a Day in Our Life
その日は確かに気分が優れないな、と思ったことが多かったのだけれど、夜、家に戻った村上は、ふらりと眩暈に襲われた。初めは気のせいかと思ったのだが、何か動くたびにくらりと頭が回る。症状はじょじょに強まっていき、風呂から上がる頃には立っているだけでも眩む有り様だった。 「こら、アカンわ」 一人ごちた村上は、やるべき何もかもを放棄してさっさとベッドに入る。翌日も仕事があるのだし、ここで無理をして明日、使い物にならなくても困る。特に明日は予定が比較的詰まっていて、そうでなくとも、体調不良を訴えることは出来なかった。寝て起きたら直っているのか不安はあったけれど、とりあえず、寝れば多少なりとも改善はされるだろうと、安直に考える。 ベッドに横になり、目を閉じると今度こそ強烈に頭が回った。 閉じた視界の中、一面の闇が平衡感覚を失う。見えない天井が回っているような、体ごと落ちていくような浮遊感に襲われて村上は、暗闇の中、無意識に眉を寄せた。もともと重力には強くない。小さな頃は、乗り物酔いをする子供だった。特にカーブが嫌いで、山道など走られた日には泣いて喚いたこともあったという。だから、眩暈のようなこの感覚にも慣れていなかった。じっと耐えてやり過ごすものの、少し頭の位置をずらしただけで何度も同じ感覚に襲われる。吐き気にも似た、気色悪い気分を抱えながら村上は、ひたすらに耐えた。 すぐに眠ってしまえればいいのに、こういう時に限って眠気は襲ってこない。ゆるゆると目を開けて、暗闇の先に天井を見た。また少し、ぐらりと頭が回る感覚がして、布団を握り締める。 何か、違うことを考えよう、と思った。意識を別の所に飛ばせばあるいは、僅かでも気は紛れるかも知れない。ゆっくりとまた、目を閉じて、瞼の裏に浮かんだのは横山の顔だった。今一番、意識の近しいところで横山を思う。それで不思議と気分が和らいだ自分を知った。知らず村上は、笑みを浮かべる。むしろヨコが俺のマイナスイオンって、アホらしい。
気がつけばいつの間にか、眠りに落ちていた。
***** 目を閉じてすぐ、浮かび上がる人。
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