今日の日経を題材に法律問題をコメント

2003年11月28日(金) 上原投手の代理人は、アドバイザーでない

 日経(H15.11.28付)スポーツ面で、巨人の上原投手が代理人交渉で3億円で妥結したと報じていた。

 上原の代理人は弁護士である。

 ところが、巨人の球団代表は「代理人交渉はしていない」「弁護士は単なるアドバイザーである」と言っているようである。


 上原投手に対してアドバイスしたのであれば、アドバイザーといえるかも知れない。

 しかし、その弁護士は、巨人と交渉しているのであるから、代理人以外の何ものでもない。


 どうしても代理人を認めたくないのであれば、巨人は交渉しなければいいのである。(交渉しない結果、上原を来年使うことができなくなるかもしれないが。)


 その代理人と何度も交渉しておきながら、「単なるアドバイザーである。」というのは、法律上の無知をさらけ出しているようなものであり、「球界の盟主」として情けない言い方である。



2003年11月27日(木) 粉飾決算している会社は多い

 日経(H15.11.27付)13面に、民事再生手続き中の森本組が粉飾決算していたとして、大阪地裁が管理命令を出したと報じていた。

 再生債務者の財産管理が不適切な場合には、管理命令が出されて管財人が選任され、経営者は権限を失うことになる。


 そうはいっても、粉飾決算はとくに中小企業では珍しいことではない。


 粉飾決算は脱税が目的で行うのではない。

 利益を上げたことにするのであるから、むしろ余計な税金を払うことになる。

 それでも粉飾決算をするのは、赤字が続くと、銀行から融資金の返済を求められるからである。


 そのような場合、銀行担当者はその会社が赤字であることはほとんどを承知している。

 だからといって、バカ正直に赤字の決算書を銀行に提出すると、担当者から「こんな決算書では困りますよ」といって突っ返されるのがオチである。


 それゆえ、税理士も、税務署用の決算書と銀行提出用の決算書の二種類を作ってくれるのである。


 もっとも、粉飾決算が問題になった場合は、銀行は、「赤字とは知らなかった。騙された。」というのであるが・・。


 しかし、このような、なあなあなやり方は限界に来ているのではないか。


 赤字であっても会社が直ちに潰れることはない。

 正直に、ガラス張りの経営をしても不利益を被らないシステムこそが必要ではないだろうか。



2003年11月26日(水) 特許を取るよりも、特許を守る方が費用がかかる

 日経(H15.11.26付)13面に、「知的財産立国の条件」というコラムで、武田がアメリカで三社を特許侵害で提訴したと書いていた。

 記事によれば、武田は、アメリカで原告として争う裁判を常時3、4件抱えているそうである。


 アメリカで訴訟提起をする場合、通常は日本の渉外系法律事務所に依頼し、そこからアメリカの法律事務所に依頼することになる。


 日本の渉外法律事務所の弁護士費用は高いが、アメリカの弁護士費用はそれよりも遥かに高い。

 しかも、特許訴訟では、法律事務所に任せきりというわけにはいかない。

 特許侵害を示すさまざまな技術的資料を会社の社員が用意する必要があるからである。


 したがって、常時3、4件も訴訟を抱えていると、大変な費用負担となるだろう。


 特許というのは頭一つで取れることもあるが、その特許を守るためには大変な費用がかかるということである。



2003年11月25日(火) 一度安くすると、元に戻すのは難しい

 日経(H15.11.25付)3面に、固定資産税の軽減を求める動きが広がってきており、それに対し、自治体、総務省が抵抗しているという記事が載っていた。


 その記事で思い出したのだが、土地に関する訴訟の印紙代は、固定資産税評価額を基準にしており、評価額が高いと印紙代も高くなる仕組みになっている。


 ところが、バブル期の頃、固定資産税評価額が大幅に高くなったため、固定資産税評価額の2分の1を基準にして印紙代を計算することにした。


 現在は、固定資産税評価額はバブル期前に戻っていると思われる。

 そうすると、2分の1を基準に印紙代を計算するというのは撤廃してもよさそうである。

 そうなったら困るなあと常々心配しているが、撤廃するという話は聞かない。


 何ごとも、いったん安くすると、再び高くすることは難しいということであろう。



2003年11月21日(金) 辻元・元議員が弁護人と仲良く買い物

 昨日の日経(H15.11.20付)夕刊に、辻元・元議員の公判があったことを報じていた。


 秘書の勤務実態があったように口裏あわせをしていたようであるが、バレると思わなかったのだろうか。

 事件を否認し、口裏あわせまでしたため、最悪の結果になってしまった。


 辻元・元議員には知り合いの弁護士がいたはずであるが、なぜ正直に話すよう指導しなかったのだろうか。



 ところで、先日の週刊新潮で、辻元・元議員と弁護人とが仲良く買い物している写真が掲載されていた。

 雑誌によれば、辻元・元議員と、この弁護士は、今回の刑事裁判を通じて知り合ったそうである。


 恋愛は自由であるといっても、被告人(依頼者)と弁護人が手をつないで仲良く買い物することは問題である。


 弁護人には公正さが要求されるが、依頼者と必要以上に親密な関係になることは、その公正さに疑問が生じかねない。


 そもそも、弁護士というのは、依頼者と少し距離をおいて冷静に事案を見たほうが、依頼者のためにいい結果となる。

 逆に、過度に依頼者と親しくなると、事件の処理を誤らせる可能性がある。


 したがって、弁護人が、担当している事件の被告人と交際することは行ってはならないことであると思う。



2003年11月20日(木) 敗訴者負担制度について

 日経(H15.11.20付)社会面で、訴訟で敗訴した側が、相手方の弁護士費用を負担する制度の導入について、双方の同意がある場合に限って敗訴者負担制度を適用することになりそうであると報じていた。


 社会生活をしていると、思いもよらない訴訟を起こされたことがある。

 その場合、自分は勝つと信じていても、少々複雑な訴訟になると弁護士に依頼せざるを得ない。

 ところがその弁護士費用は自分持ちであり、現在の制度では、裁判で勝っても相手方に弁護士費用を負担させることはできない。


 そのようなことは不合理であり、敗訴者負担制度は当然の制度のように思える。


 しかし、敗訴者負担制度を導入すると、公害や医療ミスなどの事件のような勝訴率の低い事件では訴訟を控えるようになり、萎縮効果が生じるとして反対が相当強かった。


 今回の双方合意した場合は敗訴者が負担するという案は、両者の問題点を回避した一見合理的な案のようにみえる。


 しかし、訴訟で勝つか負けるか最初から予想できることも多い。

 その場合は、敗訴者負担の合意はしないであろう。


 そう考えると、敗訴者負担制度を導入しても適用場面は少なく、理念倒れになる可能性があるように思う。



2003年11月19日(水) 東京地裁が、旧商工ファンドの手形は手形制度の濫用であると認定

 日経(H15.11.19付)社会面で、東京地裁が、旧商工ファンドの手形が手形制度の濫用であるとして訴えを却下したと報じていた。


 商工ファンドが使用していた手形は私製のものであり、かつては、それを使って、東京地裁に対し手形訴訟を大量に提起していた。


 それは、手形訴訟は通常訴訟と異なり、簡易迅速な手続きであり、商工ファンドにとって好都合だったからである。


 これに対し、東京地裁が、商工ファンドに対し、手形訴訟でなく通常訴訟で提起するよう指導し、商工ファンドも一応これに従っていた。


 ところが実際は、商工ファンドは、東京地裁を避けて、他の裁判所で手形訴訟を提起していたのである。

 このような商工ファンドのやり方に、東京地裁が怒ったというところのようである。


 それにしても、法律上は私製手形が禁止されているわけではない。

 その意味で、「手形制度の濫用」という判断は、相当大胆な判決であり、高く評価したい。



2003年11月18日(火) 経済産業省が新しい会社形態を提案

 日経(H15.11.18付)5面に、経済産業省が、利益や議決権配分を自由にできる新しい会社形態を提案したと報じていた。


 どのような制度になるのか、記事から詳細はよく分からない。


 ただ、現在ある有限会社はあまり利用されておらず、小さい会社でも株式会社となっている場合が多い。

 信用力が違うからである。


 その意味で、新しい会社制度を作っても、利用しようとする人は増えないのではないだろうか。


 むしろ、いろんな会社形態ができても、その内容を正確に知っている人は少ないだろうから、債権者などからすると混乱の元になるのではないか。


 あまり賛成できない提案である。



2003年11月17日(月) 地方公社による特定調停が増加

 日経(H15.11.17付)29面(地域総合面)で、地方公社による土地開発、住宅供給、道路の経営は厳しく、特定調停の動きが急であるという特集記事が載っていた。


 特定調停とは、裁判所の仲介で話し合いによって解決するものであるが、主に個人の多重債務者、法人では商工ローンの債務者の利用が念頭に置かれていた。


 それゆえ、地方公社が特定調停を利用するというのは少し奇異な感じがする。


 しかし、特定調停の趣旨は、支払不能の恐れのある債務者に経済的再生をさせることにある。


 地方公社が支払不能の恐れのあることは公知の事実であり、特定調停は地方公社の債務の整理に非常に適した制度であるといえ、今後も利用が進むのではないだろうか。



2003年11月14日(金) 最高裁が指導要録の一部不開示を認める

 日経(H15.11.14付)社会面で、指導要録の一部不開示を認めた最高裁判決に対し、全面開示を認めている自治体から戸惑いが生じているという記事が載っていた。


 最高裁は、客観的な内容以外は非開示とする判断を示し、その理由として「全面開示すると教師が児童らの反発を懸念し、記載内容が形骸化する恐れがある」と述べている。


 しかし、記事によれば、すでに全面開示して自治体では「心配していたトラブルや形骸化は生じていない」とのことである。


 それが事実であるならば、「記載内容が形骸化する恐れ」があるという最高裁の認識は誤りということになる。


 裁判所は本来受身の立場であり、積極的に証拠収集することはしない。


 しかし、訴訟では調査嘱託という制度がある。

 これによって、すでに実施している自治体に対し、全面開示による弊害等について調査することも可能だったはずである。


 もっとも、調査嘱託とは、手元にある資料から容易に結果が得られるものについて調査の報告を求めるとされており、全面開示による弊害を調査するというのは、調査嘱託の本来の趣旨にはそぐわないという批判があり得るかもしれない。


 しかし、調査嘱託をそのように狭く捉える必要はなく、最高裁はこのような制度を利用してもう少し慎重に判断すべきではなかったかと思う。



2003年11月13日(木) 凍結精子を使い出産したケースで、認知請求を認めず

 日経(H15.11.13付)社会面で、夫の死後、凍結した夫の精子を使い出産したケースで、認知請求したところ、裁判所は認知を認めなかったと報じていた。

(なお、夫が死亡しているから、認知請求は検察官に対してすることになる)



 しかし、その子どもが、その父親の精子から生まれたことは明白である。

 とするなら、認知を認めてもよいようにも思う。

 原告側弁護士は「父が誰かを定めてもらうのは子どもの基本的人権である」と述べたそうであるが、もっともな理屈である。


 ただ、このケースでは、夫は、死後は精子の破棄を希望していたそうである。


 そうすると、夫が望まないのに子どもができたことになるから、認知を認めることは夫の意思に反する。


 なかなか難しい問題であり、裁判官も悩んだと思う。



2003年11月12日(水) 丸紅がパソコンを1万9800円で販売

 日経(H15.11.12付)13面で、丸紅がネット通販でパソコン価格を一ケタ安く表示し、その誤った表示価格のままで販売したという記事が載っていた。


 この場合、「19万8000円」と表示しようとして「1万9800円」と表示したのであるから、錯誤である。教科書にも書いているような「錯誤」の典型的事例といえる。

(日経の記事では、契約の成立時期の問題にしていたが、的はずれである)


 錯誤の場合、原則として契約は無効である。


 しかも、特別なセールと謳ってもなかったはずだから、パソコンを1万9800円で売るはずがないのであり、買主を保護すべき要請に欠ける。


 したがって、丸紅は、契約は無効であるとして販売を拒否することができそうである。



 しかし、錯誤に重過失がある場合は無効を主張できないとされている。


 ネット通販では価格の表示はきわめて重要であり、十分チェックすべきであるから、錯誤に重過失があるとされる余地もある。


 今回、丸紅は信用を重視して、1万9800円で販売したようであるが、なかなか面白い問題であり、裁判で争っていればどうなるか、興味がある問題であった。




2003年11月11日(火) 裁判官、検察官が法律事務所に出向

 日経(H15.11.11付)社会面で、若手裁判官や検察官を一定期間、法律事務所に出向させ、弁護士を経験させる制度を導入すると報じていた。


 裁判官などは「世間の常識に疎い」という批判があることから、少しでも経験の幅を広げる試みだそうである。


 しかし、弁護士を経験するのは「本人が希望する場合」に限られるようであり、そうだとすると、希望者はいないのではないか。


 何だか、この制度は理念倒れになる気がする。


 そんな中途半端なことをするぐらいなら、いっそのこと、司法研修所を出たら全員が弁護士を3年か5年経験することにして、その中から希望者が裁判官や検察官になるという制度を採用したほうがいいと思う。



2003年11月10日(月) 裁判官への民主的コントロールは国民審査だけではない

 日経(H15.11.8付)で、国民審査で最高裁の裁判官が全員信任されたと報じていた。


 これまで国民審査で裁判官が不信任となったことはないし、これからもないだろう。


 国民審査の制度趣旨は、最高裁裁判官に対してリコールできる余地を残し、民主的コントロールを及ぼそうとするものである。


その理念はまことに立派である。


 しかし、不信任の可能性がないのだから、現実にはまったく機能していない制度といわざるを得ない。



 ところで、地方では、問題ある裁判官が赴任して来ると(何をもって「問題ある裁判官」というかは別にして)、弁護士有志が、その裁判官に栄転していただきたいという上申書を裁判所所長宛てに出すことがある。

 「栄転運動」というのだが、要するに出て行って欲しいという要求である。


 これなどは、ある意味でリコールみたいなものである(手法としては好きではないが)。


 また、先日、弁護士会から、問題のある裁判官についてのアンケートが来た。


 そのアンケートでは、裁判官の氏名を書き、どこが問題なのかを具体的に書くようになっている。

 但し、匿名ではダメで、責任ある回答が要求されている。


 かかる手法も民主的コントロールを及ぼす手段といえる。


 裁判官はこのようなアンケートは嫌がると思うが、民意を反映する一手段として評価したいと思う。



2003年11月07日(金) 訴訟記録の紛失には注意

 日経(H15.11.7付)社会面に、検察庁で捜査記録が盗難に遭い、検事正が処分されたという記事が載っていた。


 裁判官が、車の中に記録を置いていて盗まれたとか、電車で記録を置き忘れたという話は聞いたことがある。

 これに対し、検察官の場合は記録を自宅に持ち帰らないから、帰宅途中で盗まれるということはないが、検察庁の庁舎で盗まれ、それが警備員というのだから、防ぐのは難しい。


 記事では、この件で検事正が処分を受けている。


 訴訟記録を車の中において盗まれたり、電車に置き忘れた場合、裁判官は退官を余儀なくされる。


 弁護士が記録を無くした場合、「退官」にはならないが、依頼者に訴えられれば懲戒の対象になるだろう。


 弁護士は訴訟記録を持ち歩くことは多いから、よほど注意しなければならない。



2003年11月06日(木) 裁判官は世間知らず?

日経(H15.11.6付)社会面で、最高裁判所の裁判官に対するアンケートが掲載されていた。

衆議院総選挙と同時に、最高裁の裁判官に対する国民審査があるためである。


 そのアンケートの中で「『裁判官は世間知らず』という批判があるがどう思うか」という質問があった。


 それに対する各裁判官の回答は、当然ながら「世間知らずという批判はあたらない」というものであった。

 私も、裁判官が世間知らずとは思わない。


 ただ、なぜ「裁判官は世間知らず」と言われるかを考えるべきである。


 その原因の一つに、裁判官からの情報発信があまりに少ないため、裁判官の実像を知る機会がないからではないだろうか。


 例えば、テレビのニュース番組のコメンテーターとして裁判官が出れば面白いと思うのだが・・。



2003年11月05日(水) 大阪地裁のほうが消費者にやさしい?

 日経(H15.11.5付)社会面で、大阪地裁が、EB債の説明が不十分として証券会社に賠償命令を認めたという記事が載っていた。


 EB債というのは、満期のときに特定銘柄(本件ではドコモの株式)の株価が基準を上回っていると高い利息が得られるが、基準を下回ると、その株式を含み損を抱えたまま現物で取得するという仕組みである。

 したがって、元本割れをすることがありえるのだが、その説明が不十分であったと認定したようである。


 ただ、購入者にも過失があるとして、請求の6割しか認められなかった。


 EB債というのは、基準を下回っても現物の株式を取得できるのだから、ハイリスクというほどではない。

 しかも、この件の被害者は年金生活をしている老人ではなく、会社社長のようである。


 とすると、東京地裁だと請求は認められなかったか、たとえ認められても、過失相殺されて、請求の1割くらいしか認められなかったと思う。


 事案ごとに事実が異なるから一概にはいえないにしても、一般的傾向としては、東京地裁に比べて大阪地裁は証券取引や先物取引の被害者にやさしい気がする。



2003年11月04日(火) 「請求放棄」というのはかっこ悪い

 日経(H15.11.4付)社会面で、蛇口修理工事で40万円 代金請求の業者が“敗訴”と報じていた。

 
 どうしてこんな小さな裁判が記事になっただろうと思っていたら、別の情報で、この業者は近畿圏で多くのトラブルがあるようで、それが記事になった背景にあるようであった。


 この業者はシール型チラシを配布し、水回りのトラブルで電話を受けると現地に駆けつけ、パッキン交換くらいで済むのに、「地面から掘り返さないといけない。」と言って工事を行うという手口のようである。


 台所の水漏れ程度で、工事代金が40万円というのは高いなあと思う。



 この裁判では、業者が訴えながら、「請求放棄」で裁判は終了したそうである。


 「請求放棄」ということは、自ら訴えながら<その訴えに理由がないことを認めたことであるから、かっこ悪いこと甚だしい。


 工事業者は、自分の言い分に理由がないことを自覚していたのだろう。


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