a Day in Our Life
「ヒナ!事故ったって、ホンマか!」 ドアを開けた瞬間に開口一番でそう問われると共に、ひどく切羽詰った横山の顔を見た。 「あぁ…うん。なんで知ってるん?」 「そんなんどうでもいいねん!怪我はないんか?大丈夫なんか?」 「見ての通り、ピンピンしとるよ…なぁヨコ、落ち着けって、」 「落ち着いてなんかいられるか!」 横山の剣幕に村上は、びくりと肩を強張らせた。横山の怒鳴り声なんて、久し振りに聞いた。今にも噛み付かれそうで、知らず一歩後ろに後退する。そんなことには気付いていないであろう横山は、それでも感覚として、後退した分を確実に詰めて来た。 「…何で連絡してけぇへんかってん」 さすがに興奮しすぎたと思ったらしい。大きく息を吐いて、気持ちを鎮めた。 「色々せなアカンくて。警察呼んだり、保険屋に電話したり。俺も初めてのことでテンパってもぅて、マネージャーさんに電話入れるだけで精一杯やった」 ごめん、と呟いた。 「心配してくれたん?」 「……するに決まってるやろ」 「そぅ…そうやんな」 不機嫌を露にした声で、俯いてしまった横山の、つむじのあたりを見つめた。また、ひとつ息を吐く。きっとマネージャー経由で話を聞いて、今までずっと心配してくれていたのだろう。状況を知らされずに事実だけを聞けば、心配するのも無理はない。 「軽い物損だけで、ホンマに大したことなかってん。車もちょっと互いに傷いっただけで、トラブルもないし、大丈夫やった」 俯いたままの横山にひとつひとつ、説明をした。まるで自らの不実を補うように。余裕がなかったのは確かにあるけれど、こんなにも心配させてしまったのは間違いなく、自分のせいだった。 「…ごめんな」 同じように俯いた。深く頭を下げて、起き上がると横山の顔があった。もう怒ってはいない。変わりに随分と、情けない顔をしていた。その顔が、やっと安心したかのようにゆっくりと歪む。最後に一度、深く息を吐いた。 「ホンマに、勘弁してくれ」 こんなこと金輪際せんといて、って小さく呟いた。事故ったなんて聞かされて、俺がどんな思いをしたか。こんな思いは二度と御免や。 その顔が、あんまり情けなくて必死だったので、場も忘れて村上は、思わず笑ってしまった。 「…笑うなや!」 顔を赤くして横山がまた怒鳴るけれど、迫力に欠けてそれすらが笑いを誘う。ごめんごめん、と謝りながら止まらない笑いが顔中に広がって、それは随分と幸福な笑い声だと思った。 「ホンマに、ごめん」 それから、と続けた。 「ありがとぉ」 微笑みかけると今度こそ完全に真っ赤になって、横山が絶句する。そんなに愛されてるなんて、知らんかったよ。 言うとアホかって返されたけど、否定はされずに。 ぷい、とそっぽを向きながらついでにように「覚えとけ」ってぼそりと呟いた横山の横顔をきっと、忘れないでおこうと思った。
***** 事故ってもタダでは起きないオタク…。
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