沢の螢

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夏の色
2003年05月05日(月)

Rさん
いかがお過ごしでしょうか。
今日はこどもの日、歳時記では、春と夏の境目、体感的には夏と言っていい気候です。
風薫るという季語にぴったりの、気持ちの良い日です。
昨日から、老父母が来ています。
昨年に比べると、二人は、やはり確実に、体力が衰えています。
父は、玄関の上がり框から上に上がるのに、手を貸さねばなりませんし、母も、腕を組んで歩みを揃えてやらないと、不安気です。
年を考えると無理もありません。
寝たきりにならずにいると言うことを持って、幸いとしなければならないでしょう。
私自身が、昔ならとうに老人の仲間入りしているはずなのに、まだ親の世話が出来るというのは、幸せなことかも知れません。
「有り余る仕事ありて、人幸せを得る」という言葉があります。
誰が言ったことかわかりませんが、亡くなった裏千家先代の奥方である千登三子さんが、座右の銘にしていたとか。
含蓄のある言葉ですね。
私は、まだそう言えるほど、修行が出来ていませんが、時折この言葉が心の奥深く過ぎることがあるのです。

Rさんは、相変わらず読書に専念しておられるのでしょうか。
ベストセラーは読まないと仰ったけど、あの頃話題になった「マジソン群の橋」について、お便りを下さいましたね。
ヒロインの描写の一部に赤で傍線が引いてあって、それについて何のコメントも付けていませんでした。
私は、なぜそんなお便りを戴いたのか、よく考えもせずに、読み過ごしてしまいましたが、今になると、理解できます。
想い出を持つことの意味を、示唆なさったのですね。
それからしばらく経って、ちょうど、こんな初夏の日、みんなで、喫茶店に入ってお茶を飲んでいた時、テーブルにあった紙のコースターに、さらさらと何か書いて、私にくれたことがありました。

君に濃し我にも濃きや緑蔭

隣にいた人が覗き込み、「何、これ恋句じゃない」と言って、茶化したら、あなたは何も言わずに、笑っていましたね。
「返句をしなくちゃいけないかしら」と私はいい、その場で何か考えようとしましたが、周囲の喧噪と、次々変わる話題に紛れて、結局作らずじまいでした。
口に出さずにいるから、保っていられることもあると、いつか仰いましたね。
その証のように、コースターは、7,8年経っても、返句のないまま、ひっそりと、かすかなコーヒーのシミと共に、私の手元に残っています。



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