a Day in Our Life
「うわ、雪や」
外に出た瞬間、感嘆にも似た声を上げた丸山は、ちらちらと舞う雪を見上げた。 「どぅりで寒いと思ったわ」 ぶる、と身を震わせた村上も、同じように辺りを見回す。 その日、随分と冷え込んだ気温は今年の初めての雪を降らせたらしい。一日中建物の中に篭っていたので、そんなことには気が付いていなかった。寒いには違いないが、それでも何故だか少し、嬉しそうな丸山はふと振り返って、村上を見遣る。 「村上くん、何泣いてるんすか」 見た先の村上の目には涙が浮かんで、それで思わず聞いてしまったのだけれど、泣いてへんわ、と言葉を返した村上は、またぶるり、と身震いをした。 「あんまり寒いから涙出てきよったんや」 京都は大阪よりももっと寒いから、だから丸山が平気と言う訳ではない。京都にだって寒がりな人はいるし、京都の寒さはもっとこう、芯から凍えるような。けれど今、明らかに丸山よりも寒そうな村上は、単純に気温にそぐわない軽装というだけかも知れなかったけれど。 「それとも村上くんが気付いてへんだけで、泣きたい気持ちなんかも知れませんよ」 ぽつん、と零れた丸山の言葉に、村上は目を丸くする。 「…最近のマルちゃんは随分と詩的やね」 言った村上が毎週のWeb連載の事を含め、そう言ったのだと丸山は理解した。なんだかんだとメンバー内でも購読率が高いらしいそれらの連載の、村上はもちろん殆どに目を通しているらしかった。自分では無意識だったのだけれど、そう言われると、考える事柄や浮かべる言葉は、昔に比べて詩情的になったかも知れない。 「表現力をつけたいんですよ。いろんなものに対して敏感になりたい。芸術とか、感情とか」 呟くように言った丸山は、村上に答えたというよりは、独白に近い感覚だったかも知れない。最近の丸山が、言葉通りに様々アンテナを広げているらしいことは知っていた。それは努力というよりは小さな積み重ねと言えただろう。そうやって、小さな気持ちの揺らぎに気が付く。 それは、唐突に見た白い雪のせいだったか、じわじわと凍える寒さのせいだったか。 強い風に煽られて、舞っては落ちる白い結晶。普段見慣れないその姿に惑わされたのかどうか。 吐く息は白く、厳かでいて豊満な。安らいで、乱される。隣で同じように空を見上げる丸山が何を感じているのかも、またその横顔に、感じた思いがどういう種類のものだったかさえ、村上にはすぐに表現出来なかった。 泣きたい気持ちなのかもと言った丸山の言葉は案外間違いではなかったのかも知れない。出来るならこの気持ちを丸山に代弁して欲しい、と冗談のように村上は思った。
***** 丸ちゃんは、寒い時に側にいて欲しい人です。
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