a Day in Our Life
「疲れとる?」
見て分かる程度には疲れた顔をした横山を前に、村上は微笑みを浮かべた。 久し振りのドラマ仕事は、まだ見知った顔が一人でもいただけよかったけれど、人見知りな横山の気苦労は恐らく、村上が想像する以上なのだと思う。基本が人懐っこく出来ている村上自身には実際、初対面の人に対する必要以上の”疲れ”が分からない。 黙って頷いた横山は、軽口を叩く体力もないらしい。それともそれは数十時間振りに気心の知れた相手に対する安心だっただろうか。どすん、と重力に逆らわずに腰を落としたソファが、大きな振動と共に揺れる。まだ笑い顔を浮かべたままの村上は、膝の上に開いた雑誌は閉じないままに、ちらりと目線を流した。 背もたれに頭を預けて、天井を見遣った横山はふう、と大きく息を吐く。それから左右に肩を揺らして、それで気持ち、疲れを吐き出したかのような。けれどその両肩にずっしりと乗った重みは、きっとまだ残っている筈で。 「……疲れた」 ぽつん、とやっと、吐き出された言葉と同時に、横山の頭が僅かに傾く。こつんと丸い感触がして、肩に乗ったのだと分かった。そうやって、横山が甘えるのは珍しかったから、村上は、横山がよほど疲れているのだと知れた。 「お疲れやなぁ」 くすりと笑って、それ以上はいじるつもりもなく、黙って読みかけの雑誌に目を落とした。そうされた横山は、ゆっくりと目を閉じる。 自分はたぶん、甘えるのも甘やかすのも下手だと自覚をしているけれど、今、そうやって甘えるように村上の肩を借りて。それが何だか心地いいと思った。たったそれだけで実際の疲れが取れる筈もないのだけれど、それでも気持ちは随分と楽になる気がした。ただ、そこにある肩に凭れるだけで。「お疲れ」と囁く声を聞くだけで。 また一つ、息を吐く。 次の仕事まであと数十分、それまでもう少し、こうしていようと思った。
***** 新年早々、疲れてました。
|