沢の螢

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バス小景
2003年07月06日(日)

いつも乗るバス。
込んでいる時間ではないが、席は埋まっており、立っている人が、4,5人いた。
停留所で、年の頃70くらいかと思われる女性が乗ってきた。
少し席を見回すような風だったが、空席がないと知ると、前のほうの吊革につかまった。
それを見て、近くの席に腰掛けていた男性が、「おばさん、ここにすわんなよ」と声を掛け、すぐに席を立った。
言葉は、丁寧ではないが、スポーツ刈りの、人当たりのよい感じの人だった。
「おばさん」は、そちらを見たが、「いえ、もうすぐに降りますから」と、いいにくそうに断って、そちらに行こうとしなかった。
私には、その理由がわかった。
男性が譲ろうとした席は、ちょうどバスの車輪が下に来るところで、他の席より、少し高めになっている。
足をおろすところが狭く、年配者や、タイトスカートの女性には、大変座りにくい席なのである。
立つ時にも、窮屈で、少し手間がかかる。
「おばさん」は、それがわかっているので、親切には恐縮しながらも、辞退したのであった。
女性なら、みな覚えがあるので、わかることだが、人の良さそうなその男性には、そうしたことは、想像出来なかったのだろう。
せっかくの親切が宙に浮いた感じで、彼は「どうしたの、座らないのか」といった。
別に腹を立てているようではなかったが、彼にしてみたら、自分の譲った席に、座って欲しかったに違いない。
「おばさん」のほうも、人の親切を断ってしまったという申し訳なさがあり、逆にますます座りにくくなり、ひたすら、自分の降りる停留所に着くのを待っている風情になっていた。
いくつかの停留所を過ぎ、「おばさん」は降りていった。
件の男性の目を避けるように。
男性のほうも、一度立った席にもう一度座る機会を失ったように立ち続けた。
親切の行き所をなくした空席は、ついに誰も座らぬまま、終点の私鉄駅に着いた。



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