a Day in Our Life


2005年05月15日(日) 平成夢男千秋楽。(横雛)


 この光景は見たことがある、と安田は思った。


 そういえば去年のこの時期もここで同じ舞台をやっていて(去年の方が期間は長かったけれど)、やっぱり千秋楽で横山くんが泣いてしまって、いや、実際には泣き顔それ自体は見てはいないのだけれど、とにかくそうやって、ひとつの仕事をやり遂げた横山くんが安堵して弱味を見せたのは、一人の存在のせいだった。
 カーテンコールで、ステージ前に立ち横並びに挨拶をするメンバーの中、横山くんがいない、と思ったら端の方で遠慮がちに立っていた。最後の最後なのに、って視線を送ってもまるでこちらには気付かずに袖ばかり気にしている。何かあったんかな、と思う俺の目線に気がついたらしい、ぼそりとマルの声がする。
 「村上さん、来てたんや」
 目敏くマルが見つけた先、上手の袖の際まで立った村上くんが、横山くんと、ステージ全体と、客席を見ていた。客席からの鳴り止まない大拍手の中、聞こえるはずはないのに村上くんの両手から鳴る拍手が耳に届くようで、おかしな話なのかも知れないけれど、それでやっと俺もあぁ、終わったんやなぁ、って実感として沸いてきた。


 「内がみんなにお疲れさま、って」
 こんな日だからこそ俺は内といる、と言って病院にいた村上くんは、面会時間が終わる前に内に背中を押されるように、劇場に向かったらしい。内の伝言としてまずはそう言った村上くんに、すばるくんが「ヒナからは?」と当たり前のように問うて、それでやっと村上くんは「俺からも、お疲れさん」と言って笑った。
 思えば関ジャニ8として、ユニットが出来る前からも、このメンバーで仕事をする時に、村上くんが欠けたことはなかったのだと思う。だからたぶん俺は知らなくて、俺は見たことがなかったのだ。横山くんが泣くところなんて。
 それを知ったのは去年のこの舞台で、村上くんがいないことで場を切り盛りした横山くんの、胸中は横山くんにしか分からなかったけれど。もしかしたら単純に、仕事のプレッシャー云々などではなく。ただそこに彼がいない、という、ただそれだけの要因だったのかも知れなかったけれど。もしかしたら村上くんが横山くんにとってのストッパーで、彼がそこにいたからこそ今まで自分達がやり遂げてきた夏の舞台や冬のコンサートで、横山くんはそこにいる誰よりも強くいられたのかも知れない。そう思いさえする、そんな弱さで今の横山くんはそこにいたのだった。
 村上くんの言葉にみんなそれぞれが達成感に満ち足りた笑い顔を見せる中、笑っているんだか泣いているんだか、むしろ怒ってさえいるような微妙な表情を伏せた横山くんに、ゆっくりと村上くんが近づく。
 「ヨコ。」
 お疲れさん、と言った。
 その労いの言葉はさっき全員が聞いたものよりも随分と小さい、それでいて優しい声色で横山くんの耳に届く。きっと誰の言葉よりも深く、その胸に染み入るであろう、唯一の。
 「…ホンマに、疲れたわ」
 ぼそりと呟く横山くんの声に、村上くんは苦笑して。疲れてるんはヨコだけ違うやろ、と言いながらもその髪を優しく撫でる。触れられた振動を利用して、まるでその為にそうなったのだと主張するように、ゆっくりと傾いた横山くんが村上くんの肩に頭を埋めて。距離が近づいたせいで今度は肘を曲げて、後頭部から頭を撫でてやる村上くんは、まるで母親のようにも見えた。されるがままの横山くんは、きっとずっと、そうされたがっていたのだ。

 「…なんか俺、去年も同じ事言った気がするけど」

 いつの間にか隣に来ていた亀梨が、遠慮がちに呟く声が聞こえた。
 「やっぱり横山くんは、村上くんがいてこそなんだよね」
 そして去年と同じくやっぱり互いに顔を見合わせて。曖昧に笑うしかない俺達は、来年こそ全員で出来ればいい、と声に出さずにそんなことを思った。



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みんなお疲れ。

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