a Day in Our Life


2006年02月17日(金) RABUメール。(横雛昴+安)


 のちのち聞いた事には、その時の村上の怒りも相当なものだったらしい。

 「でも、何で分かったんですか?横山くんがもう怒ってないって」
 今でこそ笑い話で聞いてきた安田に、村上は「ん?」と顔を上げた。安田に対し、珍しく穏やかな笑みを滲ませて、それは今だから振り返って幸せを噛み締める、村上の喜びに他ならなかった。
 「そやなぁ。元々何か理由があって怒っとるんやろなぁ、ってのは冷静に考えたら分かることやってんけど、その時は俺も相当頭にきとったから、すぐには分からんかったよ。本気で別れよ思とったし」
 「そうやったんですか?」
 言えば本気で驚いたらしい安田が目を瞬かせる。
 「ホンマ。むしろ一度別れたんやろなぁ、あん時」
 やから寄りを戻した事になるんかな、とのほほんと笑う村上は、今の状態に自信があるからこそ、なのだろう。その左手に控えめに光る指輪は、楽屋にいる今だけ村上の指を飾る。もうしばらくしたら本番を控えて、こっそりと外されることになるのだけれど。
 「あん時な。リハ中に呼び出して話途中に大喧嘩したやろ。飛び出して行った手前、戻るに戻れへんようになってなぁ。ぅわ、どないしょこのまま楽屋に戻るんめっちゃ気まずいやんけ、思って途方に暮れてたら、すばるからメールが来てな」
 「すばるくんから?」
 「俺ら以上に、あいつにはお見通しなんやろうなぁ」
 ぽつんとそう呟いて、何気なく取り出した携帯電話に今、そのメールが届いた訳ではないのだけれど。まるでついさっきメールが届いたかのように、村上はその文面をそらで思い出せる。
 「”ヨコがモゴモゴ謝る練習をしとるから、そろそろ戻って来い”やって。何やそれでハラワタ煮えくり返っとった俺の気持ちもすーっと和いでいってな。まぁ、戻った俺の顔を見たヨコは、結局謝ってはけぇへんかってんけど」
 タイミング逃したっていうかなぁ、顔見たら急に億劫になったんやろな。その横で俺より顔を顰めてたすばるの顔も、よぅ覚えとるわ、と村上はまた笑う。
 「…やっぱり仲人は、すばるくんにやって貰たら?」
 その話を自分のように喜んだ安田も、村上の笑みが移ったのか、知らず笑い顔になる。それは改めて二人の仲直りを喜んだのが一つ、それから改めてその恋愛の成就を喜んだのが一つ。
 改めて、よかったと思うのだ。
 村上が今、目の前で笑っている事。少し離れた向こう側で、やはりこちらも子供のような笑顔を浮かべる横山の指にも、同じ指輪が嵌っている事。シャイな横山がきちんとそれを嵌めている、何よりそれが雄弁に幸福を語る。
 「それなぁ。そうしたいんは山々なんやけど、後々の為にもここは社長を立てとかんとな」
 大真面目な顔をして眉根を寄せた村上を見ながら、披露宴ではすばるくんから新婦(?)への手紙ってのもありかも、村上くん号泣やで、と安田はうきうきと考えた。



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元ネタは「56通の涙のメール」という本。

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