今日の日経を題材に法律問題をコメント

2009年11月30日(月) 企業年金の減額

 日経(H21.11.30)5面で、企業年金について論じていた。


 NTTが厚労省を訴えた裁判で、東京地裁は「減額が許されるのは、経営悪化などにより企業年金を廃止する事態が迫っている場合」と年金減額について非常に厳しい判断をした。


 これについて、論説記事では「これだと年金制度の持続性を高めるために予め手を打つことができない」と批判をしていた。


 そのとおりかもしれない。


 ただ、企業年金が賃金の後払い的性格をも有していることを考慮すると、裁判所は、経営悪化の予想だけで年金の減額を認めことはしないだろうと思う。



2009年11月27日(金) 東京高裁は痴漢行為を否定

 日経(H21.11.27)社会面に、痴漢行為で逮捕されたが不起訴となり、逮捕された男性が、被害を訴えた女性に対し損害賠償を請求した事件で、東京高裁は、痴漢行為を否定したが、損害賠償は認めなかったと報じていた。


 1、2審は、痴漢行為があったことを理由に、男性の損害賠償請求を認めなかった。


 しかし、最高裁は「当時、女性と携帯電話で話していた知人を証人尋問しておらず、審理を尽くしていない」として差し戻していたものである。


 裁判官は、一般に証人尋問をやりたがらない傾向にあり、それが1、2審の痴漢行為を肯定する結果につながったのだろう。


 ところが、携帯電話で話していた知人を証人尋問したところ、痴漢行為が否定されたというのだから、痴漢行為があったと認定した1、2審の責任は重いと思う。



2009年11月26日(木) 元局長が5か月ぶりに保釈

 日経(H21.11.26)社会面に、郵便割引制度の悪用事件で、厚労省の元局長が記者会見で「偽装指示は一切ない」として、改めて無罪主張したという記事が小さく載っていた。


 記者会見は、保釈されたことを受けた開かられたものである。


 元局長は、事件を全面否認していたため、長く保釈が認められず、5か月ぶりにようやく保釈された。


 いまだに裁判所は、否認すると保釈をなかなか認めない傾向があり、問題であろうと思う。



2009年11月25日(水) 大手法律事務所は「陣容拡大」?

 日経(H21.11.25)夕刊1面で、「法律事務所が陣容拡大 4年で1.6倍、1500人に」という記事が載っていた。


 この時期にどういう意図で1面に掲載したのか分からないが、記事とは逆に、大手法律事務所の「陣容拡大」路線はストップしていると聞いている。


 リーマンショック以後、依頼案件が激減しているそうであり、大手法律事務所は、以前のような修習生の大量採用を控えているようである。


 そのため、従来であれば大手法律事務所に入っていた修習生が、中堅法律事務所に入所するようになった。


 その結果、玉突き式に、就職できない修習生が増えることが懸念されているのである。



2009年11月24日(火) 逮捕の必要性まであったのだろうか

 日経(H21.11.24)社会面で、県警幹部が酒気帯びで現行犯逮捕されたという記事が載っていた。


 県警幹部が酒気帯び運転したことは極めて問題であるが、はたして逮捕の必要性があったのだろうか。


 事故を起こしたのは午前10時、飲酒したのはその前日である。


 しかも、人身事故ではない。


 事実も認めているようである。


 現行犯逮捕の場合、逮捕の必要性は一般に推定されるから、逮捕が違法とまではいえない。


 しかし、酒気帯びや飲酒運転だと何でも逮捕という運用は問題ではないかと思う。



2009年11月20日(金) 市橋容疑者に対する取り調べ

 日経(H21.11.20)社会面で、英会話講師の英国人女性の死体遺棄容疑で逮捕された市橋容疑者の弁護団が、「不当な取り調べが行われている可能性がある」と発表したという記事が載っていた。


 市橋容疑者は「(検察官の取り調べの際)『このまま黙っているなら、親が死刑になるべきだ』と言われた。」と言ったそうである。


 検察官が本当にその言葉通り言ったかどうかは分からない。


 ただ、検察官には、市橋容疑者がこのまま黙秘すると、殺人罪での起訴が難しいかも分からないという危惧はあると思う。


 そのようなあせりが、脅迫的な取り調べにつながっている可能性はある。



2009年11月19日(木) 最高裁が政令を違憲と判断

 日経(H21.11.19)社会面で、高知県東洋町の町議に対するリコール請求の署名の効力が争われた訴訟で、最高裁大法廷は、住民側の請求を棄却した一審判決を破棄し、署名を有効と判断したと報じていた。


 最高裁は、かつて「農業委員が代表者となった署名は無効」としていたが、これを見直したものである。


 政令では、公務員がリコール請求の代表者になることを禁じている。


 しかし、最高裁は、地方自治法がリコールについて請求と投票の2段階に分けて規定を設けていることを挙げ、「公務員が請求代表者になることの禁止は投票段階にだけ適用される。施行令が請求段階について規定することは許されず、請求代表者の資格制限部分は無効」とした。


 この判決には少数意見があり、「リコールの代表者に公務員が就けば、地位を利用して住民の投票に不当な影響を及ぼす恐れがある」としている。


 しかし、本件で問題になったのは「農業委員」が代表者の一人になっていたというだけであり、不当な影響を及ぼす恐れはなかったと思われる。


 最高裁は、法律の解釈によって政令を違憲とすることによりリコール請求を有効と判断したのであるが、いずれにせよ、リコール請求が無効とすべき事案ではなかったと思う。



2009年11月18日(水) 彼我の差が開いていく

 日経(H21.11.18)社会面で、最高裁が、裁判員になった人からのアンケート結果を公表したという記事が載っていた。


 その中で、検察官の説明が分かりやすかったという回答は、約85%であるのに対し、弁護士の説明が分かりやすかったとの回答は約66%にとどまっていた。


 検察官は「プレゼン用ソフトで説明があったが、弁護側は文章が多かった」という意見もあったそうである。


 予想通りの結果だろうと思う。


 しかも、検察庁は、組織であるからノウハウが積み重なっていくが、弁護側は個人で対応するので、ますます差が開くのではないか。


 弁護側の努力が足りないという反省はすべきであるが、なかなか難しいと思う。



2009年11月17日(火) 「もの真似ビジネスが横行」と書いて300万円の賠償命令

 日経(H21.11.17)社会面に、ワタミ会長が、著書で「魚民」側の社会評価を低下させたとして、東京地裁は名誉棄損を認め、300万円の支払いを命じたと報じていた。


 ワタミ会長が著書で「『和民』をつくったら『○民』が出てくる」「もの真似ビジネスが横行」などと書いたことが問題になった。


 私の感覚からして、この程度で300万円もの賠償義務があるのだろうかと思うのだが。


 ただ、両社は、以前、看板使用を巡って訴訟となり、「双方が誹謗中傷しない」として和解した経緯があり、それが考慮されたのかもしれない。



2009年11月16日(月) プリンスホテルの主張も経営判断としてはあり得る?

 日経(H21.11.16)17面で、日教組の予約取り消しでプリンスホテルが敗訴した事件について書いていた。


 記事の最後は、「あなたが利用者か、ホテル経営者ならどうしますか」と結んでおり、論調は、「ホテルの主張も、経営判断としてあり得る」と言っているように読めた。


 しかし、ホテルの使用を認める仮処分を無視したプリンスホテルの経営判断に一応の言い分があるとは到底思えない。


 ホテルの使用を認めなかった結果、プリンスホテルは、2億9000万円の損害賠償の支払いと全国紙への謝罪広告を命じられており(控訴中)、この判決が確定すれば、仮処分決定を無視した結果、ホテルは多大な損害を被ることになる。


 しかも、裁判所がそのような判断をすることは予想できたことである。


 仮処分決定を無視したプリンスホテルの判断は、経済合理性の見地からも判断を誤ったというしかない。



2009年11月13日(金) TBSの社員が公務執行妨害で逮捕

 日経(H21.11.13)社会面で、英会話講師の遺体遺棄容疑で逮捕された市橋容疑者の続報が載っていた。


 この事件で、昨日、市橋容疑者が行徳警察署から千葉地検に押送された際に、TBSの社員が公務執行妨害で逮捕されているのであるが、それについてはほとんど報じていない。


 取材中に公務執行妨害で逮捕されたのだから、マスコミは大騒ぎするのかと思ったが、あまりの取材マナーの悪さに、何も言えなくなったのだろうか。


 確かに、大阪で逮捕した市橋容疑者を新幹線に乗せる際のマスコミの取材が放映されていたが、マナーの悪さは目に余る。


 逮捕されたTBSの社員は、護送される車に突進し、中の様子をビデオで撮ろうとしたようであるが、規制を突破してまで市橋容疑者の車の中の様子を撮る必要性はないだろう。


 そうはいっても、警察は、逮捕する必要まであったのだろうか。


 警察は警察官に暴行を加えたと発表しているが、報道されている何枚かの写真で見る限り、積極的に暴行を加えた様子は窺えない。


 取材行為の中でのことであることを考えると、公務執行妨害容疑での逮捕というのはバランスが取れていないのではないか。


 マスコミは、あまりにも傍若無人な取材態度はきちんと反省した上で、公務執行妨害容疑で逮捕したことについては批判すべきではないだろうか。


 少なくとも、TBSを始めとして、マスコミはこの事件についての自己の見解を明らかにすべきであり、黙殺している態度というのは理解しがたい。



2009年11月12日(木) 弁護士は印紙税に弱い

 日経(H21.11.12)1面下の広告欄に「弁護士のための租税法」という本を広告していた。


 弁護士の中には「税法は専門外なので」と言う人もいるが、それはだめである。


 裁判で和解する場合でも、税金がどうなるのかの検討抜きに和解できないことが多いからである。


 ただ、印紙税については、弁護士は基本的に弱い。


 印紙を貼らなくても書面が無効になるわけではないので、あまり気にしない傾向があるからである。


 そうはいっても、顧問会社などから「この契約書の印紙はいくらですか」と聞かれることはあるので、勉強はしているが。



2009年11月11日(水) 取り調べの全過程の録音・録画について

 日経(H21.11.11)社会面で、警察庁前長官が、雑誌で、取り調べの可視化(取り調べの全過程の録音・録画)は、取り調べを阻害するという反対論を展開しているという記事が載っていた。


 取り調べの可視化の弊害についてよく言われることとして、組織犯罪の場合に、組織の秘密を話したことが分かると命を狙われると思って、供述しなくなるということがある。


 しかし、その指摘は正しいのだろうか。


 「そのような心配はない」とも言えそうである。


 いずれの言い分も検証されていないからである。


 可視化反対論者は現場感覚から言っているのだろうが、あまり検証されないまま、反対論を展開しているように思うのだが。



2009年11月10日(火) 空港ビルの土地貸付料 「誰がどう考えてもおかしい」?

 日経でなく朝日(H21.11.10)夕刊で、空港ビルの国有地貸付料について、「国交相が値上げの意向」という記事が載っていた。


 羽田では空港ビル会社が年間34億円で借り、テナントから140億円の賃料を得ており、国交相は「誰がどう考えてもおかしい」と述べたそうである。


 確かに安いと思う。


 しかし、世間でも、安い地代で土地を借りて、そこにビルを建てて儲けている土地借主は普通にいる。


 私が知っているケースでも、東京・銀座の約50坪の土地であっても地代はわずか約60万円であり、ここに土地を借りて建物を建てている借主は、その何倍もの収益を挙げている(その借主を非難しているわけではない)。


 「それはおかしい」と思って地主が地代を上げようとしても、地代は固定資産税・都市計画税の2倍から3倍が標準とされており、それ以上の値上げは裁判でもほとんど認められない。


 つまり、「誰がどう考えてもおかしい」地代であっても、地主の意向だけでは値上げはできないのが普通である。


 国交相は「値上げの意向」だそうが、果たして一方的に値上げできるのだろうか。



2009年11月09日(月) 日本の刑事裁判では、事実を認め、反省することが重要

 日経(H21.11.9)夕刊で、覚せい剤取締法違反に問われた酒井法子被告に対し、東京地裁は懲役1年6月、執行猶予3年を言い渡したと報じていた。


 覚せい剤の犯罪としては、一番軽い刑であろう。


 酒井被告は、裁判において反省の情を十分示したようであり、その効果があったのだろう。


 日本の刑事裁判では、(犯罪を犯している場合には)、犯罪事実を認め、反省の情を示すことが一番重視される。


 自分の罪を少しでも軽くするために言い訳をする被告もいるが、それは裁判官に一番嫌われるのである。



2009年11月06日(金) 日本航空の年金減額について

 日経(H21.11.6)夕刊で、国交省が、日本航空の再建のためには年金減額が不可欠と語ったと報じていた。


 ただ、退職者は年金減額に強く反発しているため、減額を実現するためには、特別立法を制定するしかないようである。


 しかし、年金を減額する法律については、憲法で保障する財産権の侵害ではないという問題がある。


 年金の減額が認められるかどうかは裁判でも分かれているが、判断の分かれ目は、その企業の経営がどれだけ厳しいかである。


 安易に年金を削減が認められれば、削減される側はたまらないが、年金のために会社がつぶれては元も子もないという価値判断があるのだろう。


 報道によれば、日本航空の経営状態は相当危ないようである。


 そうであれば、日本航空について、法律によって年金を削減しても、財産権の侵害とは判断されないであろう。



2009年11月05日(木) 「憲法解釈は内閣が判断する」

 日経(H21.11.5)2面で、平野官房長官が「憲法解釈は内閣が判断する」と述べたと報じていた。


 わざわざ憲法解釈は内閣が判断すると言ったのは、これまで憲法解釈は、事実上、内閣法制局長官が担ってきたからである。


 内閣法制局長官が憲法解釈を行うことが政治的に妥当かどうかは、ここでは置いておく。


 ただ、行政権を担当するのは内閣であるから、行政の立場からの憲法解釈は、内閣法制局長官ではなく内閣が行うのが本来の筋である。


 しかも、憲法解釈の最終判断は司法が担うことになっている。


 そうであるのに、これまで内閣法制局長官が、あたかも内閣と司法の役割を果たしてきたことは制度上、問題であろう。


 したがって、統治機構の原則からいえば、「憲法解釈は内閣が判断する」ということは、当たり前の発言といえる。



2009年11月04日(水) 貸金業法の完全施行の見直し?

 日経(H21.11.4)5面で、改正した貸金業法を来年完全施行した場合、貸金業者の9%が廃業することが明らかになったと報じていた。


 改正貸金業法が完全施行されると、上限金利が15%〜20%となり、また、総量規制により融資が借りての年収の3分の1以下とされる。


 そうすると、完全施行されれば廃業せざるを得ない貸金業者が増えるのは間違いない。


 そのため、完全施行が見直しされる可能性がある。


 ただ、現在の貸金業者は、年利30%近い利息を取ることを前提としたビジネスモデルであり、それに安住しているのではないかと思う。


 必要なことは、完全施行を見直すことではなく、上限金利が15%〜20%で、総量規制があることを前提としたビジネスモデルを作り上げていくことではないだろうか。



2009年11月02日(月) 軽貨物運送の内職商法

 日経でなく朝日ネットニュース(H21.11.1)で、軽貨物運送大手の「軽貨急配」の旧経営陣が、粉飾決算を重ねて架空利益を計上していた疑いがあることが判明と報じていた。


 軽貨物運送の会社は数多くあるが、代理店を募集して個人事業主になってもらい、そこに仕事を発注するという仕組みが多い。


 その際、「仕事にするために必要である」として軽トラックを購入させるのだが、仕事の紹介は少なく、期待していた収入が得られないケースがしばしばみられる。


 内職商法の一種である。


 記事になった会社でも、軽トラックを市価より高い価格で個人事業主に販売しており、売り上げは軽トラックの販売に支えられていたとのことであるから、内職商法であった可能性がある。


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