a Day in Our Life
「またスイーツ?」
丸山の手の平に乗せられた甘そうなケーキを一瞥した村上は、僅かに顔を顰めた。確か数時間前にも甘そうなシュークリームを食べていた気がすると思い出して、更に顔を顰める。もともとがそう甘いものは好きではない村上だから、何がそんなに糖分ばかり取ろうとするのか、全く分からない。 「でも、美味しいんですよ。体が欲しがるんやから、しゃぁないでしょ」 と他人事のように言った丸山は、もうケーキにかぶりつく。フォークも使わずにまるかじりな辺りは男らしいと言えただろうか。そのアンバランスさが丸山らしいと言えば、丸山らしいけれど。 「ていうかお前それ、病気やで」 「何がですか?」 病気呼ばわりにケーキを口に入れたまま、少しの抗議を込めて村上を振り向く。と、目が合った村上は、笑ってはいなかった。 「人間疲れると甘いもんが欲しなるって言うやろ。お前それ、慢性的に疲れとんねん。周りに気ィ使って、ムードメーカー的な役割が、実は性に合うてへんの違うか」 言った村上は真直ぐに丸山を見据えて。下手な誤魔化しをしても見透かされそうな気がした。けれど実際の丸山には身に覚えがあるようなないような、無理をしているつもりはなかったから、村上の言い様の意味が分からない。 「自覚がないんやったら、尚更タチが悪いわ」 ふん、と鼻を鳴らした村上は、にべもない。思わず丸山は苦笑いを浮かべた。何がそんなに、村上の機嫌を損ねたのかと頭を巡らす。その思案顔がまた、村上の苛立ちを増幅させたようだった。 「マル、お前。人には好きや愛してる言うて両手広げといて、その実、完全な手の内は見せへんって卑怯や思わへんか」 ホンマのお前はどこにおんねん。今、見えてるんが全てとちゃうやろ。 むしろ本当の丸山はもっとずっと奥深く、丸山ですら容易には見えないところに居るのではないか。言って村上は丸山を覗き込む。まるでその漆黒の闇の向こうを探るみたいに。 「いややなぁ、村上くん」 村上くんこそ疲れてるんとちゃいますか? 俺にそんな器用な事が出来る訳ないでしょ、と笑ってみせた丸山の、その唇が僅かに歪んだ。 そしてその内心で、密かに微笑う。
あぁ、村上くんには殆どもう、バレている――――。
***** 病んだ丸ちゃんを書いてみたくて。
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