a Day in Our Life
東京での仕事を終えて帰阪した錦戸は、出迎えたメンバーを見てほっとした表情を浮かべた。前回、やはり同じようなシチュエイションで揃って迎えたメンバーを前に、錦戸は何かぷつりと糸が切れたのか、「ごめんなさい」と言ったきり泣き出してしまい、そんな錦戸をごくごく自然な動作で村上は抱き締めて、「えぇねん」と言ったのだった。 今、錦戸は泣き出したりはしなかったけれど、あの時より疲れた顔で、村上に、抱き締めて欲しそうな顔をしたから、その意図を読んだメンバーは上手い下手さまざまに視線を逸らし、一歩前に進んだ村上は、ゆっくりと確実な動作で錦戸をその胸に抱き留めた。 「おつかれさん」 と、何気ない言葉が胸に染みたのか、相槌を打ちたかったらしい錦戸の声は小さく掠れて。代わりに両腕がしっかりと村上を抱き締め返した。あとは前と同じ、村上の大きな手が優しく何度も頭を撫でる。 下手な咳払いをして、最初に場を離れたのは横山だったか。その小さな音で立ったままの他のメンバー達もそれぞれに移動していく。あからさまに部屋を出て行くのではなく、視界の端に二人の姿を捕らえたまま、ぽつり、と渋谷が呟いた。 「ヨコちょ、優しいやん」 「何が」 唐突に優しいだなどと言われて、横山は心外だ、という表情を浮かべた。それは照れているというより、恥ずかしいのかも知れなかった。 「ヒナを亮に譲ってやったんやろ?」 僅かに意地の悪い笑い方をした渋谷は、けれどそれはお互い様だと知っている。 「すばるこそ」 「まぁな〜。こんな時やから、しゃぁなぃやん」 仕方がない、と笑って流すのは渋谷流の愛情なのだと思った。そうでなければ渋谷だって、錦戸を抱き締めてやりたかったに違いないのだ。 それは、横山だって。 同じ気持ちを持っている。当事者である内以上に、今は辛労が厳しいであろう錦戸に、出来る限りのことはしてやりたい。その錦戸が他でもない村上に、甘えたいというのなら、思い切り甘えさせてやろうと思うのだ。 「そうや、しゃぁなぃねん」 だから、そんなことをいちいち気に留める、小さい男にはなりたくないのだった。
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「村上くんは、偉大やなぁ」 横山渋谷とは反対側、窓のそばに移動してきた年少組は、部屋のいわゆる下座から全体を見渡して、満場一致で頷き合った。 「偉大なんは、横山くんな気ィもするけど」 「いや、すばるくんも相当やで」 神妙な顔をしてそう評価する3人も、そう意識はせず当たり前のように、譲るものがある。 「でも俺らかって、今はしゃぁないなって思うやん」 「そうや。亮のためやもん」 独り占めをしたいとか、自分もそうされたいとか、そういうことではなく。それでも少しだけ、錦戸が羨ましい。それでいて村上をも羨ましいと思う気持ちがあって、要するにそれはどういうことなのだろう、と丸山は思った。 「それは、要するに」 いまだ神妙な顔をした大倉が、まだ何も言っていないのに、分かったような顔でもう頷く。 「要するに。俺もただスキンシップに混ざりたいだけやねん」 それに同調して、同じように唇を結んだ安田が、大真面目に呟いた言葉が要するに、全てを要約していたに違いない。 「そぅ。結局俺ら、エイトが好きやねん」
結局、自分たちは。お互いが大好きで、仕方がないのだ。
***** 「ただいま」はいつの日か。
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