今日の日経を題材に法律問題をコメント

2004年10月29日(金) 瑕疵担保条項は政府が持ち出した?

 日経(H16.10.29)最終面の「私の履歴書」の中で、前米連邦準備理事会議長でリップルウッドのシニアアドバイザーを務めたポール・ボルカー氏が、長銀買収のウラ話を書いていた。


 それによれば、債権が2割以上減価した場合は政府に買戻しを請求できる「瑕疵担保条項」は日本政府が言い出したとのことである。


 これが事実であれば大問題である。政府は責任を問われることになるだろう。


 しかし、政府が自ら不利な条項を持ち出すのだろうか。


 私は破産管財人として、破産した会社の不動産を売却することがあるが、その場合、瑕疵担保条項はつけないで欲しいとお願いする。

 瑕疵担保条項つけることは売主には不利なことだからである。

 買主には、破産事件だからということで納得してもらっている。


 このように、瑕疵担保条項は売主としてはできれば付けたくない条項である。

 それなのに、政府が自ら不利になる条項を持ち出すことは考えられない。

 もちろん、他に買い手がない場合は、買主に有利な条項を持ち出して買ってもらうこともあり得るが、このときは他に買い手がない状況ではなかったはずである。


 いかに前米連邦準備理事会議長とはいえ、ポール・ボルカー氏が言っていることは不合理ではないだろうか。



2004年10月28日(木) 住友信託銀行がUFJを提訴

 日経(H16.10.28)の夕刊で、住友信託銀行がUFJに対し、東京三菱との合併交渉の差し止めを求める訴訟を提起すると報じていた。


 振られているのに諦め切れずにラブレターを書いているようなものであって、UFJは住友信託銀行と合併するつもりはないのだから、合併交渉の差止請求は無意味であろう。

さっさと損害賠償請求一本に絞った方がいいと思うのだが・・。


 しかも、その損害賠償請求であるが、住友信託銀行は、合併していたら得られたはずの利益(履行利益といわれている)まで、損害を被ったとして請求するようである。


 しかし、合併契約までには至っていなかったのである。

 それなのに、合併を前提にして、合併していれば得られたはずの利益を請求することはできない。


 請求できるのは、資産査定のために会計事務所に依頼した費用など、合併交渉のために費やした費用(信頼利益といわれている)に限られるであろう。


 この訴訟では住友信託銀行は有名な弁護士に依頼したようであるが、いかに優秀な弁護士であってもだめなものはだめである。


 合併していれば得られたはずの利益まで損害賠償額に加えると、裁判所に払う印紙代だけでもばかにできないし、弁護士費用もそれに応じて高くなるだろう。

 認められる可能性がほとんどない請求をして、印紙代や弁護士費用が余分にかかった場合、それ自体が株主代表訴訟の対象になるのではないだろうか。



2004年10月27日(水) 役所はなぜカタカナを嫌う?

 日経(H16.10.27)1面下段の広告に、「マンション管理が変わる」という見出しの雑誌広告が載っていた。

 内容は、これまでのマンションの標準管理規約が改正されたことから、その概要と解説記事である。


 ところで、マンションの標準管理規約は、これまで「中高層共同住宅標準管理規約」と名付けられていた。


 しかし、「中高層共同住宅」ではぴんと来ない。


 「中高層共同住宅」と言われると、何棟もある大規模マンションを想像してしまうのではないだろうか。

 ところが、管理規約の基本として想定しているのは、1棟だけのマンションであるから、ネーミングと規約の内容とにずれがあるように思う。


 どうも、役所はカタカナがきらいなようである。

 そのため、無理をして用語を作るからかえって分かりにくい。


 法律でも、刑法に「電磁的記録不正作出罪」というのがあるが、何のことかよく分からない。

 「電磁的記録物」とはコンピューターのデータのことであるが、なぜカタカナを使おうとしないのだろうと思う。


 今回の改正で、「中高層共同住宅標準管理規約」を「マンション標準管理規約」と変更した。

 当然ではあるが、いいことだと思う。



2004年10月26日(火) 検察事務官が処理の遅れた事件関係書類を隠す

 日経(H16.10.26)社会面に、検察事務官が処理の遅れた事件関係書類を隠したとしてして処分されたという記事が載っていた。

 この検察事務官をかばうつもりはないが、人のことだからミスもあるし、プレッシャーから仕事を隠してしまうこともあると思う。


 弁護士も、仕事を放置したままにし、それを隠すために依頼者に対し、「いま訴訟を提起した」などと嘘をついて、最終的にばれてしまい、懲戒請求を受けるケースがある。


 同情する余地はないが、仕事のプレッシャーから嘘をつくことは人としてあり得ることであり、自戒しなければならないと思う。



2004年10月25日(月) 新潟中越地震について

 日経(H16.10.25)1面などで、新潟中越地震の報道をしている。


 被災地の人たちは大変な苦労をしていると思うが、復興が一段落すると、地震保険は出るのか、賃貸借契約はどうなるのかといった法律問題も生じるようになると思われる。


 阪神淡路大震災では全国から弁護士が駆けつけ、ボランティアで法律相談所を開設し、そのときに相談を受けたり、問題となったりした事例をまとめて、本にして出版している。

 この本が震災に関する法律問題の拠り所となると思う。


 弁護士も医者と並んであまり評判はよくないが、こんなこともしているということを知っていただければと思う・・。



2004年10月22日(金) 韓国首都移転は違憲

 日経(H16.10.22)9面で、韓国の憲法裁判所が、韓国首都移転について違憲判決をしたと報じていた。

 記事によれば、憲法裁判所は「ソウルが首都であることは憲法と同様の不文律である」と判示したそうである。


 この判断には少々驚いた。

 日本でいえば、首都を東京から移転することは憲法違反であるというの同じだからである。


 韓国の法制度はよく知らないが、おそらく条文として制定されたものが法律であるという成文法の法体系であろう。

 そのような法体系の下で、憲法と同様の不文律の規定を認めることには違和感がある。


 ただ、似たような制度といっても、背景となる文化が違うのだから直ちに同様には断じるのは危険である。

 韓国にとってソウルの存在は特別なのかもしれない。



2004年10月21日(木) プリペイド携帯電話は犯罪の道具になっている

 日経(H16.10.21)3面で、与党は「おれおれ詐欺」防止のため、預金口座売買の禁止、プリペイド携帯電話の販売禁止を目指すという記事が載っていた。


 預金口座とプリペイド携帯電話は犯罪の道具として広く使われている。

 ヤミ金の連中に対し「警察に告訴する」と言うと、「口座や携帯電話からは後がつかないようにしているから、警察なんか怖くない。」などと強がる。


 したがって、これらを使えなくすることは極めて重要であると思う。


 これに対し、プリペイド携帯電話の販売禁止によって携帯電話各社の収益への影響を懸念する声が出ているようである。

 しかし、一般の人がプリペイド携帯電話を使う必要性はあるとは思えない。


 プリペイド携帯電話は、ほとんど怪しい使い方をされているのではないだろうか。


 プリペイド携帯電話の販売は禁止すべきであると思う。



2004年10月20日(水) 西武鉄道の有価証券報告書の過少記載問題

 日経(H16.10.20)1面で、西武鉄道の有価証券報告書の過少記載問題で、コクドが西武鉄道の株式を大手企業に売却したことがインサイダー取引になるのではないかという記事が載っていた。


 コクドは株開脚によって利益を得ようという意識はなかったと思う。

 しかし、コクドはそれまで何十年間も有価証券報告書の虚偽記載をしてきた。

 しかも、結果的には株価は4割以上下がり、その分売却したコクドは利益を得ていることになる。


 このような事情を考えると、コクドの行為は悪質であり、この問題は刑事事件に発展するのではないかと思う。



2004年10月19日(火) 法制度と税制の整合性を

 日経(H16.10.19)1面トップで、財務省は、株式交換型M&Aにおいて外国株を取得する際に、課税を猶予することを検討していると報じていた。


 商法改正によって、外国企業による株式交換型のM&A型を認められるようになる。

 ところが、従来の税制では外国株を取得する際に課税されることになり、実際上不都合があったため、課税を猶予することにしたものである。


 法制度を変えても税制が変わず、その法制度を使うと余分に税金を払うことになることはしばしばある。

 そのような場合には、結局、その法制度を使えないことになってしまう。


 法制度の改正は基本的には法務省の管轄であり、税金は財務省の管轄のため、整合性がないのである。


 先の記事のように、これまでの縄張り意識を捨て、税制まで目配りをした法制度の改革が必要であると思う。



2004年10月18日(月) 学術研究のためでも特許侵害になる

 日経(H16.10.18)21面に、特許庁が、特許を学術研究のために使った場合でも特許侵害になるという報告をまとめ、その波紋が広がっているという記事が載っていた。


 特許法には、試験・研究のために特許を使う場合には特許侵害にならないという例外規定がある。

 そのため、大学の研究では特許を無断で使用しても免責されると考えられてきた。


 しかし、企業が大学と共同研究した場合にも無断で特許を使用できることになってしまうという批判があり、特許庁は、「試験・研究のための使用」とは、特許にする価値があるかどうかの検証などに限られると限定的に解釈することにしたものである。


 確かに、学術研究のためだからといって何でも許されるわけではなく、特許庁の考えは十分理由があると思う。


 ただ、あまり特許権を強く認めると、その分野に参入する研究者が減り、その特許をさらに発展させる可能性を閉ざすことになりかねない。


 いかなる場合が「試験・研究のための使用」といえるかについては判例も少なく、あまり議論されていない分野でもある。


 難しい問題であるが、十分議論すべき問題であると思う。



2004年10月15日(金) 「違憲の疑いが濃い」は、違憲か合憲か

 日経(H16.10.15)社会面に、非嫡出子の相続分が嫡出子の二分の一とする民法の規定が憲法に反するかどうかについて、最高裁は合憲と判断したという記事が載っていた。

 その記事によれば、裁判官のうち2人が違憲という反対意見を述べ、あとの1人は「違憲の疑いが濃い」という意見を述べたそうである。


 しかし、「『違憲の疑いが濃い』のに合憲」とは日本語としておかしいのではないかと思う。


 裁判用語はこういった回りくどい言い方が多いが、もう少しはっきりしたした言い方をすべきと思う。



2004年10月14日(木) ソフトバンクが総務省を提訴

 日経(H16.10.14)13面に、ソフトバンクが総務省を提訴したという記事が載っていた。


 大ニュースのように思うが、この記事がトップ記事でなく13面の扱いであることには驚いた。


 行政に不満がある場合、泣き寝入りせずに訴訟で解決を図るということは、もはや普通のことになったようである。



2004年10月13日(水) 甲府地裁が弁護士を告発

 日経(H16.10.13)社会面に、甲府地裁が弁護士を告発したという記事が載っていた。


 その弁護士は、破産管財人として預かっていたお金を横領したということのようである。


 かつて破産事件では、破産管財人のあらゆる業務に裁判所の許可が必要であった。

 そのため、手間がかかり破産事件の処理も遅れがちであった。

 ところが、破産事件の急増に対応しきれなくなり、裁判所の許可を不要にしたり、許可が必要な場合でもほとんどノーチェックで許可するという運用に切り替えた。


 その結果、破産手続きは劇的にスピードアップし、それは破産者だけでなく、債権者からも高い評価を得られている。


 このような、できるだけ裁判所の許可が不要とする運用は、弁護士性善説に立っている。

(弁護士性善説自体が間違いであるという批判もあるかも知れないが、それはさておき、)この弁護士の横領行為はそれを裏切るものである。

 
 退会処分(弁護士資格剥奪)となるであろうし、刑事事件にもなるだろうが、当然であると思う。



2004年10月08日(金) 金融庁が、検査妨害でUFJ銀行を告発

 日経(H16.10.8)1面トップで、金融庁が、検査妨害でUFJ銀行を告発したと報じていた。


 UFJ銀行は、金融検査の際に重要な書類を隠すなどして検査を妨害したのだが、それが内部告発によってばれて、すべてを失うことになってしまったわけである。


 雪印事件も、三菱自動車事件もすべて同じ構造である。


 彼らは、隠蔽することによって、果たして何を守ろうとしたのだろうかと思う。



2004年10月07日(木) 三菱自動車問題 弁護士は辞任すべき

 日経(H16.10.7)社会面で、三菱自動車と三菱ふそうの欠陥隠し事件で、三菱自動車と三菱ふそうは、欠陥隠しの社内調査をして発表すると報じていた。


 その記事の中で、社内調査を担当するのは弁護士13人であり、そのうち9人が三菱自動車、三菱ふそう幹部の刑事事件の弁護人を務めていると書いていた。


 これは問題であろう。


 仮に、被告人たちが欠陥隠しに関わっていることが分かった場合、弁護士は、それを報告する義務を負うことになる。

 しかし、それは被告人に不利になることであり、それでは被告人の弁護人として問題ではないだろうか。


 このような事態は、利害対立する関係のそれぞれの代理人になっているから生じるのである。


 9人の弁護士は、刑事事件の弁護人か、調査報告の担当のいずれかを辞任すべきであると思う。



2004年10月06日(水) 「情報」を盗んでも窃盗罪は成立しない

 日経(H16.10.6)社会面トップで、派遣社員が、派遣先の会社が有しているカード情報を盗んで販売したとして、詐欺幇助の容疑で逮捕されたと報じていた。


 カード情報をコピーすれば、それは会社のコピー用紙を盗んだことになるから窃盗罪が成立する。


 ところが、情報を自分のメモ用紙に書き写した場合には窃盗罪は成立しない。

 「情報」は窃盗罪の客体とされていないからである。


 もっとも、この女性は、「情報は詐欺に使われると思っていた」と供述しているようであり、そのため詐欺幇助で逮捕されたものである。


 しかし、この女性が供述を覆して、「売った情報をどのように使うのは具体的には分からなかった」と供述したら、検察官は起訴できないのではないだろうか。


 このようなことが起こるのは、「情報」が窃盗罪の客体とされていないからである。


 しかし、今日では「情報」が重要な財産であることは疑う余地がない。

 それゆえ、情報窃盗罪を新設してもよいのではないかと思う。



2004年10月05日(火) 大阪弁護士会が、中坊弁護士の非行を認定

 日経(H16.10.5)社会面で、大阪弁護士会が、中坊弁護士の非行を認定したうえで、懲戒請求の期限が途過しているとして、請求を却下したと報じていた。


 中坊弁護士の「非行」とは、整理回収機構の債権回収において、他の金融機関を騙して整理回収機構の回収金額を増やしたというものである。


 検察庁は、中坊弁護士の行為を詐欺であると判断していたが、中坊弁護士が「弁護士を廃業する」として反省の態度を示したことから、起訴猶予処分にしている。


 「弁護士を廃業する」というのは、頭を剃って許しを請うようなものである。

 あれほど人気の高かった中坊弁護士であるが、晩節を汚したといえる。


 ただ、他の金融機関を騙してまで回収額を増やそうとする手法をみると、これまでの弁護士活動が、それほどきれいだったのかなあという疑問が湧く。



2004年10月04日(月)

 日経(H16.10.4)社会面で、NPOを名乗り企業を脅すという記事が載っていた。

 その解説記事で、NPOはできるだけ行政が口出しせず、簡単な手続きで法人格を与えるようにしたため、暴力団のなどの隠れミノになっていると書いていた。


 そのとおりだと思う。


 債権回収についても最近NPO団体の名前をよく目にするが、その相当部分が暴力団など反社会的勢力ではないかと思われる。

 彼らは、借金で苦しんでいる人を助けるという名目で、さらに暴利をむさぼろうとしているのである。


 このような事態を放置すると、二次被害を作り出すだけでなく、「NPO」という名称自体が胡散臭い団体かのような印象を作り出してしまいかねない。


 したがって、早急に対策を講じるべきであると思う。



2004年10月01日(金) 職務発明の対価の時効

 日経(H16.10.1)社会面に、東芝の元社員が発明の対価として5000万円の支払を求めた訴訟で、東京地裁は、発明の対価の請求権は時効で消滅しているとして請求を棄却したという記事が載っていた。


 職務発明の対価を請求したいという相談を受けた場合、時効が問題になることが多い。

 大抵は会社を辞めてから請求するから、ずいぶん経過していることが多いからである。


 会社にいるときは請求しづらいという事情はあると思う。

 ただ、法律上は請求できたのに10年も請求しなかったのであるから、時効消滅により請求できなくなったとしても、やむを得ないというべきであろう。


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