a Day in Our Life
開け放したドアから中に入ると、真正面に置かれたソファがひとつ。そこ以外にも座る場所はあるにはあったけれど、何となくソファに座りたかった横山は、けれどどうしてもそこに座る気にはならなかった。
おそらく大の大人が3人座れば多少、窮屈になるであろう大き目のソファ。その、左端に座るのは村上。台本だか雑誌だかに目を落として、リラックスして座っている。その村上より、恐らく後に座ったであろう丸山は、何故か一人分を空けて、右端に姿勢正しく座っていた。何をする、という訳ではない。手に何かを持っている訳でもない。強いて言うなら一人分のスペースを空けて座った右隣の村上の、視線の先が気になるようで、ちらりちらりと様子を見ては、ゆらりと肩を揺らす。その姿がちょっと、例えとしてはマズいのだけれど、主人の様子を伺いながら”待て”をしている忠犬のようで、横山は軽い眩暈で僅かにその、黙っていれば端正な顔を顰めた。 (…やから、おまえらは何やねん) 一方の村上は、きっと丸山の気配にはとうに気が付いているに違いなく、それでなくとも他人の気配には敏い村上のこと、気が付かない筈がない。けれど気が付いていながら別段、視線を向ける訳でなく、声を掛ける訳でなく。ただマイペースにじっと活字に目を落とす。そうやって出来上がっている空間に、横山が入り込む気にならなかったとしても、無理はなかったに違いない。 それは、どちらが悪いのか、横山には分からない。 いつからか村上と丸山の間には暗黙の主従関係が出来上がっていて、天真爛漫、と言えば聞こえはいいが、要は実に気まぐれに丸山を振り回す村上の、けれど見ている方が気の毒にさえなる健気さで、丸山はその側にいる。まるで自分の場所なのだと信じているかのように、いつだって、そこにいる。 (…。アホらし) いつまでも空かないソファを待つのにも疲れて、横山はいつまでも張り付いてしまう視線を無理矢理に離す。と、まるで磁石のようにその動きに反発して、村上が顔を上げた。 「ヨコ?なに立ち尽くしてんの。ここ、空いてるから座れば?」 自分の隣を軽く指し示した村上の動きに沿って、丸山の目線も伸びてくる。より態度のデカイ村上はそのままで、丸山の方がまた少し姿勢を正して、横山のスペースを空けてくれる。それがまた何となく癪に障って、横山は人より厚みのある唇を尖らせた。 「えぇわ、そんな狭そうなとこ」 ぷい、と顔を背けて空いている椅子にどっかりと腰を掛けると、何を怒ってるねんな、とのんびりとした村上の声がしたけれど、さっぱり聞こえない振りをした。
***** 2005やぐら小話。
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