a Day in Our Life


2004年12月27日(月) すき。(丸安)


 「俺、もう分かったわ」

 そう言った安田は笑ったような気がした。
 「何が分かったん?」
 「俺はマルのこと好きやってことが」
 「?そんなん、」
 前から知ってるで、と言おうとした丸山は、そういえばでもはっきりと言われた訳ではないし、そう思っていたのは自分だけで実は安田は違ったのかも、と思いつき、それ以上が続かなくなってしまった。
 「…そうやったん?」
 それでやや小首を傾げながら安田に向き合えば、満面の笑みが返って来る。
 「そう。俺はマルの全部が好きやわ」
 その暖かい笑みと不釣合いに、言葉には含みがあるように思えて、丸山は更に首を傾げる。おかげで左上がりに、肩がやや不自然に傾く。そんなアンバランスな丸山の様子を見て、安田はまた少し笑った。
 「全部?」
 「うん。村上くんを好きなマルごと、俺は好きです」
 最近よく日本語が不自由だ、といじられるようになった安田は、今も何だか不自由に、勝手に言葉を締めくくってしまった。言い切られてしまうとどう返事を返せばいいのか分からなくなって、とりあえず丸山は、ここにはいない第三者の名前を反復した。
 「村上くん、」
 「好きなんでしょ?」
 呟いた言葉を聞き逃さない、間髪入れずに安田の問いかけがやってきたので、思わず二つ返事で頷いてしまった。
 「好き、やけど」
 その”好き”が果たしてどういう意味合いの”好き”なのか、安田が言った”好き”の意味も微妙で。
 「やからね。マルが村上くんを好きでもええよ。それをひっくるめて俺はマルを好きなんやなって」
 そう思ったんよ、と言われた丸山だって、安田のことが好きなのだ。不器用だけど一生懸命で、感情が素直で涙もろくて。なによりその笑顔に救われる。
 「…もしかして俺ってモテモテ?」
 その安田に好かれている、自分にちょっとだけ自信が持てた、のだろうか。ぽつり呟いたら安田は優しい笑顔のまま、
 「村上くんは、マルのこと好きな訳と違う思うけどね」
 それでも好きなんでしょ?と言った。
 それがきっと、だから一体どっちなの、と言われる理由なのだろうけど。安田のことは好きだけど、村上に構われると嬉しい。必要とされると嬉しい。安田とは違う笑い顔をじっと見る。何が違うのだろう、と思うけれど。きっと何もかもが違うに違いない。
 「村上くんと一緒におるようになって、マルは変わったって大倉が言うたやろ?ポジティブになってきた、って。俺は村上くんより長くマルとおったけどそうさせることは出来へんかったから、きっとマルにとって、村上くんは必要なんやと思うねん」
 ホンマを言うと、ちょぉ悔しかったし寂しかったんやけどね、と安田は早口で呟く。たぶんそれは本音で、でも丸山は、そのことに今初めて気がついたような気がした。
 「でもな、それでいて大倉は俺にマルをよろしくって言うねん」
 内にも言われてん。マルちゃんはやっさんを好きやでって言うねん。それに乗せられたとかやないんやけど、でもちょっとだけ調子に乗ったかも知れへんけど、とにかく。
 「色々考えて、やっぱり俺はマルが好きやってん」
 四度目の”好き”をくれた安田は、とても晴れやかに笑っていたから。
 「俺はね、」
 丸山も口を開く。喜ぶべきか傷付くべきか、あんまり曖昧で判断を保留してしまった言葉。
 「村上くんが寂しい時は村上くんをよろしくって言われたんやけど」
 「誰に?」
 「村上くんに」
 明らかに安田が微妙な顔をしたので、B型の村上くんやったけどね、と言えばやっと納得したように苦笑いを浮かべた。酔っ払った村上が、独り言のように呟いた台詞。
 「村上くんにとっても、都合がいいだけやなくて、俺は必要なんやって。そう言われてちょっとでも嬉しかった、それでもええの?」
 丸山自身も何だかよく分からない。それを”好き”と言うのか。恋と呼ぶのか。
 「やから、それごと好きやって言うたやん」
 まっすぐに見つめてくる安田と目が合った。それはどういう自信なのか、揺ぎ無く笑う安田は、それにたぶんマルは大丈夫、と続ける。
 「村上くん、面食いやもん」
 その言葉に深く納得した丸山も、釣られて笑ってしまった。



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2004栗より生還ポエム。(がこれってどう…)

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