a Day in Our Life
2005年02月14日(月) |
チョコレート。(祐樹×康平) |
康平さんがピアノを奏でる時、まるで泣いているようだ、と思う。
あの人の泣き顔を見たことがあるわけじゃないけれど。男はそうそうに泣くもんじゃないし、出会ってたったの2年、それだけの間で何が分かるのかとも思う。 けれど、康平さんは泣くことがない。 そう思わせる生き方をしているように見えた。大学という限られた空間内で、康平さんはただ笑って、その顔は崩れることがなかった。泣き顔を喚起させない。康平さんは、泣くことを拒否しているようにも思えた。 「泣けばええのに」 そうすれば楽になれるのに、と言ったら鍵盤から指を離した康平さんは僅かに笑った。柔らかい音色は止まって、部室には静かな闇が訪れる。こんな辺鄙な時間帯にここを訪れる部員はいなくて、だからこそ康平さんは、そっとピアノの蓋を開く。 「何か辛いことがあるんでしょう?一人で思い悩んで、他人のちょっとした言葉が過敏に身に染みたりするんでしょう?吐き出してしまえば楽になれるのに。泣いてしまえば、楽になれるのに」 物書きという性分からか、康平さんは、何事にも先回りして考えすぎるような気がする。他人の言葉の裏を読んで、展開の裏を見据えて、先先のことまで考えて、結果苦しいのは康平さん自身なのに。それでいて本音を見せない、心を開かない。じゃあ康平さんの中に溜まったものはどこで浄化されるというんだろう?
だから俺は、康平さんに泣いて欲しかったのかも知れない。
涙に混ぜて消してしまえるものでないことは分かっていても。俺が、見たくないのかも知れない。そんな我が侭なエゴでそうして欲しいと思うのかも知れない。 「祐樹は、優しいな」 けれど康平さんは、言ってまた笑った。見ているそばから笑い顔が揺れて、あ、と思う間に康平さんの体が傾く。ことり、と胸のあたりに生暖かい感触がして、それが康平さんの頭だと気がついた頃には、その肩が静かに震え出していた。 静かに、ゆっくりと。康平さんの涙が何かを洗い流してくれたらいいと思う。それが俺の知らない康平さんの内なる塊なら尚更、俺のシャツを濡らして、何事もなかったように消えていけばいいと思った。
***** 癒し薬。
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