a Day in Our Life
2005年09月01日(木) |
夢物語。(クインス×アントーニオ) |
草木も眠る静かな夜。月明かりを頼りにそっと、滑るようにベッドに潜り込んできた息子に、クインスはまだ半分、覚醒しない頭で視線を向けた。
「アントーニオ…?」 柔らかな絹布のシーツに寝衣を羽織っただけのクインスの、やや寝乱れて露になった肌に、吸い付くようなアントーニオの肌が、その体温が触れてくる。半分無意識にその体をするりと抱き寄せて、そうしている間にゆるゆると、クインスの意識も眠りから這い上がる。 「どうした、眠れないのか」 問い掛ける声も眠りに引きずられ、普段より少し甘やかで。やや掠れた父の声を紡いだ唇が、優しく頬を撫でた。 「父上のことを考えていたのです」 柔らかく触れてくる父の唇に、もっと、とせがむように頬を摺り寄せながら、アントーニオは真顔でそんな事を言う。ふと動きを止めてアントーニオを覗き込んだクインスは、その艶やかな美しい黒目が、ゆらりと揺れるのを見た。 「父上のことを想うと夜も眠れません。この気持ちは何なのでしょう?これは恋、なのでしょうか?それとも愛なのでしょうか?」 大真面目に思い悩んでいるらしいアントーニオに、一瞬驚いたように目を丸くしたクインスは、やがてその口角を緩やかに曲げ、それは美しく、花が咲くように微笑んだ。その僅かな動きに合わせて芳しく、そこにはない香りが匂い立つ。むせ返るような甘い、甘い香りに包まれて、それでも眉間に皺を寄せたアントーニオは、いまだ表情を揺らした。 「父上。私には、分からないのです」 「おまえは、知りたいのか?」 殆ど吐息の触れそうなくらいに顔を近づけて、その漆黒の瞳を覗き込んだクインスは、言ってまっすぐな栗色の髪を撫でる。月明かりに照らされて、夢のように、淡く笑んだ美しいその顔にアントーニオは一瞬、言葉を忘れて見惚れてしまった。 「アントーニオ、」 どうして欲しいのか、言ってごらん。 父の言葉にはっとひとつ、瞬きをしたアントーニオの頬に、滑らかな白い指がするりと触れた。 「どこに触れて欲しい?」 「…ここに、」 美しい指先を包み込むように、その少し上、アントーニオの指差した額に父のふくらかな唇が押し当たる。優しく触れたその箇所がじんわりと熱もって、アントーニオは、うっとりと目を閉じた。 「ここにも、」 その、閉じた瞼の上。促されるままに、クインスの唇が追いかけてくる。瞼から鼻筋を通って頬へ、それから唇へ。甘やかな蜜の味を残し、やがて首筋を伝って、ゆっくりと落ちていく父の唇が、薄い衣服を優しく剥いでいく。露になった鎖骨から胸へ、紅い舌先が控えめに自己主張する突起をちろりと舐めると、ぶるりと震えたアントーニオの体がしなやかに反って、その無垢な首筋を月光に晒す。 「ちち、うぇ、」 「アントーニオ。恋でも愛でもいいのだよ。おまえが私を想ってくれる気持ちが私にとって、何ものにも代え難く、幸福なのだから」 だからクインスは、愛しい我が子の愛おしいその体の隅々まで、丁寧に口付けていく。一途な息子の心が我が身で充たされるのなら、こんなに満ち足りたことはない。それがどれほどの幸福か、きっとアントーニオには分からないに違いない。 それでもいい、とクインスは思った。 息子がそう思うように、自身もきっと、恋とも愛ともそれ以上とも、いかんともしがたい感情で息子を想う。その熱情につける言葉を知らない。 ただこの手にその存在があればいいのだと、愛しい体に溺れた。
***** 誠に以って取り留めなしに、夢にも等しき物語。
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