a Day in Our Life
からかうように何度も鳴らされた呼び鈴に慌てて玄関へ向かって、ドアを開けた瞬間に村上は、顔を顰めた。 「ぅわ、酒くさっ!」 玄関先で上機嫌に笑う横山は、どこからどう見ても気持ちよくへべれけになっていた。ふわふわとおぼつかない足取りで、出迎えた村上に抱きつく。 「ちょ…なん、ヨコ!」 「ヒナちゃ〜ん!たらいま〜〜!」 もはや舌すらまともに動かない有り様で、全体重で圧し掛かってくるのを辛うじて受け止めた。夜も更けた時間帯に大声で喚かれては近所迷惑だ、と半ば引きずるようにして何とか部屋の中へ運ぶ。忌々しげにソファに落とそうとするも、蛸のように巻きついた腕が離れない。アルコールの匂いを露骨にさせながら、至近距離で唇が動く。 「あんね〜今日はぁ、めちゃめちゃ飲んで来てん」 「ほんなもん聞かんでも分かるわ」 「ビール5本とぉ〜日本酒一升とぉ〜〜あとウィスキーとブランデーも飲んだ」 「おまえなぁ、いくら奢りやからって」 「やってタダやも〜ん、飲まな損やん。ヒナちゃんもタダ酒好っきやろ?」 「そら、好きやけど」 つい一々答えてしまって、会話に終わりがない。今にもキスをされそうな至近距離。そこから強烈に匂う酒の匂いに、精気を吸い取られそうな気さえする。 「ちょ…ほんまおまえ臭い、臭いねんて!離れろって!」 「臭いんはヒナちゃんのキャラやろ〜」 「やから俺はそない臭ない言うねん!」 バシ、と突っ込みがまともに入って横山の動きが止まる。あれ?と思った途端にまた頭が動いて、あっと言う間に唇が迫った。 「ちょー待て、待て待て!」 間一髪で手を差し出して、押し戻す。ぐいぐいと押されながら不満げな横山が、口を尖らせた。 「え〜〜ちゅ〜しよぉやぁ〜〜」 「イ・ヤ・や!」 「ほなエッチしょ?」 「それもイヤ」 「ヒナちゃんのケチ〜!」 けちーけちーと言いながら、何度でも唇が迫る。完全に酔っている横山は、絡み上戸になっているらしかった。これはマズイ、と経験が判断する。 「なぁって」 「いやや言うてるやろ」 「俺はいいの」 「俺はいや」 「俺はしたい、したいぃ〜!」 べたべたと引っ付く体が、熱を帯びていた。ずっと絡んだ体勢で、もはやそれがどちらの体温なのかも分からない。酔っているくせに結構な力でぐいぐいと迫ってくる横山に、堪らず村上が悲鳴をあげる。 「ちょ、おぃヨコ、ヨコって!」 「聞こぇませ〜〜ん」 横山の酒臭い息が頬にかかった、と思った瞬間、 「ちょー待て横山、コラァ!」 叫び声と共に、火事場の馬鹿力的勢いで、横山を突き飛ばした。拘束されていた体がやっと離れて、村上は、やや荒い息をつく。ぽかんと間抜けな表情をした横山が、その村上を見つめる。 「そんななぁ、酒に酔うた勢いとかですんのはイヤです」 「……ごめんなさい」 素直に謝った横山が、しょんぼりと項垂れる。いつになく殊勝なその態度に、内心で村上は笑う。 「まずは風呂入って、その酒臭いん落としてき。そしたらしたるわ」 「…え?」 してもええのん?と真顔で聞き返す横山が、可愛らしく見えるから末期だと思う。 「ええよ。明日は打ち合わせだけやし、付き合うたる」 やから風呂、入っといで、と風呂場を指差すとぶんぶんと頷いた横山が、俊敏な動作で踵を返す。さっさと向かいながらふと、振り返って、 「ヒナちゃん」 「ん?」 「一緒に、」 「俺は、もうさっき入ってきれいやから結構です」 「…そぅですか」 それだけでおとなしくバスルームへと向かう横山の、猫背気味の背中を見遣りながら、アイツほんまに酔うてんのかな、と村上は苦笑した。それから立ち上がり、寝間の用意を始めた。
***** 酔っ払い横ちょ。
|