今日の日経を題材に法律問題をコメント

2005年07月29日(金) 被告人が法廷で証人に殴りかかる

 日経(H17.7.29)社会面に、刑事事件の公判で、検察側証人として出廷し、証言をしていた女性に、被告人が突然お襲いかかり、頭を殴ったという記事が載っていた。


 被告人は、裁判が始まると手錠と腰縄をはずされる。


 裁判中は、両脇に警察官(あるいは刑務所の刑務官)が挟んでついて逃げないように監視しているが、証人は被告人のすぐ近くで証言しているから、突然お襲いかかると、警察官や刑務官は止めようがないだろう。


 大体、被告人がその気になれば、法廷から逃げ出すことさえも可能のように思う。

 実際にそのようなことがほとんど起こらないのは、「素直に裁きを受ける」という日本人の性格によるものだろうか。



2005年07月28日(木) 名誉毀損で、相場よりも高額な損害賠償を認める

 日経(H17.7.28)社会面に、福岡一家殺害を巡る記事が名誉毀損にあたるとして、東京地裁は、講談社に対し、880万円の損害賠償命令を命じたと報じていた。


 「フライデー」の記事で、被害者の兄が事件に関与したかのように書いたというものである。


 現在、名誉毀損における損害賠償額の相場は500万円と言われており、それからすると相場よりは高額な判決である。


名 誉毀損された人が一般人であること、名誉毀損された人が亡くなった被害者の実兄であったことが考慮されたのであろう。



2005年07月27日(水) 『共謀罪』が廃案に

 日経(H17.7.27)社会面に、政府・与党は、今国会における『共謀罪』の創設を断念したという記事が載っていた。


 『共謀罪』とは、「長期四年以上の刑を定める犯罪」を、「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者」を処罰するものである。


 『共謀罪』を創設する理由は、国連組織犯罪防止条約を締結したことから、それに合わせて国内法を整備するためである。


 しかし、条約では「組織的犯罪集団が関与するもの」という限定があるのに対し、法案ではそのような限定の文言がない。

 そのため、処罰範囲があまりに広いと危惧されている。


 なぜ、こんなあいまい規定を設ける必要があるのかよく分からない。

 いったん廃案にして、じっくり議論すべきであると思う。



2005年07月26日(火) ワールドが株式を非公開へ

 日経(H17.7.26)1面で、経営陣の株式購入により、ワールドの株式を非公開するにすると報じていた。

 究極の買収防止策ということのようである。


 株式を非公開にすると、株主による会社の監視ということは期待できないため、コクドのように会社を私物化する危険性はある。


 しかし、株式公開と非公開のいずれが正しいということはない。

 法律はいろいろなメニューを用意しているだけであり、何を選択するかは当事者が自主的に決めるべきことである。


 ワールドの株式非公開化は、企業経営における一つの考え方として評価されるべきであると思う。



2005年07月25日(月) 控訴審は怖い

 日経(H17.7.25)社会面に、パチスロ訴訟で、アルゼの特許無効が確定したと報じていた。


 アルゼと、訴訟の相手方のサミーとの事件では、もう一つ訴訟が係属している。

 その訴訟では、アルゼに特許があることを前提に、東京地裁はサミーに対し84億円の損害賠償が命じている。


 ところが、報道のとおり、もう一つの訴訟でアルゼの特許無効となっため、84億円の損害賠償も認められないことになる。


 一審で勝ったアルゼ側の代理人は、さぞがっかりしたことだろう。


 ところで、記事にある、特許無効が確定した訴訟では、アルゼが最高裁に上告したのであるが、最高裁は上告受理をしなかったようである。


 いわば門前払いである。


 これは、最高裁に加重な負担をさせないための工夫であるが、そのため、実質的な争いは控訴審でほとんど決着することになってしまった。


 その意味で、控訴審というのは怖いというのが実感である。



2005年07月22日(金) 違法性の錯誤は故意を阻却しない

 日経(H17.7.221付)社会面に、堤義明前コクド会長が虚偽記載、インサイダー取引に問われた事件で、堤被告が、旧大蔵省OBの弁護士から、違法であるとの注意を受けなかったと供述したと報じていた。

 つまり、堤被告は、弁護士から適切なアドバイスがなかったことから、インサイダー取引にあたるとの認識が薄かったのであり、その点を情状として訴えているのである。


 ところで、刑法の教科書には、弁護士が適法であるとアドバイスして、それを信じて行ったところ違法であった場合に、犯罪の認識がないとして罪を問われないのかという問題がある。


 この問題は、適法であると思ったのに違法であったことから、「違法性の錯誤」と言われ、「違法性の錯誤は故意を阻却するか」という形で議論されている。


 結論としては、「違法性の錯誤」は故意を阻却しない。


 したがって、「弁護士が違法でないと言ったから罪にならない思った」という言い訳は通らないことになっている。



2005年07月21日(木) TOB期間中の株式分割の適法性

 日経(H17.7.21付)社説で、「TOBルールの整備急げ」という見出しで、「夢真」の「日本技術開発」に対するTOBと、「日本技術開発」がそれに対抗するために実施した株式分割について論じていた。

 この事案では、「日本技術開発」は、TOB期間中に、株式分割を買収防衛策して使った。

 その場合、
 TOB期間中の株式分割が適法か
 株式分割された場合、買い付け価格を引き下げることが出来るか
 TOBの撤回が可能か
ということなどが問題になる。


 「夢真」は、株式分割差し止めの仮処分を裁判所に申し立てるようである。

 TOB期間中の株式分割を、直接禁止する規定はないが、不当な印象は受ける。

 そのため、裁判所がどのような判断をするか分からない。


 ただ、このような問題で重要なことは、ルールを定めることである。

 ルールがあれば、それに則って企業は動くことができるが、ルールが明確でないと、企業としては予測可能性がなくなるからである。



2005年07月20日(水) 18歳は成人としてと扱うべきである

 日経(H17.7.20)社会面に、「NEWS」の18歳のメンバーと、フジテレビの女性アナウンサーらとが飲酒した問題で、フジテレビの社員10名が処分されたという記事が載っていた。


 「飲酒ぐらい大目に見たら」とは言わない。

 しかし、18歳は、法律上も成人として扱うべきではないかと思う。


 選挙権についていえば、憲法は、「成年者による普通選挙を保障する」と定めているのみで、何歳から成人であるかについては規定していない。


 「満20歳をもって成年とする」と定めているの民法である。

 しかし、それは切りがいいというだけで、それ上の合理的根拠はなさそうである。



 むしろ、社会一般には、18歳、19歳は大人として扱われているのではないだろうか。


 そうであれば、18歳以上にはすべて選挙権を与え、少年法の適用はせず、飲酒も本人の責任で認めるべきではないかと思うのだが。



2005年07月19日(火) カメラの監視カメラ購入費用までは請求できない

 日経(H17.7.19)社会面に、自動車をパンクさせた男が逮捕されたという記事が載っていた。


 同様の事件が50件以上発生しており、他の報道では、周辺住民はそれぞれの方法で防止対策を取っていたそうである。


 中には監視カメラを購入した人もいたそうであり、その人は、「監視カメラを購入した費用を賠償して欲しい」と言っていた。


 しかし、パンクの修理代、あるいはタイヤ代金までは請求できても、監視カメラの購入費用まで賠償請求することは認められないであろう。

 パンクが続発したとしても、必ず監視カメラを設置しなければならなくなったわけではない。

 監視カメラの購入費用まで損害として認められるとしたならば、犯人逮捕後も監視カメラは価値が残るから、監視カメラを購入した人に比べて、カメラを購入しなかった人は損をすることになる。
 これは不合理であろう。


 余計な出費を余儀なくされた、その人の気持ちは分かるが、諦めるしかないと思う。



2005年07月15日(金) 適合性原則についての最高裁の初判断

 日経(H17.7.15)社会面で、株式オプション取引に関し、顧客の知識、経験などに照らし、不適法な勧誘を禁じる適合性原則について、最高裁が初の判断をしたと報じていた。


 記事の見出しでは、「過大リスク積極勧誘 違法」と付けられているため、証券会社などに厳しい判断をしたと勘違いしそうである。

 しかし、記事を読むと、最高裁は、「適合性原則に著しく逸脱した勧誘は違法になる」と判断しているようである。


 したがって、適合性原則を少々逸脱した程度では違法にならないということになるのだろう。



2005年07月14日(木) 弁護士の年収1億円?

 日経(H17.7.14)1面に、「沸騰法務ビジネス」というコラムで、合併、買収などの場面で、弁護士などの専門家の存在感が増しているということが書かれていた。


 そのコラム中で、大手法律事務所では10年で経営幹部になり、平均年収は1億円を超えると書いていた。


 確かに、私の同期で大手法律事務所に入った人はだいたい経営幹部になっているようである(年収がいくらかは知らないが)。


 しかし、最近は大手法律事務所では弁護士を大量に採用しているため、競争が厳しく、「10年経てば全員が経営幹部になれる」ということはない。


 したがって、年収1億円に目が眩んで弁護士を目指すと、当てが外れると思う。



2005年07月13日(水) フジテレビの簡易株主交換

 日経(H17.7.13)社会面下段の広告欄に、フジテレビが、簡易株式交換してニッポン放送を完全子会社とするとの公告が掲載されていた。


 株式交換する場合には本来は株主総会の承認が必要とされている。

 しかし、簡易株主交換の場合には株主総会の承認は不要である。

 完全親会社となる会社の株主にあまり影響がないからであり、簡易合併と同様な制度である。


 ともかく、これでニッポン放送の問題は一件落着ということになる。



2005年07月12日(火) 参議院で法案が否決され、衆議院を解散しても、違憲ではない

 日経(H17.7.12)2面で、郵政民営化法案が参議院で否決された場合、小泉首相は、衆議院を解散して総選挙を行う可能性を示唆したと報じていた。


 ところで、この場合の衆議院解散に対しては、違憲説がでているそうである。


 確かに、衆議院では5票差とはいえ、郵政民営化法案を可決している。

 その後、参議院で法案が否決されたとしても、それは衆議院の問題ではない。

 それなのに、なぜ衆議院を解散する必要があるのかということなのだろう。


 憲法は、衆議院で内閣不信任案が可決されたときなど、衆議院を解散しなければならない場合について規定している

 しかし、それ以外にどのような場合に衆議院の解散が許されるかについての規定はない。


ただ、有力な学説では、

1 選挙の際に争点とならなかった重大な問題が生じ、民意を問う必要が生じたとき

2 国会の統一的な意思形成力に問題が生じ、内閣として責任ある政策形成ができなくなったとき

には、衆議院解散が認められるとしている。


 郵政民営化法案についていえば、衆議院では、可決されたとはいえ、それはわずか5票差である。

 そのうえ、参議院で否決されたとなれば、「国会の統一的な意思形成力に問題が生じ、内閣として責任ある政策形成ができなくなったとき」に該当するといえるであろう。


 したがって、参議院で郵政民営化法案が否決された場合に、内閣が衆議院の解散をすることは許されることであり、違憲とはいえない。



2005年07月08日(金) 警察官が、取り調べ中に被疑者と性的関係を

 日経(H17.7.8)社会面に、警察官が、取り調べ中に被疑者にわいせつな行為をしたり、性的関係を持ったという記事が載っていた。


 記事によれば、取調べをしていた場所は警視庁菊屋橋分室である。


 ここは、女性の被疑者ばかりが入っている留置場の専用施設であり、それに併設する形で取調室があるに過ぎない。

 留置担当者のほとんどは女性警察官であり、出入りもチェックされる。


 取調べをする警察官は、所属する警察署から出向いてくるわけであり、自分の自由になるような場所ではないのである。


 そういう施設の中で性的関係まで持ったというのだから、出来心ということはあり得ない。

 確信犯というしかないと思う。



2005年07月07日(木) 花田家の元家政婦の言動はプライバシーの侵害にあたる

 日経(H17.7.7付)に、週刊新潮の広告で、「兄弟げんかで『荒稼ぎ』した花田家の元家政婦」という記事が載っていた。


 この元家政婦は、仕事の中で見聞きしたことを喋りまくっている。


 元家政婦が、勤めるときに契約書を交わしていれば、その中に、当然、守秘義務条項が入っているであろう。

 しかも、守秘義務は「契約期間が終了した後も適用される」としていることがほとんどである。


 したがって、見聞きしたことを第三者に話すことは契約違反であり、損害賠償請求の対象となる。


 もっとも、実際には契約書を交わすことは少ないし、このケースも契約書までは交わしてないと思われる。


 その場合には、プライバシー侵害として、精神的損害賠償請求(慰謝料)を請求することが可能である。


 ただ、そのような裁判を起こすと、花田家はまたまたマスコミの好餌となるだろうから、それを恐れて裁判まで起こさないのだろう。


 しかし、家庭内部のことを第三者にべらべら喋るがことが許されるのなら、恐くて家政婦なんか雇えないことになる。

 たとえ家政婦を雇う予定がない人でも、ホームベルパーをお願いすることはあり得るだろうから、誰にも身近な問題である。


 私は、花田家の誰かが、この家政婦に対して、きちんと法的措置をとるべきであると思う。



2005年07月06日(水) 不作為による殺人

 日経(H17.7.6)社会面に、「ミイラ遺体事件で懲役七年が確定へ」という記事が載っていた。


 成田のホテルでミイラ化した遺体が見つかった事件で、ライフスペースの代表者が殺人罪に問われたものである。


 この事件の特徴は、代表者は積極的に殺害行為をしたわけでなく、放置しただけであり、不作為の殺人罪を問われたことである。


 不作為犯が成立するためには、作為する義務が必要であり、その義務を怠ったことが違法行為と評価されることになる。


 刑法の教科書にはよく登場するような事案であるが、実際に不作為の殺人が認められることはめったにないと思う。



2005年07月05日(火) ソフトウェア特許の基準があいまい

 日経(H17.7.5付)5面に、「ソフトウェア特許の『乱用』に制限をする動き」という記事が載っていた。


 ソフトウェア特許の基準があいまいなため、特許侵害で訴えられることを恐れた中小ソフト会社では技術開発をためらう動きが出ているそうである。


 具体例として、その記事の中では、パソコンのF1とかF2といったファンクションキーに、「税処理」などの機能を割り当てたという技術で特許を取得したということを挙げていた。

 確かに、ファンクションキーに機能を割り当てることは一般的に行われており、それに新規性があるとは思われない。


 この程度で特許が取れるのでは、基準があいまいといえる。


 特許庁は、知財戦略を重視するあまり、安易に特許を認めてすぎており、その結果、基準があいまいになっているのではないだろうか。




2005年07月04日(月) 懲罰的損害賠償が認められるべきと思う

 日経(H17.7.4付)16面で、世界中の独占禁止法違反がアメリカに持ち込まれ、損害賠償請求されるおそれがあるという記事が載っていた。


 記事によれば、現在アメリカの裁判所で、他国で起きたカルテルでも、アメリカで裁判できるかということが争点となった訴訟が審理されているそうである。


 仮に、アメリカでの訴訟が認められれば、実際の損害額の3倍の賠償請求が認められる。

 アメリカの民事訴訟では、懲罰的賠償請求という考えがあるため、実際の損害を超えて賠償請求できることになっているからである。


 これに対し、日本では、実際の損害以上の請求はできないという伝統的解釈がある。


 しかし、裁判所や立法府は、そのような伝統的解釈の呪縛にとらわれていると思う。


 懲罰的賠償請求が認められないという規定はどこにもない。


 私は、違法行為の抑止の見地から、懲罰的賠償請求の考えを取り入れるべきであると思う。







2005年07月01日(金) 使い勝手が悪い個人情報保護法

 日経(H17.7.1付)3面に、4月に完全施行された個人情報保護法により現場の混乱が続いているという記事が載っていた。


 個人情報保護法に関しては、相変わらず顧問会社などからの問い合わせが多い。


 法律の規定の仕方が広範なため、条文を素直に読むと、法律に抵触するのではないかと思われることがよくあるからである。


 個人情報保護法を楯にして、必要な情報を開示しないことも起きている。


 どうも、この法律は使い勝手が悪い気がする。


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