、弁護士過疎地が解消されるのは大変素晴らしいことだと思う。


 医師の場合には過疎地に行けば相当な高給で迎えられるが、弁護士は事務所を紹介してくれる程度である。


 しかも、弁護士の客は縁故で増えていくのが普通だから、あちこちと旅ガラスのように行けない。


 ゼロワン地区でも、現在は多重債務者の事件処理が多数あるが、この種の事件は次第になるなるから、今後の事務所維持に不安を持っている弁護士は多いと聞く。


 そういうハンディがある中でゼロワン地区に赴任する弁護士は頑張っているなあと思う。



2011年06月03日(金) 法科大学院の入学者が4人とは

 日経(H23.6.3)社会面で、法科大学院73校のうち59校で2011年度の入学者が定員を下回わり、京都産業大、大阪学院大、愛知学院大、中京大は入学者4人だったそうである。


 これでは法科大学院の制度は破たんしていると言わざるを得ない。


 その原因はいろいろあるのだろうが、いずれにせよ4人しか入学しない大学院では教育できるはずがない。


 これらの法科大学院は退場するしかないのではないか。



2011年06月02日(木) 足利事件 弁護活動にも問題

 日経(H23.6.2)社会面に、菅家利和さんが再審無罪判決となった「足利事件」について、日弁連が調査報告書を公表したという記事が載っていた。


  その報告書では、弁護活動にも問題があったとの見方を示しており、一審の弁護人は、接見は1回10分程度、公判での被告人質問について事前に打ち合わせをせず、さらには菅家さんが否認に転じたことに不快感を示すなどしたそうである。


 これはひどい。


 接見時間は長ければいいというものではないが、10分ではあいさつ程度しかできない。


 しかも、被告人が否認に転じたら不快感を示すとは。
 記者団の前で被告人に不快感を示したといわれているが、そのことを指しているのだろうか。

 いずれにせよ、この方には刑事弁護は遠慮していただいた方がよいのではないか。


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