a Day in Our Life
「俺、ヤスの気持ちがわかった気がする」
ぽつり、と言った錦戸の声に村上はゆっくりと振り返った。 「何の話?」 唐突な錦戸の言葉は主語のない子供の会話のようで。まるで話が見えなかったから、村上は大きく首を傾けて訊ねた。 「村上くん。」 だから自分が何なのだ、とさすがに村上の話の見えなさは理解済みだったらしい。ちら、と村上を見上げた錦戸は「甘えたい気持ちがわかった」とそれすらが甘えたな口調になった。 「ヤスみたいに甘えたいってこと?」 「そぅ。俺も亮ちゃん、て呼んで欲しい」 厳密には安田が「章大と呼んで」と言っても実際はそうは呼んではいないのだけれど、そんな行為すらが錦戸には羨ましいらしい。窺うようにこちらを見やる錦戸と目が合って、その様子がまるきり子供みたいで、村上は内心笑った。 「わかったわ、亮ちゃん。ほんで俺は何をしたらえぇ?」 お望み通りに亮ちゃん、と呼んで。成人を迎え、最近めっきり男前になった錦戸を、けれど昔のように呼んだ途端に、彼がまだ小さくて背伸びばかりしていた頃に戻っていく気がするから不思議だった。 「膝枕をして欲しい」 叱られているわけでもないのにぼそぼそと口ごもった錦戸が、みなまで言う間に膝に乗せ、当たり前のように頭を撫でてやった。時折り髪を梳きながら、そうされることが心地いいのか、錦戸はうっとりと目を閉じる。 「なんやろなぁ、亮ちゃんは」 この前から甘えたモードなんかなぁ?含み笑いのような村上の声が瞼の上から降ってくる。 「…そぅかも知れへん」 薄目を開けて覗き見た、村上は優しく微笑っていて。 だって村上に甘えるのは気持ちがよくて。甘やかされると嬉しくて。まるで子供のように、もっと、もっと優しくして欲しいと思う。 「俺、亮ちゃんには相当優しぃしてる思うで?やってこの寂しがり屋の俺が、亮ちゃんが寝るまで起きてたんやから」 そうやって、笑って許してくれるから。いつまでも甘えていたいと、そんなわがままなことを考えてしまうのだ。
***** 前夜祭感想小話。
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