a Day in Our Life


2006年02月07日(火) 賽は投げられた。(晋+康平)


 「もしもの話ですよ。もし…和也さんが生き返ったら、康平さんは何を言いますか?」

 晋が幾分言い難そうに、けれど聞いてみたい好奇心に駆られてそう問うてくるのを振り返った康平は、黙って見返した。
 「いや、今ドラマやってるやないですか。10年前に消えた飛行機が、現代に突然現れるってやつ。研二と言うてたんです。もし、そんな風に急に和也さんが現れたら…って」
 そのドラマなら康平も、原作の方を読んでいた。晋の言わんとすることは分かる気がする。そう思うのは残された方に、何か言い残したことがあるからなのだ。突然に逝ってしまった和也には、そうなることすら予測出来なかったのだが、それこそ言い残したことが山のようにあった。言おうとして言えずにいた事や、そうされた事に対して、言ってやりたい文句も。
 「晋は?どうすんねん」
 そうなったら、と反対に康平は問う。質問に質問を返された晋は、おとなしく受け取った問いを両手に持って、少し俯いた。
 「謝りたい…です。和也さんに、生意気な事を言ってしまったから」
 その時点で病気の事を知らなかったとは言え、和也に対してひどく当たってしまった。その事をずっと晋は気に留めていた。思えば和也には時間がなかったから、焦って苛付いて、当然だったのだ。その焦りだって克典の為、バンドの将来の為、今出来ることを精一杯やっておきたい和也の想いだったに違いなかったのに。
 だから、それに気付けなかった自分達も辛い、と思い出すたびに晋は心を痛めた。
 研二もそうやと思います、と晋は、ここにはいない元ピアニストの言葉をも代弁した。こんな事になるならあの時あの4人でしか奏でられなかった音をもっと大事にすればよかった、と現実主義の研二にしては珍しくいつまでも悔やんでいた。その背中を思い出しながら、それとは違う所で康平は考える。

 もし、和也が生き返ったなら、自分はどうしたいだろう?

 叶わない夢であり、無意味な想像だったけれど、康平は真剣に考えた。
 何か言うよりも先に、彼を抱き締めたい。
 言葉なら交わした(と思った)。和也の気持ちは受け取ったと思った。けれど生前の和也に終に触れてやる事が出来なかったのが、今でも心残りで。ALSに犯されていた和也がその腕を動かせないのなら、和也の分まで自分がそうするから。
 強く強く、その体を抱きしめたい、と康平は思った。



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けれど神はサイコロを振らない。

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