今日の日経を題材に法律問題をコメント

2004年11月30日(火) 秘密保持契約を締結しただけでは安心できない

 日経(H16.11.30)13面で、平成電電が、ソフトバンクに対し、秘密保持契約に違反してノウハウを利用されたとして、訴訟を提起したと報じていた。
 
 これに対し、ソフトバンクは、サービス開発は独自に取り組んできたものであり、他社情報を不正に利用した事実はないと主張している。


 企業取引で、秘密保持契約というのはよくつくる。

 ただ、契約を締結しただけで満足している場合が多いようである。


 重要なことは、相手方に渡す情報のうち、どれが「秘密情報」として保護の対象になるかを明確にしておくことである。

 そうでないと、「その情報を勝手に使われた」、「いや独自の情報だ」と争いになりやすい。


 また,秘密保持契約は、契約終了後も秘密の保持を義務づけることが多い。

 したがって、秘密の対象があいまいで広範囲だと、その後の独自開発の際に必要以上に拘束されることにもなりかねない。


 その意味からも、「秘密」の範囲をきちんと決めておく必要がある。


 そうはいっても、業務のやり取りの中で、秘密かそうでないかを切り分けるのは難しい場合も多いのだが・・。



2004年11月29日(月) カンニングは公務執行妨害?

 今日の日経(H16.11.29)ではなく、昨日のテレビの報道であるが、韓国の大学試験で携帯電話を使った不正行為で受験生らが逮捕というニュースを報じていた。

 逮捕容疑は、公務執行妨害だそうである。


 日本とは法律が違うから、比較しても意味はないかもしれないが、公務執行妨害で逮捕することは無理である。

 公務執行妨害罪は「暴行または脅迫を加えた場合」に限っているからである。

 
 日本で行えば、偽計業務妨害罪になるのではないだろうか。



2004年11月26日(金) 最近の法律の条文は理解しがたい

 日経(H16.11.26)2面で、改正民法が成立したと報じていた。

 記事によると、文語体の条文をすべて現代語化したそうである。


 数年後には商法も、文語体が現代語化される予定である。

 法律は一般の人も分かる表現でなければならないから、現代語化は当然であり、遅すぎたと思う。


 それにしても、最近の法律は法律家でさえも一回読んだだけでは理解できない条文が多すぎる。

 何とかして欲しい(と、友人で、法律制定のため法務省に出向している裁判官に言ったことがあるが、聞き流されてしまった。)。



2004年11月25日(木) 口座売買を禁止する法改正

 日経(H16.11.25)社会面で、おれおれ詐欺対策として、口座売買を禁止する改正本人確認法が今国会で成立する見込みと報じていた。

 口座売買した場合、罰金は50万円にすぎないから、この点での抑止力は欠ける気はする。


 しかし、口座の売買をネットで広告することも禁止しており、この点の効果が期待される。



2004年11月24日(水) 国内初の知的財産の信託が登場

 日経(H16.11.24)1面トップで、住友信託銀行が国内初の知的財産を対象とした信託をすると報じていた。

 信託業法が改正され、知的財産も信託の対象となることを受けたものである。


 記事によれば、信託により、映像ソフト会社は、保有する映像資産を使った資金調達が容易になり、また、資産から切り離されることによって総資産が圧縮されることから、財務指標が改善するというメリットがあるとのことである。


 信託はこれまでなじみが薄かったが、今後は資金調達手段として大いに利用されることになると思う。



2004年11月22日(月) 山梨県弁護士会の元会長が業務上横領で逮捕

 日経(H16.11.22)社会面に、山梨県弁護士会の元会長が業務上横領で逮捕という記事が載っていた。

 情けない話であるが、弁護士会会長といっても実はあまり大した職ではない。

 地方の弁護士会は弁護士が少ないから(山梨弁護士は約60人)、少しでもそのような名誉職に色気がある弁護士なら大抵は弁護士会長になれる。

 実質的には持ち回りみたいなものだからである。


 ところで、この人は2002年度の弁護士会会長だから、記事から推測すると、その会長をしていたときにも横領をしていたようである。

 どういうつもりなのだろうか。呆れてしまう。



2004年11月19日(金) 「犯罪被害者保護法案」が成立

 日経(H16.11.19)社会面で、犯罪被害者の権利を保護するための「犯罪被害者保護法案」が成立する見込みと報じていた。


 犯罪被害者は、犯罪の中で最も保護を受けるべき立場であるのに、これまであまりにも蚊帳の外に置かれてきたのであり、法案の成立は喜ばしいことと思う。


 今後は、犯罪被害者を刑事手続きにどのように参加させるかが検討課題になると思われる。


 ただ、これは難しい問題がある。


 理念として、刑事手続きというのは国家が犯罪を裁く手続である。

 そのような理念からすると、刑事手続の当事者は、検察官と被告人であって、被害者は手続の当事者ではないとされるからである。

 実際上も、弁護人は、犯罪被害者が法廷で犯罪被害を訴えると、被告人の刑が重くなることを警戒する。

 また、検察官も、証拠に基づいて訴追するのであって、被害感情を前面に出した訴追はしずらいという事情もある。


 このような問題があるため、当面は、犯罪被害者の保護としては、犯罪被害者の精神上、医療上、金銭上のケアが中心になるのではないだろうか。



2004年11月18日(木) 金融機関のモラル低下

 日経(H16.11.18)社会面で、駿河屋架空増資事件で、関係者が、「架空増資の手法を指南したのはあおぞら銀行である」と供述していると報じていた。


 銀行が、架空増資であることを認識していたどころでなく、見せ金の手法を指南していたとなると問題は大きすぎる。


 どうも、外資系金融機関や、投資ファンドに買収された金融機関は、儲けることばかり考えて、モラルが低下しているのではないかという気がする。



2004年11月17日(水) 司法修習生への給与を廃止

 日経(H16.11.17)社会面に、司法修習生への給与を廃止し、貸与制に転換する時期を2年間延期することになったと報じていた。


 これに対し、日弁連は、貸与制への転換そのものに反対している。


 私のときも給与制であり、まずしい生活の中で大変助かった覚えがある。

 しかし、修習生の給与は、1人、年間300万円以上もかかっているそうである。


 これだけ費用がかかっているとなると、給与制への理解は得られないかも知れない。



2004年11月16日(火) 東京都が「中学生は、性行為を慎むべき」という条例を制定

 日経(H16.11.16)に、東京都が、「中学生は、性行為を慎むべき」という条例を制定する方向という記事が載っていた。


 淫行条例は、大人から青少年の性を保護することが目的である(但し、5県では青少年同士の行為も処罰の対象となっている)。


 そのような淫行条例と比較して、「中学生は、性行為を慎むべき」という条例は、青少年の性の保護という趣旨とは異なり、道徳の押し付けのような気がする。


 もちろん、中学生の性行為がいいはずがない。

 しかし、それを条例で禁止することには違和感がある。


 どうして、他府県と同じような体裁の淫行条例ではだめなのだろうかがよく分からない。



2004年11月15日(月) 駿河屋の架空増資事件

 日経(H16.11.15)夕刊で、駿河屋の架空増資事件について、「見せ金」に使われたお金は、あおぞら銀行が融資したものであると報じていた。


 「見せ金」とは、株式払込金の仮装の一種であり、判例は、払込の効力としては無効であるとしている。


 今後はあおぞら銀行がどこまで見せ金であることを認識していたかが問題になるが、この件では、銀行は3日後に返済を受けているのだから、通常の融資としては極めて不自然である。

 知らなかったというのは通らないのではないだろうか。



2004年11月12日(金) 最高裁はもう少し説明責任を果たしてもいいのでは

 日経(H16.11.12)社会面に、「最高裁 見えぬ審理過程」「待ちに待ち 型どおりの判決文」「当事者 募る不満」という見出しで、最高裁の真理の不透明さについての記事が載っていた。


 最高裁は弁護士でもなじみがあまりない。

 私は弁護士になってから最高裁に2回しか行ったことがなく、最高裁の様子はよく分からないが、一日中、記録の精査に追われており、仕事は過重であると聞く。

 70歳近い裁判官には大変な労働だと思う。


 そうは言っても、事件についてどのように審理したのかがあまりにも分からなさすぎる。

 「まだ最高裁がある」と思っている人に対し、最高裁はもう少し説明責任を果たしてもいいのではないかと思う。



2004年11月11日(木) 司法試験合格者の発表

 日経(H16.11.11)社会面で、今年の司法試験合格者を発表していた。


 合格者は約1500人ということである。


 私が合格したころと比べると3倍であり、近い将来は3000人になる予定だそうである。


 ところが、経済界の要請は「規制緩和」「グローバル化」をキーワードに、「もっと弁護士を増やせ」「3000人ではまだまだ不十分である」と言っている。

 しかし、合格者が1000人くらいになったころから、合格者の質の低下が指摘されるようになってきている。


 「規制緩和」「グローバル化」という葵の御紋には勝てないが、ただでさえ迷惑をかけている弁護士がいるのに、毎年3000人以上も合格者を出すと、そんな弁護士がどんどん増えるのではないかと懸念をしているのだが・・。



2004年11月10日(水) 新聞報道はそのまま鵜呑みにはできない

 日経(H16.11.10)社会面に、盗みを繰り返し、地上3階、地下1階建ての自宅を建設したという記事が載っていた。


 ふざけた奴だなあと思うかもしれない。


 しかし、このような記事はまゆつばである。


 記事によれば、パソコンなど1800万円相当を盗んだとあるが、これは買値であるから実際に売ってもそれ程にはならないはずである。

  せいぜい、はしら代になった程度ではないだろうか。 


 新聞は警察発表だけで書いているのだろうが、よく読めば「本当かなあ」と思う記事は多い。



2004年11月09日(火) さぬきうどんも偽装表示

 日経(H16.11.9)社会面で、香川県農協が、オーストラリア産小麦粉を使用しているのに、県特産の「さぬきの夢2000」と偽装表示をしていたと報じていた。


 これまであらゆる食材について、産地を偽ることが公然と行われてきており、それがあたりまえのように思われてきた。

 しかし、不正競争防止法の「虚偽表示行為」に該当した場合は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金という犯罪になることを認識すべきである。



 もっとも、今回の小麦粉の産地を偽ったケースは他の場合と少し変わっている。


 これまで産地を偽るのは、例えば松阪牛と表示して、安い輸入肉を混ぜるという手法であった。

 ところが、今回オーストラリア産小麦粉を混ぜたのは、「さぬきの夢2000」は伸びが悪く、切れやすいという欠点があるのが理由だったようである。


 確かに、国産の小麦粉はぼそぼそする傾向があり、オーストラリア産に比べて滑らかさに欠ける気がする。


 すなわち、いい物を混ぜたというのであるから、何か変である。

 それでも偽装表示には違いなく、許されることではない。



2004年11月08日(月) 社員の健康管理に配慮することは法的義務である

 日経(H16.11.8)15面で、企業が、管理者向けに部下の悩みを聞く研修したり、社員の相談窓口を開設したりして、社員の心の健康(メンタルヘルス)に取り組む様子をルポしていた。

 
 記事では、事故や能率低下を防ぐためには社員の心の健康管理も不可欠という視点から書かれていた。


 しかし、社員の健康管理に配慮することは会社の法的義務でもある点に注意すべきである。

 労働者に対する健康診断を実施しなかった会社が、労働安全衛生法違反の罪で罰金刑を受けた事例もあるくらいであるから。



2004年11月05日(金) 西武鉄道の役員に損害賠償請求

 日経(H16.11.5)社会面に、西武鉄道の虚偽記載によって株価が下落したとして、株主が、西武鉄道の役員ら15人に対し、損害賠償請求を簡易裁判所に提訴したという記事が載っていた。


 確かに、虚偽記載したという西武鉄道の違法行為は明らかであろう。

 しかし、個々の役員がどこまで認識していたかはよく分からず、原告の立証は困難ではないかと思う。


 また、株価が下落したという損害との因果関係も必ずしも明確とはいえない。

 というのは、株価は様々な要素が絡み合って決まるものであり、例えば、くず株でもマネーゲームとなって株価が上がるケースもあるからである。


 このようなことを考えると、個々の役員に対する損害賠償請求は認められないのではないかと思う。



2004年11月04日(木) 島田紳助の事件の被害者側の弁護士について

 日経でなく朝日(H16.11.4)夕刊に、女性社員を殴り軽傷を負わせた容疑で、島田紳助を書類送検したと報じていた。


 この件、女性側にあまり同情が集まっていないそうである。

 加えて、女性の弁護士が、横山ノックをセクハラ訴訟で追いつめた敏腕弁護士ということで、この女性弁護士も冷ややかな目で見られているようである。

 世間の目は、「島田紳助も反省していることだし、許してやったら」ということなのだろう。


 しかし、私は弁護士としてのあり方として、「大人の態度」を取らず、被害者の言い分に100%立って弁護することは間違っていないと思う。


 被害者の女性は徹底的に争うと言っている。

 そうであるのに、最初から話し合いの姿勢を見せる必要性はない。弁護士は裁判官ではないのである。


 優秀といわれている弁護士ほど、「大人の対応」をしがちであるが、それは依頼者の意思とかけ離れていることが多い。

 世間から冷ややかな目で見られたとしても、依頼者の立場に立って弁護活動をすることは弁護士として当然と思う。



2004年11月02日(火) 死亡保険金は原則として相続財産にならない

 日経(H16.11.2)社会面に、最高裁が、特段の事情がある場合を除き、死亡保険金は相続財産の対象とならないと判断したという記事が載っていた。

 しかし、これまでも死亡保険金は相続財産ではないという取り扱いがされていた。

 むしろ、この最高裁判例で重要なのは、「特段の事情がある場合は相続財産となる」という例外を認めたことにあると思う。


 例えば、相続人の1人が1億円の死亡保険金を受け取ったが、相続財産としては何もない場合に、1人は1億円、他の相続人はゼロというのではあまりに不公平である。

 このような場合、最高裁判例によれば、「特段の事情がある」として、1億円の死亡保険金は相続財産の対象となるのであろう。


 このように最高裁判例の考え方は公平で、妥当な結論のようにみえる。


 しかし、相続においては例外を認めず一律に決することがないことが重要とされてきた。

 そうすることによって、相続の争いを未然に防止できるからである。


 その意味では、相続財産になるかどうかについて例外を認めた今回の最高裁判例は議論の余地があると思う。



2004年11月01日(月) そろそろ司法取引制度を導入したらどうか

 日経(H16.10.29)9面の「経営の視点」というコラムで、独禁法が改正され、談合の加担企業が自首すると処分が免除される制度が新設されることについて書いていた。


 その中で、会社が談合を認めて自首した免責されるとしても、申告した担当者個人は談合罪で起訴される可能性があるという問題について論じていた。


 確かに、独禁法は担当者の刑事責任まで手当てしていないため、その担当者が談合罪を問われる可能性はある。

 ただ、実際には検察官は起訴するかどうかの裁量権(起訴便宜主義といわれている)があり、証拠があっても起訴しないことができるから、このような場合、起訴猶予処分とすると思われる。

 したがって、実際上の不都合はないだろう。


 とはいえ、すべてを検察官の裁量に委ねると、当該担当者は起訴されるかどうか分からないため不安が生じるなどの弊害があり、望ましくない。


 そもそも、自首すれば免責されるという独禁法の規定は司法取引に似た制度である。

 そうであるならば、刑事手続きでも、制度として司法取引を取り入れた方が整合性があるのではないだろうか。


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