a Day in Our Life


2005年08月04日(木) 涙。(昴雛)


 渋谷の目から一筋の涙が伝うのを見咎めた村上は、ゆっくりとした動作で読んでいた本を閉じた。

 「すばる。」
 泣いてる人を前に、泣いているのかと問うことはやめた。僅かに村上を見た渋谷も、涙を拭うことはしない。
 「ちょぅ悲しいんやけど、気にせんでもえぇよ」
 先回りしてそう言った渋谷に、村上は少し笑う。
 「気にせんでもえぇて、するに決まってるやん」
 笑いを滲ませて言った言葉には、渋谷もやはり笑いで返して。いまだ涙を流しながら、泣きながら器用に笑う。
 「そぅか?でもヒナにならえぇわって思うしな」
 そうされることを気に留めないのだ、と渋谷は言った。それは村上だから、他よりほんの少しだけ、遠慮がないのだと思う。人よりほんの少しだけ、互いの距離が近いのだと思う。
 「そぅいえば、」
 ちら、と渋谷の横顔を見やった村上は、なんでもないことのようにぽつ、と呟いた。
 「こっち側しか泣いてへんねんな」
 人差し指が、指差した先。
 村上の方を向いた、右側だけ。右目だけから渋谷は、涙を流していた。少し首を捻ってみれば、反対の左側はいたって普通に瞬きをしていて。
 「やってヨコや亮は、心配をするから」
 渋谷から向かって、左側には部屋を同じくした横山と錦戸が、こちらには気がつかず、談笑をしていた。二人には心配をかけたくないから、だから左側からは涙は流さないのだと渋谷は言う。別にそれは、村上が心配をしないと言っているのではなく。むしろその逆で。
 「心配は、ヒナにだけされとったらえぇねん」
 言った渋谷の笑い顔とは裏腹に、また一筋、涙が頬を伝っていく。ふと指を伸ばしてその涙を拭おうとした村上は、少し考えて、何もしないままその手を下ろした。
 「まぁ、えぇけどな。心配くらいいっくらでもしたるわ」
 
 言って笑った村上に向けて、笑いながら、渋谷自身が涙を拭い去った。



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カンイチネタ。

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