今日の日経を題材に法律問題をコメント

2011年05月31日(火) 最高裁 卒業式の起立斉唱の職務命令は合憲と判断

 日経(H23.2.1)社会面で、卒業式で教職員に国旗に向かって起立し国歌を斉唱することを指示した職務命令が、思想・良心の自由を定めた憲法19条に反するかどうかが争われた訴訟で、最高裁は、「命令には必要性、合理性がある」として合憲とする初判断を示したと報じていた。


 この種の事件は各地で多数争われており、その影響は大きいが、これまでの最高裁判例からして予想されていた結論である。


 ただ、今回の最高裁の判例により、思想良心の自由との関係をより明確にしたと評価できるのではないだろうか。


 すなわち、最高裁は、特定の思想であっても、それが外部的行動として現れた場合には制限を受けることがあるとしたうえで,その制限が必要かつ合理的なものである場合には,外部的行動を制限した結果、思想、良心が制約(間接的制約)されることになったとしても許容されるとした。

 
 これまで思想、良心は絶対的に自由であるというドグマにとらわれ、思想、良心の自由に反しないという理由づけがややあいまいだったが、それが整理されたように思う。



2011年05月30日(月) 発信者情報の開示基準

 日経(H23.5.30)社会面で、タレントの麻木久仁子氏が「2ちゃんねる」の書き込みで名誉を傷付けられたとして、プロバイダーに発信者の名前と住所、メールアドレスの開示を求めた訴訟で、静岡地裁浜松支部は請求通り開示を命じたという記事が載っていた。


 麻木氏は、プロバイダーに発信者の情報開示を求めていたが、同社は「書き込みが名誉毀損かどうか判断できず、裁判所に判断を委ねた」とのことである。


 プロバイダー自らが、書き込みが名誉棄損かどうかを判断して、発信者の情報開示の可否を決めることはリスクが伴う。


 それゆえ、ガイドラインでも、「名誉毀損が明白な場合を除き、判断に疑義があれば、裁判所の判断に基づき開示を行うことを原則とする」としている。


 しかし、開示請求する側としては、裁判まで余儀なくされるわけであり、その負担は大きい。


 思うに、プロバイダー責任制限法における開示基準について、「開示について発信者から意見を求めた際に、回答がない場合には、開示に理由があるとみなすことができる」とするなど、もう少し、開示できるかどうかの判断をしやすくしたほうがよいのではないだろうか。



2011年05月27日(金) 深谷市市議を処分保留で釈放

 日経(H23.5.27)夕刊で、深谷市議選で支持者を飲食接待したとして、公選法違反の疑いで逮捕された市議と妻について、さいたま地検は処分保留で釈放する方針という記事が載っていた。


 この事件では、「支持者が会費を払ったのに『払っていない』との供述調書に署名させられた」として問題になっていた。


 ただ、会費は3000円だったが、実際の飲食代は4900円で差額は候補者が支払ったという報道もあり、そうであれば、やはり公職選挙法に違反するのではないかと思うのだが。


 さいたま地検は、いったん処分保留で釈放したうえで再捜査するつもりかもしれない。



2011年05月26日(木) 君が代斉唱時に起立を義務付ける条例

 日経(H23.5.25)社会面で、大阪府の地域政党「大阪維新の会」府議団が、府内の小中高校などの教職員に対し、君が代斉唱時に起立することを義務付ける条例案を提出したという記事が載っていた。


 維新の会は府議会で過半数を占めており、条例案は可決する見通しとのことである。


 しかし、君が代斉唱時に起立を義務付けることは、憲法で保障する思想良心の自由を侵害するのではないかということが議論されている。


 この点について、入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏を内容とする校長からの職務命令に従わなかったとして、東京都教育委員会から戒告処分を受けた事件について、最高裁は、本件職務命令は憲法19条に違反しないと判断している。


 その理由として、「君が代」のピアノ伴奏をするという行為自体は、特定の思想を有するということを外部に表明する行為であると評価することができないとしている。(それ以外の理由も挙げているが)


 この考えからすると、大阪府の条例案は、君が代斉唱時に起立することを強制するだけで、歌うことの強制までではないので、特定の思想を有することを外部に表明する行為とまでは言えず、思想良心の自由を侵害するものではないといえそうである。
 



2011年05月25日(水) 大阪地裁が最高裁の判断を覆し、再び無罪判決

 日経(H23.5.25)社会面で、配下の暴力団組員に拳銃を持たせたとして銃刀法違反の罪に問われ、最高裁が一、二審の無罪判決を破棄した元山口組幹部の差し戻し審判決で、大阪地裁は、改めて無罪を言い渡したと報じていた。


 裁判所法4条では、上級審での判断は、その事件について下級審裁判所を拘束するとされている。


 しかし、大阪地裁は、新たな証拠調べをしたから証拠関係が異なっているので、最高裁の判断に拘束されないとして無罪を言い渡した。


 もともと1、2審では無罪であったから、最高裁の判断の方に無理があったということになりそうである。


 最高裁も万能ではないので、このようなこともあり得るだろう。



2011年05月23日(月) 二重ローンの回避を

 日経(H23.5.23)16面で、日弁連が、東日本大震災の被災者の二重ローンを免除せよと提言しているという記事が載っていた。


 記事の中で、宇都宮日弁連会長は「被災者が、再建のためローンを組んでも、二重ローンを背負うのでは立ち直る希望が見えない。思い切って既存債務をゼロにして、マイナスではなく、せめてゼロからのスタートとすべき。」と訴えていた。


 震災の法律相談でも二重ローンの問題が多い。


 しかし、現在の法律の枠組みではローン免除は難しく、それだけに、二重ローンの回避を法律で手当てする必要がある。


 仕組みについてはいろいろと提案されているが、最終的には国民全体で負担するしかないだろうと思う。



2011年05月20日(金) 個々の情報が公開されていてもプライバシー侵害になる

 日経でなく、ネットニュース(H23.5.20)で、アディダスの社員が、ツイッターで、来店したJリーガーと家族の悪口を書いたとして、アディダス社が公式サイトで謝罪し、選手にも直接謝罪したと報じていた。


 当然、書いた社員は懲戒処分の対象となるだろう。


 ただ、問題は、それがきっかけで、ツイッターに書き込んだ社員のプライバシーが徹底的に暴かれたことである。


 暴かれた情報のほとんどはインターネット上の情報のようである。


 その場合、インターネット上の情報は公開されているので、プライバシー侵害にならないかというと、そうではない。


 たとえ個々の情報は公開されていたとしても、それを寄せ集めて一つの情報とした場合にはプライバシーの侵害となる可能性は高い。


 もっとも、すべて匿名ゆえ、プライバシー侵害を追及することは難しい。



2011年05月19日(木) 福島第一原発の事故で、東京簡裁に訴訟

 日経でなく朝日(H23.5.19)夕刊で、福島第一原発の事故で精神的苦痛を受けたとして、東京電力に慰謝料を求める訴訟が東京簡裁に起こされていたという記事が載っていた。


 東電側は事故について「今回の震災は異常で巨大な天災地変で、対策を講じる義務があったとはいえない」と反論したそうであり、裁判では、東電の地震や津波の対策が不十分だったのか、天災でやむを得なかったのかという大問題が争点となっている。


 そうだとすれば、簡易裁判所でなく、地方裁判所で裁判官3人の合議体で扱うべき事件であろう。


 もっとも、原告は東京都内に住む男性であり、「事故により極度の不安感、恐怖感を受けた」として10万円の慰謝料請求をしている事案であり、請求が認められる可能性はほとんどない。


 それゆえ、簡易裁判所の裁判官は、「この程度の事件なら自分ひとりで十分判断できる」と考えたのかもしれない。



2011年05月18日(水) 家具についてのホルムアルデヒドなどの規制

 日経(H23.5.18)社会面で、東京都がインターネット通販の収納家具を調べたところ、2割から国の指針値を超える濃度の有害物質ホルムアルデヒドが空気中から検出されたという記事が載っていた。


 ホルムアルデヒドなどによる健康被害については、以前から問題になっており、住宅を購入した人が健康被害にあい、裁判を起こした事例もいくつかある。


 そのため、規制も次第に厳しくなっているが、家具については建築基準法に基づく規制の対象外である。(造り付けの家具は規制の対象)


 ただ、住宅と違い、家具の場合には最悪廃棄すればよいので、裁判にまではなっていないようである。


 しかし、健康被害という点では同じであり、何らかの規制が必要ではないだろうか。



2011年05月17日(火) 最高裁が「震災センター」の設置を検討

 日経(H23.5.17)社会面で、最高裁が、東日本大震災を原因とする紛争について、震災関連事件を専門に扱う「震災センター」を設置し、専従の裁判官や書記官を新たに配置して集中して処理する方針と報じていた。


 阪神大震災でも、神戸地裁・神戸簡裁に「震災事件処理対策センター」が設置されており、その経験も生かし、迅速な処理が望まれる。


 もちろん、震災という事情があるとはいえ、裁判では証拠を軽視できないから、判決までとなるとある程度長期化する。


 しかし、話し合いで解決する民事調停という手続きもあるし、訴訟でも和解があるので、それを積極的に利用して早期に処理することが可能である。


 震災の場合、隣同士での紛争となることも多く、裁判となると遠慮する可能性もある。以前別の震災で現地で法律相談をしたときも、それは感じた。


 しかし、震災ではみんなが被害者であり、天災によって生じた紛争について第三者が入って解決する制度と割り切って、積極的に裁判制度を利用した方がよいと思う。



2011年05月16日(月) 司法試験予備試験が始まる

 日経(H23.5.16)社会面で、法科大学院修了者以外にも新司法試験の受験資格を与える司法試験予備試験が始まったという記事が載っていた。


 この予備試験制度は、経済的な理由で法科大学院に通えない人に受験機会を確保するために導入されたものである。


 しかし、「経済的な理由で法科大学院に通えない人」といっても、所得制限はできない。


 そうすると、結局は、法科大学院に入学しなくても司法試験に合格するような優秀な人が合格すると思われる。


 その場合、飛び級のようになり、優秀な人にとっては大変なメリットになるが、本来の趣旨からは外れることになる。


 試験制度というのはいじればいじるほど、複雑になり、当初の理念から遠ざかっていく傾向がある。


 試験である以上、受験対策は必ず出てくるし、それは防ぎようがないのであるから、あまり制度をいじらないほうがよかったのではないだろうか。



2011年05月13日(金) 死刑囚の面会の際の写真を掲載

 日経(H23.5.13)社会面で、写真週刊誌「フライデー」が、男性4人が殺害された連続リンチ殺人事件で死刑が確定した死刑囚と名古屋拘置所で面会した際の写真を掲載したという記事が載っていた。


 写真には死刑囚が涙をぬぐう様子などが写っているそうである。


 面会には刑務官が立ち会うから、当然、隠し撮りであろう。


 しかし、そのような写真を撮る目的がよく分からない。


 記事は死刑執行に批判的な内容とのことであるが、死刑存続の有無は、死刑囚の涙をぬぐう様子によって左右されるものではないであろう。



2011年05月12日(木) あたご衝突事件で2士官に無罪判決

 日経(H23.5.12)社会面で、「あたご」衝突事件で2士官に無罪判決がなされた判決の続報が載っていた。


 裁判所が独自に清徳丸の航跡を特定して、清徳丸側に回避義務があったとしたことについて、捜査当局や防衛省の関係者らに戸惑いが広がっているとのことである。

 
 もともと、検察官の起訴自体が、海の上での目撃証言から、果たして航跡を特定できるのだろうかという疑問があった。


 それゆえ、裁判所は、検察官の主張を否定して無罪とすることもあり得るとは思っていた。


 しかし、裁判所が自ら航跡を特定するとまでは思わなかった。


 報道された判決内容によると、裁判所はずいぶん詳しく航跡を特定しているが、控訴審で耐えられるだけの判断なのだろうか。



2011年05月11日(水) 社員のツイッターなどの書き込みに、ガイドラインを策定

 日経(H23.5.11)夕刊で、ツイッターなどでの社員の個人的な書き込みについて、企業が具体的なガイドラインを策定する動きが広がってきたという記事が載っていた。


 そのような動きの背景には、従業員の書き込みで問題が生じたケースがいくつもあるからである。


 例えば、高級レストランの従業員がツイッターに、店に訪れた有名人のことを書いてトラブルに発展してしまったことがある。


 それゆえ、会社側としては一定の規制をしておく必要がある。


 たとえ業務時間外であっても、従業員としての守秘義務はあるから、それに反することを書いてはいけないことは当然である。


 しかし、いったん書かれてしまうと、それを元に戻すことはできないし、従業員の監督が不十分であるとして会社の責任を問われかねない。


 それゆえ、会社側として一定の内容の書き込みを制限することは必要であるし、それは許されるであろう。


 問題は、どのように制限するかであるが、従業員が何をしてはいけないかが理解できるように、できるだけ具体的にしておくべきである。


 そのうえで重要なことは、それを従業員に周知しておくこと、及び、周知したことを記録に残しておくことである。



2011年05月10日(火) 米裁判所 日本人元妻に約4億8900万円の賠償を命じる

 日経(H23.5.10)夕刊で、離婚した日本人の妻に対し、アメリカ人の元夫がテネシー州で損害賠償などを求めた民事訴訟で、裁判所は、子供たちとの定期的な面会を定めた離婚時の合意に反したなどとして、元妻に約4億8900万円の支払いを命じたと報じていた。


 日本の裁判所では、離婚条件を守らなかったという理由で5億円近い損害賠償を認めることは絶対にあり得ない。


 法制度や文化な違いというしかない。


 ところで、この事件は複雑で、アメリカ人の元夫は、「元妻が、無断で子供を日本に連れ帰った」と主張して、日本にまで来て子供2人を取り戻そうとした。


 ところが、警察は、元夫を未成年者略取容疑で逮捕するという事態になった(その後、起訴猶予になったが。)。


 国際結婚が破綻した夫婦の一方が、無断で子供を日本に連れ帰る事例はいつくか報告されており、アメリカなどからそれを問題視され、「ハーグ条約」の批准を迫られている。


 ハーグ条約というのは、片方の親によって一方的に国外に連れ去られた場合は、定住国に戻すことを定めるものであり、日本は前向きに検討するとしつつ、いまだ批准に至っていない。


 ケースによっては夫のDVから逃げるということもあるとは思うが、それは個別事情として解決すべきであろう。


 日本国内で、夫婦の一方が勝手に子どもを連れていくことはときどきあるが、強引に連れていった方が有利になることはなく、裁判所は、どちらの親の下で育てるのが子どもの福祉に適うかを総合的に判断する。


 国外の場合も同じで、強引に連れ去った方が得をするというのは問題であろう。


 日本は、早期に条約の批准を図るべきではないだろうか。



2011年05月09日(月) 風評被害の前向きに対応

 日経(H23.5.9)2面で、菅直人首相が、福島第1原発事故の風評被害について、「責任があるものはちゃんと補償すべきだ」と述べ、前向きに対応する考えを示したと報じていた。


 今回の風評被害が原発事故に起因することは明らかである。それゆえ、菅総理の「ちゃんと補償すべき」というのは当然の判断であろう。


 しかし、法律上は簡単ではない。


 というのは、もともと原子力損害賠償法では、風評被害は損害賠償の対象と考えていなかったと思われるからである。


 すなわち、原子力損害賠償法での賠償の対象を、核燃料物質の原子核分裂の過程の作用、又は、核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)によって生じた損害としている。


 「放射線の作用によって生じた損害」という文言からすると、立法者は「風評被害」までは想定していないと思われる。


 もっとも、原子力損害賠償法の適用がないとしても、一般の不法行為責任を問うことはあり得る。


 しかし、その場合には相当因果関係の有無が問題になってくる。(原子力損害賠償法が適用される場合でも問題になるが)


 原発事故と風評被害についてはいくつかの裁判例があるが、多くは相当因果関係を否定している。


 したがって、風評被害については特別立法をつくって対応するのが一番すっきりすると思う。


 なお、風評被害も賠償(補償)されるとしても、被害に遭った人たちは、それを待つだけでなく、例えば農家の人であれば、これまでの出荷の記録、取引できなかった事実などが客観的に明らかになるような証拠を自ら保存しておくことが望まれる。



2011年05月06日(金) 焼肉チェーン店の集団食中毒事件

 日経(H23.5.5)夕刊で、焼き肉チェーン店で発生した集団食中毒で、チェーン店を運営する会社や店舗、食肉卸業者などを業務上過失致死傷容疑で家宅捜索したと報じていた。


 報道からすれば、会社経営者などに業務上過失致死傷が成立するのは間違いないであろう。


 ただ、厚労省が定める生食用食肉の衛生基準では、「加工等基準目標」という表記の仕方であり、基準がかなりあいまいである。


 通常の語感だと、『目標』というのはある地点・水準を目指すわけで、一定の基準を定めるものではないように思う。


 これでは、報道されているような「衛生基準には罰則がない」というレベルではなく、そもそも基準がないのと同じではないのだろうか。


 被害者からすれば、「国に責任はないのか」と言いたいところであろう。



2011年05月02日(月) 自転車通勤は安易に認めないほうがよい

 日経(H23.5.2)夕刊で、東日本大震災後、電車のダイヤが乱れた首都圏で、自転車通勤を始めた人が増えているという記事が載っていた。


 しかし、会社側からみると、安易な自転車通勤を認めるのは危険である。


 通勤途上の事故で相手にけがを負わせた場合、会社の責任となる可能性が高いが、自転車は保険に入っていないことが多いからである。


 自転車通勤を認める場合には、保険の加入を義務付けるべきであろう。


 なお、事故があった場合、「会社としては、自転車通勤していることは知りませんでした」という言い訳は通らないであろう。知らないはずがないからである。


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