今日の日経を題材に法律問題をコメント

2009年10月30日(金) 「奄美ひまわり基金法律事務所」の初代所長に支払い命令

 日経でなく朝日ネットニュース(H21.10.30)で、日弁連が奄美市に開設した「奄美ひまわり基金法律事務所」の初代所長であった弁護士に対して、債務整理を放置されたとして多重債務者が損害賠償を求めた事件で、鹿児島地裁名瀬支部は、「説明を怠った」と対応の不適切さを認め、158万円を支払うよう命じたと報じていた。


 他にも、多重債務者の元依頼者14人から総額約4420万円の損害賠償訴訟を起こされているそうであるから、弁護士業務に問題があったのだろう。


 記事では、訴えられた弁護士は、奄美市職員と連携し、多重債務者を迅速・確実に救済する手法を確立し、「奄美方式」と呼ばれていると書いていた。


 ただ、ある時期から、奄美市はその弁護士の手法に疑問を持ち、提携することを止めたと聞いている。


 日弁連でも、その弁護士のやり方に批判的な意見があった。


 それなのに、(懲戒請求が前提にはなるが)所属弁護士会が何らかの処分をする前に、裁判の結論が出たというのは、弁護士会としては情けないのではないかと思う。



2009年10月29日(木) リース契約のルールの明確化

 日経(H21.10.29)5面で、法務大臣が法制審議会に民法の債権法を抜本的に見直す改正を諮問したと報じていた。


 記事では、改正後はリース契約に標準的な契約ルールが定められるとていた。


 リース(ファイナンスリース)においては、リース会社とユーザーとのリース契約と、リース会社とサプライヤーとの売買契約が締結される。


 そして、リース契約では、ユーザーは中途解約できない、リース会社は瑕疵担保責任を負わないなどの特徴がある。


 私が弁護士になりたてのころ、リース契約書をみたときに、民法で規定する賃貸借契約とはずいぶん異なった定めになっており、とまどったことがある。
 

 ただ、このような特徴がユーザーに十分周知されていないようであり、それがしばしば紛争に発展しているように思われる。


 それゆえ、リース契約のルールを明確にしておくことは望ましいことだと思う。



2009年10月28日(水) 相続分をどのようにするのかは時代によって変わる

 日経(H21.10.28)社説で、「非嫡出子(婚外子)の相続分を嫡出子の2分の1とする」という民法900条の規定は、「法の下の平等」を定めた憲法14条に違反するものであり、「改正はまったなし」であると書いていた。


 平成7年の最高裁大法廷判決では、民法900条の規定は合憲と判断している。


 相続分をどのようにするのかは、社会的歴史的事情、文化的背景、国民感情に根差した問題であることから、最高裁は立法府の判断を尊重したものと思われる。


 しかし、それだけに、時代とともに、かつては合憲であったものが違憲となることはあり得ることである。


 今日では、婚外子といっても、既婚者が配偶者とは別の相手との間につくった子どもだけでなく、事実婚のカップルによる場合も増えてきており、家族の形は多様化してきている。


 そのため、今日では、法の下の平等がより重視されるべきであろう。


 したがって、国会は婚外子にも平等に相続できるように法改正すべきであろうし、最高裁はそろそろ違憲判断をすべき時期に来ているのではないだろうか。



2009年10月27日(火) 酒井被告の初公判

 日経(H21.10.27)社会面で、酒井被告の初公判が開かれ、検察官は懲役1年6か月を求刑したと報じていた。


 夫は懲役2年の求刑だったが、酒井被告は所持していた量がわずかだったのが影響したのだろう。


 夫の方は、しゃべりかたが若者言葉で、反省しているとは思えないという批判があったようだが、少々しゃべり方が変でも、それだけで、本来執行猶予のものが実刑になることは考えられない。


 結局、2人とも初犯なので、いずれも執行猶予が付くだろう。



2009年10月23日(金) 日本郵政の社長指名−指名委員会制度の限界が露呈

 日経(H21.10.23)5面で、亀井郵政相が、日本郵政社長に斉藤元大蔵事務次官を内定したことについて、「経済界 不透明な選定、不満強く」と書いていた。


 元事務次官が郵政社長になることの適否はさておき、この問題は、会社法でいろいろ制度をつくったが、その限界が現れた事例であると思う。


 日本郵政は、株式会社であるから会社法の適用を受ける。


 しかも、指名委員会設置会社なので、取締役選任の議案の最終決定権限は指名委員会にある。


 株主は、株主総会において、その議案に賛成するか反対するかだけである。


 それを株主が社長を指名するのであるから、制度を完全に無視している(厳密には亀井郵政相は株主でもない)。


 結局、会社法が指名委員会制度をつくっていても、実際には権力のあるものが社長を決定できることを示しており、制度の限界を露呈しているといえる。



2009年10月22日(木) 高相被告の被告人質問

 日経でなく産経ネットニュース(H21.10.22)で、酒井法子被告の夫である高相祐一被告の裁判における被告人質問の内容を詳細に報じていた。


 その中で高相被告がびっくりするようなことを供述していた。

 「法子さんが覚醒剤を使っていたと、以前に選任されていた弁護人に言ったところ、弁護人が『それはまずい。(自宅でなく)青山公園で使ったことにして下さい』と述べた。」というのである(但し、弁護人の質問に「はい」と答える形で供述している。)。


 これは本当なのだろうか。


 本当であれば大変なことであるが、あまり話題にはなっていないようである。


 逆に、高相被告の供述がうそとすると、それはそれで問題であるが。



2009年10月21日(水) 刑事事件専門の弁護士となるのは難しい

 日経(H21.10.21)社会面で、足利事件で再審無罪が確実になった菅家さんの再審初公判が21日宇都宮地裁で開かれるという記事が載っていた。


 足利事件の弁護人は、法律雑誌のインタビュー記事によると刑事事件専門の弁護士らしい。


 しかし、日本では純粋に刑事事件を専門にすることはなかなか難しいのが実情である。


 刑事事件の依頼者はリピーターにならないからである。


 例外としてリピーターになり得るのは暴力団であり、暴力団の顧問弁護士にでもなれば刑事事件専門で飯が食っていけるかもしれない。


 ただ、多くの弁護士は敬遠するだろう。



2009年10月20日(火) 配下の組員が拳銃を所持していたことの認識

 日経(H21.10.20)社会面で、配下の暴力団組員に拳銃を所持させたとして銃刀法違反に問われた元山口組幹部の上告審判決で、最高裁は、無罪とした1、2審判決を破棄して、審理を大阪地裁に差し戻したと報じていた。

 
 この裁判の争点は、幹部組員が、同行していた配下の組員が拳銃を所持していることを認識していたかどうかである。


 これまでであれば、幹部組員が「配下の組員が拳銃を所持していることは知らなかった」と供述し、配下の組員も「幹部組員には告げずに拳銃を所持していた」と言えば、証拠不十分としてそもそも起訴されなかった。


 しかし、検察庁が、事案によっては起訴するようになり、すでに他の裁判では有罪判決が出されている。


 この事件でも1、2審では無罪となったものの、最高裁が「所持の認識」を肯定したことから、暴力団幹部に与える影響は極めて大きいと思われる。



2009年10月19日(月) 安易な自転車通勤の奨励は危険である

 日経(H21.10.19)25面で、「身近なエコ」「マイカー通勤やめよう」「自転車を義務化」という記事が載っていた。


 記事では、従業員のマイカー通勤を規制し、徒歩や自転車通勤を義務付けたり、自転車通勤手当を出したりする会社をルポしていた。


 しかし、自転車通勤は安易にはお勧めできない。


 自転車による事故は結構あり、その多くが保険に入っていないため、解決が難航することになるからである。


 とくに、自転車通勤を会社が認めていた場合、通勤途上での事故では会社が賠償金を負担する可能性が高い。


 そのため、自転車通勤を禁止している会社もあるくらいである。


 自転車通勤を奨励するのであれば。保険加入を義務づけるべきであろう。



2009年10月16日(金) 裁判官の釈明義務について

 日経ネットニュース(H21.10.16)で、広島市で小学1年の女児が殺害された事件で、最高裁は、2審・広島高裁判決を破棄し、同高裁に審理を差し戻したと報じていた。


 この事件で2審判決は、1審が検察官調書を取り調べないまま審理を終えたことが訴訟手続き違反にあたると指摘していたが、最高裁は、「1審の訴訟手続きは適法」と判断した。


 この判決を大胆に要約すると、刑事訴訟というのは、検察官と被告側が争い、それを裁判所が判断するという当事者主義なのであるから、検察官が立証不要と考えていることをいちいち裁判所が口をはさむ義務は、原則としてはないというものである。


 おそらく、裁判所に積極的な釈明義務を認めると、裁判員裁判では対応できなくなると考えたのであろう。


 この最高裁判決は、今後の裁判官の訴訟指揮に大きな影響を与えると思う。



2009年10月15日(木) 福島マダム汚職、2審も有罪

 日経(H21.10.15)社会面で、福島ダム汚職の控訴審で、東京高裁は、1審と同様、佐藤前知事に有罪の判決を言い渡したと報じていた。


 ただ、高裁では、賄賂について、「土地を金銭に換えることができたという利益」が賄賂であるとした。(地裁では、土地代金と、土地の時価相当額の差額が、賄賂であると認定)


 確かに、換金が難しい土地を金銭に換えることができた場合、それは「利益」といえるが、「利益」としては僅かであろう。


 しかも、前知事には、その利益を直接は得ていない。


 高裁判決に対し、前知事は上告するようであるが、高裁判決は、これまでの判例に反する解釈ではなく、上告しても結論は変わらないであろう。


 ただ、前知事が上告したい気持ちは分かる気がする。



2009年10月14日(水) 事業再生ADR

 日経(H21.10.14)1面で、日本航空の経営再建について報じていたが、その中で「事業再生ADR」の活用も検討と書いていた。


 「事業再生ADR」とは、法的整理と私的整理の中間のような制度である。


 もともと、法的整理と私的整理のいいとこ取りをした制度設計であるから、今後非常に活用されていくのではないだろうか。



2009年10月13日(火) 個別の役員報酬の開示について

 今日は休刊日。昨日の日経(H21.10.12)14面で、役員報酬の開示について書いていた。


 現在、個別の役員報酬の開示を義務付ける法律や規則はないが、金融庁は、上場企業などの代表取締役の個別開示を義務付けるかどうか検討するそうである。


 自分の収入を知られるのは嫌なことである。


 ただ、株主としては、役員報酬を誰にいくら払っているのか知って、それが適正かどうかチェックしたいであろう。


 会社としても、役員報酬を開示することは、役員の自己規律を促し、また外部の信用を高めるなどの効用がある。


 当初は上場企業の代表取締役に限定するなどして、徐々に役員報酬の開示を義務付けた方がよいのではないだろうか。



2009年10月09日(金) 「ウィニー」を開発者に、大阪高裁は無罪判決

 日経(H21.10.9)社会面で、 ファイル交換ソフト「ウィニー」を開発者に対し、大阪高裁は、著作権法違反幇助罪を認めた一審判決を破棄し、無罪を言い渡したと報じていた。


 幇助犯の成立を認めた一審の判断によれば、犯罪の成立範囲が無限定になる危険性がある。


 それでは、ソフトの開発行為を委縮させてしまいかねない。


 大阪高裁も、「悪用されることへの認識の有無だけで開発者を処罰すれば、無限に刑事責任を問われ続けることになる」としている。


 妥当な判断であると思う。



2009年10月08日(木) 弁護士が、警察大学校で捜査幹部らに講義

 日経(H21.10.8)社会面に、再審無罪が確実になった足利事件で主任弁護人を務めた弁護士が、警察大学校で捜査幹部らに講義したという記事が載っていた。


 講義では、「取り調べを可視化しても真実追求ができるようになって欲しい」と述べたそうである。


 取り調べの可視化に対して警察は大反発しているから、よく講義できたなあと思う。


 警察の捜査官は、弁護士が選任されると捜査がやりにくくなると思うのか、弁護士を目の敵にしていた。


 私選弁護人が就くと、被疑者に「弁護士とどういう関係だ」ということまで聞く捜査官もいた。


 それが、警察大学校で、無罪を勝ち取ることが確実な弁護士が講義し、しかも、その中で、取り調べの可視化についてまで論及するのだから、時代が変わったというべきなのだろうか。



2009年10月07日(水) 「元少年側」が出版差止の仮処分を申立てる

 日経(H21.10.7)社会面で、光市母子殺害事件の被告である元少年を実名で記したルポルタージュの単行本に対し、元少年側が出版差し止めを求める仮処分を広島地裁に申し立てたと報じていた。


 著者は「実名の記載について元少年の同意を得た」と言い、言い分が食い違っており、事実はよくわからない。


 ただ、記事では仮処分の申立人を「元少年側」というあいまいな表記にしていることが気になる。


 「元少年」が申立人で、弁護団は代理人であればそのように表記すると思うのだが。


 仮に弁護団が独自の判断で仮処分を申し立てたのであれば、いかなる権利に基づいて申し立てたのだろうか。


 記事の中で誰が申立人かが不明確なのは、意識的なものなのだろうか、それとも単に取材不足にすぎないのだろうか。



2009年10月06日(火) 鞆の浦の景観保護をめぐる訴訟

 日経(H21.10.6)夕刊面で、瀬戸内海の鞆の浦の景観保護をめぐる訴訟の原告らが、広島県知事に、県と市への埋め立て免許交付差し止めを命じた広島地裁判決を受け入れ、控訴を断念するよう申し入れたと報じていた。


 県や市は控訴するかどうか検討中とのことであるが、控訴した場合には、高裁では1審判決を破棄し、住民側の請求を棄却するのではないかと思う。


 『景観権』は、『権利』としてはいまだ成熟していないとされているからである。


 ただそれは、その公共事業が違法でないというだけであり、その工事が本当に必要かとは別問題であるが。



2009年10月05日(月) 地検庁舎で、検事正が菅原さんに謝罪

 日経(H21.10.5)ネットニュースで、足利市で女児が殺害された事件で、無期懲役で服役中に釈放された菅家さんに、宇都宮地検・検事正が地検庁舎で面会し、謝罪の言葉を述べたと報じていた。


 この事件での検察庁の立場は、「捜査に違法はなかった」というものであろう。


 それだけに、地検トップの検事正が謝罪するというのは異例である。


 ただ、わざわざ地検に来てもらって謝罪するというのは、よく分からない感覚である。


 菅原さんが自宅に来てもらうのを断ったのであれば、弁護士会館を使うなどの方法があったと思うのだが。



2009年10月02日(金) 建材の化学物質と健康被害に因果関係を認める

 日経(H21.10.2)社会面で、新築マンションの建材が原因でシックハウス症候群になったとして損害賠償を求めた事件で、東京地裁は、分譲元の会社の過失を認めて、3600万円の支払いを命じたと報じていた。


 記事によれば、建材の化学物質と健康被害に因果関係を認めたとのことであり、画期的な判決である。


 というのは、シックハウス症候群の原因は複合的と言われており、原因の特定が難しいため、マンション販売会社の過失を認定しにくいからである。


 同様な裁判は各地で行われているが、それらに与える影響は大きいと思う。



2009年10月01日(木) 参議院の定数不均衡 4.86倍で「格差縮小が求められる」

 日経(H21.10.1)1面で、最高裁は、2007年参議院選挙の定数格差4.86倍について、合憲としたが、「選挙制度の見直しを」という意見を述べたと報じていた。


 これまでの最高裁の控えめな立場からすると、かなり踏み込んだ意見である。


 何となく、衆議院は2倍程度、参議院は5倍程度であれば合憲という風潮があった。


 しかし、5倍以下でも「格差縮小が求められる」とはっきりと指摘したことは、大きな意義があると思う。


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