a Day in Our Life


2005年10月20日(木) 電話をするよ。(ニノ雛)


 久し振り。最近どう?と笑った二宮は、もうその話を始めた。

 「横ちょとは上手くいってる?」
 「上手くいくも何も、普通ーよ。変化なし」
 良くも悪くも変わらないのが自分達だと思うから、村上はそう言ったのに、テーブルを挟んで向こう側に座る二宮は、ふぅん、と僅かに口を尖らせた。
 「でもまぁ、大丈夫だよ。横山はヒナちゃんのこと好きだから」
 俺も好きだしね、とついでのように付け加えた二宮は、言ってスプーンを掬った。それに対してはありがとぅ、と軽薄に笑い返した村上も、同じようにスプーンを持ち上げて、一口を運ぶ。
 「そういうそっちはどぅなん」
 答えを期待するでもなく、聞かれたから聞き返す、くらいの気安さで問うた答えもやはり、想定内のもので。
 「至って普通。進展あると思う?」
 「…相葉やしな」
 「でしょ?」
 ふふ、と笑った二宮は、そういえばこの前、うちの相葉さんがそっちの横山さんにお世話になったんだって?と村上を見た。横山の相葉好きは有名だったが、普段、思うより社交性のない横山が、相葉の初舞台の初日に姿を現したことは、あんまり分かりやすくて、悪いと思いつつ笑ってしまった。
 「あの人、そういうところは異様に行動派やねん」
 おそらく村上も苦笑いするしかなかったのだろう。好きなものには骨抜きになりがちな横山に、今更傷付くこともない。それが、有り体に言う経験とか自信とか、そういう地道なものによって成り立っていることは分かったから、二宮は、村上のそんな強さが好きだった。
 それは別に、ひょっとしたら、とは思わないでもないけれど。
 自分と相葉と、よりどちらが好きなんだろう、とか。
 はっきり愛され方が違うと思うから、比べようがないとは分かっていても、わかりやすく甘い横山の、相葉への接し方は、自分には到底与えられないものだったから、それはちょっと、いいな、と思うことはないとは言い切れない。むしろ、羨ましいより攻撃的に、ちょっとだけムカつく、のかも知れない。
 だから村上は相葉が「嫌い」なのではなく、「好きではない」のだと思う。ないものねだりのように、横山に愛される相葉のことが少しだけ、好きではなかったのだ。
 そんなことをたぶん、二宮は知っているのだろう。彼が誰よりも大事にする相葉を「好きではない」と言い切る村上を、けれど二宮は好きだと言う。それは少し、面白い感覚だな、と村上は思った。
 「何かいろいろ考えてんの?」
 暫く黙り込んだ村上を、二宮は面白そうに眺める。
 「横山のこと考えてたんでしょ」
 ヒナちゃんのそういうとこ、好きだなぁ、と二宮はまた笑う。久し振りに会ったからいつもよりそう思うんだよ、とそんなことを言うから、ニノも人の事言えんわ。軽薄やね、と村上も笑った。
 「俺は違うよ。ヒナちゃんにしか言わないもん」
 あとはもちろん相葉ちゃんもね、と言い足すのを忘れない二宮を、やはり村上も好きだと思う。そう言ってみたらんふふ、と二宮もまだ笑って、ラブラブだね俺ら、と言った。
 「大丈夫だよ」
 ふと呟いた二宮は、真顔になって村上を見る。
 「俺はねぇ、好きですよ。だからさ、ヒナちゃんを好きな横山が相葉ちゃんを好きなんだから、相葉ちゃんを好きな俺はヒナちゃんが好きに決まってるじゃん」
 「…そんなもんかいな」
 「そうだよ。もし相葉ちゃんより早くヒナちゃんに出会ってたらヒナちゃんを…」
 「好きになる?」
 「…いや、やっぱり相葉ちゃんかな」
 屈託なく笑った二宮は悪怯れずにそう言った。つられて笑った村上は、二宮のそんなところがとても好きだと思う。だからさ、とまた前置いた二宮は探偵のような顔になった。だから。俺の推理によると、
 「相葉ちゃんを好きな横山はヒナちゃんを大好きに決まってるよ」
 胸を張って言い切ったその言葉の、どこまでを信じようかと思う。
 「せやけど、その推理で行くと出会いの早さは関係ないから、ヨコも相葉を好きになってまうんと違う?」
 けれど、薄笑いで問うた村上はもう、決めてしまっていた。
 要するに、そんなことはどうでもいいのだ。自分が横山を好きで、横山も自分を好きで。その間に相葉がいたとして、だからどうだと言うのだろう。
 「…ヒナちゃんて、頭は決してよくないけど変なとこ鋭いよね」
 大真面目に失礼を呟いた二宮にとっても、揺ぎ無いことなのだろう。例え横山が相葉を思っていたとして、それで揺らぐ男ではなかった。いつでも真摯に相葉を想う二宮にとって、相葉を好きでいる、ただそれだけが最重要であるに違いない。
 「何やそれは、誉められてるんか?貶されてるんか?」
 思わず笑みを浮かべた村上は、久し振りのそんな会話が楽しいのだと感じた。普段、人に話すことは少ない恋人のことを、照れもなく話すのもたまにはいい。気が付けばテーブルの皿はすっかり下げられて、湯気の立つカップからは香ばしいコーヒーの薫りが鼻をかすめた。
 「誉めてるに決まってるじゃん」

 気持ちよく微笑んだ二宮は、やはり男前だろう、と思った。



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ありがとうゲーム日記。

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