a Day in Our Life


2004年07月12日(月) エクスタシー。(横雛)


 「おまえは俺を気持ちよくさせるばっかりなん?」
 「…はぁ?」 と、あからさまに眉を顰めた村上は、素早く左右を確認した。
 「何を言い出すの、アンタは」
 こんな所で!と声を潜める村上は、何か誤解をしているようだった。横山はそんなことには気にも留めず、俺ばっかりなん?と繰り返す。
 「おまえが気持ちようはなられへんの?」
 「だから、何をいきなり」
 ますます声を潜める村上は、ブース外のスタッフの動向を気にする。確かに会話だけを聞けば何やら穏やかではない話で、村上にしてみても、横山の質問の真意が読めない。
 「そら気持ちよぅして貰えるんは嬉しいけど、俺かって、おまえを気持ちよぅさせたりたい思うやんけ」
 「いやそれは別に、」
 俺も気持ちええけど、と誤解したままの村上とは、上辺の会話は成り立っていても、根本的に噛み合っていない。
 「俺がアカンのはおまえだけのせいやない言うてんの」
 「ヨコはアカンことないやろ…?」
 そこで、会話の食い違いにやっと気付いたらしい村上が、横山の言いたいだろうことにようやく思い当たった。要するに、さっきの自分の発言が引っ掛かっているのだろう、と当たりをつける。まるで横山の全てを容認したような村上の言い方が、横山は気にかかったのだった。
 「まるで義務みたいに言いやがって」
 「そういうつもりはないですよ」
 「足らんとかそんな言い方すんな」
 「すんません」
 横山の機嫌を損ねるような言い方はしていないと思うのだが、何をそんなに拘っているのかと、村上は小首を捻る。とりあえず謝っておけ、的な適当さは伝わったのだろう、脊髄反射のように出た謝罪の言葉に、横山がすぐ食いついて来る。
 「そうやってすぐ謝んな」
 「ほな、どうしたらええんよ?」
 横山に対して、どう向き合えば彼が喜ぶのか。放置すれば拗ねるし、持ち上げれば嫌がる。そもそも、自分のあり方の問題なのかも知れない、と村上が思い至った時。
 「おまえも気持ちよぅなればええねん」
 「…どうやって?」
 真顔で聞けば、そんなもん知るか、とそっぽを向かれる。その横顔に、そろそろ自らの一方的な言い分を認めて、照れと後悔の色が浮かんで来ていたので。
 村上は内心苦笑いを浮かべながら考える。そうは言っても横山の性格上、自分に対するスタンスが変わるとも思えないし。つい言葉が過ぎる、それが気持ちいいかどうかは疑問だと思う。(というか、それが気持ちいいなら自分はエムだと思う。いやちょっとは…そうかもしれないけど)
 と、いうことは。
 「しゃーないから実践で気持ちよぅさせて貰うしかないなぁ」
 ぽつりと呟いた村上の言葉に、意味を考えた横山が口元を抑えたのを、指さし笑った。



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ちょっとした意思誤疎通。レコメンネタ。

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