a Day in Our Life


2005年08月13日(土) 終わりよければすべてよし。(エルフィン+コンフィティ)


 「人間になりたい」

 悲壮感を漂わせて呟いたエルフィンに、コンフィティは掛ける言葉が見つからずにあわあわと周りをうろついた。
 「人間に…なってどぅするの?」
 愚問とも言える質問を、コンフィティは投げかけてみる。最近のエルフィンのおかしな様子を見れば、その答えなど自ずと見えてくるというのに。
 「あの人に惚れ薬をかけて、目の前に現れる…ううん、魔法なんか使わずに、ただこの気持ちを、伝えたい」
 ぽた、と大粒の涙が落ちて、エルフィンが泣いているのだとコンフィティは知ったから、慌ててその滴を受け止めようと、大きな体を小さく丸めるエルフィンに近づく。その小さな体で精一杯抱き締めると、ぐずる子供のように、エルフィンは鼻水をすすった。しゃくりあげるようなその音が、コンフィティには少し愛しくて、でも悲しくて。一緒に泣きたいような気持ちになって、でもここで二人(?)で泣くわけにはいかなかったから、ぐっと我慢をして笑い顔を浮かべた。
 「惚れ薬をいくらかけても、エルフィンの姿はあの人には見えなかったものね?」
 実は何度も試してみたエルフィンだった。「えぇ〜?それって、どうなの!?」と困惑するコンフィティを宥めすかして、一生(?)のお願いだから!とあの人を引き寄せて、”来い来いマジック”って実は”恋恋マジック”の間違いなんじゃないのなんて、笑えないジョークを考えた。コンフィティはお愛想で笑ってくれたけど、周りの妖精たちは、憐れむような顔でエルフィンを見た。
 そう、いくら惚れ薬をかけて、その眼前に立ってみても。
 妖精である自分の姿はかの人には見えないのだった。だから結局いつも、彼を探しにきた父を彼は一番に見たから、そのたびに彼の、父への愛情はますます深まっていったのだった。
 それは、魔法なんかかけなくても。
 強烈で熱烈で猛烈に。彼がどれだけ父を愛していたかなんて、聞かなくても知っていた。ううん、実際には聞けやしなかったのだけれど。だってエルフィンの声は風や木々のざわめきとなって、彼には届かない。
 「でも、好きなんだよ」
 それこそ今まで見てきた恋人たちのように。彼を好きである気持ちはどうすることも出来なかったから。何がどうしてそうなっちゃったのかなんて、今更エルフィンにはわからなかったし、コンフィティにも理解不能だったに違いない。それを恋というんだなんて、分かったようなことを言ってみたものの。
 コンフィティはほんの少し、チクチクと痛む胸に気付いている。それがどうして痛むのかも薄々気がついて、だけど気付かなかったことにしたいと思っている。
 今、その手で抱き締めたエルフィンはまるで幼な子のように震えて、悲しみに満ち溢れていたから、どうか彼が笑えるよう、自分に出来ることなら何でも、してやりたいと思うのだ。
 「…人間に、」
 なっても恋が成就するとは限らないんだよ?
 コンフィティの優しい声に、こくり、とエルフィンは腕の中で頷いた。
 「うん。分かってる」
 「羽根をもがれてしまうよ?もう二度と、大空を飛べなくなるよ?」
 「うん。でも、いいんだ。飛べないのなら、二本の足で歩いてあの人に会いに行くから」
 「魔法も、使えなくなる。僕のことももう、見えなくなるよ」
 「…うん…」
 それはちょっとだけ、ううんとっても、辛いとエルフィンは思った。だから涙で濡れた目を上げて、目の前にあるコンフィティの顔を見る。ぱちぱちと瞬きをした拍子に、睫毛に溜まった涙の滴が滑り落ちた。つるりと一滴、流れたその涙にコンフィティは唇を押し当てて、優しく拭うとくすぐったそうにエルフィンは少し笑った。
 「後悔は、しないよね?」
 「うん。しない」
 きり、と顔を引き締めたエルフィンはもう、何かを覚悟しているように見えて。今度泣けてきたのはコンフィティの方で。何だかその顔が近年稀に見る男(?)前だったから、きっと忘れないようにしようと思って、じっと見ていたら涙が出て来た。その涙を今度、唇で掬ったのはエルフィンで、やっぱりくすぐったいコンフィティは、笑おうとして失敗して、おかしな顔になった。
 「コンフィ。大好き」
 「うん。僕も、」
 最後の挨拶をするように、見つめ合って、口付ける。お互いの唇にはまだ涙が残っていて、どちらのものかは分からない、しょっぱい味がした。



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妖精たち。

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