今日の日経を題材に法律問題をコメント

2006年08月31日(木) 過払い金の利息は5%か6%か

 日経(H18.8.31)社会面で、入学金返還訴訟において、最高裁は原告、被告双方の意見を聞く弁論を開くことを決めたと報じていた。


 入学金返還訴訟とは、大学入試に合格後、入学を辞退した受験生が、大学に対し入学金などの返還を求めた訴訟であり、下級審では判断が微妙に分かれていた。


 現在、最高裁には同種の事件が数件係属しているようであり、今回統一的判断がなされることになると思われる。


 同じように現在下級審で判断が分かれている訴訟として、消費者金融に対する過払い金請求での、過払い金の利息を5%とするか6%とするかという問題がある。


 地裁、高裁とも、5%とする判決と、6%とする判決がほとんど真っ二つに分かれている状況である。


 そのため、早期に最高裁による判断が行われることが期待される。



2006年08月30日(水) 事件性がない?

 日経(H18.8.30)社会面で、「北海道警函館西署は、笑いコンビ『極楽とんぼ』の山本容疑者を強姦の容疑で書類送検した。少女を無理やり部屋に連れ込んでいないことなどから、逮捕はしない」などと報じていた。


 山本容疑者は「ゲーム感覚で合意があった」と容疑を一部否認しているようである。

 しかし、「合意があった」というのであれば、「一部否認」ではなく「全面否認」である。


 そうであれば、逮捕されるのが通常である。


 私が担当した事件であるが、彼氏と付き合っていた彼女が、どういうつもりか「強姦された」と彼氏を訴え、警察は、彼氏から事情を聞くことなく、いきなりその彼氏を逮捕したことがある。

 もちろん、強姦の容疑は晴れたが、20日間も勾留された。


 それに比べると、今度の警察の対応はずいぶん違い、違和感がある。




2006年08月29日(火) オウム真理教の松本被告の四女に、江川氏が後見人に

 日経(H18.8.29)社会面に、オウム真理教の松本被告の四女が、現在の後見人を解任し、ジャーナリストの江川さんを選任するよう、さいたま家裁越谷支部に申し立てたと報じていた。


 四女には父親も母親もいるから、本来であれば後見人は選任されないはずである。


 ただ、親権を行う者がいないときは、裁判所は後見人を選任するとされている。

 そして、「親権者が著しく不行跡であるとき」は、家庭裁判所は親権の喪失を宣告できる。


 この規定により、麻原彰晃も母親も親権を喪失し、その結果、後見人が選任されているものと思われる。



2006年08月28日(月) ビラ配布のためのマンション内立ち入り行為に無罪判決

 日経でなく、朝日ネットニュース(H18.8.28)で、政党ビラをまくためにマンションの各廊下まで立ち入ったことついて住居侵入罪で起訴された事件で、東京地裁は、無罪(求刑は罰金10万円)を言い渡したと報じていた。


 無罪の理由としては、立ち入り時間は7、8分と短時間、このマンションではピザのチラシも投函されている、被告人はこれまで立ち入りをとがめられたことはない、マンション玄関の張り紙には明確な立ち入り禁止の意思表示がされていなかったということのようである。


 この被疑者は23日間も勾留されているが、そこまでの必要性があったのだろうか。

 
 厳重注意として、それでも続けるようであれば事件にするという対応でよかったのではないか。


 その意味で、東京地裁の判断には敬意を表したい。


 ただ、この種の公安事件では、裁判所は形式的に判断する傾向があるように思われる。

 そのため、控訴されれば逆転有罪になるのではないだろうか。



2006年08月25日(金) 振り込め詐欺で、被害金68億円が口座に眠っている

 日経(H18.8.25)7面に、「振り込め詐欺」で口座を凍結したその中に、被害金が68億円も眠っているという記事が載っていた。


 一旦口座に入ると、それが誰の被害金なのか分からない。


 そのため、銀行が二重払いを恐れて被害者に返金しないことが、大金が眠っている原因である。


 そこで、法律でお墨付きを与えるべく、被害者への返還ルールを定めた議員立法を検討中であるが、他の法律との整合性を考えると、なかなか難しい問題もあるようである。


 しかし、68億円という大金が目の前にあるのに、それを被害者に返還できないというのはおかしい。


 被害者救済の見地から、大胆な発想で返還ルールを定めて欲しいと思う。



2006年08月24日(木) 「人質司法」について

 日経(H18.8.24)社説で、「誤認逮捕 『人質司法』も反省を」という見出しで、誤認逮捕され、裁判で無罪が言い渡された事件について書いていた。


 この事件の被告人は一貫して否認していたため、裁判が始まってからも10か月も身柄拘束がされていた。


 現在の裁判所の運用では、否認しているとなかなか保釈を認めず、とくに第一回公判前の保釈は極めて難しい。


 それは結果的に自白を強要するものになっており、「人質司法」と呼ばれている。


 社説では、10か月勾留をした裁判所に対して批判していたが、それだけでなく、弁護士についても次のように書いていた。

 「憂慮されることは、弁護士まで『人質司法』に慣れ切った様子が伺われる。弁護士が保釈請求したのは25%くらいしかない」


 耳が痛い話である。



2006年08月23日(水) みずほ証券が東証に404億円の損害賠償を求める

 日経(H18.8.23)3面に、昨年12月のみずほ証券によるジェイコム株の誤発注に関連して、みずほ証券が東京証券取引所に対し、404億円の損害賠償を求める催告書を送ったが、東京証券取引所は支払いに応じない構えであると報じていた。


 争点は、

「重過失がない限り損害は賠償しない」という証券取引所の規定が有効か、

規定が有効とした場合、システム不具合が「重大な過失」にあたるか、

重過失ありとされた場合の過失相殺の程度

であろう。


 裁判になった場合、システムの不具合について東証に過失はあるとしても、重過失まではないとされるのではないかと思う。


 それにしても、東証もみずほ証券も、安易な和解は株主に説明がつかないと言っているが、本当にそうなのだろうか。


 いたずらに紛争を長引かせることの方が株主に説明がつかないということもあり得るのではないかと思うのだが。



2006年08月21日(月) クレーンが送電線に接触 損害の範囲は?

 日経ではなく、昨日(H18.8.21)の朝日ネットニュースで、クレーンが送電線に接触し、首都圏の大規模停電を引き起こした海洋土木会社が、「間接損害については賠償義務はない」とする見解をホームページで表明したと報じていた。


 その会社のホームページを見ると、次のことが記載されていた。


 今回の事故によって電力会社から一時的に電気の供給を受けられなかったことにより発生しました一切の間接的な損害(停電によりパソコンが使用できなかった、及び故障した、エアコンが故障した、熱帯魚が死んでしまった等々)につきまして、当社には損害賠償義務はないものと判断致しました。


 不法行為による損害賠償責任の範囲は、加害行為により通常生ずべき損害、及び、特別の事情の損害であっても、それが予見可能性ある場合には、その損害とされている。


 この基準によれば、その会社の言っていることは間違いではない。


 しかし、それを現時点でホームページで表明する必要があるのだろうかとは思う。



2006年08月18日(金) 金融庁は、金利引き下げ問題で特例を認める方針

 日経ではなく朝日(H18.8.3)1面で、金融庁は、貸金の金利引き下げ問題で、特例で1社だけから、元本10万円以内で、1年以内に返済できる分について、現行の出資法の上限金利(年利29.2%)を認める方針と報じていた。


 しかし、そこまでして例外を認める必要性があるのだろうか。


 1社だけ、元本10万円以内、1年以内の返済では、大手の消費者金融は貸さず、一部の小規模消費者金融が貸し付けることになると思われる。


 借主から高い金利を徴収し、一部の消費者金融会社を救済するだけの案に、合理性があるとは思われないのだが。



2006年08月17日(木) 「弁護士大観」

 日経(H18.8.17付)1面下の広告欄に「弁護士大観」という本の広告が載っていた。


 この本には、全国の弁護士の事務所住所、経歴、得意分野、顔写真などが掲載されており、何年かに一度発刊されている。


 発刊する前に、各弁護士に、経歴などの原稿に顔写真を添付して返送するよう依頼が来るのだが、面倒だから送り返さない人も多い。


 私も、最初のときは近くの写真屋さんで顔写真を撮って送ったのだが、それ以降は返送していない。


 そのため、この本に載っている私の顔写真は今の容姿とはずいぶん違っていると思う。



2006年08月16日(水) 社外取締役の報酬がゼロというのは問題ではないか

 日経(H18.8.16付)3面に、各企業の社外取締役の報酬について報じていた。


 それによると報酬が500万円以下の企業もあれば、2000万円を超える企業もあった。


 いくらの報酬が適切かは、拘束される日時、その人の能力によって異なるだろうから、ばらつきが生じるのは仕方ない。


 ただ、報酬がゼロの企業があり、これには驚いた。


 なにか特別の事情があるのかも知れないが、報酬ゼロでは社外取締役としての責任ある業務が期待できないのではないか。



2006年08月10日(木) 裁判で「動機」を解明することは難しい

 日経(H18.8.10)社会面に、秋田の連続児童殺人事件で、畠山容疑者が長女殺害で追起訴されたと報じていた。


 記事では、「動機解明 舞台は公判に」という見出しをつけていた。


 しかし、裁判の中で、犯行の動機というのは情状酌量理由の一つとして問題になることは多いが、それ以外では動機はあまり重視されない。


 もちろん、判決文の中で、「動機は悪質である」などと書かれることは普通である。


 しかし、量刑としては「動機」をあまり考慮していない場合が多いように思う。


 その意味で、裁判によって動機が解明されることはないだろうと思われる。

 (8月11日から15日までお休みします。)



2006年08月09日(水) 買収防止策における独立委員会の意義

 日経(H18.8.9)1面で、王子製紙による北越製紙株のTOBに対し、北越製紙の独立委員会が買収防止策の発動を勧告したと報じていた。


 しかし、独立委員会の勧告があったからといって、当該買収防止策が適法になるわけではないだろう。


 独立委員会といっても所詮は会社内の組織であり、そこがお墨付きを与えたから適法になるというのは不合理である。


 それゆえ、裁判所は、独立委員会の勧告の有無はほとんど考慮しないと思われる。


 そうだとすると、買収防止策発動の是非を検討するための独立委員会というのは、ほとんど存在価値がないのではないだろうか。



2006年08月07日(月) 「ユーチューブ」について

 日経(H18.8.5)1面下段の「春秋」欄で、「ユーチューブ」に投稿された、相棒の不祥事を泣いて詫びるお笑い芸人の画像を巡って生じたネットのトラブルについて書いていた。


「ユーチューブ」とは、アメリカの動画サイトであり、自由に動画を投稿し、閲覧することができる。


 手軽に動画が楽しめるという効用はある。


 しかし、投稿されている相当数が著作権法違反と思われる。


 ちなみに、そのサイトを覗いてみたら、亀田興毅の判定勝ちについての各テレビ局の映像がアップロードされていた。


 映像が10分を超えるサイズのファイルはアップロードすることを制限されているが、10分以内であれば著作権法違反にならないということはない。


 ユーチューブ側は、利用規約で著作権侵害になるファイルのアップロードを禁止している。


 しかし、いずれはサイトの閉鎖に追い込まれるのではないだろうか。



2006年08月04日(金) 法化社会の到来

 日経(H18.8.4)1面トップで、王子製紙による北越製紙の株式のTOBに対し、日本製紙がTOB阻止のために北越製紙の株式を対抗取得したと報じていた。


 これについて、3面で識者のコメントが載っていた。


 1人の方は、日本製紙の株式取得は株主への説明が困難であり、株主代表訴訟を招きかねないというものであった。


 もう1人の方は、日本製紙の株式取得は法令違反にはならないだろうというものであった。


 いずれも司法判断を念頭に置いたコメントであることがおもしろい。


 すべての経済活動が、司法でどのように判断されるのか抜きにしては語れなくなってきていることのひとつの現われといえると思う。



2006年08月03日(木) 小学2年生のプール事故死

 日経(H18.8.3)社会面に、小学2年生のプール事故死で、吸水口のふたを6、7年前から針金で固定していたことが分かったと報じていた。


 あまりにもひどい話である。


 給水口に吸い込まれて死亡する事故はこれまで何度も起きており、業務上過失致死罪に問われるだけでなく、民事上の損害賠償請求の裁判も過去いくつも起されている。


 プールから飛び込んでプールの底に頭を打ち、重い障害が残る事故もしばしばあり、これも管理者に対し損害賠償請求が起されている。


 プール関係者は、過去の裁判例などを調べたりして、どのような事故が起きているのかをよく調査し、適切な対策を講じるべきである。



2006年08月02日(水) プロ野球選手の選手名や肖像の使用許諾権は誰に?

 日経(H18.8.2)社会面で、プロ野球選手の選手名や肖像の使用許諾権が球団側に属さないことを求めた裁判で、東京地裁は請求を棄却し、使用許諾権が球団にあると判断したと報じていた。


 自分の名前や肖像を勝手に商品化されるのは堪らないというのが選手側の気持ちなのだろう。


 しかし、東京地裁は、統一契約書作成当時の状況、球団が使用許諾権を有することの合理性などから、使用許諾権は球団側にあると判断した。


 その手法はオーソドックスであり、結論も妥当なものだと思う。



2006年08月01日(火) 談合事件で、実刑判決

 日経(H18.8.1)社会面で、防衛施設庁の発注工事談合事件で、東京地裁は、元技術審議官に対し懲役1年6月の実刑を言い渡したと報じていた。


 防衛施設庁での官製談合は歴代続いたようである。


 それ以外の官庁でも官製談合は日常的に行われていると思われる。


 そのような状況の中で、実刑判決というのは重いなあという印象である。


 これでは、怖くて談合なんかやれなくなるだろう。


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