6月15日(日)昼
おかしいのである。 倒れる前よりも幾分かの量は食べているはずなのに、 明らかに体力を表すそのグラフは先端を下方へ向け続けているのである。
動ける時に動いてしまわないともうどうしようもなくなるので、 「さぁ」と買い物に行こうと思ったら夫は昼寝をしていた。 一人で表に出るのは少し心もとない気がした。
あまりにも気持ち良さそうに寝ているので起きないまま起こさないまま出かける。 水曜日に病院に行くことになっているのだから、 足りない分はその帰りに買ってくればいい。 と、とりあえず3日分の食材があれば何とか。
スーパーに到着したときは既に動悸がしていた。 必要なものは分かっていたはずなのに体は考えることより 息をすることを優先するので中々買い物カゴが埋まらない。 幾つか買い忘れたままレジへ並んだところへ携帯が鳴ったのだが レジの順番を待ちながら話をする余裕はなく。 呼び続ける携帯を取り出す余裕もなく。
何しろ家まで辿り着こう。
途中、有難いことに夫が捕獲してくれた。 買い忘れた幾つかも買い足す。
何を食べたのだったか。忘れたので思い出せない。
この日の夜遅く、ずっと前からぴえぴえ嬢にねだっていた プレイトークンのカエルのパペットをオークションで落札できた。 嬉しくて眠る。
6月16日(月)昼
起きて薬を飲む。 そろそろポカリも飽きてきた。
オークションで落札したカエルの代金を振り込みに行こうと思っていたのに 昨晩夜更かしをしたせいで、今から支度をしても間に合わないの時間。 諦めてアイスコーヒーを淹れる。
PCを立ち上げてチャットをしていたらお腹が空いてきたので 以前よく食べていたバランス栄養食を齧る。 夜は夫がカレーを作ってくれることになっているので 今日は雑炊から開放される。 楽しみ。
夜、夫が台所でカレーを作っている間、後を行ったり来たり。 「座ってなよ」と笑われる。
ひき肉と野菜のカレーを食べた。
6月17日(火)昼
起きて支度をして銀行へ振込みに行く。 カエルのパペット、カエルのパペット、カエルカエルカエル。
通帳記入をしたら、家で療養している間に予期せぬ引き落としがあって、 計画していた引き落としができていなかったことを発見する。 ものすごい落胆。 来月に2倍返し。
目には目と歯を。
やられた、と思いながら帰りに甘いものが食べたくなったので 和菓子屋さんとコンビニに立ち寄る。
なるべく牛乳を飲むようにしている。 明日はまた通院。
6月18日(水)
病院へは午前中に行ってしまって、 帰りに新宿のデパートで注文してある化粧品を受け取り、 午後早い時間に下北の駅に近いところでお茶でもしようという。
起きたことは起きた。 が、歩けないので諦める。 夕診までに体調を整えて、と思うが整わないと踏んで病院に電話する。
おかしい。 明らかにどこかおかしい。
家から電車で乗換えが少なく通いやすい場所にある総合病院を探す。 会社に電話して病院の評判や内情を聞く。 便利だ。 もう一度病院に電話して、今日は行けない旨、紹介状を書いて欲しい旨 伝えて、土曜日の午後に再度予約を入れて電話を切った。
東大病院へ戻ったほうが良いだろう、ということになったので そちらの外来へ電話をかけるが中々繋がらない。 やっと通じたけれど以前かかっていたDrは群大病院へ移動していた。 結局、初診扱いになるので融通を利かせることが出来ない、とのことで、 土曜日に紹介状をもらった後、月曜日に再度予約の電話を入れることにして 電話を切った。
鬼のように疲れる。
けれど何か安堵したような。 そして少し諦めたような。
お腹が空いたので雑炊を作って食べた。
6月8日(日)昼
夫と食材の買出しに行く。 一人では出歩けないので。 ちょっとした荷物すら持ち歩けないので。
ユラユラと歩きながら、ついのお天気にも誘われて、 いつものカフェでお茶をしたいと駄々をこねる。
いつもの席は空いていなかったけれど違う眺めの席に座る。 けれど食欲はなく、何かを適当に頼む。 アイスコーヒーと。 食べたかったものとは違う。 食べたくなかったものとも違う。
食べたらやはりムリがあった。
少し嘔吐する。
1週間、お粥と雑炊の献立で体調を整えるべく、アレコレ悩む。 けれど食べたくもないのに何も思いつくわけもなく、日持ちのするものを とりあえず買う。
帰り道、真っ直ぐ歩けなかったのは支える筋肉がなかったせいだったのだろうか。 帰り道、息切れがしたのは心臓が動きを止めたいと言っていたからだろうか。
6月9日(月)〜6月13日(金)
食事療法の開始。 とりあえずきちんと食べられるようになるところから始めよう。
でも1日1膳。 お粥にしたり雑炊にしたりすると少し量が増えるので丁度いい。 小分けにして冷凍庫に入れておいた小松菜を入れる。 しらす干を入れる。 梅干を入れてみる。 卵とじにする。
とりあえず。 食べる。
とりあえず。 眠る。
片手鍋に半分ほど作ったものを2〜3回に分けて食べる。 やっと食べる。
とりあえず今はそれだけ。
6月14日(土)
どういうワケだか、体調が悪い。 全く食べ物を受け付けない。 どうでもいいや、の風で一日中横たわっていようかとも思う。
午後遅くから起き出してきてPCを立ち上げる。 とめどのないチャットをしているうちにいつか。
風が吹いてきた。 雨が降ってきた。
「どうでもいいや」と、細くなった足を見下ろす。
6月3日(火)朝
夫が出かけるのと一緒に目覚めた。 「内科に行ったほうがよいのではないか」と言われていたのだが 明日、かかりつけの病院へ行くことになっていたので、 とりあえずそこで相談してみることにする。
最近ネットで親しくなった建築家さんが、容態を心配してくれる内容の メールを寄越してくれた。 仕事は休むことにした旨、返信する。
忘れられていないんだなぁ、とどこかで思った後、ゆっくり眠った。
途中、どこかでサンドイッチを食べた気がする。
6月4日(水)朝
建築家さんはどうやら心配性らしく、モーニングコール宜しく 「今日の調子はどんなだ?」とメールをくれる。 朝きちんと目が覚めるのはけれど生活サイクルを保つという意味では よいことなのだろう。
午後から起き出してシャワーを浴びて出かける支度をする。 病院は夕方からの予約にしてもらってある。 シャワーを浴びながら動悸と眩暈に襲われた。
久しぶりに表に出た。 息苦しくフラフラと駅までの道がどうしてだか遠い。
電車を待っている間、ただ立っている方がツライことに気づいた。 歩いている時は振り子の原理で足は左右順番に前へ出るし 体重も自然と前へ移動する分、地に着いている足にかかる負担は少ない。 ただ立っている間はその全体重が足にかかる。
前後左右に揺れるのを自覚しながら電車に乗り込む。
病院では思いのほか待たされた。 今までのより強い睡眠薬と吐き気止め用の胃薬を処方されて出てくる。
この日、どうやって家に帰ってきたのか覚えていない。
6月5日(木)朝
朝、夫をベッドの中から送り出しながら建築家さんにメールで 生存証明を残す。
昼過ぎに起きてきて夫が買っておいてくれたサンドイッチを食べ、 そのままPCを立ち上げてダラダラと過ごす。 けれど時折横になる。
そのままの夜。
6月6日(金)朝
何しろひたすら眠っていた。 食べたのだったろうか。 記憶にないけれど明日は経過観察のため通院することになっている。
「点滴でも何でもして体力の回復を図るのが先決じゃないのか」と 夫は息巻いていたが、あの日は早く帰宅して横になりたかった。
とりあえず明日。
6月7日(土)昼
起き出して支度をする。 夫同伴で病院へ出頭。
人が一緒だと気が張るせいか、意識もいつもよりしっかりしている。 気がする。 足元もいつもよりしっかりしている。 気がする。
食事が少しずつ摂れて来ているのでこのまま様子を見ることになった。
帰り道、つい寄り道をしたくなって下北を歩いたような。 けれど既に緊張の糸は切れて虫の息で家に辿り着く。
何も覚えていない。 眠ったこと以外は。
5月30日(金)朝
朝起きて出勤しようとしたら既に立ち上がれなかった。 意識も朦朧としている。 会社に電話して、とりあえず今日は休む旨連絡をしたと自覚しているのだが、 どうやら「今日はムリです」の後はうわ言の繰り返しだったらしい。
「明日・・・明日行ってやります・・・会社・・・開いてませんかね・・・」
上司とは殆ど会話になっていなかったらしいので、察してくれたらしい。
振り返ってみると、2週間ほど殆ど飲まず食わず、たまに食べれば嘔吐し、 時には眠れずの生活をしていた。 倒れて当たり前だった。
その日、目が覚めたら夕刻であった。 いつものようにいつもの如く、お気楽なオイラは「疲れが溜まってたんだなぁ」 ぐらいの感じでしかいなかった。
食べたくなかったので食べずに寝た。
5月31日(土)昼
目覚めたら夫は既に出かけた後であった。 何でも大阪のイベントに呼ばれているとのこと。 再び眠る。
夕刻目が覚めた。 衣替えもしたいし、部屋の掃除もしたい。 やらなければいけないことは山ほどあるのに足は「ぴくり」とも動かない。
この日、トイレに立つにも支えがないと立ち上がれないことに気づく。 一体どうしたことかと思いながらも、ずるずると部屋の中を動き回るのみ。
とりあえずペットボトルのお茶で薬を流し込んで眠る。
6月1日(日)昼
休みの日には珍しく昼前に起きる。 「起きる」と言っても起き出して来たのではなく、目が覚めただけのこと。 相変わらず体中に力が入らないので、おそらく。
夜、大阪から帰宅した夫のお土産を食べた。 夫にねだって買ってきてもらった駅弁。 半分も食べられずに捨ててしまった。
6月2日(月)朝
思いのほか体調悪く、見かねた夫が会社の上司宛にメールをしてくれる。 一瞬の意識あったものの、そのまま夕刻まで眠り続けた。
目覚めて、改めて上司に電話する。 もうムリだから長期休暇をとりなさい、とのこと。
食べられない、食べるそばから嘔吐する。 焦って水分を摂取する。
壁によりかかって床に座る。 と、まっすぐ目の前に伸びる足。 初めて気が付いた。 肉の削げ落ちた足。
気が付かなかった。
慌てて腕を見る。 まさに「折れてしまいそうな腕」。
何も。 何も気が付かなかった。
まともに立てるわけがない。 まともに歩けるわけがない。 アタシの足。
薄くなった肩はどうりで何も支えられなくなっていたはずだ。
回りの人間は見るのさえ怖くて言い出すこともできずにいたらしい。
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