木曜夜10時からの韓国ドラマ「冬のソナタ」を愉しみに見ている。 すれ違い、いくつもの枷、結ばれるべきカップルの間に次々襲いかかる嵐、メロドラマの王道を行くような作品だが、美男美女が、ヒーロー、ヒロインを演じて、昔なら多くの女性のハンカチを、涙でぐしょぐしょにしたであろう作りになっている。 車や携帯電話、ヒロインが働く女性である点など、現代の社会的状況を取り込んではいるが、そこに流れているのは、太古から少しも変わらぬ、恋する男女の心理と、リアクションである。 そこで思い出すのは「君の名は」。 最初は、ラジオドラマだったらしい。 放送時間には、銭湯の女湯がからになるという「神話」が残っている。 私は、「笛吹童子」のほうが面白い年頃だったので、放送は聴いていなかった。 放送が終わると、次の年に映画化され、大変な反響であった。 続編、続々編も作られ、愛し合う二人が苦難を乗り越えて、やっと結ばれるところで、完結した。 私は、近所の子ども達と、やはり近所に住んでいたお兄さんに連れて行ってもらって、第一作目を見た。 ヒロイン真知子を演じたのは、売り出し中の新人だった岸恵子、当時19歳。 恋人春樹は、佐田啓二。敵役が川喜多雄二。 真知子をイビる姑役が市川春代。 そして、このドラマには狂言回しとして、二人の蔭で、何かと世話を焼く女性(役名は思い出せない)が登場するが、それを演じたのが、芸達者な淡島千景だった。 監督は、大庭秀雄。 なぜそんなことを覚えているかというと、そのころ、娯楽は、本と映画しかなかったので、細部に渡って、よく記憶しているのである。 岸恵子は、この映画の中で、最初から最後まで、泣き通しである。 典型的な美女、ホッソリとした容姿、いつもうつむき加減で、あまり自分の意志を出さないヒロインの役を懸命に演じたらしい。 キャストは、最初、津島恵子と鶴田浩二が有力だったそうだが、あとで代わり、結果的にはそれでメロドラマとしては成功した。 岸恵子は、この映画ですっかりスターになり、数々の作品に出たが、「君の名は」の真知子のイメージから脱するのに、苦労したらしい。 その後、演技派の久我美子、有馬稲子と「にんじんくらぶ」を設立、徐々に単なる美人女優から存在感あるスターになっていった。 フランスとの合作映画が縁で、イヴ・シアンピと結婚。 それ以後の生活の大半は、彼の地で過ごしている。 フランスから一時帰国した時、NHKの強力な口説きにあって、大河ドラマ「太閤記」の、お市を演じたが、もはや「真知子」の岸恵子ではなかった。 その後の彼女の活躍は、演技者に留まらず、何冊かの著書も出して、オピニオンリーダーとしての側面も加わっている。 佐田啓二は、私の好きな俳優だったのに、交通事故で亡くなってしまった。 十数年前、NHKが、何を思ったか、「君の名は」をテレビドラマとして、リバイバルさせた。 鈴木京香が真知子を演じた。 しかし、やはり時代が違う。 すれ違いも、枷も、今の社会的状況とはあまりに合わなくなっている。 嫁いびりということが、今の社会では見られなくなっているし、男女の関係は流動的である。 ひとりの人を、十年も思い続けるということが、想像しにくい。 すれ違いも、通信手段や交通網が発達した今となっては、決定的な障害とはならない。 ただ、人の気持ちは、永遠に変わらない点もあるから、その意味では、普遍だが、それだけで、状況を変えて一年間続けるには、無理があったと見え、あまり芳しくない批評のうちに終わってしまった。 「冬のソナタ」を見ていて、古典的メロドラマの枠を脱してはいないながら、あまり違和感なく見ていられるのは、韓国の状況が、日本に比べると、まだまだ儒教の精神が生きており、ドラマの成り立つ要素は多いということかも知れない。
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