a Day in Our Life


2005年08月09日(火) じゃじゃ馬ならし。(クインス×アントーニオ)


 「父上、」

 小さく呼ばれた声に微笑んだクインスは、その細く美しい人差し指を立て、「いけない、アントーニオ」と諭すような口調になった。
 「父上、と呼んではならぬと言っただろう?」
 他でもないその、時。
 禁断の、情事の時に父と呼ぶことは許されなかった。今、年齢を感じさせない透き通る美貌を綻ばせ、父は息子にだけ見せる柔らかい笑みを向けたから、アントーニオは瑞々しいその頬を薔薇色に染め、目を潤ませた。
 「では、何と呼べばよいのです」
 「おまえの好きに呼べばいい」
 重さを感じさせない指先が、アントーニオの頬を捕らえた。両手を頬に添え、意識する間に唇が触れた。優しく啄ばむような口付けから、そのうちに深く深く、探るような口付けへ。やっと解放された時、アントーニオは殆どその場に崩れ落ちそうになって、やはり微笑いながらクインスに抱き抱えられた。
 「…父上のキスは、葡萄酒の味がします」
 ほう、と息をついたアントーニオは、ため息混じりに呟いて、父の腕に身を任せた。その息は熱を帯びて、父を喜ばせる。まるで出来の悪い我が子を慈しむように、また父上、と呼んだアントーニオを忍び笑いで許したクインスは、「そうだな、先程飲んだ酒がいまだ残っていたのだろう」とそう言いながら、
 「おまえも飲むか?」
 アントーニオを椅子に座らせ、傍らのテーブルからワインのボトルを手に取る。飲みさしのグラスに注いだそのままの動作で一口を含むと、アントーニオの唇からゆっくりと、その口内に流し込んだ。促されるがままに甘酸っぱいワインを飲み込んだアントーニオは、アルコールも手伝ってさらに頬を上気させながら、美しい父の顔を見上げる。

 その、今飲んだワインが、いつにも増して甘美に感じたのは気のせいではなかったに違いない。



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父上のキスは葡萄酒の味。

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