a Day in Our Life
2004年09月08日(水) |
常夏ココナツ。(丸→雛) |
「おまえにはハッキリ言わなわからんのやろうから」
目の前の村上くんが、心なしか辛そうな表情をしていたように見えたのは、俺の欲目だっただろうか? 「正直に言うけどおまえのことは、好きやない。慕ってくれるんは嬉しいけど俺は応えられへんし、実際のところ、」 何かに耐えるような村上くんの眉間に皺が寄って、黒目がちの大きな目は潤んでさえ見えた。これから言われる大体のことの察しはついているのに(いくら俺かってそれくらい分かる)一体俺は何でそんなところばかりに気付いているのかって、 「…迷惑やねん」 それでも俺は、村上くんの揺れる瞳をじっと見ていた。
村上くんが俺のことを好きやないことくらいは知ってて、やけど村上くんは優しいから、嫌いでもない限り、拒んだりはせぇへんのやろうなって。それは優しいと言うよりは、たぶん村上くんは他人に好かれるのが好きで。愛されるのが好きで。そう実感する瞬間が好きで。やから迷惑になるとは思ってもいなかった。そらちょっと、調子に乗りすぎたかな、と思うことはあっても、そういう時はやんわりと空気で拒まれたし、だから反対に、そうでなければオッケーなんやって、いつでも側に寄った。 どこで間違えたんかなあ、と思う。冗談に見せかけて、抱きついたり抱きしめたりしたのがアカンかったの?やってそれでもあの人は笑ってたから。嫌がるそぶりもなく、背中に腕が回ったから。そんなん、期待もしてまうやん。今更迷惑やった、って言われても、そんな。 村上くんを抱きしめると彼が愛用しているシャンプー特有の、ココナツの匂いが押し寄せてきて、そのむせ返る甘い香りに酔いそうになりながら、それでもその残り香が、自分の髪にも服にも移るのが嬉しかった。大きく息を吸い込むと肺にまで達したその香りが、体内に取り込まれる気がして嬉しかった。そういうの、全部、全部。迷惑やったんかなぁ?
「…あれ、」 楽屋に入ると嗅ぎ覚えのある香りがして、思わず俺は、声に出したらしい。中に一人いたやっさんが、怪訝そうな顔をして振り返る。 「マル。どうしたん?」 「…今、村上くんおった?」 質問に質問を返した俺に、やっさんは更に怪訝そうな表情を浮かべたけれど、それでもあっさりと頷いた。 「おったよ。マルと入れ違いで出て行ったけど」 何で分かるん?と言いたげなやっさんの声は、聞こえているようで、耳には入っていなかったに違いない。何で分かるんって?分かるよ。やって、 部屋の中にはまた、むせ返るようなココナツの甘い香り。 「………んでやねん、」 「え?」 ぽつり呟いた声は、やっさんには届かず。言い直すこともせず、拳を握り込む。 なんで。そうやって、いまだその香りで俺を振り回すんやろう。 諦めたいのに。嫌いになりたいのに。いまだその甘い香りが、俺を捕らえて離さない。だって、そのココナツの香りがそこにある以上。
俺の夏は終わらないんだ。
|