今日の日経を題材に法律問題をコメント

2004年12月30日(木) 規制緩和にはいずれ揺り戻しがあると思う

 日経(H16.12.29)17面の経済教室に、上村早大教授が、「『経営者天国』牽制が必要」という見出しで、持ち株会社の流行により、株主の牽制を受けない会社が増えており、不正行為の横行をもたらす危険性があるということを書いていた。


 確かに、今日の規制緩和により、あらゆることが原則自由となってきている。

 それは競争を促すことになるというメリットがあるが、反面、モラルが低下し、不正を発生させる危険性を内包しているといえる。


 規制緩和一色であるが、いずれ規制を緩和したことによるひずみが生じ、揺り戻しが来るのではないかと思っている。



2004年12月29日(水) 地検が亜大野球部員を不起訴に

 日経(H16.12.29)社会面に、東京地検八王子支部は、亜細亜大学野球部員を不起訴にしたと報じていた。


 この事件では、マスコミは野球部員たちを散々罵っていた。

 中には、野球部員が事件を認める供述を始めたと報じたマスコミもあり、相変わらず警察発表だけで報道することの問題性が示されたといえる。


 マスコミはきちんと反省すべきである。



2004年12月28日(火) オウム事件、控訴趣意書の提出期限延長が認められず

 日経(H16.12.28)社会面に、オウム真理教の松本被告の弁護団が控訴趣意書照代出期限を2年2か月延長することを求めたが、裁判所は却下したという記事が載っていた。


 控訴趣意書とは、控訴した理由を書いた書面である。

 これを書くには原審の記録をすべて読まなければならないが、オウム事件では大変な作業となる。

 裁判官や検察官はその事件だけ担当する者を決めることも可能であるが、弁護士は他の収入も得なければならないから、そういうわけにはいかない。


 それゆえ、弁護団の苦労が推察される。


 ただ、控訴趣意書の提出期限を2年2か月も求めたのは長すぎではないだろうか。

 本気で延長を求めたのではなく、単なるパフォーマンスではないかと思われかねない。



2004年12月27日(月) サービサーは弁護士法違反?

 日経(H16.12.27)22面にサービサー法施行5周年シンポジウムの広告記事が載っていた。

 広告記事だから、「サービサーは企業再建や資産の再生を通じて、経済活性化に寄与している」という論調である。


 サービサーとは債権譲渡を受けて債権回収をはかる会社である。

 その業務は弁護士業務と重複することから、これ以上業務の拡大を認めると、法律事務の独占を認めた弁護士法に抵触すると危惧する弁護士もいる。

 また、サービサーには消費者金融の子会社も多い。


 そのためであろうか、弁護士のサービサーに対する視線は冷たい。


 しかし、これからは独占業務を認めている弁護士法が時代遅れになってくるだろう。

 これからは、サービサーも競争相手の一つと割り切って考えざるを得ないのではないかと思う。




2004年12月24日(金) 虚偽記載についての投資家の救済策は乏しい

 日経(H16.12.24)15面に、虚偽記載を行った企業の責任についての解説記事が載っていた。

 記事の内容は、虚偽記載を行った企業の経営者に罰則規定はあるが、虚偽の情報を信じて株を購入した投資家の救済策は乏しいというものであった。

 その記事が指摘するとおりだと思う。

 会社やその役員が虚偽記載した以上、投資家に対しても株価下落の責任を負うべきである。

 それが証券取引の信頼につながると思うからである。



2004年12月21日(火) 東京高裁が、オウムの松本被告の公判手続き停止を認めず

 日経(H16.12.21)社会面に、オウム真理教事件の松本被告に公判手続きの停止を申し立てた問題で、東京高裁は公判停止を認めないことを弁護団に伝えたと報じていた。


 被告人が心神喪失の状態にあるときや、病気のため出頭することができないときは、公判手続きを停止しなければならないとされている。


 松本被告について、公判手続き停止を認めない決定の適否については、判断できる材料もないので何ともいえない。


 ただ気になるのは、「受け答えは自然で話の流れを理解しているようだ」という裁判所の報告書の内容が事前にマスコミに漏れていることである。

 これは問題ではないだろうか。



2004年12月20日(月) 武富士錦糸町支店に業務停止処分

 日経(H16.12.20)社会面の広告欄に、「謹告」として武富士錦糸町支店が貸金業規制法に基づき業務停止処分を受けたということで、その謝罪広告が載っていた。

 他社の新聞記事によると、武富士錦糸町支店は、支払い義務のない者に請求をして、それを記録していなかったことが問題になったようである。

 しかし、記録していなかったことよりも、支払い義務のない者に請求をしたこと自体が問題である。


 武富士は、会長自身が刑事責任を問われており、そのような法無視の態度が体質化しているのか、極めて問題のある企業だと思う。


 謝罪広告には、「更なるコンプライアンス体制の強化を図る」と書いていたが、空々しい感じがする



2004年12月17日(金) ビラ配りに対し、無罪判決

 日経(H16.12.17)社会面に、ビラを配るために自衛隊宿舎の階段や通路に立ち入ったとして住居侵入罪に問われた事件で、東京地裁八王子支部は、被告たちに無罪を言い渡したという記事が載っていた。


 判決は、被告人らの行為は住居侵入罪にあたるとしながら、ビラ配りは憲法が保障する政治的表現行為であることを鑑みると、刑事罰に値するほどの違法性はないと判断している。


 住居侵入罪にあたるとしながら違法性がないとして無罪とすることは理論的には目新しいことではないが、裁判官としてはなかなか書けない判決である。

 本来であれば、このような事件は違法性が少ないとして検察官が起訴猶予処分にすべきところであろう。



2004年12月16日(木) 外国人にも憲法の人権規定は適用されるか

 日経(H16.12.16)社会面に、東京都管理職試験の国籍制限について、最高裁が大法廷で弁論するという記事が載っていた。

 在日韓国人の方が、東京都が外国籍の職員に対し管理職試験を拒否したことは違憲であると訴えている事件である。


 これは、憲法の人権規定は外国人にも保障されるかという問題である。


 学説としては、人権の本質は個人として尊重するという性格であるという理由から、外国人も人権の享有主体であることを認めつつ、ただ、日本人と全く同様の人権まで認められるわけではなく、人権の性質に応じて個別的に判断するという見解が一般的である。

 例えば、裁判を受ける権利は外国人にも認められるが、参政権は認められないという見解が多い。


 職業選択の自由についての最高裁の判断はまだないが、大法廷を開くのだから、何らかの見解が示されることになるだろう。



2004年12月15日(水) 村岡元官房長官が公訴事実を否認

 日経(H16.12.15)1面に、橋本派ヤミ献金事件の初公判で、村岡元官房長官が公訴事実を否認したと報じていた。


 この事件では村岡元長官より実力のあった橋本元総理、野中元幹事長らは起訴されていない。


 村岡元長官だけが起訴されたのは、滝川被告が「村岡長官からの指示」と供述しているからである。

 そうすると、滝川被告の供述の信用性が問題になることが当然予想されるから、滝川被告の供述を補強する証拠があれば、検察官は最初からそれを提出すべきであろう。


 ところが、検察官は「滝川被告の供述を裏付ける証拠はあり、今後の公判で明らかにしていく」と後から提出するかのように述べている。


 そもそも、検察官は、立証に必要な証拠はすべて最初に提出するのが普通である。

 そうであるのに、この事件ではなぜ、「滝川被告の供述を裏付ける証拠は今後の公判で明らかにする」として証拠をあと出しにするのだろうか。


 この事件に関する検察官の処理はどうも納得できない。 



2004年12月14日(火) 住友信託銀行は迅速な審理を希望

 日経(H16.12.14)社会面で、住友信託銀行の信託統合差し止め訴訟について報じていた。

 記事によれば、住友信託銀行は迅速な審理を希望しているのに対し、UFJ側は慎重な審理を求めているとのことである。


 大体、自分が有利であると思っている側は、迅速に訴訟を進行させて早く結論を得たいと思うものである。

 したがって、住友信託銀行は自分に有利な結論が出ると思っているのだろう。


 確かに、UFJが独占交渉契約に違反していることは事実であり、それなりの賠償義務があることは間違いないであろう。


 しかし、損害額については、私は、住友信託銀行が思っているほど有利な結論が出るとは思えないのだが・・。



2004年12月10日(金) 警察庁が「振り込め詐欺」と命名

 日経(H16.12.10)社会面に、「おれおれ詐欺」に対し、警察庁が専従組織を作って対策に当たるという記事が載っていた。

 警察が本気で捜査することはいいことだと思う。

 ただ、「おれおれ詐欺」では実態とかけ離れているという理由で、「振り込め詐欺」と命名したそうである。

 しかし、いかにもお役所のネーミングという感じで、センスが悪い。



2004年12月09日(木) 在外日本人の選挙権について最高裁が大法廷で審理

 日経(H16.12.9)社会面に、在外日本人の選挙権について最高裁が大法廷で審理することになったという記事が載っていた。


 選挙権は憲法が保障する重大な人権である。

 ところが、現在、在外日本人が選挙できるのは衆参両議院の比例代表選挙に限られている。

 そのため、原告は、国会が選挙権行使を可能にする法改正を怠っていると主張して訴えを提起したものである。


 これに対し、第一審、二審とも原告の訴えを退けている。

 その理由は、「在外日本人のための選挙制度を設けるか否か、どのような仕組みにするかは国会の裁量に委ねられている」というものである。


 なかなか難しい問題である。

 ただ、予想では、最高裁でも、選挙権の重要性を強調して、立法の必要性を促しながら、どのような仕組みにするかは一義的には国会の裁量に委ねられているという判断になるのではないだろうか。



2004年12月08日(水) DV法が改正された

 日経(H16.12.8)社説で、改正DV法について論じていた。


 夫からの暴力は5人に1人に上るとのことである。

 とくに、男は未練がましいのか、別れた夫からの暴力が意外と多い気がする。


 今般、DV法が改正され、別れた夫からの暴力もDV法の対象としたことは大いに評価できることである。



2004年12月07日(火) 犯人は、同じ現場で二度犯行を行う?

 日経(H16.12.7)社会面に、信金に、2人組の男が拳銃のようなものを突きつけて脅して700万円を奪って逃げたという記事が載っていた。

 その信金は10月にも2人組の強盗が入り拳銃を発射しているそうである。


 犯罪者は現場に戻るというが、それどころか、同じ犯行現場で二度犯行を行うことがある。

 このケースも同じ犯人の可能性が高い。


 私が国選弁護人で扱った上告事件の金融機関連続強盗事件でも、同じ金融機関を襲っていた。


 一般的には不思議な感じがするが、うまくいったからもう一度やろうと思うのか、地理感覚があるから安心感があるのかもしれない。


 しかし、犯行が発覚しやすいという心配しないのかと不思議に思う。



2004年12月06日(月) 右翼が弁護士事務所付近で街宣活動

 日経(H16.12.6)社会面に、弁護士を中傷する街宣活動を行ったとして、名誉毀損と威力業務妨害の疑いで、右翼団体幹部が逮捕される見込みという記事が載っていた。


 以前、週刊誌に弁護士が懲戒処分を受けた記事が載ったことがあり、右翼団体幹部は、弁護士事務所付近に街宣車を乗り付け、懲戒処分の記事を読み上げたという疑いである。


 懲戒処分を受けたことは事実だから、その記事を読まれても仕方ないと思うかもしれない。


 しかし、名誉毀損は事実を述べたとして成立する。

 犯罪の前科のあることを公然と言いふらされた場合、それが事実であっても名誉毀損が成立するのと同様である。


 もっとも、公共の利害に関する事実で、もっぱら公益を図る目的であった場合には、事実を述べても名誉毀損は成立しないという例外はある。

 しかし、右翼団体幹部に、公益を図る目的はなかったであろう。


 したがって、名誉毀損は成立するし、もちろん、業務妨害罪も成立するだろうが。


 それにしても、街宣活動やられた弁護士は迷惑だったろうなあ。



2004年12月03日(金) 損害額の厳密な算定は限界がある

 日経(H16.12.3)社会面に、大阪高裁が、迷惑な隣人がいるのに、それを知らせず中古住宅の販売を仲介した仲介業者に対し、迷惑な隣人の存在を知らせなかったことが違法であるとして損害賠償を命じたという記事が載っていた。


 説明義務に違反しているかどうかは一審と高裁とで判断が分かれており、いずれか正しいかは記事だけでは判断のしようがない。


 ただ、その記事の中で目に付いたのは、迷惑な隣人の存在によって生じた価値の減少を購入価格の20%とみたことである。


 だいたい、そんな迷惑な隣人がいて、それを仲介業者から説明を受けたら、その住宅を買う人はいなくなるだろう。

 その意味では、価値の減少は100%といえるかも知れない。


 つまり、20%という数字に確固たる根拠があるわけではないと思う。


 一般的にいって、損害額の認定というのは「この程度かなあ」という感じで決めることがある。

 いわば、どんぶり勘定である。

しかし、それは損害額の厳密な算定は限界があるためであり、仕方ないことである。



2004年12月02日(木) 第三者の供述はこわい

 日経(H16.12.2)1面トップで、UFJ銀行の岡崎元副頭取らが、検査忌避の疑いで逮捕されたと報じていた。


 岡崎元副頭取は金融庁から告発されていなかった。

 それにもかかわらず逮捕されたのは、部下が「岡崎副頭取の指示があった」と供述したからであろう。


 これに対し、トップの寺西元頭取が逮捕されていないのは、岡崎元副頭取が「寺西元頭取は承知していた」と供述していないからである。


 しかし、検査隠しをどこまで認識していたかは微妙な問題であり、供述次第でどうにでもなる要素がある。

 例えば、「元頭取に具体的な報告はしていないが、これまでの経過を考えると、検査隠しは分かっていたと思う」と供述すれば、それが真実かどうかを確認するために寺西元頭取が逮捕される可能性はあると思う。


 この件で寺西元頭取が検査隠しを知っていたのか、まったく知らなかったのかは分からないが、一般論として、供述というのは、無罪かもしれない人間を巻き込むおそれのある怖い性質がある。



2004年12月01日(水) 憲法改正がいよいよ現実的になる

 日経(H16.11.30)2面に、自民、公明両党が、憲法改正の具体的な手続きを定める国民投票法案に関する実務者協議で法案の骨子を決めたという記事が載っていた。


 憲法96条は、「憲法改正には国民の過半数の承認が必要である」と定めている。

 しかし、そこでいう「過半数」とは、有権者の過半数なのか、投票総数の過半数なのか、有効投票総数の過半数なのか明確でない。


 この点は法律で明確にしておく必要があるし、またそれ以外にも具体的な改正手続を法律で定めておかねばならない。

 ところが、これまで憲法改正はタブー視されており、改正手続を定める法律すらなかったのである。


 今回、憲法改正手続を定める法律が上程されることになり、いよいよ憲法改正が現実的になったという感じである。


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