今日の日経を題材に法律問題をコメント

2005年05月31日(火) もんじゅ設置許可について、最高裁は適法と判断

 日経(H17.5.31)1面に、もんじゅ設置許可の無効確認訴訟で、最高裁は、違法とした高裁判決を覆し、適法との判断をした


 最高裁の裁判官は、ほとんどが65歳以上で、しかも法律家であって原子力の専門家ではない。


 そのような人たちが、原子炉設置の安全審査の内容が妥当かどうかまで判断できるはずがない。

 そのため、裁判所としては、原子力安全委員会などの専門家の判断を尊重するしかないのではないだろうか。


 今回の最高裁の判決について、「最高裁のあるべき姿の放棄である」という原告弁護団の批判が載っていた。

 しかし、司法がすべてを判断できるはずはなく、それぞれの役割分担があると思う。


 その意味で、もんじゅ設置許可を適法とした最高裁の判断はやむを得ないのではないか。



2005年05月30日(月) 出資法で認める金利を引き上げる動き

 日経(H17.5.30)19面に、「消費者金融の怪」というタイトルで、利息制限法と出資法とで金利が違うという解説記事が載っていた。


 利息制限法で認められている金利は18%である(元本が10万円以上100万円未満の場合)。

 これに対し、出資法で認められている金利は29.2%である。


 29.2%という利息は、貸付資金の調達利息に比べて相当高いと思われる。


 ところが、この29.2%という金利を上げようという動きがある。

 中小金融業者の保護のためということらしい。


 しかし、現在の低金利時代においては、29.2%の利息でも十分利益が出ると思われる。

 それなのに、それ以上の利息の徴収を認めてまで、金融業者を保護する必要性があるのだろうか。



2005年05月27日(金) 政府が新株予約権の不公正な発行事例を公表

 日経(H17.5.27)1面に、政府は、敵対的買収防衛策に関して、新株予約権の不公正な発行事例を明らかにしたと報じていた。


 通常、このような事例の公表は、行動指針となるものであり、企業活動に予測可能性を与えるという意義がある。


 しかし、敵対的買収に対する防衛策については、法律事務所が、競うようにいろいろな防衛策を考え出したようであり、中には首をかしげるような過度な買収防衛策もあったようである。


 その意味で、今回の事例の公表は、企業活動に予測可能性を与えるというよりも、そのような過度な買収防止策を抑制する意味合いの方が強いように思われる。



2005年05月26日(木) 「星の王子さま」という題名に著作権の保護はない

 日経ではなく朝日(H17.5.26)3面に、「星の王子さま」の日本での著作権が切れることから、サン・テグジュペリの「星の王子さま」の新訳が続々と発刊されるという記事が載っていた。


 この本の原題は直訳すると「小さい王子」であり、「星の王子さま」というのは、翻訳者のアイデアである。


 そのため、翻訳者の孫は、「新訳を出すのであれば、それにふさわしいアイデアを出すべきである。」「『星の王子さま』の名前で出すのであれば、法的に何らかの手を打ちたい」と言っているそうである。


 しかし、残念ながら題名には著作権の保護は働かない。


 題名は著作物の本質的内容とはいえないと考えられているからである。

 また、題名という短い表示に著作権を認めてしまうと、他の表現活動を著しく制約することになってしまうからである。


 ただ、「小さい王子」というを原題を「星の王子さま」という題名にしたのはすばらしい創作と思う。




2005年05月25日(水) 違法チューナーの販売で逮捕

 日経ではなく朝日(H17.5.23)社会面で、無料でケーブルテレビを視聴できるチューナーを販売したことが、電気用品安全法違反(無表示販売)にあたるとして、販売した者を逮捕したと報じていた。


 違法チューナーは以前から問題化しており、民事上違法であることは間違いない。

 しかし、刑事罰を科すことはできないとされていた。


 逮捕された容疑者は「まさかチューナーの販売で逮捕されるとは思わなかった」と供述しているそうだが、それは本心だろう。



2005年05月24日(火) 賭け将棋は違法

 日経(H17.5.24)社会面に、高校内で学校職員が合計200万円の賭け将棋を行い、負けて支払いができなくなった職員が、相手を恐喝罪で告訴したという記事が載っていた。


 相手方は、飛車角落ちですべて勝ったというのだから、負けた方はほとんど初心者であり、うまく丸め込んで賭け将棋に引っ張り込んだのだろう。


 そうは言っても賭け将棋は違法であるから、負けたほうも違法行為をしたことになる。

 それだけに、相手方を恐喝で訴えるというのは無理があると思う。



2005年05月23日(月) 私用メールの監視はプライバシーの侵害にならない

 日経(H17.5.23)19面に、職場で私用メールを監視するのはプライバシーの侵害になるのかという記事が載っていた。


 記事では、結論として、会社側に監視の必要性があり、手段が妥当な場合はプライバシーの侵害にならないと書いていた。


 その通りであり、原則として私用メールの監視はプライバシーの侵害にはならないので、私用メールをしている人は注意したほうがいい。



2005年05月19日(木) 中田選手と宮沢りえとの写真掲載は不法行為にならないとの判決

 日経(H17.5.19)社会面に、中田選手が宮沢りえとのキス写真を掲載したことについて、東京高裁が、不法行為が成立しないとして、中田選手側が逆転敗訴したと報じていた。


 記事によれば、キスの記事には「公益目的があることは否定できない」と認定しているようである。


 アメリカでは、「公の利益」あるいは「公衆の関心事」と呼ばれる法理があり、「表現行為が正当な関心事であるときはプライバシー侵害にならない」という法理がある。


 高裁のいう「公益目的」が、ここにいう「公衆の関心事」と近い意味で使っているかどうかはよく分からない。


 ただ、プライバシー侵害訴訟では、裁判官の価値観にかなりばらつきがあり、そのため結論が読めないことが多い。
 
 弁護士としては怖い類型の訴訟といえる。



2005年05月18日(水) 法律書の発行差し止め

 日経(H17.5.18)社会面に、著作権侵害を理由に、法律書2点が発行差し止めになったという記事が載っていた。


 法律書は、書くことが大体決まっているから、どうしても似てしまう。


 発行差し止めになったうちの一点は債権回収の本のようであるが、債権回収の本であれば、「担保のとり方」「債務超過なった会社の見分け方」「仮差押の方法」など、だいたい書くことは決まってくる。


 したがって、発行差し止めが認められたということは、よほど似ていたのだろう。



2005年05月17日(火) 高額納税者のトップの所得は100億円

 日経(H17.5.17)社会面と昨日の夕刊で、高額納税者で、サラリーマンがトップになり、推定所得は約100億円と報じていた。


 ところで、青色発光ダイオードの中村教授の職務発明の対価について、東京高裁は6億円と算定したようである。

 中村教授の発明で会社が得た利益は巨額であるが、それでさえも相当対価が6億円だとすると、ほとんどの職務発明の対価はそれ以下になるだろう。


 報酬が100億円いう報道を聞くにつけ、裁判所のスケールの小ささを思わざるを得ない。



2005年05月16日(月) 裁判官は、学者の意見書を重視しない

 日経(H17.5.16)22面で、ライブドアのニッポン放送買収に関して、「弁護士たちの70日戦争」と題して、顧問弁護士たちがどう動いたかについてレポートしていた。


 その中で、ニッポン放送側は、商法学者の大御所の意見書をいくつも提出したことが書かれていた。


 学者の意見書というのは、法律の解釈が争われる大きな事件ではしばしば提出される。


 しかし、裁判官は、あまり学者の意見書は参考にしない。

 自分たちの方がよく知っているという思いがあるのかも知れない。



2005年05月13日(金) 刑務所からの出所情報を警察庁に提供

 日経(H17.5.13)社会面で、刑務所からの出所情報を警察庁に提供する仕組みについて、性犯罪者だけでなく、殺人、強盗、窃盗などの犯罪も対象にすることになったと報じていた。

 再犯防止や、犯罪捜査の必要性を考えると、やむを得ないとは思う。


 ただ、街頭のビデオ撮影など、プライバシーに関わる情報がどんどん警察に集まっている感じがする。



2005年05月12日(木) 住民基本台帳の閲覧を制限する改正案を検討

 日経(H17.5.12)社会面で、政府が、住民基本台帳の閲覧を制限する改正案を提出することを検討していると報じていた。


 現在、住民基本台帳は原則として誰でも閲覧することができる。

 業者は、それを閲覧してダイレクトメールに利用しており、そのため、例えば子どもの七五三や入学時に、いろんな案内が届いたりするのである。


 しかし、個人情報の管理が重視されてきているのに、住民基本台帳の閲覧が自由というのは整合性がない。

 閲覧を制限するのは当然であると思う。



2005年05月11日(水) 取調べの録音テープが証拠で提出

 日経(H17.5.11)社会面で、佐賀地裁が、死刑求刑の被告に無罪を言い渡したと報じていた。


 朝日新聞によると、取調べの際の録音テープがあり、そこでは、取調官の問いかけに、被告人が「はい」「いいえ」と小声で答えているだけであったそうである。


 録音テープが証拠として提出されることは珍しい。

 検察官としては、被告人の供述の信用性を高めようとして、録音テープを証拠として提出したのだろうが、逆効果だったようである。



2005年05月10日(火) 一太郎の特許訴訟 知財高裁は大合議で審理

 日経(H17.5.10)社会面に、一太郎の特許訴訟で、知財高裁は、5裁判官で審理する初の大合議で審理することを決めたと報じていた。


 通常の合議事件は、裁判官は3人である。

 ただ、3人の裁判官の合議といっても、ほとんど裁判長の意見で決まってしまうのが実情である。

 その点、裁判官が5人であれば、実質的な合議が期待できそうである。



2005年05月09日(月) 海外研修して帰国直後に、他の企業に転職

 日経(H17.5.9)18面で、社員が海外研修して帰国した直後に、他の企業に転職した場合、留学費用を返還する必要があるかどうかについて書いていた。


 会社の費用で海外研修に行き、MBAなどの資格を得たのに、その帰国直後に転職されたのでは会社はたまらないだろう。

 そのため、会社が、辞めた社員に対し、留学費用の返還を求める裁判がときどき起こされている。


 新聞記事にも書いていたが、この問題のポイントは次の2点である。


(1)海外研修が業務かどうか。

 海外研修が業務であれば、会社が費用負担するのは当然だからである。

(2)返還を求める金員が、社員への貸付金の返還請求なのか、約束を破ったことによる損害賠償請求なのか。

 労働基準法は「労働契約の不履行について損害賠償請求を予定する契約をしてはならない」と定めているため、返還を求める理由が、約束を破ったことによる損害賠償請求であれば、会社の請求は認められないからである。


 ただ、会社は、留学費用は社員に対する貸付金であり、5年以内に退職した場合には留学費用は返還するという誓約書をとっていることが多い。

 したがって、そのような誓約書の有無が実質的争点となることはなく、争点は、海外研修の実体が、業務かどうかである。



 新聞記事では、「用意周到な誓約書を根拠に、企業側が勝訴していることが多いようだ」と結んでいたが、それはいいすぎであろう。

 「用意周到な誓約書」があっても、海外研修の実体が業務であれば、会社の返還請求が認められない可能性が高いからである。


 したがって、会社側としては、留学前に、「留学後に自己都合で退職した場合は留学費用を返還する」という誓約書を書かせたとしても、安心はできないということである。



2005年05月06日(金) 朝日が「強姦」という言葉を使うようになった

 今日は新聞の休刊日があるが、日経ネットニュース(H17.5.6)で、不動産物件案内の女性社員に性的暴行をしようとしてけがをさせたとして、案内させた男を性的暴行傷害容疑で逮捕したと報じていた。


 同じニュースについて、朝日のネットニュースでは、「部屋探しを装い、物件を案内させている最中に不動産会社の女性社員を襲った男を、警視庁は、を強姦致傷の疑いで逮捕した」と報じていた。


 これまで、朝日も「強姦」という言葉を使わなかったはずだが、いつから方針変更したのだろう。



2005年05月02日(月) 個人情報保護法の効果に疑問?

 日経(H17.5.2)13面の「クイックサーベイ」というコラムで、「個人情報保護法の効果に疑問」とする意見が60%もあったという記事が載っていた。


 その記事によれば、個人情報保護法が制定されても、ダイレクトメールはほとんど減らないか、増えるという意見が60%もあり、法律制定の効果については疑問視している意見が多かったとのことである。


 この法律の制定で、企業の担当者は対策に大わらわである。

 私も、企業から問い合わせを受けたり、個人情報保護規定の確認を求められたりした。


 それでも法律制定の効果に疑問視する意見が多いというのであるから、この法律は、担当者と弁護士を忙しくさせただけということになるかも知れない。


 < 過去  INDEX  未来 >


ご意見等はこちらに
土居総合法律事務所のホームページ


My追加
-->