今日の日経を題材に法律問題をコメント

2009年03月31日(火) 法科大学院のうち9校が不適合

 日経(H21.3.31)社会面で、法科大学院のうち9校が「不適合」という記事が載っていた。

 不適合の理由の一つとして、専任教員の数が足りないことが指摘されていた。


 そうはいっても、専任教員の確保はなかなか大変なようである。


 弁護士は本業があるから、専任というのは難しい。


 退官した裁判官や検察官は、すでに高齢であり、せめて定年が70歳くらいでないと人が集まらない。


 ところが、他の学部教授との定年のバランスがあるため、定年延長の優遇ができない大学もあり、そのためなり手が少ないのが実情のようである。


 結局は、法科大学院を作り過ぎたのが原因であり、もう少し整理するしかないと思う。



2009年03月30日(月) 横浜事件で免訴

 日経(H21.3.30)夕刊で、横浜事件で4次請求も免訴という記事が載っていた。


 横浜事件とは、戦時中の言論弾圧事件であり、終戦直後に有罪判決を受けたが、治安維持法の廃止により大赦となっている。


 冤罪事件であるが、今回の再審裁判では、大赦を受けている以上、無罪かどうかを判断することはできず、免訴とするしかないと判断した。


 最高裁の判断を踏襲したものであり、下級審としてはやむを得ない判断だろう。


 検察官も「検察官の主張が認められたものであり、結論としても妥当」というコメントを出していた。

 もう少し言いようがないのかなと思うが、今後、刑事補償手続きが行われるので、その影響を考えると、そのような木で鼻をくくったコメントも仕方ないのかもしれない。


 しかし、もともとの責任は、冤罪であるのに有罪の判決を出し、しかも、当時の証拠を散逸させた司法にあるはずであり、元被告らに責任はない。


 それにもかかわらず、裁判所も検察官も、元被告らに「やさしくないなあ」という印象を受けた。



2009年03月27日(金) 八百長報道で4200万円の賠償命令

 日経(H21.3.27)社会面で、週刊現代の大相撲八百長報道で、東京地裁は、講談社などに総額4200万円の支払いを命じたと報じていた。


 八百長報道の裁判はいくつも行われているが、4200万円というのは極めて高額である。


 判決では「取材が極めてずさん」としているから、それが影響しているのだろう。


 以前、フリーの雑誌記者と一緒に仕事をしたことが少しだけあるが、とにかく話題になればいいという考えであった。


 だから、「取材がずさん」ということも、さもありなんとは思う。


 ただ、金額があまりに高額で、また名前の挙げられていない力士まで損害賠償も認められているようである。


 裁判官は、こんな記事は「報道」に値しないと思っているのだろうが、もう少し表現行為に対する委縮効果に配慮すべきでなかったかと思う。



2009年03月26日(木) 死刑判決のハードルが低くなっている

 日経(H21.3.26)社会面に、本庄市の夫婦殺害事件で、一審では無期懲役であった裁判で、東京高裁は、一審判決を破棄して、死刑を言い渡したという記事が載っていた。


 先日も、架空請求詐欺グループの仲間割れから男性4人をリンチで死亡させた事件の控訴審判決で、東京高裁は、無期懲役の1審判決を破棄、死刑を言い渡している。


 最近は、明らかに死刑判決のハードルが低くなっているように思う。



2009年03月25日(水) 集会場の使用許可取り消しは違法

 日経(H21.3.25)社会面で、東京都が、朝鮮総連が日比谷公園を集会場として使用する許可を取り消したことについて、東京地裁は、許可の取り消しは違法であるとしたと報じていた。


 当然の判断であろう。


 これまでの判例からして、公共の施設の使用を許可したにもかかわらず、それを取り消した場合、それが違法と判断されることは分かっていたはずである。


 それにもかかわらず、東京都はあえて許可を取り消したと思われる。


 これは明らかな確信犯であり、問題ある措置と思う。



2009年03月24日(火) 公示地価が下落

 日経(H21.3.24)1面で、「公示地価3年ぶりに下落」と報じていた。


 地価が下落した場合、弁護士業務としては支障が出ることの方が多い。


 例えば、破産管財人の業務として、破産者が不動産を所有している場合には、それを売却して、売却代金を債権者に配当するということがある。


 そのような物件を購入するのは、大抵は、エンドユーザーでなく不動産業者なのだが、地価が下落すると金融機関が融資を渋るようになり、その結果、不動産業者が不動産を購入できなくなってしまうのである。


 また、遺産分割の際に、不動産を売却して、その売却代金を分割するということがあるが、地価が下落すると、相続した人たちが思っていたほどの売却代金にならないため、遺産分割が円滑に進まない。


 最近では、「(不動産売却が)もう少し早い時期であれば」とか、「あの時売っていてよかったですね」という話をよくする。


 地価の上昇は功罪があるが、弁護士業務の面に限っていえば、地価がある程度上昇し、不動産売買が活発な方が助かるといえる。



2009年03月23日(月) SFCGの二重譲渡問題

 日経でなく朝日(H21.3.18)1面トップで、商工ローンのSFCG(旧商工ファンド)が、貸出し債権を日本振興銀行と他行とに二重譲渡していたことが、関係者の話で分かったと報じていた。


 「関係者の話で分かった」といっても、数日前に他紙で報じていたと思うのだが。


 それにしても、SFCGの対応は二重譲渡に限らず、ひどいものがある。


 譲渡した旨を通知し、その通知書にはSFCGと日本振興銀行の印鑑を押しているのに、SFCGは債務者に請求をしているのである。


 日本振興銀行の対応も問題と思う。


 譲渡を受けたという通知書の中に、連絡先として、SFCGの子会社を記載している。


 譲渡を受けたとしながらも、債権を管理していないのであろう。


 これでは「銀行」とはいえないのではないだろうか。



2009年03月19日(木) AIGによる幹部への高額なボーナスの支払い

 日経(H21.3.19)7面で、AIGによる幹部への高額なボーナスの支払を撤回させるために、アメリカ政府と議会が強硬姿勢に傾いているという記事が載っていた。


 ボーナスの支払いを禁止する法案も検討されているそうである。


 どのような法案になるのかよく分からないが、法律でボーナスの支払を禁止した場合、幹部らは、世間の非難覚悟で訴訟すれば必ず勝てるのだろうか。


 幹部は、会社と契約しているだから、原則として会社には支払い義務がある。


 しかし、契約当時の事情に大きな変動が生じ、契約内容をそのまま履行することが公平に反するような場合、その契約を破棄したり、内容を変更することができるという考え方がある。


 これを「事情変更の原則」という。


 実際にはなかなか認められないが、考え方自体は判例も認めている。


 ボーナスの支払を禁ずる法律が制定された場合、この「事情変更の原則」が適用され、会社が支払い義務を免れるということはあり得ると思う。



2009年03月18日(水) 大麻所持で初犯だと懲役6月、執行猶予3年

 日経(H21.3.18)社会面に、はっぱいえんどの元メンバーが大麻取締法違反で懲役6月、執行猶予3年の判決を受けたという記事が載っていた。


 大麻の単純所持で初犯だったから、だいたい相場通りである。


 これに対し覚せい剤取締法違反の場合には、執行猶予付きではあるが、初犯でも懲役1年6月から2年であるから、大麻取締法違反に比べて重い。


 違法薬物なのだから差をつけるのはおかしいという考え方もあるかもしれないが、覚せい剤は暴力団の資金源になっていることや、薬害の程度の違いを考慮しているのだろう。


 しかし、最近は大麻所持で逮捕される事件が相次いでおり、問題になっている。


 そのため、今後は大麻取締法違反の量刑(刑の相場)が上げられるかもしれない。



2009年03月17日(火) SFCGが債権を二重譲渡

 日経(H21.3.17)4面で、商工ローンのSFCGが、貸出債権を金融機関に二重譲渡していたと報じていた。


 二重譲渡した債権は数百億円に上るというからすごい。


 二重譲渡ではないが、日本振興銀行から、債権譲渡を受けたという通知が債務者に来ているのに、SFCGの担当者からは、「譲渡はしていないのでうちに払ってくれ」と言われ、債務者が「どちらに払えばいいのか」という相談が急増している。


 この会社の債権管理は混乱の極みのようである。



2009年03月16日(月) うつ病と会社の業種との相関関係

 日経でなく朝日(H21.3.16)夕刊で、笹川自民党総務会長が「教員がうつ病で休職するのは気が弱いからだ」という趣旨の発言をしたことに対し、日本生物学的精神医学会が、「多くの人が持っている誤解である」として、うつ病の対策などを笹川氏に求める声明を発表したと報じていた。


 「うつ病になるのは気が弱いからだ」というのは明らかに間違っている。


 ただ、うつ病が増えているのは間違いない。


 会社から、うつ病の社員への対応について相談されることも以前より多くなっている。


 うつ病は生真面目、几帳面な人がなりやすいというが、職場環境による影響も大きいと思う。


 というのは、うつ病対策の相談を受ける会社の業種にやや偏りがある気がするからである。



2009年03月13日(金) フィリピン人一家の在留特別許可問題

 日経(H21.3.13)社説で、東京入管から不法滞在を理由に強制退去処分を受けたフィリピン人一家が在留特別許可を求めている問題で、「一家の在留に政治決断を」と論じていた。


 入管当局の一応の基準として、子どもが中学生以上の場合には在留特別許可を認めるようである。


 ところが、このフィリピン人一家の場合は「退去命令が出たのが中学生になる前だったので、認められない」ということらしい。


 しかし、子どもが小学生だったが、入管といろいろと交渉している間に中学生になってしまい、在留特別許可が認められたケースもある。


 そもそも、中学生以上かどうかで在留許可の可否を一律に決められるものではないだろう。


 この一家は地域社会に溶け込んでいるのだから、法務大臣の裁量で在留特別許可を認めることが望ましい事案だと思う。


 入管は意地になっているような気がする。



2009年03月12日(木) 内部通報者の名前を弁護士が伝えるむ

 日経でなく、朝日(H21.3.12)第2社会面で、弁護士が内部告発した社員の実名を会社側に伝え、懲戒処分を受けたという記事が載っていた。


 弁護士は、外部通報の窓口役であった。


 それが通報者の実名を伝えるとは、何のための外部通報窓口なのかと思ってしまう。


 うっかりミスなのかもしれないが、名前を匿名にするというのが外部通報窓口の役割なのだから、「うっかり」では済まない。


 懲戒処分は当然であろう。



2009年03月11日(水) 「起訴はないと思う」

 日経(H21.3.11)2面で、民主党の小沢代表が、政治資金規正法違反で公設秘書が逮捕されている事件について、「起訴はないと思う」と答えたと報じていた。


 刑事事件で、被疑者から「起訴されますかね」と聞かれることはよくある。(当然、否認事件である。)


 その時点での弁護人の持っている情報は、被疑者からの話が大部分である。


 ところが、捜査機関は、弁護側が知らない証拠を持っていることは普通である。


 そのため、起訴されると証拠が開示されるが、そのときに「これだけの証拠があれば、起訴されても仕方ないな」と思うことは多い。


 そのような事情があるから、「起訴されますかね」と聞かれて、「起訴はないと思う」というのは、弁護人としてはなかなか言えない。


 政治家は別の配慮があるのかもしれないが、あまり安易に「起訴されない」とは言わない方がいいのではないかと思う。



2009年03月10日(火) 世間の『管理職』の概念と、裁判所の『管理職』の概念は違う

 日経(H21.3.10)社会面に、「課長代理」を管理職とみなして、残業代を支払わなかったソフトウエア会社に対して、社員が残業代の支払いを求めた事件で、東京地裁は、「統括的な立場になく管理職といえない」として、約4500万円の支払いを命じたという記事が載っていた。


 『課長代理』(後に課長補佐としたようである)では通常は管理職といえないだろう。


 世間では課長クラスであれば管理職とみなし、残業代を支払わないところが多いようである。


 しかし、裁判所の『管理職』の基準は厳しく、たとえ課長であっても『管理職』とされないケースもあるように思われる。

(『管理職』かどうかは、管理職としての実態があるかどうかで決まるのであって、役職名で決まるわけではないが。)


 どうも、世間一般の『管理職』の概念と、裁判所の『管理職』の概念はずれているようである。


 この問題は、法律でもう少し明確な基準を作らないと、今後も同種の争いが頻発すると思う。



2009年03月09日(月) 番組を録画して転送するサービスに適法との判決

 日経(H21.3.9)16面に、テレビ番組を録画しネットを通じて海外などに転送するサービスについて、知財高裁が適法と判断したことについての記事が載っていた。


 この判決を聞いて、「仮処分、一審で勝っていたテレビ局側の弁護団は凍りついた」そうである。


 確かに、テレビ局にすれば、このようなサービスは番組の違法コピーであって、許せないのだろう。


 ただ、かかるサービスが視聴者のニーズに応えていることは間違い。


 そのようなニーズがある以上、テレビ局側は批難ばかりせずに、自ら、デジタル技術の進歩に対応したサービスの提供に努めるべきではないかと思う。



2009年03月06日(金) 大相撲八百長疑惑報道に対し、東京地裁が1500万円の支払いなどを命令

 日経(H21.3.6)社会面で、大相撲の八百長疑惑報道について、東京地裁は講談社などに対し、約1500万円の支払いと記事を取り消す広告の掲載を命じたと報じていた。


 八百長疑惑記事のニュース源は貴ノ花の元妻だったようだが、その元妻が証人として出廷しなかったのだから、講談社らの敗訴は当然であろう。


 ただ、賠償額が1500万円というのは高額である。


 名誉棄損と表現の自由とのバランスは難しいが、近時、賠償額が上がり過ぎのように思える。



2009年03月04日(水) 検察官の政治家に対する捜査

 日経(H21.3.4)1面で、民主党小沢代表の秘書が政治資金規正法違反で逮捕されたと報じていた。


 この事件の内容は分からないが、証拠があれば逮捕するのは当然であろう。


 ただ、これまでの検察官の政治家に対する捜査をみると、政治資金規正法違反で問題になった事案でも、起訴して実刑になったケースもあれば、議員辞職することで捜査を中断したケースもある。


 これらの事案を見ると、日本では司法取引の制度はないにもかかわらず、政治家に対しては司法取引的な運用がされているように思える。


 それは検察官による恣意的な捜査という批判につながりかねないと思う。



2009年03月03日(火) グーグルの書籍検索訴訟の和解

 日経(H21.3.3)社会面に、グーグルの書籍全文のデータベース化を巡る訴訟で、アメリカの著作権者とグーグルとで和解が成立し、その効力がアメリカ外の著作権者にも及ぶことになったが、日本文芸家協会はこれを事実上受け入れる方針という記事が載っていた。


 この訴訟は、グーグルが著作権者の許諾なしに書籍などをスキャンしてデータベース化し、書籍検索や抜粋表示したことに対して、アメリカの作家組合らが提訴していたものである。


 著作権者の許諾なしに書籍をスキャンして使用するということは、常識的に考えれば違法であり、公然とは誰もやらないだろう。


 しかし、書籍がデータベース化されれば、それにより人々が受ける恩恵は計り知れないものがある。


 そのようなメリットがあるからこそ、グーグルは訴えられる可能性を意識しつつ、果敢に打って出たのであろう。


 その結果、グーグルは無断でデータベース化した書籍の権利者に総額約44億円を支払うが、絶版と見なされる書籍をデータベース化し、商業利用できることになった。


 グーグルにとっては当初の目的を達したのであるから、勝訴といえる和解であろう。


 他方、この仕組みは、絶版となっているものを読んでもらうことができ、しかも、収益を得ることもできるのだから、著作権者にとってメリットがあると思う。


 日本文芸家協会は、訴訟の和解案を受け入れる方針であるが、それは適切な判断であると思う。



2009年03月02日(月) 司法の役割について

 日経(H21.3.2)14面に、2007年参議院選挙の定数不均衡訴訟で、最高裁が大法廷で審理することについて報じていた。


 見出しに「闘う司法実現するか」とあったから、記事では、大法廷で何らかの新しい判断があるのではないかと期待しているようである。


 確かに、最高裁では、常に一定の数の違憲説が存在している。


 しかし、最高裁の多数意見は、衆議院は価値が2倍程度、参議院は価値が5倍程度であれば立法裁量の範囲内としているようである。


 これに対しては、なぜ2倍程度であれば許されるのか、なぜ衆議院と参議院で違うのかという疑問がある。


 そもそも、最高裁は違憲立法審査権について謙抑的すぎるという批判もある。


 しかし、定数不均衡の問題は、立法に対しどこまで司法審査を及ぼすべきかという問題であるが、それについて唯一の解答というものはなく、価値判断にかかわる問題といえる。


 しかも、一票の価値を完全に平等にすることは技術的に困難である。


 そうであれば、最高裁が、衆議院については2倍程度、参議院については5倍程度という一定の基準を示したことで、「最高裁としての役割は果たした。あとは立法の問題である。」と考えてもよいのではないかと思う。


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